第293話 赤のビャハⅤ
「なんだって……!?」
「我ら兄弟に与えられた時間は、魔人王様が復活するまで……魔人王様が復活されれば私とビャハはこの世界から完全に消滅する」
「それじゃあお前達は、自分達が死ぬために魔人王を復活させるというのか!」
「そういうことになるな、魔人王様のおかげでこの数百年楽しませてもらったしな……契約通り魔人王様を復活させ、私達は役目を終えさせてもらうとだけだ」
「ふざけるな! その為に一体どれだけの命が失われたと思っているんだッ!!! お前達の勝手なお遊びのせいでこの世界の人間達がどれ程の犠牲になったか分かっているのか!?」
「知らんな、興味も無い、他の者達がどうなろうが我ら兄弟には一切関係ない」
一切声色を変えず淡々と語るギリエルに私は胸の底から怒りが沸々とわき上がってくるのを感じる。
「成程のう、よもやそのような理由じゃったとはのう」
「っ!? この声は……ミミズさん!?」
背後を振り返ると、そこにはミミズさんの姿があった。
「ミミズさん、どうしてここに!?」
「魔人王の声を感じ、急ぎここまで来たのじゃ、ビャハの奴はガタクとの戦いに夢中で儂の事など眼中に無かったから、楽に来れたぞ」
「久しいな魔蟲王……いや、元魔蟲王と言った方が正しいか? お前との死闘は素晴らしかった……あれほど心震える楽しい戦いは今まで無かったからな」
「今思えばあの時、他の勇者共とは違う底知れぬ何かを貴様とビャハから感じ取っていたが、まさかその正体が楽しみたいと言うくだらぬものだったとはのう……」
「くだらないことの何が悪い? そのくだらない感情に突き動かされることこそが生命の本質なのだ……!」
「反吐が出るわ、貴様らのお遊びにここまで振り回されて来たと思うとな……」
「さて、雑談はこれまでにしよう……我らが最期の任務を果たすために……いや、もう任務などと取り繕う必要もないか……続きをしようか、我が最期の『ゲーム』を!」
「ゲーム……っ!?」
「そう! 魔人王様復活までこの場所を守りきれば私の勝ち、私を倒しここを突破できれば貴様の勝ち、単純明快かつ分かりやすいルールだろう? さぁ、全身全霊を私にぶつけろ! 強者との戦いにこそ私は最も昂り楽しめるのだ! 人生最後にして最高の血肉湧き踊るゲームにしよう! 魔蟲王ヤタイズナァッ!!」
「……ッ!!」
魔人王の言うように、ギリエルとビャハは純粋だ……純粋すぎるんだ。
自らの行動がどのような結果を引き起こそうが、楽しいならどうでも良い……本気でそう思っているんだ!
純粋……故に邪悪!
自分達がどのような死に方を迎えるかも楽しいかどうかで判断している……自分達が楽しむこと以外の感情など持ち合わせていないんだ!
私がギリエルとビャハの本質に戦慄しているその時だった。
『オオオオオオオオオォォォォォォッッッッ!!!』
「こ、これは……っ!?」
「ぬぅぅぅぅぅ……っ!」
通路の先から発せられる声と衝撃波に耐える私とミミズさん。
「あの声は魔人王の……先程よりも力が強く感じた!」
「もはや復活まで時間が無い……ヤタイズナよ、一刻も早く奴を倒し、魔人王復活を阻止するのじゃ!」
「ああ、分かってる!」
「来るがいい! ゲームスタートだ!!」
「《灼熱の斬撃》《灼熱の斬撃》《灼熱の斬撃》《灼熱の斬撃》《灼熱の斬撃》《灼熱の斬撃》ッッ!!!」
ギリエルが高らかに叫ぶと同時に私は連続で灼熱の斬撃を撃ち放ち、ギリエルを包み込むように灼熱の斬撃が一斉にギリエルを襲う!
「《蛮勇の角》!」
ギリエルは蛮勇の角を使い、そして角を円を描くように振って灼熱の斬撃を掻き消した!
「この程度、目くらましにもならんわ!」
「《灼熱の角》ッ!!」
私は空を飛んで一気に急降下し突進する!
「オオオオオオオオォォォォッッ!!」
「温いわぁァァァァァァァッッッ!!!」
ギリエルは私の攻撃に対応し斜め上に向けて蛮勇の角で突き攻撃を行い、灼熱の角と蛮勇の角が激突すると同時に凄まじい衝撃が発生し地面が揺れ動いた!
「――ビャハハハハハハ! 兄ちゃんも大分楽しんでるみたいだなぁ……こっちもさらに楽しませてもらおうかねぇ……!」
「ぬ、ぬぅぅぅ……!」
ガタクは全身が切り傷だらけになりながらも、どれも致命傷には至っていない自身の状況を、ビャハがあえて急所を避けている事を察し苛立つ中、何とか突破口を開こうと思案する。
その心境を知ってか知らずか、ビャハは愉快そうに自らが持つ槍をビャハに見せつけながら悠々と喋り出した。
「ビャハハハハ、この槍がひとりでに飛んだり戻って来たりするの、なんでだと思う?」
「……急に何で御座るか?」
「なぁに、このままだと面白みがねぇからちょっとだけネタ晴らしをしようと思ってよう……俺、勇者だったって言ったよなぁ? そん時に寿命と引き換えに力を手に入れたわけよぉ……それで手に入れたのがこの力だったんだよぉ!」
そう言ってビャハは喋っている途中でガタク目掛けて槍を投げた!
だがビャハの一挙一動を警戒していたガタクは槍を難なく弾き、槍は真上に飛んでいく。
「ビャハハハハハ!」
ビャハが右手を下に向けると、槍が空中で静止し、再びガタクに襲い掛かる!
「《斬撃》っ!」
飛んでくる槍を斬撃で弾くが、ビャハが手を動かすのに連動して槍は三度ガタクに向かう!
「ぬぅぅぅぅぅっ!」
ガタクは大顎で槍を弾くが、槍は何度もガタクの方へと向かって行く。
「ビャハハハハハハ!! これが俺の力、《念動力》! 一度握った物なら何でも動かす事が出来るのさ……まぁぶっちゃけしょっぱい能力なんだけどよぉ……」
ビャハが左手を動かすと、崩れた石壁の破片が動き、ガタクの方へと飛んでいき、破片の一つがガタクの複眼に直撃した!
「ぐっ!?」
「こうやって相手をおちょくるのには最適な能力なんだよなぁ……ビャハハハハハハハハ!!」
「貴様……ぬがっ!?」
目潰しを喰らって怯んだガタクの腹部に、三又槍が突き刺さった!
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