第292話 赤のビャハⅣ

「魔人王……? 」

「あぁ? 何か魔蟲王と似た名前だな……」

『―――』


 ***の言葉に、黒い霧の塊が一瞬動きを止めた後、禍々しく揺らめいた。


『我――ヲ、あの――下賤で卑しいムシケラと、同列にするなぁああァァアアアアアアアアアッ!!』


 怒号と同時に凄まじい突風が吹き荒れる!


「ぬぅっ!」

「ぐおおおぉっ!!」


 吹き荒れる突風を受け、二人は大きく後ずさる。


「何と言う力……!」

「こいつぁすげえ……震えが止まらねぇぜぇ……! 兄ちゃん、戦うかぁ!?」

「待て***……魔人王よ、先程私達を退屈から解放すると言ったな? その話、詳しく聞かせてくれ」


 興奮気味に戦闘態勢を取る弟に制止を掛けつつ、*****が問いかけると、黒い靄が蠢き、喋り始めた。


『――お前たたたた――ちににににに――我の――復活――の準備ををを――してもらいたのだだだだだだ――……!』

「……ほう」

「復活だぁ……?」

『はるかかかかか、昔―――我の身体は――六体ののののの――下等生物共に封じられたたたたたた――あのとききききのの屈辱は――決して忘れないぃィイイッ……! 我の肉体と――我の力ががが封じこめられた6つのいししししししを――集め集めるのだぁあぁぁああ……!」

「……成程、それで見返りは?」

『我の残されれれれれ――た力を使い、お前たち二人に時間と新たな力ををををを――与えるゥウウッ……』

「ほお~そいつぁ面白そうだなぁ! 兄ちゃん!」

「……一つ聞きたい」


 *****は一瞬思案した後、口を開いた。


「何故私達なんだ? 復活の準備だけならばもっと扱いやすい連中が他にもいるだろう」

『……それはオオオ前たちはは――我がががが――今まで見てきた中でででで――もっとも――純粋だからだだだだだだ――……!』

「純粋……?」

  『そう――オマお、お前たちには――他の人間が抱くくだらない感情がない! あるるるるのは、自分達が楽しみたいだけと言うううう――この世でもっとも無垢なる魂なのだだだだだだぁぁぁぁぁぁ……!」

「……」

「ぎゃはははははははっ! 俺達がこの世界で最も無垢な魂ねぇ……聖職者共が聞いたら卒倒しそうな言葉だなぁ! ……さて、どうする兄ちゃん?」

「……きっと、お前も同じ考えだろう? 弟よ」

「ぎゃはははっ、それじゃあ一斉に答えを言おうぜぇ……」





「「――私(俺)達が楽しければ、それでいいっ!!」」





『ふふふふ――契約成立だななななな――』

「ぎゃはははは! それじゃあ早速その新たな力ってのと時間をくれよ、魔人王様よぉ?」

『良かろうううううう――と言いたいところだががが――お前達に力を与えるためにははははは――まずずずず素材が必要だだだ――……』

「素材だぁ……?」

『そうだ――お前達の肉体を再構築するためにははははは――我の眷属を生贄としてささささ捧げなければならながなならないいい……お前達一人につきおよそ百体ほどの生贄をををををを……』

「ってことは合計で二百体か……どうする兄ちゃん?」

「ふっ……お前も既に思い付いているだろう、***よ……いるではないか、ある程度の数が揃っていて尚且つ生贄にしても他の者達への適当な理由が付けられる、最適な奴らが……」

「ぎゃははははははは!! 流石兄ちゃん、俺と同じ考えだぜぇっ!」

「ふふふ……では行こうか……蟲人狩りに……!」








「――そして私達兄弟は蟲人達を粛清と言う名目の元、奴らを狩り、私達が生まれ変わるための生贄としたのだ……!」

「それが、数百年前に起きた蟲人虐殺の真実……!」

「私達は魔人王様の手により新たな力と、時間を与えられた存在……『原初の魔人』なのだ」

「原初の魔人……!」

「そうだ、そして我ら兄弟は王国を出奔し、魔人王様の遺骸を探し求めると同時に、幾多の戦場を駆け抜けて行った……」







「――ビャハハハハハ! 血肉湧き踊る最高の日々だったぁっ!」

「ぬぅぅぅ……っ!」


 ガタクの大顎とビャハの槍が交差する度、火花が飛び散る。


「ある時は負け戦に加担し! またある時は勝ち戦で悠然と高みの見物を決め込みながら! 与えられた時間を最大限に使って楽しんでいたんだよぉぉ! ビャハハハハハハハハッ!!」

「ぐっ……ぬぅっ!」


 狂喜乱舞しながら猛攻を仕掛けてくるビャハに対し、防戦一方となるガタク。

「そんな楽しい日々が続く中、俺達は遂に魔人王様の遺骸を見つけ出したぁっ!」


 鍔迫り合いの後、ガタクは後方に跳んで距離を取り、一旦息を整える。


「はぁ、はぁ……何を……?」

「ビャハハハハ……兵隊造りだよ」







「――兵隊造りだって?」

「そう……魔人王様の復活のために必要な六つの魔封石を手に入れるためには手足となる兵隊が必要と考えた私達に、魔人王様は魔人族を造るための知識を与えてくれた……だが完成した最初期の個体は肉体の劣化が早くとても使い物になるモノでは無かった……そこで私達はその問題を解決するためのうってつけの生贄を見つけた……」

「エルフ達か……!」

「ほう、知っていたか……大方バロムから聞いていたと言った所か?」

「お前達は、罪の無いエルフ達を襲い、あんな肉の樹を……!」

「総ては魔人王様のため……まぁ多少狩を楽しませて貰ったが……そして私達は魔人族の量産し、兵力を整え、魔人王様復活のための準備を整えた……中には離反する者、自らの野望のために暗躍する者達も居たが、そんな者達が出る事など予想の範疇だった……その者達の行動も総て計画として組み込み、総てが面白いほど順調に進んだ……そして今日、遂に魔人王様が復活される……そして私達の最期の任務も終わりを告げるのだ……」

「……お前達の正体、そして今までの経緯も分かった……だが結局最期の任務の意味が分からない、魔人王が復活した後、お前達は魔人王と共に世界を支配するんじゃないのか!?」

「何度も言っているだろう、言葉通りだとな……魔人王様が復活された瞬間、私とビャハの肉体は生命活動を停止するように施されているのだよ」

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