第256話 魔蟲王Ⅲ

「ビャハ……貴様、どうやって私の転移門から……!?」

「ビャハハハッ! コレ、なーんだ?」


 そう言ってビャハが右手の手甲を見せる。

 そこには、青く光る魔封石がはめ込まれていた。


「それは……私の転移魔道具の試作品……!?」

「ビャハハハハハ、お前の研究室から拝借させてもらったんだぁ、でお前が転移門を開いたと同時に発動させて割り込んだって寸法よ」

「貴様……いや、待て……!? 何故魔封石がそこにある!? 私が総て手に入れたはず……!?」

「ビャハハッ! 馬ァ鹿、まだ気づかねぇのか? お前が手に入れたのは魔人王様が造られた偽物だよ」

「何!? 馬鹿な……間違いなく魔人王の力が封じられたいたはず……」

「そりゃあ確かに魔人王様が残る力を込められたからなぁ……確かに本物とは違いすぐに空になって砕けちまう欠陥品だが、間抜けを引っ掛けるには十分役立ってくれたぜぇ、ビャハハハハハハハ!」


 ビャハは高笑いを上げながらアバドンの首根っこを掴み、槍で胸の魔封石を丁寧に抉り取って行く。


「ぐぅっ!?」

「オマエは良くやってくれたよブロスト……ギリエル様の計画通り、総ての魔封石を集めてくれたんだからなぁ……これで魔人王様は完全復活を遂げられる」

「何だとぉ……!?」

「オマエはギリエル様の掌の上で踊っていた哀れな道化……いや、両手で包まれ、中で藻掻(もが)くバッタだったって事だよ!」

「貴様……ぎざまあああっ!!」


 怒り狂ったように叫ぶアバドンを嘲笑う。


「その魔封石は渡さない!」


 私は翅を広げビャハに突っ込む!


「ビャハハッ」


 ビャハは槍を地面に刺し、指を鳴らすと目の前に亀裂が現れ、中から雷球が飛び出した!


「何ッ!」


 私は雷球を弾くと、亀裂から一人の女性が現れる。

 その姿をガタクが声を上げる。


「ファレナ殿!?」


 そう、現れたのは城門前で私達と戦い、突如現れた亀裂の中へ消えて行ったファレナであった。


「そうか! あの時の亀裂はお前が出したのか!」

「ご名答~ッ!」


 ビャハは楽しそうに笑いながら ブロストから総ての魔封石を取り終えた。


「さて、それじゃあお前の役割はここまでだ」


 ビャハはアバドンを掴んだまま、壁際に移動し、崩落した部分に突き出す。


「哀れだなぁブロスト……いや、アバドン……所詮お前ら蟲人は数百年前のあの日から、『俺達』に滅ぼされる運命だったんだよぉ!!」

「ビャハ!! や、やはりお前とギリエルの『正体』は……っ!」

「じゃあな、アバドンッ!!」


 ビャハはそう言うと、アバドンの身体を上に投げ、落下すると同時に槍で身体をバラバラに切り刻んだ!


「ギィヤアァァァァァァァッッ……!!?」


 肉片となったアバドンが断末魔の叫びを上げながら遥か真下へと落下して行った……


「さぁてと、それじゃあ俺は失礼させてもらうぜぇ……行くぞファレナ」

「はい」


 ファレナは小さく頭を下げると目の前の亀裂の中に姿を消す。

 ビャハも地面の亀裂に入ろうとした時、ディオスがビャハを止めた。


「ビャハ!」

「おおディオス、生きてたのかよ……なら丁度良い、とっとと帰んぞ」

「……私は……」

「待てェエエッ!!!」

「おっとぉ……まぁ良いか、あばよ手前ら、魔人王様の完全復活を楽しみにしとけよぉ……ビャハハハハハハ!」


 私は慌てて追いかけようとしたが、時すでに遅く、亀裂は完全に閉じていた……


「クソォオオオッッ!!」


 奴らを逃してしまった……悔しさを感じる中、背後から声を掛けられた。


「気を落とすなヤタイズナ、お主は勝ったのじゃ」

「ミミズさん……」

「お姉ちゃん、お姉ちゃんっ!」


 ウィズの叫びが聞こえ、私は振り返り、倒れているオリーブの元に駆けよった。


「魔植王、オリーブは!?」

『……すみません、彼女は、もう……』


 魔植王の申し訳なさそうな声を聴き、オリーブの姿を視ると、彼女の手足が徐々に灰になり始めていた。


『一度は奇跡的に目を開け、貴方への言葉を言い終えた瞬間、身体の崩壊が始まりました……こうなっては、もう……』

「そんな……嘘でしょう? オリーブ、起きてください! お願いだから死なないでくださいっ!!」


 私は必死に呼びかけるが、既に意識の無い彼女には何も届かない……。


「なにか……何か方法は無いんですか!?」

『……一つだけ、方法があります』

「教えて下さい!」


 私の懇願を聞き、魔植王が静かに語る。


『他者の命を使い彼女を蘇生させるのです……ただしそれは同時に他の命を犠牲にすることを意味します』


 その言葉を訊き、ウィズが叫んだ!


「だったら、私の命を使って!」

「ウィズ、何を言っているんだ!?」

「お姉ちゃんが助かるなら、私の命なんて……!」

「馬鹿者!」


 ウィズの言葉を聞き激昂したガーベラがウィズの頬を叩いた!


「妹の命と引き換えに生き返って、オリーブが喜ぶと思っているのか!」

「だって……だってぇぇぇっ……」


 ガーベラの言葉を聞き、ウィズが涙を流す。

 その姿を見て、ディオスが覚悟を決めたように前に出た。


「私の命を使ってくれ」

「ディオスさん……!?」

「ディオス、君は自分が何を言っているのか分かっているのか?」

「先生……分かっています……そして今こそ先生の教えが理解できます……命の大切さを……私はウィズの大事な人のために……この命、捧げても良い」

「駄目だ!! それだけは絶対に許可できない!」

「しかし……」

「その必要はないで」


 ゴールデンが声を発し、ゴリアテと共に私達の元に来る。


「魔植王様、自分たちの命を使ってください」

「ゴールデン、ゴリアテ!?」

「お前達、何を言っておるのじゃ!?」

「私達は元々死んでいる所を魔植王様によって生き返らせていただいた身、我々なら魔植王様の力も十分発揮できるでしょう」

「そうそう、末っ子の番の姫さんをこのまま見殺しにはできませんよ……それに」


 ゴールデンとゴリアテがミミズさんを見る。


「自分たちの願いはもう叶ってますから……もう一度魔王様に会いたいって願いが」

「ゴールデン、ゴリアテ……」

『分かりました……では二人とも、あなた方の命を使わせていただきます』

「はい」

「了解です」


 返事をすると同時に、魔植王が蔦を伸ばし、ゴールデンとゴリアテの身体に張り付き、二匹の身体を光が包み込む。


 そして蔦を通してオリーブの身体に二匹の命が流れていく。


『肉体の崩壊停止、再構築を開始します……』


 オリーブの崩れていた手足が再生を始めた。

 それと同時に、ゴールデンとゴリアテの身体が徐々に灰色になって行く。


「一度死んだのに、また死ぬなんて……不思議な体験やな」

「全くだ」


 ゴールデンの言葉に、ゴリアテは笑いながら答える。


「末っ子……頑張りぃや」

「立派な後継者として頑張ってくれ」

「……ありがとう、兄さん達」

「ははっ、初めて兄さんって呼ばれたけど、けっこうこそばゆいもんやな」

「……」


 ミミズさんが灰色になって行く二匹を黙って見守る。


「はは、そんな悲しそうにしないでくださいよ魔王様」

「! ふんっ、別に悲しくなどないわ!」

「そうそう、それでこそ魔王様や! はははは……」

「……もう、お別れのようです」


 二匹の全身が完全に灰色になり、足先から徐々に崩れていく。


「さいなら、魔王様!」

「どうかお元気で……そして」


 ゴールデンとゴリアテは優しい声色で、最後の一言を言った。


「「生きていてくれて、ありがとう……」」


 そして、二匹の身体は完全に崩れ灰になり風と共に散っていった……。


『再構築完了……です』


 それと同時にオリーブの身体の崩壊は完全に収まり、呼吸を開始した。


「お姉ちゃん……良かった……良かったよぉ……」

「ああ……本当に……良かった……」


 ウィズとガーベラが涙を流し、その後ろでラグナが静かに涙を流していた。


「ありがとう……ゴールデン、ゴリアテ……」

「さらばじゃ……お前達は儂の誇りであったぞ……」


 私とミミズさんは空に散って行った灰を眺め、静かに呟いた……。













 ――アメリア城、中庭。


「ぐ、ぐぐ……」


 そこには、バラバラになりながらも、頭部だけで蠢くアバドンの姿があった。


「馬鹿め……魔封石を奪われても、体内に残っている力である程度の再生は出来るのだ……!」


 そう言いながらバラバラの上半身を繋いで再生させようと藻掻くアバドン。

 そこへ、一匹の昆虫が姿を現した。


「ん?」

「ジィィィィィィ……」


 それは、右前脚を失い、全身黒焦げとなっているオ・ケラであった。


「オ・ケラ! 良い所に来た……私の身体を運び、アメリア王国近くに造っている隠れ家に連れて行け! そうすれば安全に体の再生が出来る」

「……」

「何をしている、早く動けこの役立たずがぁ!」

「……ジィィィ」


 オ・ケラは数秒間固まっていたが、動き出し、アバドンの元へ歩み寄った。


「ふふふふ……見ているが良い愚かな魔蟲王、そしてビャハ! 私をこのようなに目に合わせた事を後悔させてくれる! そうだ……私がこんな所で終わるはずがない! 私こそがこの世界を支配する存在! 神となるのだ――」


「ジィィィィィィィィィッッ!!」


 オ・ケラは左前脚光り輝かせ、喚き散らすアバドンの頭部を叩き潰した!

 そして爆発が起き、アバドンの肉片が辺りに飛び散る。


 肉片は暫く痙攣していたが、動かなくなり、灰となって崩れた。

 その瞬間、オ・ケラの身体が光り輝き始め、右眼の義眼と鋼鉄の左前脚、鋼鉄の首輪が外れて身体が変形を始めた――








 ――私の頭の中で、声が響く。


 《アバドンを倒した、ヤタイズナはレベルが200になった。》


 これは……今アバドンが死んだと言う事か? そう言えば確かにビャハに止めを刺された時点で聞こえても良かったはず……じゃあアバドンは暫く生きていた?


 なら、一体誰が止めを……


「ジィィィィィィィィッッッ!!」

「ッ!? この声は!?」


 私は声をした方を向くと、城壁の上に乗っている漆黒の甲殻を持つ昆虫を発見した。

 姿は変わっているが、あの特徴的な両前脚に、鳴き声は……


「オ・ケラ、なのか……?」

「ジィィィィィィィ………」


 オ・ケラは複眼赤く光らせ、私を数秒間睨んだ後、翅を広げ何処かへと飛んでいった――









「第105回次回予告の道ー!」

「と言うわけで始まったこのコーナー!」

「進化した私は遂にアバドンを撃破! ゴールデンとゴリアテのおかげでオリーブも一命を取り止められて良かったよ……」

「うむ……じゃがしかしビャハに総ての魔封石を奪われてしまった……」

「戦いはまだ終わってはいない……気を引き締めなければいけないね、ミミズさん」

「うむ、じゃが今は勝利の気持ちに浸ろうではないか!」

「そうだね、さて、今回で最終章魔蟲王編の前編が終わり、次回からは後編がスタート!」

「あの戦いの後、アメリア王国はどうなったのか? オリーブの身体や勇者達の事など様々な事が分かるよ」

「それでは次回『一族の想い』!」

「「それでは、次回もお楽しみに!!」」


 ・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。

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