第294話 赤のビャハⅣ
「ビャハハハハハハッ! 大当たりィ!」
「ぬ、ぐううゥッッ……!!」
ガタクは身体を回転させ、その勢いで腹部に突き刺さった槍を引き抜き、槍は地面に突き刺さった。
「おー、やるじゃねぇか」
ビャハが槍に手を向け、念動力で槍を引き寄せ掴んだ。
「ぐっ……!」
「ビャハハ、刺された場所から体液が漏れ出てるぜぇ? 見ろよ、お前の体液を吸えて嬉しいって震えてるぜぇ?」
そう言ってビャハが右の人差し指を動かすと、三又槍が小刻みに振動した。
「まるで生きてるみたいだなぁ? ビャハハハハハハ!」
「下らぬ、挑発で……御座るな……」
「チィーッ、この生きてるように見える槍は気に入りの芸なんだが、目の前のお客様はお気に召さねぇようだな……しゃあねえ、それじゃあ今度は、もっと面白い芸をやろう……」
ビャハは槍を宙に浮かし、ゆっくりと頭上で回転させ始めた!
「『クワガタのバラバラ死体』なんてのどうだい!? ビャッハーッ!!」
ビャハは自らの言葉と共に右腕を振り下ろした瞬間、回転する三又槍が不規則な軌道を描きガタクに襲いかかる!
「《大鎌鼬》!」
ガタクは大鎌鼬で迎撃するが、高速移動する槍を捉える事が出来ず、槍がガタクに斬りかかる!
「ぬぅっ! はぁぁっ! 《大鎌鼬》!!」
ガタクは大顎で回転する槍を受け流しながら、無防備なビャハ目掛けて大鎌鼬を放つ!
「ビャハハハハハ、甘めぇ!」
ビャハが左手を動かすと同時に、ビャハの身体が宙に浮かび上がり、大鎌鼬を回避した!
「何っ!?」
「ビャハハハハハハハ!! 武器を手放して無防備な俺を狙うのは当然だよなぁ? それぐらい対応策は考えてんだよ!」
「ぬっ! あれは……」
ガタクはビャハの足の裏を注視し、ある物を発見した。
瓦礫である、足と同じ大きさの瓦礫が足裏に付いていたのだ。
(そうか、先程拙者の目潰しに使った瓦礫と同じ様に、念動力であの瓦礫を操り、自らの身体ごと浮かせたのか!)
「ビャハハァァァッッ!!」
ビャハは笑い声を上げながら、両手を動かすと、槍が踊る様に宙を動き回る。
「ッ!!」
「まだまだァッ!!」
槍は縦横無尽に暴れ回り、斬撃の嵐を撒き散らす!
「ビャハャアアッ! 踊れ! 跳ね回れ! 奴を切り刻めェェェェェェッ!!」
ビャハが叫ぶと同時に腕を振り三又槍の動きはより一層加速し、ガクタに襲い掛かる!
「っ……! 《大鎌鼬》ッ!」
「ビャハハ! 当たらねぇっつうの!」
ガタクがビャハ目掛けて斬撃を放つが、瓦礫を操り空中を高速移動し大鎌鼬を回避する!
「ビャハハハハハハハハハハ!!! ほれほれ、ほぉれぇぇぇぇっ!」
「ぬっ! ぐぅぅぅぅっっ!」
ビャハの槍の動きを何とか見切り攻撃を受け流しているが、徐々に追い詰められていくガタク。
「ビャハハハハハ! どうしたどうした? まさかこれで終わりじゃねぇなぁ!? もっと俺を楽しませてくれよぉぉおおおっっ!!!」
「ぬぅぅぅっ……!」
(このままでは……何か打開策を練らねば……何か、何か無いか……!)
攻撃を捌きながら後退するガタクは、足元にある無数の瓦礫と砂埃を見て、ある事を閃いた!
(これならば……だが、成功するかどうか……いや! こんな時、殿ならばこう言うはず! 『一か八か!』)
「行くで御座る! 《斬撃》ィィッ!」
ガタクは斬撃を地面に向けて撃ち地面を抉った!
周囲に大量の土煙が舞い上がり、ビャハの視界を土煙が覆い隠す。
「ビャハハ? 目眩ましのつもりかぁ?」
ビャハは槍を再び高速回転させ、土煙を払っていく。
更に念動力で周囲に無数の瓦礫を配置した。
「ビャハハハハ、土煙が完全に晴れる前に攻めようって魂胆だろうが、これならどんな場所から来ても瓦礫の音で
分かる、遠距離攻撃が来ても素早く対応できるぜぇ……さぁて、どこから来るかなぁ? ビャハハハハハ!」
ビャハが周囲を見渡す中、背後から瓦礫が崩れる音が聞こえ振り返ると、土煙をの中から一直線に突進するガタクの姿が見えた。
「ビャハハ!! 貰ったぁっ!」
ビャハが三又槍をガタク目掛けて投擲、ガタクの頭部に槍が突き刺さった!
――かに見えたが、槍はそのままガタクの身体を突き抜け空を切った。
「ビャハッ!?」
ビャハが攻撃したのはガタクでは無い、土煙と瓦礫を風でガタクの姿を模(かたど)った『風の分身』だったのだ!
そして本物のガタクは、ビャハの真上にいた!
「《斬撃》ィィィ!」
「な、にぃぃぃっ!?」
真上からの奇襲にビャハ瓦礫を動かし回避しようとするが間に合わず、ガタクの斬撃が両腕を切断した!
「ビャハァァァァァァァ!?」
両腕を切断されたビャハが態勢を崩し、地面に落下するが、何とか着地に成功する。
それと同時に、周囲の瓦礫と槍が地面に落下して行く。
「ビャ、ハハハハ……」
「やはり貴様の念動力は握ったモノを操る能力、だが同時にモノを動かす場合は手や指で操作しなくてはならない、つまり腕を切断してしまえば念動力は使えなくなるのでござろう?」
「ビャ、ビャハハハッ! 正解だ……しかし風の分身とはなぁ、面白ぇ手だなぁ……」
「風を操り気流のドームを作る事は容易で御座るが、それを拙者の形にする事は至難の業、即興でやるのは一か八かで御座った……だがおかげで勝機は見えた、その首貰うぞ、《大鎌……!」
「ビャ……ハハ! ビャハハハハハハハハハハハ!!」
「……何が可笑しいので御座るか?」
「これは可笑しいから笑ってんじゃねぇ……楽しいから、嬉しいからだ……ここまで追い込まれたのは久しぶりだからなぁ! ビャハハハハハハ!! 楽しい! 楽しいねぇ! 命を懸けた極限の戦いは! なあ、そうだろ!? お前も楽しいよなぁガタクゥッ!!」
ビャハは前腕部から先が無くなっている両腕を広げながらガタクに向かって叫んだ。
「……悪いが拙者は楽しくないで御座る……人の命を弄び、自らの命すらに享楽のために使う貴様と一緒にされるなど、反吐が出る!」
「ビャハハハハ! 言ってくれるじゃねぇか! じゃあ話はこれぐらいにして、戦いの続きをしようぜぇ?」
「その腕でまだ勝機があると? それに腕からの出血量から見ても、既にかなりの血を失っている、後数分もしないうちに貴様は命を失うで御座るよ」
「ビャハハハハハハハハハ!! 確かにな! このままじゃ俺は確実に負ける……このままだとな」
ビャハの不敵な笑いにガタクは警戒する。
「さっきお前に俺が手と指を失えば念動力は使えないと言ったけどよぉ……実は一つだけ間違いがあんだよ」
「何……?」
「精度は悪くなるが……腕一本あれば一つぐらいは動かせるんだよ……」
そう言ってビャハが右腕を動かすと、懐から赤色の珠が飛び出した。
「それは……!?」
「ビャハハハハハ……さぁ行くぜ、ネクストゲームだ!」
ビャハは右腕を動かし、右腕の切断面に魔蟲の宝珠を埋め込んだ!
「ビャハハハ、ビャハ……ビャハハハァオボォォォォォォォォォッッ!!」
ビャハの身体は鎧を内側から破壊しながら肥大化し、巨大な肉塊と化した!
「くっ……!」
既に何度もこの状態の肉塊を見てきたガタクは変異が終わるまで何をしても無駄と知っている……故に警戒しながら肉塊のようすを窺っていた。
肉塊は強く脈動し続け、それが臨界に達した瞬間、表面に亀裂が入り、肉塊は崩壊し、中から変異したビャハが姿を現した。
「ビャハハハハハハハハ……」
その姿はクワガタムシに変わっており、身体は全体的に扁平、そして最も目を見張るのは細長い大顎で、大顎の長さを合わせれば体長は4メートルは超える。
ビャハが変異したクワガタの正体……それは世界最長のクワガタ、その名は――
――ギラファノコギリクワガタ。
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