第295話 赤のビャハⅦ
ギラファノコギリクワガタは、昆虫綱甲虫目クワガタムシ科ノコギリクワガタ属に分類されるクワガタムシで、ヒマラヤ山脈東端部からインドシナ全域、マレー半島やインドネシア、フィリピンなど広く分布している。
個体によっては100mm以上にもなる世界最大最長のクワガタムシとして知られる種で、キバナガノコギリクワガタ、オオキバナガクワガタとも呼ばれていた。
ギラファとは英語でキリンを意味し、その名の通り身体の三分の一を占めるキリンの首のように長く緩やかに湾曲した大顎が特徴で、左右非対称の鋭い内歯がさながらワニの口のように並び、根元の太い内歯はカブトムシの角やクワガタの大顎を切断してしまうほど強力である。
他のクワガタと比べ比較的おとなしい性格だが、一度本気の戦闘状態になると大顎を駆使した技と力で相手を倒す、そのの強さは他種のクワガタと比べてもトップレベルの強さを持つ。
数種類の亜種も存在し、その見た目のカッコ良さと知名度、そして様々な媒体でも取り扱われる事の多いクワガタ界でもトップレベルの人気クワガタである。
そしてビャハが変異したのはギラファノコギリクワガタの亜種ケイスケギラファ、その中で最も大きく成長するフローレス島産ギラファ、通称『フローレスギラファ』と呼ばれる種だ。
「ビャハハハハ、クワガタか、俺ぁてっきり兄ちゃんと同じカブトムシに変異するもんだと思ってたんだがなぁ……三又槍を使ってたからコーカサスオオカブトにでもなるのかと思ったんだけどなぁ……まぁいいか、これでまだ楽しめるんだからなぁ……! さぁ、第二ゲームの開始だぁ! 楽しく殺し合おうぜぇガタクぅ! ビャハハハハハハハハハッッッ!!」
そう言ってビャハは翅を広げ飛翔し、空中のガタク目掛けて突進する!
「《大鎌鼬》!」
「ビャハハハハハハハッ!」
ガタクの大鎌鼬に対しビャハは避けること無くそのまま直進、無数の鎌鼬が直撃するが、ビャハの甲殻は傷一つ付いていない!
「ビャハハハハハ! 痒いだけだぜぇ! ビャハァァッ!!」
ビャハはその長い大顎でガタクの胴を挟み、勢いよく地面目掛けて投げ飛ばし叩きつけた!
「ぐはぁぁぁっ!?」
「ビャハッ! ビャハハハッ!! この身体の内から湧き上がる力……最高だぜぇ!」
「ぐ、おおお……」
際の凄まじい衝撃にガタクの意識は飛びかけていた。
「ビャハハ! まさかもう終わりじゃねぇよなぁ? 楽しいのはこれからなんだぜぇ!」
ビャハは一気に急降下し、ガタクに迫る!
「っ……おおおおおおおっ!!」
ガタクは気合で意識を覚醒させ、体を起こし横に跳躍してビャハの大顎をギリギリで回避、ビャハの大顎は地面に突き刺さる!
「ビャハハッ! そうこなくちゃなぁっ!」
「《斬撃……!」
「甘ぇんだよォッ!」
ビャハは力まかせに大顎を動かし地面を抉り、土の破片をガタクに向かって飛ばす。
「ぬう! 《風の大顎》!」
ガタクはこれを風の大顎で風を操り全て弾いた!
「ビャハハハハハッ! まだまだ行くぞオラァッ!!」
(先程よりも動きが速い!?)
ビャハは変異したばかりの身体を完全にものにしており、巨体に似合わないスピードで繰り出される大顎攻撃がガタクの反応速度を上回ってくる!
「ビャハハハハハハハハハッッ!!」
「ぐううううううっ!!」
次々と襲いくる連続攻撃をなんとか受け流すガタクだったが、徐々に追い詰められていく!
「ビャハ! ビャハハッ!! ビャハハハハハハッッ!!! もっと楽しませてくれよガタクゥ! 俺の身体を、魂を昂らせてくれよォォォォ!! ビャハハアァァァァッ!!!」
「はぁっ、はぁっ……!」
心の底からから戦いを楽しみ、狂気の笑い声を上げるビャハとは対照的に焦燥していくガタク。
(このままではいずれ押し切られてしまう……何か手を打たねば……)
「隙だらけだぜぇェェッ!」
攻撃を受け流す隙を突かれ、ビャハの大顎に胴体を挟まれてしまうガタク!
「不覚……!」
ビャハはそのままガタクの胴体を真っ二つに切断……せず、挟み込んだまま地面に叩き付けた!
「がああああっ!!」
「ビャハハハハハハハ! それそれぇぇっ!」
更に連続で地面に叩き付け、そして最後に壁目掛けて思い切り放り投げた。
「が……はっ……!」
壁に激突し、ひび割れた壁の一部と共に崩れ落ちるガタク。
「ビャハハハハ……どうしたどうしたぁ? まさかもう終わりじゃねぇよなぁ? わざと止めを刺さずに痛めつけるだけで済ませたんだからよぉ……もっと全力を振り絞れよぉ! 命の危機に瀕した今、お前が出せる最高の力を俺に見せろよおぉぉ!! そうすりゃ、もっと楽しめるんだからよぉぉぉっ! ビャハハハハハハハハハハハ!!」
ビャハが笑いながら近づく中、ガタクは朦朧としながらも立ち上がり、構える。
しかし、その姿は満身創痍だった……。
全身の甲殻はボロボロ、内臓もいくつか損傷している。
視界は霞み、呼吸をするだけでも激痛が走る……もはや立っているだけでもやっとの状態だ。
(このまま、では……殿、拙者はここで終わりやもしれませんで御座る……)
朦朧とした意識の中、ガタクはゆっくりと近づくビャハの足元にある物を発見した。
(! あれは……)
それはガタクがファレナに贈ったクワガタのネックレスだった。
ネックレスを見たガタクの脳裏にファレナの姿と、彼女が最期に見せた笑顔が浮かんだ。
「……」
その瞬間、消えかかっていたガタクの闘志に再び火が付いた!
「ビャハハハハ……お前の闘気が膨れ上がっていくのを感じるぜぇ……! さぁ、見せてくれよ! 俺の期待に応えてくれよ! その限界を超えた力で俺を楽しませてくれぇぇっ!」
ビャハが大顎を開き、ガタクに飛び掛かる!
「……《風の大顎》!」
ガタクは大顎に纏った風を全身に纏わせると同時に、風の力で自らの身体を一気に上昇させ攻撃を回避する!
「《大鎌鼬》!」
そして周囲に大鎌鼬を展開する。
「おいおい! そんな痒いだけの攻撃じゃ俺を傷付けは――」
「逆巻け、旋風よ!」
ガタクは風の大顎で風を起こし、ビャハを中心に大鎌鼬を巻きこんだ渦巻き状の風を作りだした!
「切り刻め!《千刃竜巻》ィッ!」
竜巻内で密集、高速回転しながら飛び交う大鎌鼬が、ビャハの甲殻を削り取って行く!
「ビャハアアァァァァァァァァッ!?」
予期せぬ反撃に声を上げるビャハだが、大顎を振り回しすぐに千刃竜巻を掻き消した。
「ビャハハハ……バラバラでは無く密集させ速度を上げる事で切れ味を上げたのか……こんな技ずっと隠し持ってたとは中々意地が悪いじゃねぇか……」
「隠し持っていたのではない……今作ったので御座る」
(エンプーサ殿の《死神の暴風刃》……見よう見まねで御座るが形にはなったで御座る……)
「今作っただぁ? ……ビャハハハハハ、良いねぇ! ギリギリまで追い詰めた甲斐があるってもんだ! 次はどんな攻撃をしてくる? どんな驚く事をしてくる? さぁもっと盛り上げてくれよぉ!」
「……良かろう、もっと見せてやるで御座る」
ガタクが構えると、全身に纏った風が勢いを増した。
「だが覚悟せよ……新たな境地へと進んだ拙者の刃の切れ味は、今までの比では無いで御座るよッ!!」
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