第262話 明日に進む者達Ⅱ

――その翌日、魔鳥王と魔植王はガーベラ王妃達と共にアルトランド王国へ向かうことになった。


「では私達は国に帰る……オリーブ、幸せになるんだぞ」

「姉様……はい!」

「ヤタイズナ殿、妹を頼んだぞ」

「はい、必ず幸せにして見せます」

「や、ヤタイズナさん……」


 私の言葉にガーベラが笑みを浮かべた。


「その言葉を聞けて安心だ……ではまた会おう!」

「結婚式には呼んでね~」

「おっきなむしさんたち、またね~♪」


 リオン国王、ミモザ姫が私達に手を振って馬車に乗る。


「では私達も行きます、決行の日に会いましょう」


 馬車の後を追って、魔鳥王が魔植王を脚で掴んで飛んでいった。







「魔獣王に魔海王、それに魔竜王……みんな元気にしてると良いね、ミミズさん」

「ふんっ、魔海王の事はガーベラから聞いておろうが……他の奴ものうのうと生きておるじゃろうよ」

「本当は会うの楽しみにしてるくせに……素直じゃないねミミズさんは」

「別に楽しみになぞしておらんわ!」

「はいはい……所でバノン、魔鳥王から渡された楔(くさび)はちゃんと持ってる?」

「ああ勿論……ほらよ」


 バノンが懐から手の平大の楔を取り出した。


 魔鳥王の話では、アバドンがこの国中に埋め込んでいた魔道具らしい。

 これを使って転移魔術の範囲を拡大し、空に無数の亀裂を作りだしていたそうだ。


「『肌身離さず持っていてください』って言われたけど……何か意味があんのかコレ?」

「まぁ魔鳥王が無駄な事をさせるわけないし、きっと重要な事なんだよ」

「それなら良いけどよ……」


 バノンは楔を懐にしまって再びプラチナコーンを食べ始めた。


 私は食事をしているしもべ達を見る。

 あの戦いの後、多くのしもべが進化した。


 まず最初にガタクは欠けていた大顎が完全に再生し、大顎も含め全長が3メートルとなった。

 全身の甲殻がごつくなって体色がメタリックブルーに変化している。


 パピリオは身体と青紫色の翅が大きくなり、全長二メートル半程となり、その大きな翅で今まで以上に敵を吹き飛ばすだろう。


 カトレアは全長は二メートル、身体の白とピンクの体色がより鮮やかになり、より美しさが際立った。


 ベルは体長が一メートル半になり、翅が大きくなったことで音色が更に大きく美しくなり、これからもその演奏で私達を癒してくれるだろう。


 そして、最も姿が変化したのがティーガーとドラッヘだ。


 ティーガーは体長は3メートルを越え、イカリ肩の形をした腹部と、左右非対称の大顎が特徴的だ。

 この特徴は間違いなくオオエンマハンミョウだ。


 オオエンマハンミョウはハンミョウ科エンマハンミョウ属の昆虫で、ハンミョウ科の世界最大種として知られている。

 体色は黒一色だが、個体によっては赤褐色を帯びる事もある。


 鞘羽が腹の側面を覆うように発達しており、飛翔能力を失っている代わりに、鉄壁の防御力を得ている。

 そしてクワガタと見間違うような左右非対称の立派な大顎。

 左右非対称なのにも理由があり、交尾時にメスの身体を固定するためにこの形になったと言う。


 そんなオオエンマハンミョウの最大の特徴……それは戦闘力だ。

 甲殻は硬く、それでいて動きは素早く、極めつけは大顎で敵を八つ裂きにする力。


 硬い、速い、強いと三拍子揃い、尚且つ一度敵と認識した相手を執拗に攻める狂暴性から、肉食昆虫最強と称されている存在なのだ。

 そしてその食欲も凄まじく、昆虫は勿論、トカゲやネズミすらも捕食してしまうほどなのだ。



 転生前の世界でも、虫同士を戦わせる映像作品があって、オオエンマハンミョウは圧倒的な力を見せつけていた。

 相手を八つ裂きにするその鬼神の如き力に目を輝かせたものだ……


 だが、進化したティーガーは、一つだけ私の知っているオオエンマハンミョウとは違う部分がある。

 それは体色だ。


 本来は黒一色の体色が、進化前のハンミョウと同じカラーリングになっているのだ。

 その結果禍々しさと輝きを放つその姿は寧ろ美しさを感じさせる。




 一方、ドラッヘは体長二メートル半、複眼はエメラルドグリーン、そして身体は黒と黄色の縞模様の体色がある姿へと変化している。

 あの複眼と身体の縞模様……間違いなくオニヤンマの特徴だ。



 オニヤンマはトンボ目オニヤンマ科に分類されるトンボの一種で、体長は10センチと日本最大のトンボとして知られている。

 生息地は北から南まで広く分布し、地域によって体色の差が見られることもある。


 オニヤンマは空を飛ぶ昆虫の中で最速の昆虫で、最高時速は何と70キロに達するというから驚きだ。

 その速度と、機動力を活かして一瞬の内に獲物を捕まえ、その強靭な顎で捕食する。


 その顎は本当に強靭で、人の皮膚ぐらい簡単に引き千切ってしまうので注意が必要だ。

 実際私も幼い頃、網で捕まえたオニヤンマを素手で掴もうとした時に痛い目にあったものだ……


 狂暴なスズメバチや昆虫界のスナイパーと称されるシオヤアブと言った他の空を飛ぶ昆虫とは捕食したり、逆に捕食されたりといった関係でもあり、他にも鳥類や蝙蝠など、天敵は結構存在する。


 だがそれを差し引いてもその洗練されたフォルムと空中を自由自在に動ける能力は素晴らしく、まさに空中の覇者と言っても過言ではないだろう。




 ……いやー本当にカッコイイ、オオエンマハンミョウとオニヤンマ……いつ見ても惚れ惚れするカッコ良さだ……それに他のしもべ達ももう最高だよ……


(主様、どうされたのですか?)

(何か気持ち悪い視線を感じるんすけど……)

「久しぶりにこうなったのう……さっさと目を覚まさんかこのたわけが!」

「あ痛っ!?」


 いかんいかん……久々にトリップしてしまった。


 私はしもべ達に鑑定を使い、ステータスを確認する。






 ステータス

 名前:ガタク

 種族:テンペストブレードスタッグビートル

 レベル:1/300

 ランク:A+

 称号:魔王のしもべ、昆虫の戦士

 属性:風

 スキル:斬撃、斬撃耐性、剣技

 エクストラスキル:大鎌鼬、剛力鋏

 ユニークスキル:暴風の大顎







 ステータス

 名前:パピリオ

 種族:グレイテストパープルエンペラー(突然変異種)

 レベル:1/150

 ランク:A

 称号:魔王のしもべ

 属性:風

 スキル:粘糸

 エクストラ:豪風の翅

 ユニークスキル:鱗粉







  ステータス

 名前:カトレア

 種族:カトレアンマンティス

 レベル:1/100

 ランク:Aー

 称号:魔王のしもべ

 属性:風

 スキル:気配遮断、花の香り

 エクストラスキル:蘭花の鎌







  ステータス

 名前:ベル

 種族:シンフォニーインセクト

 レベル:1/100

 ランク:Aー

 称号:魔王のしもべ

 属性:地

 エクストラスキル:癒しの鈴音、闘志の鈴音、混乱の鈴音







 ステータス

 名前:ティーガー

 種族:デモンズタイガービートル

 レベル:1/300

 ランク:A+

 称号:魔王のしもべ

 属性:地

 エクストラスキル:穴掘り玄人、剛力鋏、昆虫の重鎧、瞬足、岩石の大顎







  ステータス

 名前:ドラッヘ

 種族:オーガドラゴンフライ

 レベル:1/300

 ランク:A+

 称号:魔王のしもべ、ハンター

 属性:風

 スキル:水中移動レベル5、俊敏

 エクストラスキル:奇襲、大鎌鼬、剛力鋏、昆虫の重鎧








 皆がAランク越え、中でもガタクとティーガーとドラッヘはA+になった。

 魔人族との決戦でも大いに活躍してくれるだろう。


「……ご馳走様で御座る……殿、申し訳ありませんが、少し散歩に行って来るで御座る」

「ああ、分かった」


 ガタクは皿のプラチナコーンを半分以上も残し、翅を広げて中庭から飛んでいった。


「……」

「ガタクの奴、心ここにあらずと言った感じじゃのう……それはそれとして、奴の残したプラチナコーンは儂のモノじゃ!」

「……ちょっとは空気読んだ方が良いんじゃねぇか?」









 ――城下町、とある民家の屋根の上で、ガタクは空を見上げていた。



「……」

「ガタク」

「おお、殿で御座るか、このような場所に来られるとは……どうされましたか?」

「……ファレナさんの事を考えていたのか?」


 そう聞くと、ガタクは無言で空を見上げた。


「……豊穣祭の前日、ここでファレナ殿と話したので御座る……あの時の月は、本当に綺麗で御座った……あの時ファレナ殿の正体に気付いていれば、バノン殿もあのような危険な目に遭わず、拙者も操られる事も無かったで御座ろうな……」

「ガタク……」

「いや、それだけでは御座らん……自分が一番後悔しているのは、ファレナ殿の苦しみに気付いてやれなかったことで御座る」

「苦しみ……あの時に言っていた、操られていた時に聞こえて来た声の事か?」

「そうで御座る……あの時、ファレナ殿は言っていたで御座る……『誰か、私を助けて』と」

「……」

「ファレナ殿は、自分にはもう復讐しかないと言っていたが……心の中ではずっと救いを求めていたので御座るよ……だから拙者は……ファレナ殿を救いたい! たとえどんな結果になろうとも……」

「……次の戦いは今まで以上の激戦になるはずだ、その考えが命取りになるかもしれないぞ」

「分かっているで御座る、ですが拙者は……」

「もしファレナさんが私達の前に現れたなら、私達はお前を置いて先に進む」

「っ!?」


 私の言葉を聞いて、ガタクは私の方を見た。


「だから、どんなに遅くなろうとも、絶対に生きて私達の元に戻って来るんだぞ、約束だ」

「殿……はい! このガタク、必ずや殿達の元へ戻る事を誓うで御座る!」


 私とガタクは約束を立て、角と大顎をぶつけ合わせた。

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