第289話 赤のビャハⅠ
「ビャハハハハ……いやぁ楽しかった、素晴らしい余興だったぜぇ」
ビャハが起き上がり愉快そうに拍手をしている。
「さてと、ファレナも死んで障壁も消えた事だし、そろそろメインディッシュを頂くとするかねぇ……」
そう言ってビャハは槍を手に持ち、通路の上から跳び降り私達の前に着地した。
「さぁ、骨の髄まで味わい尽くせるような戦いをしようぜぇ……?」
ビャハから尋常ではない殺気が発せられ、私が戦闘態勢を取ったその時だった。
『――オオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!』
「なっ!?」
突如地響きと共に通路から謎の声と風圧が発せられたのだ!
「今のは……まさか!?」
「ビャハハハハハハハハ!! 魔人王様の力が伝わって来るぜぇ! あと少しで完全復活を遂げられる!」
やはり今の声は魔人王だったのか! 不味い本当に時間が無い! ビャハの相手なんかしてる場合じゃないってのに……
「ビャハハハハハハ、おいおい目の前の相手に集中しろよなぁ?」
「くっ……!」
「殿、此処は拙者にお任せを」
そういってガタクが私の前に出る。
「ガタク!? けどお前は……」
「ご安心くだされ、今はただ目の前の敵を倒すことのみ考えているで御座る……悲しむのは後からでも出来るで御座る」
「……分かった! 待っているぞガタク!」
私は飛翔し通路へと真っ直ぐに進む!
「ビャハハ! 行かせるわけねぇだろ……」
「《斬撃》ッ!」
私に攻撃しようとするビャハに対してガタクが斬撃を放ち、ビャハは即座に振り向き槍で斬撃を弾いた。
その隙に私は通路へと入る事に成功し、一直線に進んで行く。
「ちぃーっ! メインディッシュが飛んでいきやがったぜ……まぁ良いか、あいつは兄ちゃんに譲るかねぇ……」
そう言ってビャハは槍を構え直しガタクと対峙する。
「さぁ、楽しく殺し合おうぜぇッ!!」
「《暴風の大顎》ッ!」
ガタクとビャハは同時に動き出し、暴風の大顎と三又槍の切っ先が衝突するが互いに弾き合う。
だがそれで終わる事は無くガタクとビャハは何度も大顎と槍をぶつけ合い、激しい攻防が繰り広げられる!!
「セヤァァァァァァァァァァァァァァァッッ!!」
「ビャハハハハハハハハハハハハハハッッ!!!」
一撃一撃が激しくぶつかり合う事で周囲に衝撃が発生し、床が砕け散り砂埃が巻き起こる。
両者は互いの距離を離すと同時に地面を踏み抜き突進、そして再び激しくぶつかる。
「ビャハハアァッ!」
「ヌゥンッ!」
2人の猛攻は止まらず、幾度も激突を繰り返して行く。
しかし拮抗している様に見えた戦況に変化が生じる。徐々にではあるがビャハの方が押し始めて来たのだ。
「ビャハハハハハハ!! 楽しい! 楽しいねぇ! 殺し合いを眺めるのも! 弱者をいたぶるのも楽しいが! やはり強者との死力を尽くす死闘が最高に楽しいぜェエエッッ!!!」
「グッ……オオォウッッ!」
次第に追い詰められていくガタク。
そして遂に、渾身の突きを受けてしまい吹き飛ばされてしまう。
「ぐああああっ!?」
壁に打ち付けられ苦悶の表情を浮かべるガタクに対し、追撃しようとビャハが迫る!
「死ねぇぇぇぇっ!!」
「なんの……これしきぃぃ!」
ビャハの攻撃が届く寸前で、ガタクは態勢を立て直すことに成功し回避に成功する。
「ちぃーっ!」
「《大鎌鼬》!」
「おっとぉ!」
反撃で放たれた風の刃をビャハは槍を高速回転させて防いだ!
「ぬぅっ!」
「ビャハハハハハハ! この程度で終わらねぇだろぉ? もっともっと楽しみ味わい尽くさせろよぉ!!」
更に勢いを増し攻め立てるビャハ。
それに対し、ガタクは逆にビャハの攻撃を受け流し反撃の機会を窺う。
(このままではジリ貧……なんとかして突破口を開くしか無い……!)
覚悟を決めた様子を見せるガタクを見てビャハは嬉々として笑う。
「ビャハハハハハハハハ! 何か狙ってんのかぁ!? 良いぜ来いよっ! 全力で俺を殺しに来なぁ!」
攻撃を受けきった後、即座に後ろに跳び構えを取るガタク。
それに対してビャハもまた槍を構える。2人は呼吸を整え睨み合ったまま動こうとはしない……次の瞬間、先に動いたのはガタクの方だった!
「《大鎌鼬》!」
無数の衝撃波がビャハ目掛けて飛んでいく!
「同じ手が通じると思ってんじゃねえだろうなぁっ!」
ビャハはその全てを再び槍を回転させ弾いて行く。
しかしその一瞬を狙い、ガタクは上空へと飛翔していた!
「《斬撃》《斬撃》《斬撃》《斬撃》《斬撃》《斬撃》《斬撃》ィッ!」
そのまま空中から連続で斬撃を放つ!
「ビャハハッ! 知恵を絞ったようだが無意味だぜぇえ!!」
即座に後方に跳び退き、斬撃を回避していくビャハに、空中のガタクは猛スピードで突っ込んで行く!
「ハァァァァァァァッッ!」
「ビャハッ!? ちぃーっ!」
ビャハは咄嗟に槍をガタク目掛けて投擲した!
「ふんっ!」
ガタクは槍を弾きそのままビャハへと突進する!
「ビャハハ、バ~カっ!」
ビャハが右手の人差し指をクイっと曲げた瞬間、弾かれ飛んでいた槍が空中で止まり、ガタクの方を向き突っ込んで行く!
「ぬぅっ!?」
ガタクは突進を止め、槍を再び弾き飛ばした。
その隙にビャハは距離を取り、槍に手をかざすと、槍はビャハの手元へと飛んで戻って行く。
「ビャハハハハ! 何度もこの手を晒したっていうのに魔蟲王の奴は手下に教えてねぇようだなぁ……まぬけな主を持つと大変だなぁ?」
「……殿を侮辱し拙者の動揺を誘おうとしても無駄で御座るよ」
「ビャハハ、思った事を言っただけだぜぇ?」
ニヤけた笑みを見せながら答えるビャハに対して、ガタクは鋭い視線を向ける。
「ビャハハハハハハ……ここからはさらに攻めさせてもらうぜぇ……! さぁ、持ちうる全てを使って俺を殺しに来やがれェェェェェッ!!」
『――オオオオオオオオオオオオオオ……!!』
「声がだんだん近くなっている……! もう直ぐだ!」
私は徐々に近くなっている魔人王の声を聴き、気を引き締め進んで行く中、目の前に人影が見えた。
……っ! あれは!!
私は翅を閉じ、地面に着地し、戦闘態勢を取った!
「予想よりも早いな……しかし、ここから先は進ませはせんぞ、魔蟲王よ」
「……ギリエル!」
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