第264話 マモン森林を突破せよⅠ

 ――四日後。



「はぁぁぁっ!」

「せやぁぁぁっ!」


 私はアメリア城内にある訓練場で、ガタクと模擬戦を行っていた。


「ふんっ!」

「なんのっ!」


 私の角での突き攻撃をガタクは左の大顎で受け流し、そのまま右の鋏による横薙ぎ攻撃を放つ。


「ちぃ……っ!」


 私は後方に跳んで回避するが、すぐに前に出て再び攻撃を仕掛ける。

「くぅっ……!」

 今度はガタクは横に跳びながら、左の前脚を振るってきた。

 私は身体を捻り紙一重で避け、振り下ろされたガタクの足に前脚を引っ掛け、思い切り引っ張った。


「ぐぉぉっ!?」

「はぁぁぁっ!」


 バランスを崩したガタクに向かって突進、体当たりを喰らわせた。


「うおおおおっ!!」

「ぐはぁぁぁぁっ!?」


 体当たりを喰らい地面に倒れたガタクに、私は角を突き付けた。


「む、無念……拙者の負けで御座る……流石は殿……」

「ガタクも腕を上げたな、大顎が欠けていた時期に会得した受け流す技を取り入れ、新しい戦法を編み出していた」

「お褒めの言葉を頂きありがとうございますで御座る、ですがまだまだで御座るよ」

「ふふ……これからも共に精進しよう」

「はいっ!」


 私達は互いの健闘を称え合った後、城の中庭へと行き恒例となったオリーブとのお茶会を始めた。


「はい、ヤタイズナさん、あーん♪」

「あーん……」


 いつものようにオリーブが私にお菓子を食べさせてもらっている。


 ……最初は気恥ずかしかったが、もう慣れつつある自分に少々呆れてしまうな……


「はいヤタイズナさん、紅茶冷ましておきましたよ」

「ありがとうございますオリーブ」


 オリーブが置いてくれた紅茶を吸う。


「美味しい……そう言えばオリーブ、身体が蟲人に変化して生活も変わったはずですけど、舌とかはどうなっているんですか?」

「舌ですか? こんな感じですよ」


 そう言ってオリーブが口を開くと、細長い三角形の物体が出てさらにその先端から細長いブラシ状の舌が出てきた。

 ああ成程、舌の構造はミツバチの口器に近いのか。


 オリーブはそのまま手に持っているカップに入った紅茶を器用に飲み始めた。


「最初は苦労しましたけど……今ではこの通りです」

「へぇぇー……上手ですね」

「えへへ……」


 はにかみ笑いを浮かべながら、オリーブは自分の舌で器用にカップの中に入っている紅茶を飲み干すと、再び私にお菓子を食べさせ始めた。


「よくもまぁ毎日毎日、飽きもせずにやっとるのう……」

「仲が良いのは良い事じゃねぇか」

「見ているこっちがうんざりしてくるんじゃ! 逢瀬を重ねるのであれば二人きりでこうガバッと……」

「だからそれ止めろって、気に入ってんのか?」


 それぞれがお茶会を楽しみ中、中庭にバロムがやって来た。


「皆聞いてくれ、ようやくマモン森林の地図が完成した」

「本当ですか!」

「完成したって、お主が作ったのか?」

「ああ、書庫で地図を探し回ったがマモン森林の地図だけは見つからなかった……恐らく近づいた者は全て殺されたのだろう……だから私が数百年前の記憶を頼りに作ったのだ……少々異なる部分はあるだろうが、大部分は変わっていないはずだ」


 バロムはそう言うと、懐から一枚の大きな羊皮紙を取り出した。


「これがそうだ、確認してくれ」


 バロムがテーブルの上に広げた地図を、私達は覗き込む。

 広大な森林の中央に廃城らしき建物があり、その周囲に小さな集落がある。



「随分と広い森だな……」

「森林と言われているが、大樹海と変わらぬ程広いのう……」

「それじゃあ、この地図を中心に作戦を考えましょう」

「そう言うと思って既に会議室に人を集めてある、ついて来てくれ」


 バロムは地図を懐に戻し、城内へと入って行く。


「オリーブ、すみませんがお茶会はお開きに……」

「わかってます」


 そう言うとオリーブはしゃがんで私に口付けをした。


「頑張ってくださいね」

「……は、はい」


 私は照れながらもオリーブに別れを言い、しもべ達を残してミミズさんとバノンと共にバロムについて行く。



「――ここが会議室だ」


 バロムが扉を開けて入っていくので私も後に続く。

 部屋に入ると、中には国王ラグナ、ウィズ、そしてウィズの祖母エマ・ユアンシエル、ディオス、更に勇者ユウヤ・オオトリ、アヤカ・タチバナ、ミズキ・ワタナベ、カイト・モリヤマの姿があった。


 勇者オオトリが入って来た私を見て立ち上がり、こちらに向かって歩いてくる。

 また以前のように邪険な態度を取るのかと少し警戒していると、オオトリはしゃがみ、私に目線を合わせ口を開いた。


「……今回、君達と共にこの作戦に参加することになった、よろしく頼む」


 今までの態度からは考えられなかった言葉に私は目を丸くする。


「……それとバノンさん、初めてあった時に行ってしまった非礼の数々、本当に申し訳なかった」

「え、あ、ああ……」


 そう言ってバノンに頭を下げるオオトリ。

 良いまでと違い過ぎる態度に、バノンも困惑している。


「ではこれで……」


 言い終わるとオオトリは元の席へと戻って行った。


「……な、何だったんだあれ……?」

「態度が変わり過ぎて不気味じゃのう……何か企んでおるのか?」

「分からないけど……とりあえずは大丈夫じゃないかな?」

「何故そう言い切れるのじゃ? あ奴からしたらお主は婚約者を奪った悪党と思っているはずじゃぞ」

「確証は無いけど……多分大丈夫だよ」


 しゃがみ込んで私を見て来た時のオオトリの表情……以前のような棘は無くなっており、瞳が澄んでいた……

 アバドンのアメリア王国襲撃の後、彼を変える何かがあったのだろう。


 全員集まった事を確認したバロムが口を開く。


「それではこれより、マモン森林攻略の作戦会議を始める!」

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