第301話 集結、六大魔王Ⅰ

――アメリア王国軍、駐屯地。


「――なんだよ、アレは……」


 物見櫓から森林を見ていたバノンは、突如現れた超巨大な物体を見て唖然としながら呟く。

 すると、バノンと同じように駐屯地の兵士達がざわめき始める。


「おい、なんだよありゃあ……」

「なんてデカさだ……!」

「勇者様達は無事なのか……?」


 駐屯地が不安に包まれる中、森林から駐屯地へと向かって来る一団をバノンが発見する。


「あれは……!」

「おーい! バノーンッ!」

「ヤタイズナ! それに他の皆も、無事だったんだな!」


 バノンは物見櫓から急いで降り、仲間であるヤタイズナ達と合流した。




「バノン、こっちの方は大丈夫だった? 敵の襲撃は無かった?」

「ああ、何も無かったぜ……それよりもあの馬鹿デカいのは何なんだ!? 一体廃城で何があったんだ!?」

「落ち着いてよバノン、まぁ気持ちは分かるけどさ……あの馬鹿デカいのは、進化したクルーザーだ」

「……は? クルーザーって……北の森でエンプーサと殺り合ってたあのデカいセンチピードの事か!? それが何であんなにデカくなるんだよ!? 駄目だ更に頭がこんがらがって来た……!」

「ヤタイズナよ、説明が足りんぞ……あれでは混乱して当然じゃろうが」

「ああ、ごめん……それじゃあ順を追って説明を……」

『その説明、私達にも詳しくお願いできますか? 魔蟲王の後継よ』

「この声は……!」


 空から声が聞こえ、その場にいた全員が顔を上げると、翼を羽ばたかせて滞空している魔鳥王と、魔鳥王に掴まれている植木鉢に入っている魔植王の姿があった。


「魔植王! それに魔鳥王も!」

「ようやくの到着か……全く、遅すぎじゃぞ!」

「申し訳ないです、準備に手間取ってしまいまして……それよりも、今の状況説明をお願いします、あの巨大な魔蟲……私の未来視で視たモノと酷似している……」

「分かりました、それじゃあ皆聞いてくれ」


 私は全員に廃城の地下で何があったのかを説明した。


「……というわけなんだ」

「成程……そのような事が……」

『しかし事のあらましを聞けば聞くほど、魔人王が哀れですね、復活した矢先に喰われ全てを奪われるとは……』

「全くじゃな、魔王の理を破った愚か者にはお似合いの末路とも言えるがのう」

「ミミズさんの言葉ももっともですね、しかし問題はこれからです」


 進化した後全く動かないクルーザーを見上げる魔鳥王。


「アレが混沌の魔蟲ならば、世界が滅びるほどの大災厄をもたらす事になる……何としても倒さなくては……!」

「じゃがどうしてクルーザーの奴は全然動かないんじゃ?」


 ミミズさんの疑問に、魔植王が答えた。


『恐らく取り込んだ力が完全に融合しきってないのでしょう、今はまだ思考も朧気な状態でしょう……ですがじきに融合と思考の最適化を終え、活動を再開するはずです』

「それじゃあ一刻も早くクルーザーに攻撃を仕掛けなければですね!」

「でもどうやって叩くんだ? 相手は1000メートル以上のデカブツだぜ? そんじょそこらの攻撃なんか通用しねぇだろう」


 確かに、バノンの言う通りだ……どうすれば……


「全く馬鹿じゃのうバノンは……そのために魔鳥王達があ奴らを呼びに行ったのじゃろうが!」

「そうだ! 私達六大魔王全員の力を一点に集中させればクルーザーにダメージを与えられるはず!」

「そういうことじゃ、で魔鳥王よ、魔獣王たちは何処に居るんじゃ?」

「まだ来てません」

「……なぬ?」

「ですから、魔獣王、魔海王、魔竜王はまだこの場所に来ていません」

「な、なんじゃとぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!?」


 ミミズさんは驚愕の声を上げ、私も呆気に取られていた。

 まさか魔獣王達がまだ来ていないなんて思わなかったからね!







『『『キシャアアアアアアアアアア……』』』


 意識の奥底で、クルーザーは己が思考の最適化を始めていた。


 強くなる……そのために喰らう……そして……ツヨクナル……ソのために……喰ラウ……


 その思考の最適化の最中に、クルーザーの思考に黒い何かが入り込んでくる。


『ォォォオオオオオオオオ……オノレェェェェ……我を……この我を喰らうだと……ふざけるなァア……!』


 それは魔人王の残留思念だった。

 肉体を失っても魂のみで活動続けていた故なのか、魔人王は怨念と憎悪に染まった精神体としてクルーザーの意識内に存在していた。


『我が喰われるなど、そんな事があってたまるかぁぁ……! 我は……我は、魔蟲如きが喰らうような安いものではないのだぁぁぁ……! こんな所で終わるものかァァァァ……貴様の身体をヨコセェェェェッッ!!』


 魔人王の思念がクルーザーの自我を塗りつぶし、肉体の主導権を奪おうとクルーザーの思考の奥底へと侵食を始めた。


『ハハハハハハハハハハハハハ!! ………ッ!?』





『強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして……』




 クルーザーの思考の深層へと到達した魔人王だったが、そこで彼を待っていたのは、クルーザーの根源であった。


『何だ……単純だか、純粋で膨大な量の願いは……!? 下等生物は短絡的な事しか考えず深く思考することは無い……だとしてもなんだこれは……!? こいつ……本当にただ、ただ強くなる事だけしか考えていないと言うのか!?』


『強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして……』


 膨大な情報量が魔人王の思念に襲いかかり、その存在を飲み込もうとする。


『グガァァァァァァァァァァァァァァッッ!? 止めろォォォォ……!? 我が……この我が喰われると言うのかァァァァ!! ふざけるなぁ! 我こそはこの世界に君臨する魔人王バ強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして』


 自らの存在を保とうとする魔人王に容赦なく情報の濁流が襲い掛かる。


『止めろ強くなるそのためにぉぉぉ……我は喰らうそして、我は魔王を名乗る下等な生物共とは喰らうそして違うのだァァァ……強くなるそのために我は選ばれ強くなるた存在……強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして我はこの世界を支配する唯一の存在なの強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして』


 もはや魔人王の思念は風前の灯火であり、彼の存在は完全にクルーザーの情報に飲み込まれようとしていた。


『我……は強くなるそのために喰らうそして……世界を我が強くなるそのために喰らうそして……世界をォォォォ強くなるそのためにセカイォォォォォォォォ……強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして世界をォォォォォォォォォォォォ……!!』


 クルーザーに完全に喰われようとしていた魔人王の思念は最後に己が願いを何度も叫び続けながら、完全に喰い尽くされた。


『強くなるそのために喰らうそして強くなるそのために喰らうそして強くなるそのため、に……』


 その魂の叫びが、最悪の形で奇跡を起こし、クルーザーの思念にある言葉が刻み込まれた。


『せか、い……セカイ……世界、……をそして強くなるそのため、に……』





 ――世界を、喰らう。

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