第300話 魔人王、誕生

 ――廃城、城壁前。


「キシャアアアアアアアアアッ!」

「クハハハハハハハハハハッ!!」


 クルーザーとエンプーサが熾烈な激戦を繰り広げ、辺り一面は巻き込まれた魔人族と魔物達の死体が散乱していた。

 だが被害は敵だけでなくエンプーサのしもべであるキラーマンティス達も何体か命を落としていた。


「どうしたどうした!? ただ再生するだけでは我を倒す事は出来んぞォォッ!」

「キシャアアアア……!」


 クルーザーが自らの脚全てをカマキリの前脚に変形させ、螺旋を描くように身体を高速回転させる!


「キシャアアァァアアアアアアアアッ!!」

「クハハハッ! そうなくてはなっ! ならばこちらも……」


 エンプーサが両前脚を掲げると、周囲の風がエンプーサの元へ集まって行く。


「全てを切り刻め、《死神の暴風刃》ッッ!!」


 両前脚を振り下ろすと、纏われていた風が竜巻となって放たれ、荒れ狂いながらクルーザーへと向かって行く!

 クルーザーの殺戮竜巻とエンプーサの死神の暴風刃がぶつかり合う!


(きゃあああああああっ!?)

(危ねぇっす!)


 二つの竜巻に引きずり込まれそうになっていたパピリオを、ドラッヘが助け出す。


(あ、ありがうございます、ドラッヘ)

(別に礼なんて良いっすよ……とにかく今はあいつらから距離を取るっすよ!)

(戦略的撤退ですわー!)

(その通りですね!)

(俺、とにかく走る、言う)

(逃げろ逃げろ! 細切れはごめんだぜぇっ!)



 ドラッヘ、パピリオに続くようにカトレア、ベル、テザー、カヴキ達もエンプーサ達から離れる。


「キ、キシャアアアアアアアアアッッ……!」


 暫く拮抗していた二つの竜巻だったが、徐々に死神の暴風刃が押し始め、やがてクルーザーを呑み込んだ!


「キシャアアアアアアアア!!?」


 竜巻内で無数の風の刃がクルーザの身体を斬り裂いていく!


 そして数十秒後、竜巻が消滅し、その中から全身裂傷だらけ、部分的に肉体が欠損しているボロ雑巾のようになったクルーザーが落下してきた。


「き、キシャアアアアアア……」


 苦悶の声を上げるクルーザーだが、すぐに自己修復によって身体が再生して行く。


「クハハハハハハッ、まだ我を楽しませてくれると言うのか!」

(《大鎌鼬》っす!)


 エンプーサの後方からドラッヘが無数の衝撃波をクルーザー目掛けて放ち、命中する!


「キシャアアアアアアア!?」

「貴様! 我の楽しみを邪魔する気かァッ!」

(うっせぇっす! 何度も再生する厄介な奴なんすよ! 再生中の今、一斉攻撃で仕留めなきゃジリ貧でこっちが負けるっす! 皆、あいつをぶっ潰すっす! 《大鎌鼬》!)

(わかりましたー! 《豪風の翅》!)

(幻覚に飲まれなさい、《蘭花の鎌》!)

(僕の音色を聴いてください!《混乱の鈴音》!)

(喰らいやがれぇ! 《水鉄砲》!)

(《岩の大鋏》! 俺、こいつを喰らいやがれ、言う!)



 ドラッヘ達が一斉に攻撃を繰り出し、パピリオは巨大な蝶々の羽根から放つ強烈な突風を放ち、カトレアはその風に乗せて幻覚作用のある花の匂いを送り込み、ベルも混乱作用のある羽音をクルーザーに浴びせる!

 さらにカヴキが空気中の水分を凝縮した水の球を連続で撃ち出し、テザーは尻尾の大鋏に岩石を纏わせて巨大化させ、周囲に散乱している魔人族や魔物の死体を挟み込み、クルーザー目掛けて勢いよくぶん投げた!


「キシャアアアアアアアアアアアアッッ!!?」



 大量の攻撃を受け、クルーザーは悲鳴を上げて苦しむ。


(何やってるっすかエンプーサ! お前も攻撃するんすよ!)

「まったく興が削がれたわ……この埋め合わせはヤタイズナの奴にしてもらうとしよう……《大鎌鼬》!」


 エンプーサの攻撃も加わり、更に苛烈にクルーザーを攻め立てる!


「き、キシャ……キシャアアアア……!!」


 攻撃の嵐に再生が追い付かず、どんどん身体が削られていくクルーザー。


(よし! この調子っす!このまま一気に倒すっす!」

「キシャアアアア……」


 クルーザーは弱々しい声を上げながらも、その眼はまだ死んでいなかった。


「キシャ……キシャアアア……ツヨ、ク……ツヨク……ナルゥゥゥゥゥゥ………!」

(なっ!? 喋ったっすよこいつ!)

「ツヨクナルゥゥゥ……モット、ツヨクナル……ソシテ……キシャアアアアアアアアアアッッ!!」


 クルーザーは雄叫びと共に地面に潜り、地中を潜行する。


(逃げる気っすか!? 逃がさないっすよ!!)


 ドラッヘ達が地面を攻撃するが、手応えは無く、ただ砂煙が上がるだけだった。


(くそっ! 逃したっす……)

(でも、一体どこに行ったんでしょうかー……?)

(おめぇら、そんな事言ってる場合じゃねぇみたいだぜ!)


 カヴキの言葉を聞き周囲を見渡すドラッヘ達の視界に映ったのは、ドラッヘ達の元へ向かって来る魔人族と魔物達だった。


「巨大魔物が撤退した今が好機! 残存部隊一丸となり魔蟲王のしもべ共を始末せよ!」

『『了解っ!!』』


 先頭で指揮をしているのは六色魔将最後の将、白のゼキア。

 ゼキアの指示の元、魔人族達は統率を取り戻し、反撃を開始した。


(チィッ! あのデカブツが暴れたおかげで敵はほとんど死んだと思ってたっすけど、まだまだ残ってたようっすね……)

「クハハハハハハハッ! 楽しみの邪魔された憂さ晴らしには丁度良いな! 皆殺しにしてやる!」


 エンプーサが楽しげに笑いながら、キラーマンティス達と共に魔人族達に襲い掛かって行く。


(ったく……にしてもあのデカブツ、パピリオの言う通り何処に向かったんすか? 何だか嫌な予感がするっす……)







 ――廃城地下。


(くらえー!)

「「ギチュチュチュィィィィッ!?」」


 スティンガーが両前脚の鋏で合成奇虫のヒヨケムシの頭部を挟み、そこに尻尾の毒針を突き刺す!


「「ぎ……ギチュチュィィィィィッ!」」


 合成奇虫の腹部に付いているウデムシの鎌状の脚でスティンガーを襲おうとするが。


(そうはさせん! 《岩石の大顎》ッ!)


 ティーガーの大顎に地面の岩や瓦礫が纏わり付き巨大な鋏となり、合成奇虫の鎌脚を挟み潰した!


「「ギ、ギュヂュイイィィィィィッッ!?」

(ソーアント・レギオン部隊、ガーディアント・レギオン部隊、一斉攻撃!)

『『ギチチチィィィィィ!!』』


 ソーアント・レギオン達がその鋭い顎で一斉に合成奇虫の全身に噛みつき、動きを封じる。


「「ギュ、ギュチチィィィィ……!」」


 そこにすかさずガーディアント・レギオン達が大盾の様な頭部で次々と突進していく。


「「ギャ、キュヂャァ……!」」


 その衝撃で合成奇虫の身体は押し潰され、変形して行く。


(よーし! だめおしのいっぱつを……くらえーっ!!)


 スティンガーは再び毒針を合成奇虫の身体に突き刺し、体内に毒液を流し込む。


「「ギ、ギチュ、ギチュチュチュゥゥゥゥ……!」」


 合成奇虫は弱弱しく鳴きながら痙攣し、地面に力無く倒れ伏し絶命した。


(やったー! やっとたおせたー!)

(これで敵は全滅のようだな)


 ティーガーの言う通り、黒装束の魔人達全滅しており、周囲は静まり返っていた。


(ソイヤーはだいじょうぶ? ぐあいわるくなってない?」

(も、問題ない……ある程度動けるようにはなった、ぞ……)


 心配するスティンガーを安心させるため、ガーディアント・レギオンの背中の上に乗せられていたソイヤーがゆっくりと起き上がる。


(よかったー……よーし! それじゃあこのまま、ごしゅんじんのもとにむかおー!)

(うむ! 主様の敵は全員肉団子にしなければな!)

(全アント達よ、前進せよ!)

『『ギチチチチチィィィィィィ!!』』


 スティンガー達はヤタイズナ達が通って行った通路を進んで行く。







「――着いた! ここが最深部……!」


 長い通路を抜けた先に待っていた光景に、思わず息を飲む私。


 大きな広間を思わせるその場所の最奥に、魔封石がはめ込まれた巨大な石版と、石版から伸びる無数の管の先にある玉座に座っている、全身を漆黒のローブで覆っている一人の男の姿があった!


「あれが……魔人王!」

「この吐き気を催すような禍々しい気配、いつ感じても胸糞が悪くなるわ……」


 隣にいるミミズさんも嫌悪感を隠し切れていない。


「…………」


 魔人王はフードで顔を隠れているため表情は分からない、微動だにしないまま、じっとこちらを見ている。


「久しぶりじゃのう魔人王、魔人達を使ってちまちま復活の準備をしていたとは、相変わらずみみっちい事をしおってご苦労な事じゃのう……」

「……ふふ、ふはははははは……かつて我を封印した愚かな下等生物が、更に矮小で卑しい姿になり果てていたか……これは愉快……実に滑稽ではないか」


 魔人王が嘲り笑うように言った。


「……ふんっ! 随分余裕じゃなぁ、復活したばかりで悪いがお前は儂の後継者、このヤタイズナに倒され、二度と復活できぬようにしてやろう……覚悟するんじゃな」

「ふふふふふ……! それがか? その虫ケラが私を滅ぼすと? ははははははは……!」


 魔人王は心底おかしかったのか、声を出して笑う。


「冗談も大概にしろよ下賤な虫けらが……羽音を立てるだけの塵芥がこの世界の神である我に勝てると本気で思っているのか?」

「ふんっ何が神じゃ? あの時、力を奪われ封印される時の貴様の情けない声を忘れたか? どんな声じゃったかのう……確か……『ぐぬぅわァァァァァァァァァ!? この我が、我がァァァァァ!』じゃったかのう? それとも『ぬぎゃあああああああああ!?』じゃったかのう!?」

「……」


 ミミズさんの煽りに、魔人王の手が玉座を握りしめ、ひびが入る。


「ああそれとも、『もぴゃああああああ』じゃったかの……」

「我を愚弄するのも大概にしろこの無知で愚鈍で下賤な下等生物ごときがァァァァァァァァァッ!!!」


 遂に我慢の限界が来たのか、激昂しながら立ち上がり禍々しい魔力の波動を放つ!


「ぐぅぅぅぅぅぅっ!? こ、これは……!?」

「ちぃぃっ! まだ完全に復活してはおらんはずなのに……!」


 発せられる衝撃波だけで私とミミズさんは吹き飛ばされかけるが、全力で足を踏ん張って耐え、ミミズさんも私の前角に巻き付いて耐えていた。


「ほれ見たことか! 図星を突かれて逆上するとは……本当に器が小さいのぉ!」

「まだ減らず口を叩くか……いいだろう、我が力でその虫ケラ共々今度こそこの世から消しさってくれる……」


 魔人王が禍々しいオーラを発したまま、ゆっくり歩き始めた。


「……っ!」


 私は身構え、ミミズさんは角から離れて私の後方へ移動する。


「ヤタイズナよ、奴がさっき放った魔力の波動から察するに、魔人王は今5割程度の力しか発揮できんようじゃ……今ならまだ勝機はあるはずじゃ!」

「ミミズさん、まさかそれで魔人王をあれだけ煽っていたの!?」

「当然じゃ、儂を誰だと思っておるんじゃ」


 流石はミミズさん……普段は色々ふざけたりしているが、ここぞと言う時は頼りになる。


「良いか、例え半分の力だとしても油断はするなよ!」

「勿論だよミミズさん!」


 私は魔人王を見据え、何時でも魔蟲の流星を放てるようにする。

 虎の子のあと一回……これを確実に魔人王に当てる事を意識しなければ……


「ふふふふふふ……久方ぶりの肉体の自由だ……貴様を嬲(なぶ)り殺し、後ろの下等生物の悲鳴を聞いて今までの憂さを晴らさせてもらおう……!」


 魔人王の全身のオーラが強まり周囲に波動を発し、地面が揺れ動き始めた!

 これで半分の力……! それでも地面を揺らすほどとは……!


「貴様から恐怖の感情を感じるぞ……それで我に挑もうとは愚かな虫けらよ……!」

「虫けらを舐めるなよ魔人王! この私、魔蟲王ヤタイズナが先代に代わりお前を倒す!」

「ははははははははは! 虫けらが魔王を騙るとは愚かしいにもほどがあるわ! 魔王を名乗れるのはこの世で我一人だけだぁ!」


 魔力を発する魔人王に呼応するように地面が揺れ動き、地響きが聞こえる! まるでここだけ地震が起きているかのように錯覚するほどだ。


「この世界に巣食う愚かで矮小なる寄生虫共よ、我に恐怖し、頭を垂れよ! 我こそはこの世界唯一の魔王にして、総ての生命の頂点に君臨せし神! 魔人王バ――」


『キシャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッ!!』



 魔人王が高らかに口上を叫び、自らの名を名乗ろうとしたその時、魔人王の真下から何かが飛び出し、魔人王を飲み込んだ。


「………は?」

「……なぬ?」


 バキッ、ボリリッ! メキャ、メシャアアッッ!

 骨が砕け、すり潰される音が聞こえる。


「く、くくくく……クルーザーァァ!?」


 どうしてここに……というか、クルーザーが……魔人王を、喰ったぁ!?


 あまりに唐突で衝撃の光景に私は理解が追い付かず、唖然とするしかなかった。

 魔人王を喰らい、咀嚼し終えたクルーザーの動きがピタリと止まった。


「キシャアアアアアアア……ツヨク……ツヨクナルゥゥゥゥ……ソシテェェェ……キシ!? キシャアアアアアアアアアアアアッ!!?」


 クルーザーの全身が光り輝き、巨大化を始めた!

 こ、これはまさか……進化!? 


 クルーザーはどんどん巨大化して行き、広間を覆い尽くすほどになり更に巨大化していく!


「……っ!」


 巨大になっていくにつれて広間の天井が崩れ、床が崩壊して行く!


「ぬおおおっ! 瓦礫が降ってくるぞヤタイズナよ! 早くこの場から退避するんじゃ!」

「言われなくても分かってるよミミズさん、しっかり掴まっていてよ!」



 私は即座にミミズさんを前角部に巻き付かせて飛翔し、通って来た通路を全速力で飛んで行く!



「ヤタイズナ! もっと速度を上げるのじゃ! クルーザーの奴が巨大化し続けているせいでこの通路も崩れ始めているぞ!?」


 ミミズさんの言う通り、背後を見ると既に崩壊が始まり、轟音を立てて崩落していた。

 このままではこの地下全体が崩壊して生き埋めになってしまう……!


「行け行け! 早く地上に出るのじゃヤタイズナ!」

「これでも十分飛ばしてるよ! ていうかミミズさんは地面を掘り進められるんだから自分で脱出しろよ!」

「阿呆! いくら掘り進めると言ってもあ奴がどれだけデカくなっているのか分からん状態では危険じゃろうが、もし掘り進んでいる時に遭遇して丸呑みにでもされたらどうするんじゃ!?」

「それはそうだけど……!」


 そんな言い合いをしていると、先程ビャハが待ち構えていた円形状の広間に到着した。


(あ! ごしゅじんー!)

(主様、ご無事でしたか!)

「スティンガー、ティーガー! それに他の皆も!」


 そこには合成奇虫と黒装束の魔人達を食い止めてくれていたスティンガー達の姿があった。


「全員無事か?」

(うん! ソイヤーのきずもなんとかなったよー、でもここにきたらガタクがじゅうしょうでー……)


 スティンガーが尻尾を指しだ方を見ると、ガーディアント達に運ばれている傷だらけのガタクの姿があった。


「ガタク!?」

「と……殿……ビャハの奴は倒したで御座る……ですがこんな無様な姿を晒してしまい、申し訳ないで御座る……」

「いいや、良くやったぞガタク……だから今は喋らず安静にしていろ」

「は、はい……」

「それより、ここはもうすぐ崩壊する! 急いでここから脱出するぞ!」

(わかったー!)

(了解しました!)

(全部隊、これより地下から脱出するぞ!)

『『ギチチチィィィィィッ!!』』



 スティンガー達と合流し、私達は一目散に通路を駆け抜けていく!


(な、なんかうしろからものすごいおとがするよー!?)

(主様、何かが迫ってきているようです!)


 後ろを振り向くと、通路を破壊しながら巨大な壁のようなモノが迫って来ていた!

 クルーザーの奴、どれだけデカくなれば気がすむんだ!


「とにかく走れ! 全速力で逃げるんだァァァッ!!」


 私達は必死に逃げて、魔人族製造工場まで戻って来た。


「急ぐのじゃヤタイズナ! この場所もすでに崩壊寸前じゃ、早く地上への階段に向かうのじゃ!」

「分かっているよ!」


 私達は遂に階段へと辿り着き、上へ登り、廃城の通路に出た。


「よし! このまま城の外に出るぞ!」


 私達は入って来た時と同様にクルーザーの熱死光線で破壊された部分から脱出する。


 城壁の外では、エンプーサとドラッヘ、残りのしもべ達が魔人族と戦いを繰り広げていた。


「皆ーッ! ここから逃げるぞー!」

(この声は……! 無事だったっすか!)

(ご主人様ー!)

(ご無事でなによりですわ!)

(無事に戻ってくると信じていました!)

(流石ご主人でぇ!)

(俺、ご主人戻って来て嬉しい、言う)

「クハハハハハハ、ようやく戻って来たか!」

「話は後でする! 皆急いでここから離れろー!」


 私の言葉を聞き、しもべ達は一斉に廃城から退却する。


「エンプーサ、お前も早く退却するんだ!」

「チッ、仕方ない……戻るぞお前達!」


 エンプーサは不服そうにしもべのキラーマンティス達に指示を出し、撤退して行く。


「ゼキア様、敵が逃げていきます! 如何しますか?」

「逃げるだと? 何故? 戦況は奴らの方が有利だったはず……何か理由が?」


 白のゼキアが何か考え事をしているようだが今はそれを気にしている時間は無い。

 急いで北側に居るウィズと勇者達に知らせなければ……!


 私は傷ついた体に鞭を打ち、急いで北側へと飛んで行く。





「――いた!」


 廃城の北側に到着した私は、魔人族に対し優勢に戦うウィズと勇者達の姿を発見した。


「ウィズーッ! 聞こえるかー!」

「あれ? この声……ヤタイズナさん!? 廃城に突入してるんじゃないのー!?」

「説明は後だ、皆を連れて廃城から退却してくれーッ!」

「退却ー!? どうしてー!」

「良いから早く退却してくれ! もうじきここは大変な事に……」


 私がウィズに退却するように伝えていたその瞬間、巨大な地響きが起きた!


「な、何が起こったのー!?」

「出てくる……! ウィズ、逃げろォォォォッ!!」


 私の切羽詰まった叫びを聞いたウィズはハッと顔色を変え、「分かったよ! 総員撤退!」と号令をかけて仲間と共に全速力で退避し始めた。


「こ、これは一体……!?」

「悠矢! ウィズちゃんの言う通り、私達も撤退しましょう!」

「……分かった!」

「シロちゃん、クロちゃん、走って!」

「こいつはマジでやばい気がするぜぇ!」


 勇者達も一斉に撤退を始めた直後、地下の奥深くで轟音が鳴り響き、廃城が揺れ始めた! そして次の瞬間、城全体に亀裂が入り、崩落が始まった!


「し、城が……!? なにが起こっているんだ!?」

「ゼキア様、ここは危険です! 早く退避を!」

「分かっている、全部隊、撤退を――」


『『『キシャアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!』』』


 ゼキアが撤退を命令しようとしたその時、城の真下から超巨大な黒い影が現れ、地面を割りながら這い上がって来た!

 それと同時に地割れが起き、魔人族や魔物達、冒険者たちも巻き込まれて次々と落下していく。


「ぐおおおおおおおっ!?」


 地割れに巻き込まれそうになるゼキアだったが、咄嵯の判断で何とか逃れる事が出来た。

 しかし他の者は……


「うわああああああっ!?」

「たすけてくれぇぇぇぇぇっ!」

「ゼキア様ぁぁぁぁぁ……」

「お前達ィィィッ!」


 ゼキアは落下して行く部下を助ける為に地面に向かって手を伸ばすが、届くわけも無く、そのまま落ちて行く……


「……ッ 生き残った者達は急いでここから離脱せよ! 繰り返す、此処から離脱せよ!」


 ゼキアは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながらも、残された兵に撤退の指示を出す。

 私もここから離れながらも、現れた超巨大な存在を見上げる。


 何て、大きさだ……


 超巨大存在……クルーザーは尚も巨大化し、ついには雲を突っ切るほどになった。

 その全長は1000メートルを超えているのではないだろうか?


『『『キシャアアアアアアアアアアアア……』』』


 クルーザーは進化した事によってそのサイズだけでなく見た目も変化している。

 一つだった頭部は枝分かれし、三つに増えており、その巨体と相まってその姿はまるで三つ首の龍……そう、かつてのミミズさんに似ているのだ。


 その姿を見た私の脳裏には、ある光景がフラッシュバックしていた。

 それはかつてバラス砂漠の魔鳥王の廃墟の地下で見たあの石碑と刻まれた予言。


『混沌なる魔蟲生まれし時、総ては喰らい尽くされる』


 私はかつてないほどに動揺している……

 あの石碑、そして魔鳥王の予言、混沌の魔蟲……これは全てミミズさんではなく……!


 私はクルーザーを鑑定し、そのステータスを確認する。









 ステータス

 名前:クルーザー

 種族:カオスセンチピード

 レベル:000000/000000

 属性:混沌

 ランク:不明

 称号:魔人王

 スキル:不明

 エクストラスキル:不明

 ユニークスキル:不明











 ――カオスセンチピード……ということはやはりクルーザーが、混沌の魔蟲……!




 ――今ここに、最悪にして災厄の存在。

 全てを喰らう混沌の魔蟲、魔人王クルーザーが誕生したのだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る