第268話 マモン森林を突破せよⅤ

(でっかーい!?)

(何ですかあれー!?)

「何という巨大さで御座るか……」


 しもべ達が驚く中、私は上空の巨大昆虫の全体を確認する。


 頭部には巨大な複眼、細長の身体の胴体部に6本の脚と、体長とほぼ同じサイズはある4枚の巨大な翅……


「あれはトンボ……いや、ただのトンボでは無い、アレはメガネウラだ!」



 メガネウラは原蜻蛉目、オオトンボ目に分類される、約2億9000万年前に生息していた古代昆虫だ。


 名前の由来はmega(メガース)とneuron(ネウロン)をくっつけた合成語であり、その巨大な翅と翅脈にちなんで巨大な神経、翅脈を意味する言葉になっている。


 翼開長は60~75センチに達し、これまで地球上に現れた昆虫史上最も巨大な昆虫であり、幼虫であるヤゴの時でも30センチもあったという化け物だ。

 しかしメガネウラ科の全てが大きかったわけではなく、翼開長が最小で約12センチと現生トンボ類と変わらない大きさの種も数多く存在したという。


 メガネウラの翅や翅脈は原始的な構造をしており、現在のトンボのようにホバリングは出来なかったらしく、翅を時折はばたかせながら滑空していたといわれ、翅を閉じて停止出来なかったと言われている。


  そもそもなぜこれほど巨大になったのか、それはメガネウラが生息した石炭紀と呼ばれる時代はシダ植物群が大繁殖する一方、木材を分解する菌類がまだ出現していなかったため、地球の酸素濃度は最大で約35%にも達し、巨体を維持するための酸素が十分にあった。


 しかもこの頃はまだ大型の脊椎動物、つまり哺乳類や爬虫類が少なく天敵が殆どいなかったため、メガネウラやアースロプレウラなどの陸生節足動物は多くの種が大型化したのだ。







 メガネウラは確かに巨大なトンボとして知られているが……これはあまりにも規格外!


 だが、このメガネウラには違和感を感じる部分がある。

 腹部には幾つもの鉄製のハッチのようなモノがあり、胴体下の甲殻も同じようなハッチが複数取り付けられている。


 あれも魔人族達が先程のサイクロプス達のように改造を施したのか?








 ――上空のメガネウラ、頭部内。


「船の状況を報告せよ」

「現在高度300、航行に問題無し!」

「船の真下に魔蟲王達を補足!」


 頭部内は左右の魔人達が取り付けられた魔道具を動かし、正面の魔人が舵輪(だりん)を操縦している。

 そして、白のゼキアが中央の椅子に座り指示を出していた。


「正面水晶に映像出ます!」


 天井に取り付けられた一メートルはある三つの巨大水晶の一つが発光し、宙に魔蟲王たちの姿が映し出された。


「これより敵部隊に攻撃を開始する、爆弾投下準備!」

「了解! 胴部甲殻展開!」

「投下開始!!」







「……何だ?」



 上空のメガネウラの胴体下のハッチが開き、何かが降って来る。


「あれは……っ!?」

「「「キキキキキキキキッ!」」」

「ハーヴェスター!」


 そう、メガネウラが投下していたのは、アメリア王国でも遭遇したエクスプロージョン・ハーヴェスターだった。

 しかもあの時よりも大量に、しかも既に身体を赤熱色に発光させながら落ちてきている!


「全員前に進めぇっ! このままだとここは焦土になるぞ!」


 私達は一目散に廃城への突撃を再開する!


「キキキキキキ、キ」


 地面に到達、及び木の上に落ちたハーヴェスター達が一斉に爆発し始めた!


「うおおおぉっ!?」

(うわーっ!?)

(きゃーっ!?)


 辺りに爆風と爆炎が舞い散る!




「敵部隊、我らが本拠地に向かって移動を開始!」

「地上部隊に通達、南西より撤退し、北側の部隊と合流せよ、このまま我々は速度を上げて魔蟲王を追従しつつ、爆撃を続ける!」

「「「了解!!!」」」





 メガネウラは私達に接近しつつ、ハーヴェスター達を投下し続けている。

 おかげで私達の通った後は幾つものクレーターが出来、至る所で火の手が上がっていた。


 更にメガネウラは速度を上げて私達を追い抜き、前方から無数のハーヴェスター達が落ちてくる!


「《灼熱の斬撃》!」

「《大鎌鼬》で御座る!」

(《斬撃》《斬撃》《斬撃》《斬撃》ィィッ!)

(《大鎌鼬》っす!)

(《豪風の翅》! えーいっ!)

(喰らいやがれぇ! 《水鉄砲》!)

「つまらん……《暴風》」


 私と遠距離攻撃が出来るしもべ達がハーヴェスター達を攻撃、斬撃で真っ二つになったハーヴェスター達は空中で爆散し、その爆風で他のハーヴェスターが吹き飛び、私達から離れた場所に落下し、爆発する。


「殿、このまま敵の攻撃に応戦してもキリが無いで御座るよ!」

「分かっている」


 メガネウラからハーヴェスターの投下が収まる気配が無い、一体どれだけのハーヴェスターを内蔵しているんだ?

 やはり元から断ち切るしかないようだな。


「ガタク、ソイヤー、パピリオ、カヴキ、ドラッヘは私と共に来い、上空の敵を叩くぞ!」

「承知で御座る!」

(了解しました!)

(頑張りますよー!)

(合点承知ィ!)

(ま、やってやるっすよ!


「他の者達はこのまま廃城に向かってくれ、エンプーサ、暴れても良いが仲間を危険晒す事だけは許さないからな!」

「分かっている……だが、これが終わったら絶対に我と戦うのだぞ!」

「ああ、幾らでも戦ってやる! よし、全員、飛ぶぞ!」


 私はメガネウラ目掛けて飛翔を開始し、ガタク達も私の後を追って空へ飛び立つ!

 降って来るハーヴェスター達を掻い潜りながら、メガネウラへと接近していく!






「敵がこちらに向かって接近中!」


 水晶からハーヴェスター達を避けて向かって来るヤタイズナの姿が映る。


「爆撃を一時中断、『虫騎兵』を出撃させよ!」

「了解! 腹部甲殻展開! 虫騎兵出撃準備! 繰り返す、虫騎兵出撃準備!」





「むぅ!?」

「爆撃が止まったで御座る……」


 あれほど大量に降って来ていたハーヴェスター達の投下が収まり、今度は腹部に取り付けられたハッチが開いた。


「何だ……今度は何が来る?」


 私達が警戒する中、腹部のハッチから何かが飛び出した。


「!? あれは……小型のメガネウラに、人が乗っている!?」


 そう、体長3メートル程のメガネウラの背中に馬の鞍(くら)のような物が取り付けられ、それに魔人達が騎乗しているのだ。

 更に小型メガネウラは脚にハーヴェスターを一匹持っている。


 騎馬兵ならぬ騎虫兵って事か……勿論一騎だけなわけが無く、腹部のハッチから大量の騎虫兵が飛び出していく。


 薄々は感じていたが……これで確信が持てた。

 空からの爆撃、そして航空戦力……あのメガネウラは航空母艦なんだ!





 小型メガネウラに乗る魔人族が、鞍に取り付けられた水晶球で他の魔人達に指示を出す。


「――こちら虫騎一号、これより敵に向け攻撃を開始する! 二号から五号は俺と編隊を組め!」

『『『了解!!』』』




 騎虫兵達は編隊を組み私に接近する!


「撃てェェェッ!!」


 騎虫兵たちが手綱を操ると、小型メガネウラ達の口が開き、風の刃を撃ち出した!!

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