第269話 マモン森林を突破せよⅥ

 ――マモン森林から少し離れた場所にあるアメリア王国の仮設駐屯地。


「……な、何だありゃあ……!?」


 物見櫓(やぐら)から森林を観察していたバノンが、森林上空に現れた巨大昆虫の姿を見て驚愕していた。


「あれも魔人族の戦力か……やはり一筋縄では行かんようじゃのう……」

「いくら何でもデカすぎるだろ……ヤタイズナ達は大丈夫なのか……?」

「馬鹿者が、儂らがヤタイズナを信じんでどうする? あの程度の敵に苦戦していては魔人王を倒す事など、ましてやあのギリエルにすら勝てぬわ……安心せい、ヤタイズナは絶対に勝つ!」











「撃てェェェッ!!」


 無数の風の刃が私に迫る!


「《灼熱の角・鎧》!」


 私は全身に炎を纏い、風の刃は私の身体に当たる寸前で消滅する。


「喰らえ、《灼熱の斬撃》ッ!」


 私は角を振って三つの斬撃を敵目掛けて撃ち放った!


「全騎、散開!」


 その言葉で編隊を組んでいた騎虫兵達が一斉に散り、四方八方から私に風の刃で攻撃する!

 私を攪乱(かくらん)するつもりだろうが、そんな事では冷静さを欠いたりはしない!


「《灼熱の斬撃》!」


 私は炎の角鎧で攻撃を無力化しつつ、周囲に灼熱の斬撃を撃ち撒く!

 流石に速度が速く殆どの斬撃は避けられるが、一つが命中、小型メガネウラの左の翅を切断した。


「……っ!」


 飛行不能となった騎虫兵が落下しながら私の方へ突っ込んでくる!

 私は灼熱の斬撃を一発撃つが、それと同時に騎虫兵が小型メガネウラが抱えていたハーヴェスターを掴んで背に乗せてから飛び降りた!


 騎虫兵はギリギリで斬撃を回避し、私の前胸部に飛び付いた!


「ぐあああああああああああっ!?」


 灼熱の角・鎧の炎で手足を焼かれ、叫び声を上げる。

 馬鹿な、生身で今の私に突っ込んで無事でいられないのは分かっているはず……まさかこいつ!


 私がある事を予感した瞬間、騎虫兵の背中に抱えられているハーヴェスターが赤熱化し始めた!

 やはり自爆特攻か!


 私は炎の火力を強め焼き殺そうが、騎虫兵は炭化し始めた手で私の前胸部の角をがっちりと掴む。


「ま、魔人王様……万歳ィィィィィィィッ!!」

「キキキキキ……キ!」


 その叫びと共にハーヴェスターが爆発し、騎虫兵は共に爆発四散!


「ぐぅぅぅぅっ!?」


 私は爆発の衝撃で吹き飛ばされるが、直ぐに態勢を立て直し、身体の損傷を確認する。

 甲殻がダメージを負ったが、この程度ならまだ全然問題は無い。


 だが自爆特攻は面倒だ……次からはまず騎手から倒した方が良いだろう……

 私がそう考える中、別の騎虫兵編隊が私の真上を取った!


「爆弾投下!」


 編隊から赤熱化したハーヴェスターが私の頭上へと落とされる。


「キキキ、キ!」


 私はハーヴェスター達を回避するが、私の近くに来たハーヴェスターが次々と爆発して行く!


 くっ……私の付近で爆発するように起爆時間を計算して落としているな……!


「爆弾を投下し終えた者は船で次弾の補給を急ぐんだ、このまま敵を囲みながら確実に仕留めるぞ!」


 騎虫編隊は私を包囲したまま次々と爆弾を落としていく。


「っぅ……!」

「殿! おのれ邪魔な奴らで御座る……!」

(全くです……!)

(キリが無いですー!)

(それに中々すばしっこいから、当てにくいったらありゃしねぇ!)


 ガタク達も騎虫編隊に苦戦を強いられている。


 幾らダメージが微量とは言え、受け続ければいくら私でもヤバい……!

 魔蟲の流星で……いや、残りの使用回数は9回、ここぞと言う時以外は出来れば使いたくはない……


 ならばやる事は一つ!


「オラァァァァァァァァ!!」


 私は爆発寸前のハーヴェスターを一匹、編隊の一部へと打ち返した!

 騎虫編隊は即座にハーヴェスターから離れ、爆風を回避する。


 そして私は爆発によって生じた黒煙を突っ切って包囲網から抜け出し、上空へと昇る。



「しまった! 追え、追えぇぇぇぇっ!」


 私の後を追って騎虫兵達も上空へと昇って行く。


「《灼熱の斬撃》!」


 私は上昇しながらも灼熱の斬撃を敵目掛けて撃ち放ち続ける! 斬撃が命中し首を刈られた騎虫兵が次々と地上に落ちて行く。

 そしてさらに高度を上げた私は、巨大メガネウラの胴部付近に辿り着く。


 胴部はハーヴェスターが大量に積まれている……その一匹でも爆破させられれば一気に誘爆するはず!


 私は巨大メガネウラに狙いを定め、灼熱の斬撃を撃ち放そうとしたその時、私の身体を巨大な影が覆った。


 何だ……!?


 周囲を見渡した私の眼に映ったのは、私に向かって振り下ろされるメガネウラの巨大な脚だった。

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