第271話 マモン森林を突破せよⅧ
「――ビャハハハハ! ゼキアの奴、墜とされてやんの……せっかく兄ちゃんが造らせた艦なのによぉ」
「構わん、たとえゼキアが死んだとしても、時間さえ稼げれば十分なのだからな……」
『オ――オオオ、オオオオオ……!』
ギリエルとビャハの背後から声が響く。
二人が振り向くと、魔人王の骸の腕が震え、僅かに動き始めていた。
「おお……魔人王様が……!」
「ビャハハハハ! 復活の兆候が見えて来たぜぇ!」
ギリエルとビャハが歓喜の声を上げる中、魔人王の骸から再び声が響く。
『感ジル、ゾォォォ――我ガ身体ニ、力ラガ戻ルノガァァァァァァ!!!』
骸が発した咆哮が衝撃波となり、地面と壁を震わせる!
「ビャハハハハハハ!! 凄っげぇぇぇぇぇっ!! 全身がビリビリって痺れてるぜぇぇっ!」
「素晴らしい……!」
『オオオォォォォォォォォォォオオオオッッッッ!!!』
「――っ!?」
「や、やったぜミミズさん! ヤタイズナ達の奴、あの馬鹿デカい魔物を倒しやがった!」
「……今のは」
「ミミズさん? どうしたんだよ?」
「バノン、儂は行く、もし魔鳥王達が来たら頼んだぞっ!」
「え? 行くって……お、おい待てよ!?」
バノンの制止も聞かず、ミミズさんは物見櫓から飛び降りて地面に潜り、マモン森林へと向かって行く。
「あの声は……もし魔人王が復活した場合は、儂も覚悟を決めねばのう……」
――マモン森林、北側。
「シャイニング……セイバァァァァッッ!!」
「ぐああああああっ!?」
「ぎゃああああああああ!?」
勇者ユウヤ・オオトリの閃光の剣を振り、迫りくる変異魔人兵達を切り裂いていく!
だが剣を振った一瞬の隙を突き、頭上から翅を生やした複数の魔人兵が奇襲を仕掛けた!
「《九重雷球》!」
「ギャアアッッ!?」
「ギィッッ!!」
そこにアヤカ・タチバナの放った無数の雷の玉が、魔人兵の群れを吹き飛ばす!
「全く、上からの奇襲にも注意しなさいよ!」
「すまない、助かったよ綾香」
「次が来るわ、一緒に行くわよ!」
「ウオオオオオオオオッッ!!」
ユウヤとアヤカが共に戦う中、変異サイクロプスが出現し、二人へ突撃を仕掛ける!
「シロちゃん、クロちゃん! ダブルキーック!!」
そこへミズキ・ワタナベが二体のゴーレムに指示を出し、白色のゴーレムと黒色のゴーレムが同時に跳躍、そのままドロップキックを変異サイクロプスにお見舞いした!
「ウオゴボォォッ!?」
ダブルドロップキックを喰らった変異サイクロプスは吹き飛び、地面に倒れる。
「シロちゃん、そいつを持ち上げてクロちゃんの方へ投げて!」
ミズキの命令でシロが倒れている変異サイクロプスを持ち上げ、クロの方へ勢いよくぶん投げた!
「クロちゃん! ラリアットでかっ飛ばしてー!」
クロは右腕を大きく振りかぶり、飛んで来た変異サイクロプスの顔面目掛けて右腕を叩きつける!
「ウ、ゴガァッ……!?」
そのまま勢い良く振り抜き、変異サイクロプスは空中の魔人兵を巻き込みながら空高く飛んでいった。
「《エンチャント・ウィンド》!」
カイト・モリヤマのメイスに風が纏われ、振ると同時に突風が起きて魔人兵達を薙ぎ払う!
「まだまだ、《エンチャント・グランド》! オラァァァァァ!」
更にメイスが土属性へと変化し、地面を強く叩きつけた瞬間に地割れが発生、周囲の魔人兵を呑み込んだ。
「流石は勇者様達だぜ!」
「俺達も負けらんねぇなぁ!」
「お前達、油断するなよ! 俺達は勇者殿達のような一騎当千の力はない、必ず多対一を心掛けるんだ!」
冒険者達は副ギルド長バーニャが仲間を鼓舞しながら、堅実に確実に敵を倒して行く。
「はぁぁぁぁぁーっ!」
ウィズが大剣で変異魔人兵を一刀両断する!
「死ねぇぇっ!」
右腕がハサミムシの尾に変異した魔人兵がウィズを襲う!
「……っ!」
ウィズは身体を回転させてハサミムシの鋏を回避。
「どりゃあああああああーっ!」
ウィズは回転の勢いを利用して渾身の右ストレートを魔人兵の顔面に喰らわせ、攻撃を喰らった魔人兵は後方に飛ばされ、木に衝突した。
「おのれぇぇっ!」
「しゃああああっ!」
二体の魔人兵に囲まれたウィズは、まず一体の腹部に大剣で投げて突き刺し、もう一体を拳打と蹴りの連撃で倒して行く。
「くそぉぉぉっ!」
そこに別の魔人兵が蜂の腹部に変形した腕を突き刺そうと襲うが、ウィズは素早く動き回避する。
「吹き飛べェェェェッ!」
そしてウィズは回し蹴りを放ち、魔人兵の頭部を吹き飛ばした!
「やるわねウィズちゃん!」
「す、凄いです……!」
「えへへー、勇者様達に比べたらまだまだだよー」
「おしゃべりはそこまでだ、城壁が見えて来たぞ!」
勇者達率いる北側侵攻部隊は、廃城の城壁付近までたどり着いた。城壁には多数の変異魔人兵達が待ち構えており、変異サイクロプスと他の変異魔物達も待ち構えていた。
「凄い数ね……」
「ここからが本番だな……皆、行くぞ!」
ユウヤの言葉で全員が城壁への攻撃を開始した!
「……お父さんとディオスさんの方は上手く行ってるかな……?」
――マモン森林、東側、魔人族の集落。
「……何と言う事だ……!」
「こ、これは……!?」
魔人族の集落の一つに到着したバロムとディオスは、目の前の光景を見て絶句した。
集落内は大量の血痕が飛び散っており、無数の魔人女性と子供達の無残な死体が転がっていたのだ。
「何故、どうしてこんな事に!?」
「このやり口、以前にも覚えがある……」
バロムが近くに倒れている魔人女性の遺体を調べる。
「……やはり、槍で刺された跡がある」
「……まさか、ビャハが!?」
「恐らくはね……」
バロムの言葉を聞き、ディオスが小屋の壁を強く殴りつける。
「罪の無い同族の女子供すら手を掛けるとは……どこまで性根が腐りきっているのだ!」
「……とにかく今は生き残りを探そう」
「……はい」
二人は怒りを抑えながら、生存者を探し始める。
「誰かいないか!?」
「返事をしてくれ!」
バロムとディオスの呼びかけに応える者はおらず、二人の声だけが虚しく響いた。
「先生、ここにはもう、生存者は……」
「ああ……残念だが……彼女達の遺体を埋葬したいが時間が無い、次の集落に急ごう」
「はい……」
二人は魔人族の女性達と、まだ幼い子供達に祈りを捧げてからその場を後にする。
バロム達はもう一つの集落に到着すると、そこには先程と同じように多くの遺体が横たわっていた。
「ここも全滅している……」
「……くそぉぉぉ!」
ディオスが拳を地面に叩きつけたその時、集落の民家から人影が飛び出してきた。
「あ、あなた様は……! ディオス様!」
「君は……ララナ! 生きていたのか!」
「知り合いかい?」
「はい!」
ディオスは少女……ララナに近づくと、ララナは涙目でディオスに抱きつく。
「良かった……亡くなられたと聞いていましたけど、生きておられたんですね!」
「君も無事で本当によかった……他の者達は?」
「子供たちは家の地下室に隠れさせています、他の者達もそこに」
「そうか……教えてくれ、何故こんなにも多くの同胞が殺されている? 私の居ない間に何があったんだ?」
「はい……数日前、突如ビャハ様がこの集落に来られて……『お前達はもう用済みだ』と言って無差別に……」
「そうか……やはりビャハが……!」
ララナの話を聞いたディオスが怒りで身体を震わせた。
「何はともあれ無事で良かった……聞いてくれララナ、此処は危険だ、私達と共に安全な場所に避難を……」
「っ! ディオス、何か来るぞ……!」
バロムは遠くの方を見つめ、そして複数の物体がこちらに向かって飛翔して来る。
バロムとディオスが警戒する中、空から降下してきたのは、巨大なトンボであった。
そして、その背には白い鎧を纏う魔人族の姿があった。
「ゼキア!?」
「ディオス!? それにバロムも……何故ここに!?」
そう、トンボ……小型メガネウラの背に乗っていたのは、先程ヤタイズナ達との戦いで巨大メガネウラを撃墜され、部下と共に脱出した六色魔将、白のゼキアだった。
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