第297話 赤のビャハⅨ
「風よ! 我が身を飛ばせ!」
ガタクは咄嵯に風で自身を飛ばし、間一髪で回避!
「ぐぅぅぅっ!?」
しかし完璧には避けれずに、右後脚と胴体の一部を切断され、体液が流れ出る!
「ビャハッハッハッ! 何処に行くつもりだァァ!? 逃がす訳無ぇだろうがァァッ! 《大虐殺ノ螺旋牙(らせんが)》ァァッッ!!」
ビャハは大顎を大きく開いたまま身体を高速回転、まるでミキサーのように地面や瓦礫を削り取りながらガタクを追従する!
「ビャハハハハハハハハッッ!! テメェも細切れになっちまいなぁぁッッ!!」
「なんのっ!」
ガタクは風に乗って加速、大虐殺ノ牙の届かぬ場所からビャハの背後に回り込む!
「ビャハッハッハッ! いいねェェ! だが甘ェッ、甘すぎるんだよォォォォォッ! 《殺戮の棘》ェェェッッ!」
ビャハは、高速回転しながら振り向かずに背を向けた状態で無数の殺戮の棘を放つ!
ガタクは風で殺戮の棘の軌道を逸らすが、避け切れず腹部に数発喰らってしまう!
「っぅぅ……!? なんのこれしきィィィィッ!」
ガタクは暴風の大顎で風の渦を作り、殺戮の棘を吸い込み、逆にビャハへ吹き返す!
「ビャハッハッハッ! そう来なくっちゃなぁぁっ!!」
跳ね返されて来た殺戮の棘を、大虐殺ノ牙で弾きながら突き進むビャハ!
「《烈風螺旋独楽》ァァッ!!」
「ビャハハハハハハハハハァッ!!!」
ガタクの烈風螺旋独楽とビャハの大虐殺ノ螺旋牙がぶつかり合い、激しく拮抗し合う!
「ウォォォォォッッ!!」
「ビャハハハハハハハハハハハハ!!」
ガタクの烈風螺旋独楽が徐々に押され始めてしまう!
「ヌゥァァァァァァァァァァッ……!」
ガタクは必死に耐え続けるが、少しずつ後退していく!
「このままひき肉になっちまいなぁァァァァッ!」
「そうは……いくかぁぁぁぁぁぁっ!!」
ガタクは風を操り、ビャハの下から風を吹き上げ、ビャハの身体を一瞬浮かせ、その刹那にビャハの下へと潜り込んだ!
「《疾駆ノ斬撃》!!」
「ビャハァァァァァァァァァッ!?」
烈風螺旋独楽の回転の勢いを利用した疾駆ノ斬撃は見事にビャハの胴を切り裂いた!
ビャハは地面に倒れ伏した。
しかし即座に起き上がった。
「ビャハハハァァァァ……」
切り裂かれた胴から体液が大量に流れ出ているが、それでもビャハは不敵に笑っている。
「ビャハハ……痛いじゃねぇか……こんなに血が出ちまったじゃねぇか……ビャハハハハハハ……ビャ―ッハッハッハッハ!!
!!」
ビャハは天を仰ぎ、心底愉快そうに高笑いを上げる。
「身体が軋むッ! 血が滾るッッ!! 魂が震えるゥッッッ!!! そうだッ! こうじゃなきゃなぁぁっ!! 一方的な虐殺も、圧倒的に不利な戦いも楽しいがしかぁしッッ! 互いに命を削り合う極限の戦いが最も昂らせてくれるゥッ!!
こんなに楽しいのは魔蟲王と戦争した時以来だぜぇぇェェェェッ!! ビャハハハハハハハ!! 楽しい! 楽しいッ!! たのしいよォォォォォォォォォォォッ!!!」
ビャハは叫び、狂気の混じった歓喜の笑いを浮かべている。
「だからよォォ……もっと、もっともっともっと満足させてくれよォォッ!! オレを……俺を! 楽しませてくれよォォッ!! この世で最高にイカした殺し合おうぜェェェェッッ!!!」
「分かりきった事では御座ったが、完ッ全にイカレているで御座るな……っ……!」
ガタクの視界が歪み、身体がふらつく。
(血を失い過ぎたで御座るか……長くは保たん……! この戦い、間違いなく次で最後になるで御座る!)
「さぁもっと楽しい殺し合いを繰り広げようぜェェェッ! 《殲滅ノ大顎》ァァッッ!!!」
ビャハは再び殲滅ノ大顎でガタクに襲い掛かる!
「《疾駆ノ斬撃》、《風神鼬》!」
「今更そんなもんが効くかよォォォォォォォォ!!」
ビャハは殲滅ノ大顎で疾駆の斬撃と風神鼬をいともたやすく挟み砕き、そして再び大顎を開き地面ごとガタクを挟み殺そうと突き進む!
「風よ、拙者を飛ばせ!」
ガタクは上に吹く風に乗って上昇し、殲滅ノ大顎を回避しビャハの真上を取った!
「これで終わりにするで御座る! 《千刃竜巻》!」
ビャハの周囲に無数の大鎌鼬が現れ、そして竜巻を発生させてビャハを囲い込む!
「もう効かねぇっつってんだろうがァァァァァァッ!!」
ビャハは千刃竜巻を力任せにぶち破る!
「それは百も承知で御座る!」
ガタクは大顎に多量の風を纏わせ、巨大化させる!
「喰らうが良い! 《烈風ノ大顎》ォォォォッ!」
ガタクは突風をその身に受けて加速しビャハに斬りかかる!
「ハァァァァァァァァッッ!!」
「っ!? しまったァァァァァァァッ!!?」
「――なんてなぁ」
ビャハが前脚をクイっと動かしたその時、ガタクの頭上からナニカが飛来し、ガタクの背中を突き刺した!
「ぐがあぁぁ……っ!?」
ガタクに突き刺さったモノの正体……それはビャハの三又槍だった!
背中に激痛が生じたガタクは勢いを失い、地面に落下する。
「ビャハハハハハハハハッ!! 馬鹿が! この脚だって立派な手なんだぜぇ!? なら念動力が再び使えるようになるのは当然だろう? まぁもっともこの手じゃギリギリ槍を持てるかどうかってとこだがなぁ……ビャハハハハ」
「ぐ、ぅぅぅぅぅ……!」
ガタクは地面に這いつくばりながらも、なおも立ち向かおうとしている。
だが腹部の欠損した部分からの出血と背中に突き刺さった三又槍のダメージが大きく、何とか立ち上がるのがやっと状態だった。
「……!」
「ビャハハハハハ、遂にガス欠になったか……名残惜しいなぁぁぁっ……こんな楽しい殺し合いを終わらせなきゃなんてよぉ……」
「……まだ……で……ござる……!」
ガタクは最後の力を振り絞る。
「……拙者が死ぬときは、貴様も道連れで……御座……る……!」
「ビャハハ……ビャハハハハハハハ! いいねェ! 実に良い! 最後の最後まで死闘を続けてくれるのかぁぁっ! それじゃあ楽しもう! 最後の血の一滴を絞り尽くすような殺し合いをよぉォォォォッ!!」
ビャハの殲滅ノ大顎がガタクに迫る。
(……心せよ、ガタク……勝機は一瞬……!)
ガタクは全身の力を抜き、脱力する。
そして気門から一気に空気を吸う。
(……参る!!)
地面を蹴ると同時に、背後に突風を吹かせ加速するガタク!
(この身が砕け、二度と戦えなくなろうとも構わん! 殿……仲間達よ……そして……ファレナ殿……! 拙者に力をォォォォォォッッ!!)
ガタクとビャハがぶつかり交差しようとするその一瞬。
彼の背中を押すように人影が現れた。
それは幻影だったかもしれない、ガタクの妄想だったかもしれない。
だがその瞬間、ガタクは己が限界を超え――音速を超えた。
一瞬の交差を終え、静寂が場を包み込む。
その数秒後、ガタクの背中が切り裂かれ、突き刺さっていた三又槍が地面に転がり落ちた。
「ビャハハハハハハハハハ!! この勝負俺の勝ちだなぁ! せめてもの情けってものを掛けてやる……苦しまねぇようにぶっ殺してやるよォォぉ!!」
ビャハが振り返り、ガタクに止めを刺そうとしたその時、ビャハの大顎の一部に線が入り、地面に落ちた。
「ビャハッ!? これは……! テメェ一体何を――」
驚くビャハが更に動いた瞬間、全身に無数の線が入る!
「なっにぃ……ッ!? お前……お前! あの一瞬で何回俺の身体を『斬った』!?」
「知らぬ……だが、これだけは分かるで、御座る……この戦い、拙者の勝ちで御座る」
「俺が……この俺が負けた……? ……ビャハ、ビャハハハハハハハハッ!! そうかそうかぁ、負けたのかぁ!! あーあ……最後の最後で負けちまったかぁ……でも、楽しかった、楽しかったなぁぁぁぁっ!! 先にあの世で待ってるぜぇ、兄ちゃぁぁぁぁぁん!! ビャハ! ビャハハハハハハハ! ビャハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!! ハ」
ビャハが心底楽しそうに笑い続けていたその時、ビャハの身体がバラバラに崩れ落ち、灰となって崩れた。
「ハァ……ハァ……!」
満身創痍のガタクは身体を引きずりながらも、地面に落ちていたクワガタのネックレスを前脚で取り、大顎に掛けた。
「ファレナ殿……どうか死後の世界で拙者を見守っていてくだされ……こうしては、いられんで御座る……殿の元に……」
ガタクはヤタイズナの元へ行こうとするが、既に身体は限界であったため、そのまま倒れて意識を失ってしまった。
「第112回次回予告の道ー!」
「と言うわけで今回も始まったこのコーナー!」
「ガタクが赤のビャハに勝利したねミミズさん!」
「うむ、あ奴はやればできる子じゃと思っとったんじゃよ儂は」
「流れるように嘘つかないでよミミズさん」
「嘘ではない! 5割ぐらいは思っておったわ!」
「低っ!? いくらなんでも低いって5割は!」
「いやしかし半々じゃし……ッとこんな下らぬことを言っている場合ではないわ、次回予告を始めるぞ!」
「次回は再び私サイドに戻り、ギリエルとの決着の時が来るんだ!」
「うむ、ヤタイズナよ、見事奴を打ち倒し、魔人王の元に辿り着くのじゃ!」
「それでは次回『カブトvsヘラクレスオオカブト』!」
『『それでは、次回をお楽しみに!!』』
・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので、次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。
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