第278話 悲しき復讐者Ⅱ

「……」


 無数の火球が迫る中、ガタクはその場を一歩も動かない。

 火球の雨が次々とガタクに降り注ぎ、爆発していく! 


「ガタク!」

「ビャハハハハハハッ! 綺麗な花火だねぇ! 見惚れちまいそうだ!」


 火球が降り注いだ場所からは土煙が舞い上がり、ガタクの姿が見えなくなる。


「はぁ……はぁ……」


 ファレナが肩で息をする中、土煙が晴れるとそこには無傷のまま佇むガタクの姿があった。


「馬鹿な……!? 爆炎豪雨を無傷で凌ぐなんて……!」

「拙者の周りをよく見るで御座る」


 ガタクの言葉にファレナだけではなく私もガタクの周囲を視ると、風の気流がドーム状になりガタクを守っていた。


「あれは……そうか! ガタクは暴風の大顎で風を操り、火球を受け流していたんだ! 私が操炎で炎を操るように!」

「そういう事で御座る」

「……凄いよガタク……これでは私の毒毛針を散布しても効果は無い……だけど、私は負けない……ガアアアアアアアアアァッッ!!!」


 ファレナが叫ぶと四つの腕が肥大化、変形し巨大な鎌状になる。


「……グッ!? ゴハァ!!?」


 突如としてファレナが口から大量の血を吐き出した。


「ファレナ殿!」

「ハァァ……ハァァ……敵の心配をしている暇なんて、随分と余裕だね……? でもその余裕も

 ここまでだよ……行くぞォォォォォォォォッッ!! 」


 ファレナの背中から生えた羽が巨大化し、禍々しいオーラを放つ。

 そしてその状態でガタク目掛けて高速飛行しつつ、鎌状の腕を振るう!


「死ィネェエエッッ!!」

「ぬぅ!」


 ガタクは迫り来る巨大鎌を受け流していくが、ファレナの攻撃速度が徐々に上がっていく。


「あぁあああぁぁああああぁぁっ!!」

「く……!?」


 ファレナの速度が上昇していき、周囲の地面が抉れていく中、遂にガタクは受け流しきれずに弾き飛ばされてしまう!


「ぬおぉっ!」

「ガタク!」

「大丈夫で御座る!」

「ガタクゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」


 吹き飛んだガタクは空中で体勢を立て直す中、接近し追撃を行うファレナ!


「オオオオオオオオッッ!!」

「何のこれしきィィッ!」


 ファレナの連撃を巧みに受け流し、攻めに転じるガタク!


「《大鎌鼬》!」

「ハアアアアアッッ!」


 ガタクは近距離で大鎌鼬を放つが、ファレナは四つの鎌腕を交差させ防いだ!


「君を倒し、そして魔蟲王を殺して兄さんの仇をォォォォッ!!」


 大鎌鼬を防ぎ切ったファレナが反撃に転じようとしたその時、ファレナの四つの鎌腕が崩れ始めた。


「グゥゥッ!?」


 突如起きた異変にファレナは地面に着地し、苦しみだした。


「あ、ああぁぁぁあ……!?」

「ファレナ殿……!?」

「一体何が……!?」


 私とガタクが戸惑う中、ビャハが愉快そうに笑う。


「ビャハハハハハ、ありゃもう駄目だな」

「どういう事だ、彼女に何が起きている!」

「どうもこうも、ファレナの身体が限界を迎え始めてんだよ、まぁこうなるとは思ってたけどなぁ」

「何……?」

「ファレナの身体を改造したのはあのブロストの野郎だぜ? 考えてもみろよ……あのブロストが、他者見下しまくりの虫野郎が、何のリスクも無い力を無償で与えるわけがねぇだろ?」


 ……確かに、あのアバドンがそんな甘い奴であるわけが無い。



「自分が本来の姿に戻るための実験台だったんだろうなぁ、アメリアの姫さんに施したヤツのプロトタイプって所か」


 オリーブを蟲人に変態させた術……確かに、今のファレナの姿は蟲人となったオリーブの姿に酷似している。


「大方ファレナの復讐心につけ込んで、力を与えるとかほざいたんだろうなぁ……まぁあの姿に変態するまでもつとは思っていなかったようだがなぁ」

「何だって……」

「ファレナの身体は自らの精神力とお前への復讐心によってギリギリ繋ぎ止められていた……だが、戦闘による消耗と度重なる変異に身体の細胞がついていってねぇのさ、もうじき全身の細胞が死滅し、ファレナの身体は崩壊する」

「そんな……」

「ビャハハハハハハハッ!! 馬鹿だよなぁ、あんなクソみたいな男に頼ってよぉ! まぁでも気持ちは分かるかもなぁ、テメェの大切な兄貴を殺されたら、俺も復讐するかもなぁ……」


 ビャハは一瞬復讐する自身の姿を想像するが、すぐに失笑した。


「いや、それは無ぇな……そもそも兄ちゃんが負けるわけねぇし」

「あ、あぎ、ぎぁぁぁぁ……ゴホッ!」


 腕が崩れ、更に吐血し苦しむファレナ。


「まだだ……まだ私は戦える……! たとえ肉体が崩壊し消滅する運命だとしても、私は……!」


 ファレナは立ち上がり、目の前のガタクを、そしてその背後にいる私を睨み付ける。


「ファレナ殿……先程お主はもう迷わぬ、救いを求めぬと言っていたが……拙者には、お主が助けてほしいと叫んでいるように聞こえて仕方ないで御座る……」

「何を戯言を……今の私あるのは兄さんの仇を討つこと、ただそれだけだ!」

「……ならば、その胸にあるモノは何で御座るか?」


 そう言ってガタクが前脚でファレナの胸元を指す。

 ファレナの胸元には、クワガタの形を模した首飾りが身体に埋め込まれていた。


「こ、これは……!」


 ファレナは崩れた腕で胸に埋め込められたクワガタの首飾りに触れる。


「拙者が渡したその首飾りを、お主は肌身離さず持っていてくれたので御座るな……」

「ち、違う、これは……!」

「本当はお主も分かっているはずで御座る! 復讐など誰も……お主の兄であるザハクも望んではおらぬ事を!」

「や、やめろ……」

「そして、本当の仇はもうこの世にいない事を」

「やめて……」

「ザハクに止めを刺したのは、お主に力を与えた張本人、ブロストだと言う事を!」

「黙れえぇッ!!」


 ファレナはガタクの言葉を振り払うかのように叫び声を上げる。


「気付いていたさ……あの男が兄さんに止めを刺したことは……だが、そんな事今更知ったところでもう何も変えられない……だから私は戦う……兄さんの仇を討つためにィィィィィ!!」


 ファレナが叫ぶと同時に彼女の四つ腕が再生し、再び鎌状に変形した。

 そして背中の翅の色が徐々に赤黒く染まって行く。


 その様はまるで翅に血が染み込んで行くかのようだ。


「兄さん、兄さん! 兄サァァァァァン!!」


 ファレナの周囲に雷球と火球が出現し、そのまま雷球、火球と共にガタクへと突進する!


「アアアアアアアアアアアアッッッ!!」

「ファレナ殿、必ずお主を止めて見せる! 《大鎌鼬》!」


 ガタクは周囲に風の刃を出現させ、無数の大鎌鼬と共にファレナへと突っ込んだ!

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