第265話 マモン森林を突破せよⅡ

 ――六日後、マモン森林、廃城。


 廃城の城壁の監視塔に六色魔将、白のゼキアが手に持った水晶に話しかけていた。


「東第一部隊、状況を報告せよ」

『こちら東第一部隊、今のところ異常はありません、空中の水晶からも魔蟲王らしき影は見当たりません』

「そうか、引き続き警戒を続けよ」

『了解しました』


 ゼキアは水晶を懐に入れ、森の上空を漂う無数の水晶を見る。


「裏切り者のブロストが作った魔道具を使うのは癪ではあるが……これならば情報伝達も素早く出来、周囲の部隊との連携が取れる……」


 現在、マモン森林は各色の部隊を統合、再編した『六色大隊』がそれぞれ四方から廃城の周囲、そして森林の至る場所に散り、警戒態勢を取っていた。


「既に魔人王様復活の儀式は始まっている……何人たりともこの城には侵入はさせない、ディオス……たとえ貴様が相手であろうとも……」


 ゼキアが決意の眼差しで空を見上げると、何かを発見した。


「何だあれは……蒼い、流星……?」


 ゼキアが流星に気付いたその瞬間、蒼い流星はマモン森林の南西側に落下した!


「なっ……!?」


 その衝撃で周囲の木々は吹き飛び、巨大なクレーターが出来た!


「星が落ちてきただと!? そんな事が……!?」


 ゼキアが驚く中、懐の水晶が光り声が発せられる。


『こ、こちら南第一部隊!』

「報告しろ! 一体何が起きたのだ!」

『て、敵襲です! 上空から……魔蟲王と思われる魔物が降ってきました!』

「何だと……!?」









「――敵だ! 敵が現れたぞ!」

「空から降って来るなんて無茶苦茶な……部隊の半数が吹き飛ばされちまった!」

「狼狽えるな! 敵は一人、包囲して殲滅するぞ!」


 魔人族達は突如飛来した私に狼狽えながら、すぐさま私を囲み、戦闘態勢を取った!


「全員! 宝珠を使用せよ!」


 部隊長であろう魔人の指示で魔人族達は懐から無色透明の珠を取り出した。


「アバドンが作った量産魔蟲の宝珠か……」


 魔人達は腕、脚、胸などに魔蟲の宝珠を埋め込んだ。


「……ぐぅ!? うおおおおおお!」

「ああああああああっ!!」


 腕に宝珠を埋め込んだ魔人の両腕が蠢き、皮膚を突き破り、内部からカマキリの前脚が現れた!

 更に脚に埋め込んだ魔人の脚はバッタの脚に、胸に埋め込んだものは背中からトンボの翅が、他にもクモの腹部、サソリの尻尾など、体の一部が虫へと変化して行く。


 全身ではなく一部分だけの変形……たしかにこれなら蟲人のように人の姿のまま虫の力を行使できる。

 言うなれば『疑似蟲人態』と言った所か。


「一斉に攻撃しろォォ!」


 部隊長の命令で魔人達が一斉に飛び掛かって来る。


「《灼熱の斬撃》!」


 私の角に橙色の炎が纏われ、無数の炎の斬撃を撃ち放つ!


「ぐぎゃあっ!?」

「がっ!?」

「ひぎゃっ!」


 灼熱の斬撃は魔人達の身体を切断! そのまま一気に部隊長との距離を詰める!


「お、おのれェェェェッ!」


 部隊長はムカデに変形した右腕で私に攻撃するが、私はムカデ腕を避けつつ切断、そのまま部隊長の首を焼き切った!


「よし、このまま廃城へと直行する!」


 私は翅を広げ、廃城に向かって飛んでいく。








『――こ、こちら南第二部隊! 現在敵と交戦中、至急応援を……ぐぎゃあああああっ!?』


 手に持った水晶で通信を取りながら、森林内に配置した水晶から送られてくる映像を確認するゼキア。

 だが、宙に浮かぶ水晶に気付いたヤタイズナが、すかさず灼熱の斬撃を放ち水晶を破壊、映像が途切れた。


「おのれ……まさか単騎での奇襲を仕掛けてくるとは……! 南第三から第十三部隊は至急南西へと急行せよ! 東と西の第一から第五部隊もすぐに応援に向かえ!」

『『了解しました!!』』


 通信を終えたゼキアは忌々しそうに南西を見る。


「くそっ……だが、魔蟲王一匹ではないはずだ……他の仲間は、バロムやディオス達はどこから来る……?」

『ほ、報告! 報告!』

「落ち着け、今度は何事だ!」

『敵の増援です!』

「来たか……規模と場所は?」

『そ、それが……『南西』です!』

「……何?」





「――殿に続くで御座る! 《暴風の大顎》!!」


 ガタクの大顎に荒れ狂う風が纏われ、魔人達を両断して行く!


(《暴風の翅》! えーい!)

(狂い惑いなさい……《蘭花の鎌》!)

(僕の演奏に聴き惚れろ……《混乱の鈴音》!)


 パピリオとカトレアの合わせ技によりカトレアの蘭花の鎌の匂いとパピリオの鱗粉が一気に散布される。


「あ、あばばば、く、苦しい……!?」

「か、身体が、身体が蟲に喰われていくゥゥゥゥ!? ひぃぃぃぃぃっ!!?」

「あ、脚が、俺の脚が無くなっているゥゥゥゥ!」

「あ、あああぁぁぁぁ……」

「おおぉぉぉぉ……」


 数人の魔人達が幻覚を見て苦しみ、残り半分がそして虚ろな表情でカトレア達の元へ歩いて行き、首を刈られていく。


「がぁぁぁぁぁぁっ!」

「ぐぉおおおおお!」


 更にベルの音色を聞いた魔人達が同士討ちを始めた。


(いくよドラッヘー!)

(言われなくてもやってやるっすよ! 《大鎌鼬》!)


 スティンガーが尻尾を振って魔人達を空中に叩き飛ばし、それをドラッヘが大鎌鼬で仕留めていく!


(全員肉団子にしてやろう!)

「来るぞ、放てぇぇぇぇぇっ!」


 魔人達が隊列を組み、突進して来るティーガーに向けて、サソリモドキの尾やミイデラゴミムシの腹部に変形した腕から一斉に液体を噴射する!


(そんなモノ、当たらぬっ!)


 ティーガーはその巨体からは想像つかぬ俊敏さで総ての液体を回避する!


「馬鹿な!?」

(《岩石の大顎》!)

『『ぐぎゃあああああああっっ!!?』』


 ティーガーの大顎に、岩が集まり巨大な大顎を形成し、そのまま一気に隊列を組んでいる魔人達を挟み潰した!


(ティーガーの奴、見事な攻撃だ! 私も負けられないな!)

(おうよ! 俺達も盛大に暴れてやろうぜぇ!)

(俺、奴ら挟み殺す、言う!)

(総員、隊列を組みつつ、全身せよ!)

『ギチチチチィィィィィッッ!!』


 ソイヤー、カヴキ、テザー、レギオンとアント達も魔人達を屠って行く。


「クハハハハハハハハハハハッッ!! もっと骨のある奴をよこせぇっ! もっと我を楽しませろぉ!」


 更にその後ろからはエンプーサとその手下であるキラーマンティス達総勢100匹が続いて来ており、ヤタイズナの後を追って行く。




『南西から大量の魔物達が真っ直ぐに廃城へと進んでいます! 既に南第一から第五部隊は壊滅! 罠も次々と破壊されています、このままでは……ぎゃあああああっ!?』


 部下からの通信が途切れたゼキアは水晶を強く握りしめた。


「馬鹿な……魔蟲王単騎での奇襲からそのまま全軍での突撃だと!? こんな作戦も糞も無い無茶苦茶があってたまるか……!」






「――殿! 魔人達が続々と南西に向かっているようで御座る! 」

「よし、このまま敵を引きつけつつ、廃城へと突き進むぞ!」

「承知で御座る!」


 敵からしたら途轍もなくいかれた行動だと思うだろうが、このいかれた行動こそが今回の作戦の要なのだ。

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