第259話 一族の想いⅢ
――私とミミズさんは、ラグナに案内され、城の地下へと続く階段を下りる。
階段を下り終えた私達の前に現れたのは、紋章が刻まれた巨大な扉だった。
「この先は我がアメリア王家の祖先達が眠る墓標……その最奥にミミズさん、貴方への遺言がある。
「儂に……? まさかアドニスの妻が……」
ラグナが扉を開き、私達は中へと入る。
地下墓地の中を歩く私達の目の前には地下とは思えない光景が広がっている。
地下だと言うのにその広さはとてつもなく、壁一面に彫られた壁画はまるで古代の神殿を思わせるような荘厳な雰囲気を放ち、天井を支える柱の一つ一つにも細かな装飾が施され、通路の左右には、歴代の王族達の名が彫られた棺がズラリと並んでいた。
「――ここだ」
そして最奥に辿り着くと、前の扉よりも厳重な扉があった。
「ここが……」
「……」
ミミズさんは無言のまま息をのんでいる中、ラグナがゆっくりと扉を開く。
開かれた扉の向こうにあった物は―――
「……これは!?」
そこにあった物に驚愕する。
それは、壁一面に描かれた巨大な壁画と小さな石碑、そして二つの棺であった。
「ミミズさん、この絵って……」
「……」
ミミズさんは無言のまま壁画を見つめていた。
壁画に描かれていたのは、三つ首の龍の如き生物と一人の人間が向き合い、笑い合っている姿だった。
「これは、アドニスとミミズさん……」
「そうだ、そしてこれを造らせたのは、我が祖先、リリウム・アメリアだ」
「リリウムじゃと!?」
「それって確か……!」
ミミズさんの記憶で視た、アドニスの妻の名前……!
「そして……あの棺に眠っているのがそのリリウム・アメリアと、その子供ニル・アメリアだ」
私とミミズさんは壁画の下に安置されている棺を見た。
「あの棺に、リリウムとアドニスの子が……」
「それじゃあ、あの石碑に書かれているのは……」
「そうだ……リリウムがミミズさんに残した遺言だ」
「教えてくれラグナ、リリウムは儂になんと残したのじゃ!」
ミミズさんの言葉を聞き、ラグナが石碑に近づき、内容を読み上げた。
『我が夫の親愛なる友、魔蟲王ヤタイズナ様……この遺言がどうか貴方に届く事を祈り、この文を遺します。あの日、国が滅びたあの時、貴方と夫の身に何があったか……なぜ貴方が人間を敵とみなすようになったのか、私には何も分かりません……ですが、どんな理由があろうと、たとえ民達が貴方を憎み恨もうとも、私は貴方を恨みません』
「……!」
『私は夫の……アドニスの夢を追う姿が好きでした……夢の為に頑張る夫の姿を見るのが大好きでした、だから例え貴方が私の仇であろうとも、それでも私は貴女を許します。そして出来る事ならば、再び人と手を取り合う未来を望みます。その想いを込めてこの壁画をここに残します……そして、アドニスに夢をくれてありがとう……心優しき魔蟲の王よ――リリウム・アメリア』
「うっ……ぐぅ……」
「ミミズさん……」
「ミミズさん殿……」
ミミズさんは身体を震わせながら石碑に近づき、触れた。
「……すまぬ、リリウム……アドニスが死んだのも、国が滅びたのも、総ては儂のせいだというのに……本当にすまない……」
石碑に触れながら謝罪の言葉を口にする。
「ミミズさんは悪くないよ! 総ての元凶はあのアバドンのせいなんだから!」
「ヤタイズナ……じゃが、儂がもっと早くあ奴の邪悪な野望に気付いておれば……」
「過ぎた事はどうしようもないよ、今はこれからの事を考えようよ」
「……そうじゃな」
「それに、リリウムさんはミミズさんを許したんだろ? ならミミズさんもそれを受け入れないと」
「……その通りじゃ! 儂がうじうじした所で過去は変わらん! ならば儂は、アドニスとリリウム達の想いを胸に、前を進むぞ!」
「ようやくいつものミミズさんに戻ったね」
「何を言うておる、儂はずっといつも通りじゃろうが!」
「うん、そうだね」
こうして、ミミズさんが心の中で引き摺っていた心残りを解消した私達は、部屋を出て来た道を戻り始めた。
「……ラグナ王、あの壁画は?」
ミミズさんが碑文の横の壁画に反応した。
その壁画には、六人の男女が描かれていた。
「あれってもしかして……」
「かつてアメリア王国に召喚された勇者達の壁画だ」
「見覚えがあると思ったが、やはりそうじゃったか……」
「ああ、魔蟲王……ミミズさん殿を倒した時に彫られたモノらしい……勇者の内何人かが旅に出たと言い伝えられている」
「……でも、バロム達から後で聞いた話では、この世界に召喚された人間の寿命は……」
「……そうだ、その力と引き換えに短命となっている……それを承知で私は彼等を召喚した……この国と、オリーブを守るために……今思えば、馬鹿な事をしたと心から悔いている……」
ラグナは拳を握りしめ、後悔の言葉を発している。
「これからは彼等に報いるためにも、出来る限りの事をするつもりだ……」
「……」
その後、私達は無言のまま階段を上り、外へ出た。
「……戻って来たか」
「待っていましたよ」
「バロム、それに魔鳥王も」
バロムと魔鳥王が私達の事を待っていた。
「その様子では、伝えるべき事とは良い事だったみたいだね」
「まぁな」
「それで、どうしてここに?」
「ええ……実は、例の未来視についてですが……」
「あの燃える廃墟の中心に居るミミズさんの奴ですか?」
「あれならアバドンの奴を倒したことで、実現せずに終わったじゃろう、それがどうかしたのか?」
私達の言葉に魔鳥王は意を決したように口を開いた。
「……まだ終わっていません」
「……え?」
「……今、何と言った?」
「あの光景はまだ消えていません……あの未来は、まだ起こりうる可能性として存在し続けているのです」
「第106回次回予告の道ー!」
「と言うわけで今回も始まったこのコーナー!」
「リリウムの遺言を聞き、アドニスの事を引き摺っていたミミズさんは前を向くことが出来た……だがそれをかき消すように魔鳥王の口から発せられた言葉に絶句する私達!」
「一体どういう事なのか……気になる所じゃが、次回は魔人族サイドの話となるぞ!」
「それでは次回『暗躍する者達Ⅶ』!」
「「それでは、次回をお楽しみに!!」」
・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので、次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。
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