第267話 マモン森林を突破せよⅣ

 エンプーサの死神の暴風刃はその後数分に渡り周囲の木々を巻き込みながら400メートル程進んだ後勢いが衰え始め、500メートル地点で完全に消滅した。


「ここの敵は粗方片付いたみたいだな……だが何時増援が来るか分からない、このまま前進を……」


 私が言葉を言い終わる前に、前方から無数の大岩が飛んできた!


「《灼熱の斬撃》!」

「《大鎌鼬》!」


 私とガタクが大岩を両断! 


「フン、《暴風》!」


 更にエンプーサが暴風で突風を起こし、大岩同士をぶつけ合わせて砕いて行く。


「早くも新手か!」


 戦闘態勢を取りながら前方を確認すると、木々を壊しながら全長5メートル程の巨大な魔物達が私達の前に姿を現した。


「ウウウウウウ……!」

「アレはサイクロプス……だが、違う!」


 私達の前に現れたのは、今まで何度も魔人族の尖兵として戦ってきた魔物、サイクロプス。


 しかし、目の前にいるこいつらは今まで遭遇したサイクロプス達とは明らかに違っていた。


 全身が甲虫のような黒色の甲殻に覆われているのだ。

 巨大な一つ目もスリットが付いた甲殻に守られ、まるで黒鎧の騎士のような出で立ちだ。


 一瞬で鑑定を使いステータスを確認するがすべて不明、こいつ等も魔蟲の宝珠で変態した奴らだ。


「ウオオオオオオオオオオッッッ!!」


 サイクロプスが雄叫びを上げて私目掛けて突進して来る!


「《灼熱の斬撃》!」


 無数の炎の斬撃をサイクロプス目掛けて撃ち放つ!


「オオオッ!」


 サイクロプスは両腕を前にして顔を覆い、灼熱の斬撃を受ける!

 両腕の甲殻に無数の焦げ跡が出来るが、サイクロプスはそのまま突進し続ける!


「ちぃっ! 直接焼き切るしかないようだな!」


 私は翅を広げ空を飛んでサイクロプスへと接近する!


「ウオオオオオオッッ!!」


 サイクロプスは両腕のガードを解いて、私目掛けて右ストレートを放つ!


「《灼熱の角》ッ!」


 私は角に炎を纏わせ、身体を捻らせてサイクロプスの拳を回避!


「狙うは関節……ゥオラァァァァァァァッッ!!」


 そのまま右の肘関節に角を刺し込み、そのまま一気に両断した!


「オ、オオォォオオッッッ!?」


 右腕を斬られたサイクロプスが叫び声を上げる!


「ガタク! 傷口を狙え! 中から爆ぜさせろ!」

「了解で御座る! ソイヤー、ドラッヘ、やるで御座るよ!」

(はい、師匠!)

(しょうがないっすねぇっ!)

「《大鎌鼬》!」

(《斬撃》、《斬撃》、《斬撃》、《斬撃》、《斬撃》ィィッ!)

(《大鎌鼬》っす!)


 ガタク達が無数の斬撃を一斉に撃ち放つ。

 斬撃はサイクロプスの右腕の切断面から体内へと入って行く。


「オ、オオオオ、オゴゴゴォォォォォォッッ!!?」


 サイクロプスの体内に入った斬撃は甲殻を突き破れず内部で暴れまくる。

 その結果サイクロプスの甲殻はデコボコに変形し、甲殻の隙間から血が噴き出しながら、糸の切れた人形のように倒れた。


 殻が硬ければ中は脆いってね、サイクロプスの自己修復は面倒だからな……あれなら再生するもなく即死だろう。



「ウオオオオオオオオオオオオオッ!!」


 背後から二体目のサイクロプスが巨大な石鎚(いしづち)を私目掛けて振り下ろす!

 私は振り返りながら石鎚を回避、そのままサイクロプスの頭部甲殻のスリットに灼熱の角を無理矢理捻じ込み、目玉を突き刺した!


「オオオオッッ!?」

「焼け死ねェェェェェ!!」


 そのまま私は最大火力で内部から焼いて行く!


「オオオ、オオオオオ!? オオオオオォォォォォォ……!」


 サイクロプスは石鎚を手放し、暴れ回るが、数十秒もしないうちに頭部甲殻の中から焼け焦げた匂いが発せられ、サイクロプスは立ったまま絶命した。


 私は角を引き抜き、残りのサイクロプス達を確認する。


「残るは三体か……ん?」


 サイクロプス達の背後から、更に無数の魔物達がこちらに向かって来ていた。


「ギャギャギャー!」

「ウキャッギャー!」

「グオオオオオオオッッ!」


 ゴブリンにグレーウルフ、それにオーガだ。

 だが、どいつもこいつも今までの奴らとは形が違う。


 ゴブリンは下半身が蠍に、グレーウルフは頭部がハンミョウに。

 オーガはサイクロプスと同じ黒い甲殻を纏い、背中から翅が生え空を飛んでいる。


 まさに異形の獣の大集団だ。


「団体で来てもらって悪いが、お前達に割いている時間は無い……一気に蹴散らせてもらうぞぉっ!」


 私は先程のサイクロプス達が使っていた石鎚を角で持ち上げる!


「引き潰れろォォォォォォォォッッ!!」


 そのまま石鎚を宙に浮かばせ、打ち飛ばした!

 石鎚は回転しながら敵へ飛んでいく。


「ウギャァ!?」

「ギィギェェッ!?」

「グオオオオオオ!?」


 サイクロプスは石鎚を回避するが、ゴブリン、グレーウルフ、オーガの半数が石鎚に巻き込まれて引き潰された!


「よし!」

「ヤタイズナ! 貴様ばかり楽しそうに戦ってずるいぞ! 我にも戦わせろ、あの黒いデカブツを殺させろ!」


 エンプーサが我先にと前に出て敵へと向かって行く。


「あっ、おいエンプーサ! ……全く、皆、エンプーサに続くぞ!」


『『『オオオオオオオオオオオッッッッ!!』』』







「――魔獣蟲隊がすでに半壊状態……! ゴブリンやオーガ共はともかくあの変異サイクロプスをいとも容易く倒すとは……!」


 水晶から送られる映像を見てゼキアは拳を柱に叩き付けた!


『報告! 報告! こちら北第二部隊!』

「どうした!」

『北に勇者達と人間共の部隊が出現! こちらも廃城に向かって接近中!』

「……そうか」


 今まで苛立ちを露わにしていたゼキアだったが、一転して冷静な口調に変わった。


「北の全部隊を集結、西第六から十五部隊も直ぐに向かわせる」

『了解しました!』


 通信終えたゼキアは監視塔から降りながら、部下と通信を取る。


「中央部隊、『艦』は出せるな?」

『はい! 積み込みも既に完了しており、何時でも行けます!』

「よし、直ぐそちらに向かう……私が前線で指揮を執る」









「――トドメだァァ!!」

「ウオオオオオオオオッッ!?」


 私は最後のサイクロプスにトドメを刺し、周囲を見た。


「殿、こちらは片付いたで御座る!」

(こっちもおわったよー!)

「骨の無い奴だったぞ……期待して損をした」


 ガタク達も異形の獣軍団を全て蹴散らした。


「大分時間を食ってしまった……勇者とウィズ達も敵と戦っているはず、私達も早く廃城に辿り着かねば……」


 その時、突如として突風が吹き荒れた。


「これは……さっきまで風一つ無かったと言うのに、何が……」


 その言葉と同時に、巨大な影が私達を覆い、私達は一斉に上を見上げた。


「……なっ!? 何だあれは……!?」


 空を見上げる私の眼に映ったモノ、それは全長150メートルはある空飛ぶ巨大昆虫の姿だった。

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