第266話 マモン森林を突破せよⅢ
――時は遡り六日前、アメリア城会議室。
この作戦会議で私達は二つの作戦を考えた。
一つは当初の予定通り六大魔王全員によるマモン森林への電撃作戦。
もう一つは魔鳥王達が間に合わなかった場合の作戦だ。
バロムが地図を広げ、マモン森林の地形を説明する。
「この森林は廃城を中心に東西南北の四つに分かれいる、これはランド大樹海の地形にとても酷似している」
「さっき見た時も感じておったが、言われてみれば確かに似ておるのう」
「本番前に大樹海で作戦の予行練習ができそうだね」
「私が魔人軍に居た時は主に南西側から森林の外へと兵を出陣させていた……あの辺りはある程度整地されているからな……だからここから侵入するのが一番だろう」
「だけどバロムさん、それは敵も分かっているのではないですか?」
勇者アヤカの言葉に、バロムは頷く。
「その通りだ、だからここには多くの罠と兵を置くだろう……だからこそ南西を狙う」
「成程のう……戦力が集中するであろう場所にあえて奇襲を掛ければ、敵は混乱する筈じゃな」
「そういう事だ、そしてその役をヤタイズナ……君単騎にやってもらいたい」
「私一人で? ……成程、確かにそれなら敵の目は釘付けになりますね」
「どういう事だよ? 何でヤタイズナ一人なんだ?」
バノンが質問すると、バロムが答える。
「ヤタイズナは敵から見れば我々の総大将……その総大将が単騎で奇襲を仕掛け、真っ直ぐに自分達の本拠地に来たら敵はどう考える?」
「そりゃ慌てるじゃろうな」
「ああ、そしてヤタイズナを討てば我々は総崩れ……そう考えたとしても不思議は無い」
「敵は単騎で突っ込む私を討とうと兵力を南西に集中させる」
「そう……そこで更にガタク達を投入し、廃城に向かって突進させる!」
「私達は囮となりつつ、敵の本丸に向かって突き進むわけですね」
「つまり何か? 囮と本命を同時にやらせるって事か? イカれてやがるぜ……」
バノンがため息を吐く中、ミミズさんが質問する。
「しかしバロムよ、恐らく奴らはアバドンが使っていた魔道具を使ってくるのではないか?」
「確かに……」
ミミズさんの言葉を聞いて私はビャハがアバドンの転移門から出て来た時の事を思い出す。
あの時ビャハはアバドンの研究室から拝借したと言っていた……と言う事はアバドンが使っていたあの水晶球の魔道具も手に入れていても不思議では無い。
「奴らがあの水晶球で連絡を取り合い連携されれば、敵に囲まれヤタイズナは孤立無援……しかも敵の戦力が魔人だけとも限らんぞ」
「確かにその点は私も危惧していたが、その点に関しては問題は無い」
「何故じゃ?」
「ブロストは基本自分の魔道具を人には使わせない……というかそのこと自体教えない奴だった」
「先生の言う通りだ、私やザハク、そしてゼキアも奴があのような魔道具を作っていた事を知ったのは最近になっての事だ」
「それらの魔道具を使えたとしても使いこなすには時間が必要となる、だからまだ練度が足りないはずだ」
「じゃとしても、離れた者同士で連絡が取り合えるだけでも脅威じゃぞ」
「それだけじゃない、魔人軍には『弱点』が存在している」
「「弱点?」」
「指揮官が足りないんだ……魔人族は魔人王を頂点としその下を六色魔将、そしてそれらが指揮する六つの部隊から構成されている、そしてザハクとブロストが死亡し、ディオスは我々と共に居る……残る魔将は三人、そして魔人王復活の儀式はビャハとギリエルの手によって行われるだろう」
「つまり、城の防衛と全部隊の指揮はそのゼキア一人でやると言う事か? 確かにあの水晶球を使えば可能じゃろうが…… 」
「そうだ、ギリエルはともかく、ビャハは兵を指揮せずに単騎で好きに暴れてばかりだった……指揮官は間違いなくゼキアだ、恐らく残存部隊を纏めた大隊のな、だが一人の指揮では目まぐるしく変わる戦況全てを把握できるはずが無い、必ずどこかに穴が空く」
「成程のう……」
「無論、小隊規模なら指揮できる者もいるだろうが、良くも悪くも魔人族は縦社会だ、自分で考えず、上に命令を仰ぎ、命令されたことを順守する……そう言う者達なんだ」
「何かヤタイズナの記憶で見た薄っぺらい箱にそんなのが流れてたのう」
昔私が見たドラマの記憶まで見てたのか……本当余計なモンばかり見てるなこのミミズは……
「では作戦内容の続きを話そう……敵がヤタイズナ達に釘付けになっている隙に、合図と共に勇者達にはウィズと冒険者達と共に北側から更なる奇襲を掛けてもらう」
「分かりました」
「頑張るよー!」
「そして、東側から私とディオスが少数で侵入する」
「二人だけで? 危険じゃないですか?」
「無論危険だろう……だが出来る事なら、廃城付近の集落にいる成人していない魔人達を救い出したいんだ……」
「……私も先生と同じ気持ちです」
「勝手なのは承知の上だ、だが……」
「分かりました」
私が了承すると、ミミズさんが私を見た。
「ヤタイズナ、お主のう……」
「綺麗事だと分かってるけど、助けられるに越したことは無いからね」
「……まぁ良い、魔王は多少欲張りぐらいでなければ務まらんからのう」
「……ありがとう……それでは各自、決行の日に備え準備をしてくれ!」
『『『応!』』』
――そして現在、残念ながら魔鳥王達は作戦当日に間に合わず、私達は二つ目の作戦を決行したのだ。
「ここで奴らを始末するぞ!」
「陣形を崩すな! 数で押し潰せ!」
東側と西側から、更に上空から翅を生やした魔人族達が続々と私達の進軍を止めようと集まって来る。
そろそろだな……
「エンプーサ!」
「んん?」
「使っていいぞ」
私の言葉にエンプーサが愉快そうに笑い始めた。
「クハハハハハハハハハハッッ!! 散々使うなと言っていた貴様からそんな言葉が聞けるとはな! 群がって来る人共を纏めて切り刻んでくれるわァァッ!!!」
エンプーサは両前脚を天高く掲げ、その周囲に風が纏われる。
「全員、エンプーサの後方へ退避!」
私の指示でしもべ達が一目散に後方へ下がって行く。
「《死神の暴風刃》ッ!!」
エンプーサが両前脚を振り下ろし、纏われていた風が一つとなって、巨大な竜巻を作りだした!
そしてその竜巻は周囲の木々を巻き込みながら、魔人族を飲み込み、中に入った魔人達は次々と風の刃に切り刻まれていく!
「何だこの竜巻は……!?」
「ぎゃああああああ!?」
「あがぁぁぁぁぁっっ!?」
竜巻はそのまま真っ直ぐと進んで行く。
「よし、このまま竜巻を盾にしながら予定通り廃城に向かうぞ!」
「承知で御座る!」
――マモン森林、北側。
「何て巨大な竜巻なの……!?」
「アレがヤタイズナさんが言っていた合図の竜巻に違いないよー!」
「よし、俺達もマモン森林に突入するぞ!」
勇者達を先頭に、ウィズと冒険者達総勢100人が北の森へと入った。
『――ほ、報告! 前方に巨大な竜巻が発生! 南第十部隊までも壊滅! 竜巻は尚も前進を続け……あがぁぁぁぁぁっっ!?』
『報告! こちら東第五部隊、南西に到着しましたが竜巻と吹き荒れる突風のせいで敵に近づけません! 指示をお願いします!』
ゼキアは水晶球から届く報告を聞きながら、南西に発生した竜巻を見て歯ぎしりをする。
「竜巻だと……これも奴らの仕業だと言うのか!? 次から次へと……!」
ゼキアは大声を発した後、深呼吸をする。
「生き残っている南西の部隊に報告、一時撤退せよ、あの竜巻が奴らの仕業ならそう長くは続かぬはずだ」
『『了解!!』』
部下との通信を終えたゼキアは別の場所へ通信を始めた。
「中央の部隊に伝達……『魔獣蟲隊』を南西へ送り込め」
『……! り、了解!』
「魔蟲王ヤタイズナ……貴様に魔人王様復活の邪魔はさせん、この城に近づく前に殲滅してくれる!!」
「――ビャハハハハハハハ! どうやら地上じゃ戦いが始まったみたいだぜ、兄ちゃん?」
六色魔将、赤のビャハは机に置かれた水晶玉を見ながら愉快そうに笑う。
「楽しそうだなぁ……俺も敵を殺してぇなぁ……」
「今は我慢しろ、魔人王様の復活が最優先だ」
「分かってるよ……けどこの調子じゃ結構早めに廃城までたどり着かれるんじゃねぇか?」
「時間が稼げればそれで良い……それに廃城に侵入されたところでここへの道は一つだけだ、何も問題は無い……私とお前が居る限りな」
「ビャハハハハハ! 確かになぁ、まぁお楽しみは後に取っとくかねぇ」
「ああ……これで最後だ、思い残すことが無いようにとことん楽しもうではないか、弟よ」
そう言うと六色魔将、黒のギリエルが後ろを振り向く。
その視線の先では、六つの魔封石がはめ込まれた石版に繋げられた管から、六色の光が魔人王の骸に送り込まれていた。
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