第270話 マモン森林を突破せよⅦ

「――魔蟲王、本艦の胴部甲殻付近に接近!」

「これより格闘戦を行う、右第一から第二脚可動開始!」

「了解! 右第一及び第二脚可動、攻撃します!」





「っ!?」


 私はメガネウラの脚攻撃を咄嵯に避けるが、巨大メガネウラの脚の威力は凄まじく、その風圧だけで体勢を崩してしまう。


 あれだけの巨体なのに、意外と動きが速い……!

 更に追撃で二本の脚が私目掛けて襲い掛かってくる。


「くぅ!?」


 一本目はギリギリ回避するが、二本目の脚の攻撃が直撃!


「がはぁっ!?」


 直撃を受けた私の身体はメキメキと音を立て、そのまま吹き飛ばされた!


 私は空中で態勢を整えようとするが、次の瞬間には更に三本目の脚が視界に入り込んでくる。


「ぐっ!?」


 私は何とかそれを回避したが、その隙を逃さんとばかりに左の前脚が私に迫る!


「《灼熱の角》!」


 私は灼熱の角でメガネウラの左前脚を攻撃、その反動を利用して跳ね飛び胴部の真下から脱出し、メガネウラから距離を取る。




「魔蟲王、艦の胴部付近より離脱!」

「仕留め損ねたか……ならば! 主砲を使用する!」

「了解! 砲口展開!」

「充填開始、出力上昇確認!」




「っ! なんだ……!?」


 メガネウラから距離を取り様子を窺っていると、メガネウラは私の方を向き、口を大きく開くと、口の内部には巨大な水晶玉が埋め込まれていた。


 水晶球の中心では光が集まり、徐々にそれが大きくなって行く……まさか、アレは戦艦で言う主砲なのでは!?



 だとしたらここに居ては不味い、あの主砲が当たらない場所に退避しなければ……!


 私は急いでその場から離れようとしたが、突如下から無数の風の斬撃が飛んで来た!


「何っ!?」



 私が慌てて下を見ると、そこには私に向かって来る騎虫編隊の姿があった。

 しまった、コイツらの存在を忘れていた……! 騎虫編隊から放たれた無数の風の斬撃が私に襲いかかる。


「《灼熱の斬撃》!」


 私は迫りくる斬撃を掻い潜り、灼熱の斬撃で迎撃していくが、数が多い……!! 先程私を囲んだ編隊の5倍の数は居る。

 くっ! あの主砲が発射されるまで私をこの場所に留まらせるつもりか!


 騎虫兵達が私を中心に球状に私を包囲する。


「《灼熱の斬撃》!」


 私は灼熱の斬撃を放ちながら、敵の包囲を突破しようと試みるが、突破出来ない! 騎虫編隊の数が多すぎるのだ!

 自爆特攻をされないように魔人族の首を刈っているが、騎虫兵が次々と殺到して来ている!



 このままじゃあ……! 私は必死に騎虫編隊の攻撃を捌きながら、巨大メガネウラの方を見る。


「――充填完了!」

「照準合わせ! 目標、魔蟲王ヤタイズナ!」

「砲撃準備完了!」

「撃てェェェェェェッッ!!」


 そして光が限界まで大きくなり、眩しいほどの閃光を放った直後、私に向けて極太の光線が放たれた!


「くぅっ!!」


 私は上空に逃げようとするが、騎虫兵が私に突進、そのまま私の身体に組み付く!


「なっ!? こいつら……!」


 私は騎虫兵を振りほどこうとするが、次々と他の騎虫兵も私に飛びつき、拘束してくる!


「くそ、放せぇっ! 《灼熱の角・鎧》!」


 私は灼熱の角・鎧で、自分を拘束している騎虫兵を焼き殺すが、それでも数体の騎虫兵は私にしがみついたままだ!


 極太の光線がこちらに迫ってくる。

 くそっ! 間に合わない……! 私が諦めかけた時、突如無数の衝撃波が私にしがみついていた騎虫兵達を切り刻んだ!


「これは……大鎌鼬!」


 その後、何かが私に向かって高速で接近し、私の背中を掴んで一気に上昇、メガネウラの光線を回避した。


(全く、何やっているっすか)

「ドラッヘか、助かった!」


 そう、先程の大鎌鼬を放ったのはドラッヘだったのだ。


(油断してんじゃねぇっすよ、このアホ!  自分が来なければヤバかったっすよ)

「すまない、だがお前が来てくれたのは好都合だ、一緒にあのデカブツを倒すぞ!」

(あぁ? ……ったくしょうがねぇすね……かっ飛ばすっすよぉっ!!)



 ドラッヘは私を掴んだまま加速、メガネウラとの距離を詰める。




「――敵、いまだ健在! 本艦に向かって接近中!」

「虫騎兵を前方に展開、砲口冷却後、主砲の再充填を開始せよ」

「了解! 虫騎兵全騎に通達、前方に展開せよ!」

「主砲充填開始!」





(――わらわらと出て来やがったっすよ!)


 メガネウラの周囲に騎虫兵の群れが壁のように立ち塞がる。


(どうするっすか?)

「このまま突っ込むぞ! お前のスピードなら奴らの中を掻い潜れる!」

(分かったっす! 振り落とされんじゃねぇっすよ!!)


 ドラッヘは更に速度を上げ、騎虫兵の壁の中に突入する!


「自ら敵陣に突っ込むだと!? ええい撃て撃てぇぇっ!」


 部隊長の命令で騎虫兵が一斉に私達を攻撃するが、ドラッヘはそれを全て回避する。


(邪魔っす!《大鎌鼬》!)


 ドラッヘが放った無数の風の刃が騎虫兵達を切り裂き、騎虫兵の間を掻い潜っていく。


「これ以上は行かせんぞぉぉぉぉっ!」


 騎虫兵がハーヴェスターを赤熱化させて私達がけて特攻を仕掛けてくる。


「《灼熱の角》っ!」


 ドラッヘが身体を回転させ避けると同時に、私はその騎虫兵を焼き切った!


 その後も続々と特攻してくる騎虫兵達を灼熱の斬撃と大鎌鼬で薙ぎ払う。

 そして包囲網を突破し、メガネウラへと接近する!


「《灼熱の斬撃》!」

(《大鎌鼬》!)



「敵、本艦に向かって攻撃!」

「急速上昇せよっ!」


 メガネウラは翅を羽ばたかせて真上に急上昇し、攻撃を回避、さらに羽ばたきによって生じた風圧で私達を吹き飛ばした!


「ぐぅぅぅっ!?」

(なんて風圧っすか……!)


 メガネウラはそのまま空中で静止、私達の頭上目掛けてハーヴェースターを投下してくる!


「ドラッヘ!」

(言われなくても分かってるっすよ!)


 ドラッヘは降り注ぐハーヴェースター避けながら空高く上昇し、メガネウラの背部の上を取った!


「《灼熱の角》!」

(《大鎌……》)

「甘い! 対空防御ォッ!」


 メガネウラの背面から無数の棘のようなモノが射出され、私達に迫る!


「何っ!?」

(チィィィッ!)


 攻撃を中断して回避行動をとるが、私の右後脚に数本の棘が刺さる。

 これは……メガネウラの体表の毛を硬質化させて撃ち出しているのか!


(くそ、一々面倒っすね……!)

「下に降下して、敵の死角から攻撃するぞ!」

(了解っす!)


 私達はメガネウラの腹部下へ回り込んだ!


 ここからならあの巨大な複眼でも視認は不可能なはずだ!


「狙うは腹部と胴部の付け根だ!」

(任せろっす! 《大鎌鼬》……)


 攻撃しようとしたその時、メガネウラが細長い腹部を曲げ、私達目掛けて鞭のようにしならせて攻撃を仕掛けてきた!

 私達は攻撃を中断して回避行動をするが、メガネウラの腹部は私達を追いかけて来る。


 ここはたとえ複眼でも死角のはずなのに、どうしてこんな的確に狙えるんだ……!?


(こんちくしょうがぁぁぁぁぁぁっっ!)


 私とドラッヘは命中すれすれで攻撃をかわし、メガネウラから距離を取る。

 その一瞬、太陽の光によってメガネウラの周囲に幾つもの小さい光が反射するのを私は見逃さなかった。


 あれはまさか……!


 私達が回避する中、先程突破した騎虫兵達が私達の元へ向かって来る。


「主砲の充填状況は?」

「三割まで完了しています!」

「よし、このまま敵を包囲しつつ一定の場所に留まらせろ、今度こそ確実に主砲で仕留める!」



「くそっ、キリが無い!」


 先程のように騎虫兵が私達を取り囲み、四方八方から風の斬撃を撃って来る。

 しかもその数はどんどん増えていき、再び包囲の輪の中に捕らえられてしまった!


 こうなったら魔蟲の流星を使うしか……残りの使用回数は九回、あのメガネウラの他にビャハ、ギリエル、そして魔人王を相手にすることを考えれば温存しておきたいが、ここでやられてしまっては元も子もない。


「ドラッヘ、脚を離してくれ、私が活路を……」

「《暴風の大顎》!」

(《斬撃》《斬撃》《斬撃》《斬撃》《斬撃》ィィッ!!)

(《水鉄砲》!)

(《豪風の翅》! えーいっ!)


 私が魔蟲の流星を使おうとしたその時、突如包囲網の一角に巨大な大穴が出来た。


「殿ー! ご無事で御座るか!」

「ガタク、ソイヤー、カヴキ、パピリオ!」

(申し訳ありません主様、こちらに向かって来た敵の掃討に時間が掛かりました……)

(俺達が来たからには、こんな奴らとっとと蹴散らしてやりやすぜ!)

(そうです! みーんな吹き飛ばしてやりますー!)

「お前達、良い所に来てくれた!」

(ったく、来るのが遅せーっすよ)

「一人で独断行動を取っていたお主が何を言うで御座るか!」

(師匠の言う通りです!)

(うるさいっすねー! ちゃんと戦っているからいいだろうがっす!)

「喧嘩は後にしろ! 作戦を話す、戦いながら聴いてくれ」


 私達は騎虫兵達の包囲を脱出、そのままガタク達に作戦内容を伝える。


「……成る程、承知致しましたで御座る!」

「よし、作戦開始だ!」

『『了解ッ!!』』


 私達は騎虫兵を蹴散らしながら縦横無尽に空中を動き回る。



「敵、四方八方に散らばって戦っています!」

「数ではこちらが勝っている状況で戦力を分散しただと? 何を考えている……?」


 六色魔将、白のゼキアが考える中、魔人族の一人が声を上げた。


「こ、これは……!?」

「何事だ?」

「第一水晶玉からの映像が途絶!」

「!? まさか……」

「更に第二、第三水晶からの映像途絶……それだけではありません、次々と水晶玉が破壊されています!」

「奴らめ……この艦の弱点に気付いたか……!」




「――見つけた!」


 私は空中に漂うサッカーボール大の水晶玉を発見する。


(《大鎌鼬》っす!)


 ドラッヘが大鎌鼬を撃ち放ち水晶玉を真っ二つに両断した!


「よし、これで六つ目だ……ガタク達も上手く行っていると良いが……」


 何故メガネウラが完全な死角で私達を的確に攻撃出来たか、その答えがあの水晶玉だ。

 あのメガネウラは水晶玉が撮った映像を経由して周囲の状況を確認していたのだ。


 この方法ならたとえ死角であろうと敵の居場所が正確に把握出来るというわけだ。

 つまり、メガネウラの周囲にある水晶玉を破壊しつくせば私達の正確な居場所は分からなくなるはずだ。



「《大鎌鼬》で御座る!」

(《斬撃》《斬撃》《斬撃》《斬撃》ィィ!)

(《水の鎌》ッ!)

(《豪風の翅》!)




「第二十水晶玉からの映像途絶! す、総ての水晶玉が破壊されました!」

「これでは敵の居場所が分かりません!」

「慌てるな! 虫騎兵からの情報を集め敵の居場所を探るのだ、地上に放っている水晶の一部もこちらに移動させるのだ!」

「り、了解……!」

『……こ、こちら第八虫騎編隊! て、敵が……!』

「魔蟲王を見つけたのか! 場所は?」

「敵がそちらの胴部下から猛スピードで接近しています! 距離はおよそ五百! 早く回避を!」

「何ィッ!?」





「ドラッヘ、私が合図すると同時に脚を離すんだぞ!」

(分かったっすよ!)


 ドラッヘは私を持ったまま、トップスピードでメガネウラの胴部へと接近して行く。

 思った通り、ここまで接近しているのにハーヴェスターが一切降下していない。


 もっと接近して……そう思った時メガネウラの頭部が下に向いた。


 気付かれたか……ならば一気に!


「ドラッヘ、離せ!」

(了解っす!)


 私の合図でドラッヘが私から脚を離し、離脱する。


「《魔蟲の流星》!!」


 私の全身を蒼色の炎が包み込み、そのまま超高速でメガネウラへと突進する!


「魔蟲王視認、こちらに向かって高速で接近中!」

「主砲を発射しろ!」

「し、しかし充填がまだ五割しか……!」

「どの道もう回避は間に合わん! 良いから撃てぇぇぇぇええっ!!」



 メガネウラの口が開き口内の水晶玉に光が集まり、私目掛けて光線が発射された!

 だがその光線は先程放たれた光線の半分程度の太さしかない。


 恐らくエネルギーが足りていないのだ。

 これならイケる!


「ウオオオオオオオオオッッ!!」


 私は真っ直ぐに突っ込み光線と衝突、そしてそのまま光線を突き抜け、メガネウラの胴部に直撃した!


「突き抜けろォォォォォォッ!」


 そのまま炎で甲殻を焼き溶かしながら突き進み、胴部を貫通した!

 その数秒後、メガネウラの胴体から次々と爆発が起き始めた!


「ど、胴部格納庫のハーヴェスターが次々と誘爆!」

「内部で火災が発生、腹部にも火の手が上がっています!」

「右第一、第二翅の駆動部に異常! 航行不能です! このままでは墜落します!」

「お、おのれぇぇぇぇ……魔蟲王ヤタイズナァァァッ!! ……総員退艦準備、脱出用の騎虫に乗り込め!」



 メガネウラは内部から火を噴きながら高度が低下して行き、遂に地面へ激突した。

 そして大爆発を起こし完全に沈黙した。


「殿、お見事で御座るな!」

(流石は主様です!)

(やっぱりご主人さまは最高ですー♪)

(ド派手でしたぜぇ!)

(まぁ半分以上は自分の手柄っすけどね)

「その通りだ、ありがとうドラッヘ」

(な、なんすか……素直で気持ち悪いっすね……)

「ははは……とりあえず話はこれぐらいにして、一刻も早くスティンガー達と合流しよう」


 メガネウラを撃破した私達は、廃城に向かって移動を開始した。

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