第277話 悲しき復讐者Ⅰ

ファレナ……かつて私が倒した六色魔将、黄のザハクを兄として慕う彼女は、ザハクの命を奪った私に復讐しようとアメリア王国でガタクを洗脳、更にアバドンによって身体を改造、虫の力を手にして私達と戦った女性。


 あの後、ビャハと共に退却し、それ以降はどうなったかは分からなかったが……。

 私が考える中、ガタクがファレナに話しかける。


「ファレナ殿、その姿は……」

「ブロスト様に埋め込んでもらった虫の力が、私の身体を変質させたんだ……私は魔人族である事を捨て、新たな力を手に入れたんだよ、ガタク」


 アバドンめ……全く厄介な置き土産をしてくれたものだ。


「それが、お主の答えなので御座るか」

「そうだよ、だから私はもう迷いはしない、救いも求めない! 兄さんの仇、魔蟲王をこの手で殺す! それを邪魔するならガタク、君を殺す!!」

「……成程、お主の覚悟、確かに聞かせてもらったで御座る……ならばこそ、そなたは拙者が止める!」


 ガタクは翅を広げ空を飛び、ファレナは4本の腕から光球を発生させる。


「《四重雷球》!」

「《大鎌鼬》!」


 ガタクは迫りくる光球を無数の衝撃波で相殺する!


「ガタクゥゥゥッ!!!」


 ファレナもガタクへと接近、左右の第一腕が蠢き、槍状に変形した!


「《暴風の大顎》!」


 ガタクの暴風の大顎とファレナの槍腕がぶつかり合う!


「うおおおおおおっっ!!」

「アアアアアアアアアッ!」


 二つの攻撃は互いに拮抗するが、やがてガタクの方が押し始めた!


「ぬぅん!」

「ぐっ!?」


 ガタクはそのまま一気にファレナを押し切り、吹き飛ばす!


「まだまだで御座る! 《斬撃》、《斬撃》ィッ!」


 ガタクは続けて第二、第三と連続で風刃を放つ!


「くっ!」


 ファレナは飛んできた風の刃を槍腕で弾きながら後方へ退いていく。

 ガタクは無理攻めせず、一定の距離を保っている。


 だが、今の攻防だけでもファレナの現在の実力がどれほどなのかが理解出来る。

 進化したガタクに引けを取らず渡り合うとは……やはり、以前の彼女よりも格段に強くなっているようだな。


 私がガタクとファレナの戦いを見守る中、ビャハが愉快そうに笑う。


「ビャハハハハハハハハハッ! 良いね良いねぇ! 盛り上がって来やがったぜぇ! 拮抗した戦いを観戦するのは最高だなぁ!」

「《灼熱の斬撃》!」


 私は寝転がっているビャハ目掛けて炎の斬撃を飛ばす! しかし、ビャハはその場から動く素振りすら見せない。

 斬撃がビャハの目の前に迫ったその時、突如灼熱の斬撃が消滅した!


「何っ!?」

「おいおい、観戦中に攻撃するなんてつまんねぇことすんなよなぁ?」

「どうして灼熱の斬撃が消えたんだ!?」

「ビャハハハハハ、答えはこいつだよ」


 ビャハは起き上がり、目の前の空間に槍を投げた。

 すると、槍が弾かれ周囲に反響音が響き渡る。


「これは、透明の障壁……!?」

「ビャハハハ、ご名答! こいつはブロストの奴が開発していた魔道具の一つでな、指定した地点から半径3メートル以内の攻撃及び敵の侵入を防げるって代物さ。こいつがある限り俺には傷一つ付けられねぇし、この先に進むことも出来ねぇんだよ! ビャハハハハハハハハハ!」

「ちぃ……厄介なものを……」

「ビャハハハハハハ!! 安心しな、さすがにそれじゃあつまらねぇからなぁ、この障壁を解除する方法が一つある……それは、ファレナの息の根を止める事だ」

「何!?」

「ビャハハハ、ファレナの身体に少しだけ手を加えてなぁ……障壁を発生させている魔道具とファレナの心臓を同期させてあるのさ、つまりファレナを殺せば自動的に魔道具も停止して障壁も消えるわけよ」

「何故わざわざそんな事を教えるんだ!」

「そんな事決まってんだろ……その方が面白いからだよ、ビャハハハハハハハハハ!」


 ビャハはそう言うと、再び寝転がり高みの見物を決め込む。


「さぁ存分に殺し合いやがれぇ! そして俺に最高の興奮と快楽を与えてくれぇっ!! ビャハハハハハハハハハッッッ!!!」

「くっ……ガタク、こうなった以上時間が惜しい、私も戦いに参戦……」

「殿、どうかこの戦い、拙者だけに任せていただきたいで御座る!」

「ガタク……」

「どうか……」


 ガタクの真剣な眼差しを見て、私は静かに頷いた。


「……分かったこの戦い、お前に全てを任せる!」

「かたじけないで御座る、殿!」


 ガタクは迫る光球を受け流しながら、ファレナとの距離を縮める。


「私の攻撃をいともたやすく……流石だよガタク、ならこれならどうだ……アアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!」


 ファレナは上空へと急上昇し、叫び声を上げる。

 するとファレナの周囲におびただしい数の火球が出現した!


「爆ぜ消えろ……《爆炎豪雨》ッ!!」


 ファレナが四本の腕を振りかぶると同時に全ての火球がガタク目掛けて降って行く!

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