第281話 悲しき復讐者Ⅴ

――廃城、円卓の間。


「魔人族女を戦士にしてほしいだと?」

「はい」


 六色魔将、『黒』のギリエルの言葉に、ザハクは力強く返事をした。


「ビャハハハハハハハハ! おいザハク、冗談ならもっと面白れぇ事を言えよなぁ」

「フフフフフフ……全くですねぇ」


『赤』のビャハが愉快そうに笑い、それに同調して『青』のブロストも笑う。


「俺は本気だ、何がおかしい?」


 ザハクが睨みつけるが、ビャハとブロストは笑うのを止めない。


「ビャハハハハハハ! 本気だとよぉ? こいつはマジで笑えるぜ!」

「まったくですねぇ、魔人族女は戦力を増やすためのモノ……それをわざわざ戦う道具にしようなんてねぇ……」

「道具だと!? ブロスト、貴様は……!」

「静まれ」


 一触即発の空気の中、ギリエルが静かに言葉を発した。


「ザハクよ、ブロストの言う通り、魔人族女は魔人族の戦士を産み落とす事こそが役割……我等にとって宝ともいえる存在だ、それを承知で言っているのだな?」

「はい」


 ギリエルの言葉にザハクは臆することなく答えた。


「……ギリエル様! 私からもお願いします」

「ディオス! お前……!」


 立ち上がった『緑』のディオスを見て、『白』のゼキアが制止するが、ディオスは無視してザハクの隣に立った。


「魔人族女を戦士にする事の無謀さと危険性は重々理解しています……もしもこの件をきっかけに取り返しのつかない事が起きた時には、当人であるザハクだけでなく、この私の首をお打ちください」


「ディオス……」

「……どうしてお前達はそんなに迷いなく言えるんだ……! くそっ!」


 ゼキアが拳を握りしめて呟くと、立ち上がり声を上げた。


「ギリエル様! 私もザハクとディオスに賛同します! そして同じく何かが起きた時は、この私の首も差し出します!」

「ゼキア……!」

「おいおい、六色魔将の半数がその女を戦士にすることに賛同するだって? あほらしすぎて笑いも出ねぇぜ……」

「仕方ないんじゃないですか? 彼等はあの裏切り者のバロムの元教え子達……愚か者の悪癖が移ったのでしょう」


 ブロストの言葉に、ザハクが激昂する。


「貴様ァッ!! 俺の事ならともかく、先生を侮辱することだけは許さん!」

「落ち着けザハク!」

「今問題を起こせば、それこそお前の願いを踏みにじる事になるぞ」

「ぐぅ……!」


 ザハクは歯ぎしりしながらも自らの怒りを抑えた。


「……まあ良い、話は分かった……」


 ギリエルがゆっくりと立ち上がる。


「ザハク、そして並びに二人の将の総意、確かに受け取った」

「では……!」

「うむ、そのファレナという娘の特例を認めよう」


 ギリエルの一言に、全員が息を呑んだ。


「……あ、ありがとうございます……!」

「だがその前に、その娘が魔人族の戦士として相応しい実力があるかどうかを見極めさせてもらう」







「――勝ち抜き戦、ですか?」


 私の言葉に、兄さんが頷いた。


「そうだ、選ばれた10人の戦士全員と順に模擬戦を行い、勝利する事……それがギリエル様がお前に課した試練だ」

「それを試練を成し遂げれば、私は戦士になれるのですね!」

「ああ、そうだ」


 私は嬉しさが込み上げてくるのを感じた。


「あと少しで……戦士に……兄さんと共に戦える……!」

「だが油断するなよ、その10人はいずれも俺の先生の教えを受けた者達……一筋縄では行かないだろう」

「はい、油断はしません……このファレナ、全力を持って戦い、勝利して見せます!」

「よく言った! それでこそ俺の妹だ」


 そう言って兄さんはいつものように私の頭を優しく撫でてくれた。


「待ってるからな」

「……はい!」







 ――そして数日後、廃城の一角にある広場に多くの魔人族の戦士達と成人前の魔人族男達がが集まっており、そこに建てられた物見台には兄さんの他に六色魔将の方々が並び座っていた。


 そして、黒のギリエル様が立ち上がり、声を上げた。


「これより、特例選定を行う! 」

『『『オオオオォォォォォォオオオオオオオオオッッ!!!』』』


 ギリエル様の言葉に、総ての魔人族が一斉に声を上げた。


「選定を受ける者、我が前に」

「はいっ!」


 ギリエル様の呼びかけに答え、私は前に出て膝をつく。


「名は?」

「ファレナと申します!」

「ファレナよ、お前にはこれより10名の戦士と戦ってもらう、見事全員を倒せば、お前を戦士として認める、良いな?」

「はい!」

「それではこれより、選定戦を始める! 一人目の戦士、前に!」


 ギリエル様の宣言で、木製の昆を持った魔人族戦士が私の前に現れる。


「覚悟しろ、俺は女とて容赦はしないぞ……!」

「元より、承知の上です……!」

「始めぇ!」


 ギリエル様の合図と同時に、昆使いの魔人族が突っ込んでくる。


「ハアッ!!」


 私は突き出された昆を間一髪で避け、反撃に移る。



「《雷球》!」


 私は右手を前に突き出し、昆使い目掛けて雷球を放つ!


「なっ!?」


 面食らった昆使いは回避が遅れ、身体に雷球が直撃する!


「ぐおおおおおお!?」


 雷球を喰らい、身体を痙攣させる昆使いに私は一気に詰め寄り、顎目掛けて回し蹴りを喰らわせる!


「ご、が……っ!?」


 蹴りをもろに受けた昆使いは、白目をむき、地面に倒れた。


「そこまでッ! 勝者、ファレナ!」


 ギリエル様の言葉と共に、魔人族達が雄叫びを上げる。


「よし! 良いぞファレナ!」

「おお、いともたやすく……流石はザハクが鍛えただけはあるな、ゼキア」

「ああ……あいつは俺の部下だが……今度鍛えなおしてやる必要があるようだな……」

「魔法ねぇ……珍しいモン使ってんじゃねぇか」

「確かに、魔人族男の戦士には魔法を使える者は一人もいない……それを魔人族女が使えるとはねぇ……性別の違い、もしくはあの女が特別な遺伝子を有しているんですかねぇ……? ぜひ実験してみたいですねぇ……ふふふふ」

「二人目の戦士、前へ!」


 昆使いの戦士が他の魔人族によって連れて行かれ、剣と盾を持った戦士が出て来る。


「始めぇ!」

「《雷球》!」


 号令と共に私は相手に雷球を放つ!

 しかし、剣と盾持ちの戦士は盾を前に構え、雷球を容易く受け止めた!


「初見ならいざ知らず、不意打ちでないならばこの程度、造作も無い!」


 そう言って剣盾戦士は盾を前に構えたまま私目掛けて突っ込んでくる!


「っ!?」

「フゥンッ!!」


 突進してきた戦士に私は思わず仰け反り、その隙を突いて戦士は私の腹目掛けて剣を振る!

 咄嵯に身を捻って避け、後ろへと飛び退いて距離を取る!


「……やるな、だが次は外さん!」


 剣盾戦士が再び突進して来る!


「《雷球》、《火球》ッ!! 」


 私は両手を前に突き出し、右手から雷球、左手から火球を放つ!


「雷だけでなく火まで出せるのか……だが結果は同じ事!」


 そう言って戦士は再び受け止める態勢を取る。

 だけど私の狙いは敵では無い。


 雷球と火球は戦士に当たる直前で、ぶつかり合い、爆発を起こした!


「むっ!?」


 爆発で発生した煙が辺りに舞う。


「目くらましか! 小癪な……!」


 剣盾戦士が辺りを見回す中、私は地面を蹴り一気に跳躍、剣盾戦士の真上を取り、両膝で戦士の頭を掴んだ。


「なっ!?」

「ハアァッ!!」


 そのまま勢いを付けて、戦士の顔面を地面に叩きつける!


「ぐ、おぉっ……!?」


 剣盾戦士の頭部は地面にめり込み、私は後ろに跳び、様子を窺う。

 戦士は起き上がる気配は無く、身体が痙攣していた。


「そこまで! 勝者ファレナ!」


 ギリエル様の言葉で再び歓声が沸く。

 これで二人目……これをあと8回も行うのは骨が折れる……けど、成し遂げて見せる……!


 私は物見台に居る兄さんを見ると、視線に気づいた兄さんが笑みを浮かべて頷く。

 絶対に勝つ……勝って兄さんと共に戦うんだ!




 ――そうして私は、数々の魔人族戦士達と戦い抜いて行った。

 双剣使い、大斧使い、槍使い、弓使い、棍棒使い、鎖鎌使い……皆強かったけど私は何とか勝ち進んで行った。


 そして……


「せいやぁぁっ!」

「ごはぁぁっ!?」


 私は大剣使いの戦士目掛けて飛び蹴りを喰らわせ、大剣使いは地面に倒れ込んだ。


「そこまで! 勝者ファレナ!」

「はぁ、はぁ……」


 あ、あと一人……


「よし、よし! あと一人だ!」

「今までの戦士たちは決して弱くは無かった……だが、彼女の執念が、その力を最大にまで高めているのだろう……」

「ああ、だが油断は禁物だ……最後まで気を引き締めなければ足元を掬われんかねん」

「10人目の戦士、前へ!」


 ギリエル様が10人目の戦士を呼ぶが、戦士は姿を現さない。

 一体どうしたのかと思った次の瞬間、魔人族男がこちらに向かって吹き飛んで来た!


「っ!」


 私は咄嗟に避け、男はそのまま地面に叩き付けられた。


「ぐ、うぅぅ……」

「ビャハハハハハハ! そいつが10人目さ……本来のなぁ」


 そう言って魔人族男達の波をかき分け、三又槍を手にしたビャハ様が私の前に現れた。


「ビャハ、一体何のつもりだ!?」


 兄さんが叫ぶ中、ビャハ様は愉快そうに答える。


「いやぁ、戦いを見てたら昂っちまってよぉ……だからそいつの代わりにこの俺が直々に戦ってやるのさぁ! 感謝しろよぉ? ビャハハハハハハハハ!!」

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