第257話 一族の想いⅠ
――二週間後、アメリア王国。
アバドンによってもたらされた魔物達による破壊の後がまだ残っているが、街は復興の兆しを見せ始めていた。
そして、アメリア城、城門前に多くの国民が集まっていた。
城壁の上から一人の少女が姿を現すと、国民達が騒めいた。
その少女こそ、アメリア王国第二王女、オリーブ・アメリアであった。
オリーブが着ているドレスは蟲人へと変態した身体に合わせ、肩部と背中が露出したデザインとなっている。
「オリーブ姫様だ!」
「間違いない……あの時、空に映し出されていたお姿だ!」
「無事だったのか……良かった……」
「見て、国王様と王妃様も一緒よ!」
オリーブの後ろから、国王ラグナ・アメリアと王妃ライラック・アメリアが姿を見せた。
国民の視線を受けながら、オリーブは少し気恥ずかしそうにしながらも口を開いた。
「国民の皆さま、ご心配をお掛けしました……今回我が国は途轍(とてつ)もなく強大な災厄に見舞われ、多くの犠牲者が出ました……ですが、その危機を乗り越える事が出来、こうして再び立ち上がる事が出来ました! ……これも全て、アメリア王国の勇敢なる兵士や冒険者の方々、そして民草(たみくさ)である皆のお陰です! 本当にありがとうございます!」
『『うおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉっ!!!』』
国民達は歓喜の声を上げ、中には涙を流す者まで居た。
そして一頻り歓声が上がる中、オリーブは右手を上げる。
すると、自然と歓声は徐々に小さくなっていった。
「では、今回の最大の功労者達を紹介します、まずはこの国の英雄である勇者、ユウヤ・オオトリ様、アヤカ・タチバナ様、ミズキ・ワタナベ様、カイト・モリヤマ様!」
オリーブに呼ばれ勇者達が姿を現し、国民達が再び歓声を上げる。
アヤカ、ミズキ、カイトの三人は笑顔で国民達に手を振るが、ユウヤは心ここにあらずと言った様子で、何処か上の空で手を振っていた。
「……そして、此度の災厄を見事打ち倒した、この国の救世主!」
その言葉と共に、後ろに控えていた男がゆっくりと前へ出た。
「『魔王』を従えし英雄、『救国の従魔使い』バノン様!」
『『『わあああああああああああぁぁぁぁっっ!!!』』』
先程よりも大きな歓声が上がる。
「バノンさーん!」
「素敵ー!」
「ありがとう、『救国の従魔使い』ーっ!」
「英雄に感謝をー!!」
喝采を浴びるバノンは笑顔で手を振るが、その背中は冷や汗でびしょ濡れになっていた。
なぜこうなったのか、それは今から三日前に遡る――
――三日前、アメリア城、玉座の間。
アバドンとの戦いによって破壊された玉座の間はある程度修復され、私としもべ達の傷もほとんど完治した。
そして、王国の復興も順調に進む中、私達はラグナとライラックと話をしていた。
「表彰、ですか?」
「ああ、予言に会った王国を襲う災厄であったアバドンを倒し、この国を救ってくれた其方(そなた)への感謝を込め、国民達の前で表彰したいのだ」
「……うーん……」
「どうしたのじゃヤタイズナ? そんなに悩む事か?」
「いや、魔王である私がそんな堂々と国民の前に出て大丈夫なのかなって……」
「別に良いのではないか? お主の名乗りも流れて国民全員に知れ渡っとるじゃろうしのう」
「まぁ、確かにそうなんだけどさ……」
あの時の戦いは全てアバドンが余興として用意した、魔道具によってアメリア王国の上空に映し出され、国民達に公開されていた。
オリーブが蟲人へ変態した事、私が魔王である事とアバドンを倒したことなど、多くの事が知られてしまっているため、今更隠す意味もない。
だが、それでも不安は隠せない。
国民全員が私に良い感情を持つとは限らない、中には私とアバドンを似た存在だと言い出す者も居るかもしれないし……
「うーん……よし!」
「腹を決めたのか?」
「ああ、いつもの手で行くことにするよ」
「いつもの……?」
私の言葉にミミズさんが首を傾げる。
「――俺に手柄を全部よこすゥ!?」
私の言葉にバノンが驚愕の声を上げた!
「そう! だって私はバノンの従魔って事になっているだろ? 私が魔王だとしても、それを従えているバノンが総ての命令を出していた事にすれば良いんだよ」
「なるほど、バノンはこのアメリア王国ですでに有名人になっておる、そのバノンが表彰の舞台に出るなら、文句を言う奴など居らんじゃろうな」
「でしょ?」
「いやいやいや! 流石に無理があるんじゃないか!?」
「大丈夫! バノンなら上手く出来る! と言うか上手くやってもらわないと私が面倒臭い事をしなきゃいけないし……」
「結局本音は面倒臭いだけなんじゃねぇのか!?」
「細かい事は気にしない、ほら、早く準備するぞ!」
――現在。 アメリア城、中庭。
「あの声援……バノンは上手くやっているみたいだね」
「みたいじゃな……この菓子美味いのう……」
バノン達の表彰が終わるのを、中庭でクッキーを食べながら待つ私達。
「……」
「何処か浮かない顔じゃのう……魔人族とオ・ケラの事か」
「うん……あの時、ビャハを取り逃していなければ、奴らとの戦いを有利に進められていたのに……」
「気にするでない、奪われてしまったのは仕方が無いと割り切るのじゃ、今為すべきは奴らの本拠地を叩き、魔人王の復活を阻止したうえで奴らに勝利することじゃ!」
「……そうだね、ミミズさんの言う通りだ」
私は気持ちを切り替えながらも、オ・ケラについて考えていた。
奴がアバドンに止めを刺した……自らの道具に殺されるなんて、敵ながら哀れな最後だな……
私は苦笑した後、あの時のオ・ケラの姿を思い出す。
あの姿、奴も進化したのだ……おそらく私と同じランクに……そして去り際に発したあの鳴き声。
何と言ったのかはわからないはずなのだが、自然と理解出来た。
あれは挑戦状……次あった時は必ずお前を倒す……オ・ケラはそう言ったのだ。
「……」
「ふむ、何かやる気になったようじゃのう」
「うん、次こそ奴との因縁に終止符を打つよ」
私が決意を新たにする中、ミミズさんが声を発する。
「ところでヤタイズナ、お主がアバドンと対峙した時に言った名乗りなんじゃが……」
「ん? ああ、あれ咄嗟に思いついたんだけど、結構良いでしょ?」
「中々良かったが……まぁ五十点と言ったところかのう」
「えぇー!? ミミズさんの口上より全然良いと思うけど……」
「何じゃとぉ!? 貴様、儂の口上を馬鹿にするのかぁ! お主のダサい口上よりずっとマシじゃろうが!」
「ダサいってなんだよ!? そんなこと言うミミズさんのに比べたら、魔海王の口上の方が百倍マシだからな!」
「あぁっ!? やる気か貴様ぁぁ……!」
「やってやろうじゃないか……元魔王(笑)さんがよぉ!」
「じゃから(笑)言うなぁぁぁぁぁぁぁっっ!!」
久しぶりに些細な事で喧嘩をする私達であった。
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