第255話 魔蟲王Ⅱ
「と、殿……!」
(ごしゅじん、ぶじだったんだねー!)
「遂に至ったかヤタイズナ……儂と同じ領域に!」
「ミミズさん、皆……」
私は周囲を見渡し、しもべ達の惨状を見て、心を痛める。
「レギオン、アント達と共にしもべ達を救助してくれ」
(了解しました)
私の指示でレギオン達は散り、しもべ達の元へ向かう。
「ふふふふ……まさかあの状況から生き延びるとはねぇ……少々驚きましたよぉ……だがしかし! 所詮虫ケラに変わりはない!」
アバドンは醜悪な笑いを浮かべながら、切断された腕を再生させる。
「もう一度真下に落としてあげますよぉ……今度は確実に殺してからねぇ!」
「やれるものならやってみろ、私はもうお前になどには負けない……レギオン達への誓いと……己の道を進み続けるために!」
「ほざくなぁ!」
アバドン右第一腕をイチジクコバチの尾に変形させ、攻撃する!
「《灼熱(バーニング)の角(ホーン)》ッ!」
私の角に橙(だいだい)色の炎が纏われ、イチジクコバチの尾を焼き切る!
炎は尾に燃え移り登り、右第一椀の肩まで燃やした。
「ふっ……無駄だと言うのがまだ理解できていないんですかぁ? こんなものすぐに自切して……!?」
アバドンが右第一腕を切り離そうとするが、出来ない事に直ぐに気付いた。
「馬鹿な! 何故自切出来ない!? ……まさか、この炎は私の身体機能を『燃やしている』と言うのか!?」
「そうだ、アバドン……その炎が燃え続ける限り、お前はもう再生できない! これが私の新たな力、《封印の炎》だ!」
封印の炎は燃えている部位の身体機能、及び部位へのあらゆる回復や強化を無効とするエクストラスキル。
つまり、炎が消えるまではいかなる方法でも再生は不可能なのだ。
「ぐぅっ! 小癪な真似ォォォォッ!!」
アバドンは残る三つの腕をスズメバチ、ミイデラゴミムシの腹部、サソリモドキの尾部に変形させ、一斉に攻撃する。
「死ねぇぇい!!」
「遅いッ!」
迫り来る三種類の攻撃を難なく回避しながら接近、そのまま灼熱の角で攻撃する!
「ちぃぃっ!?」
アバドンは咄嵯にミイデラゴミムシの腹部を盾にして防いだが、その瞬間ジュウッという音を立てて左腕が燃える。
「ガアァァッ!?」
アバドンは慌てて上空に跳躍、翅を広げて空を飛ぶ。
そして憎々しげに私を見降ろした。
「お、おのれェェェェェ……! 下等生物ごときがァァァ……!!」
「げ、げほっ……凄げぇぜヤタイズナの奴……でもどうしてあの炎は消えないんだ? あれだけの
火力だ、すぐに炭化して腕ごと火が消えるんじゃ……」
「恐らく火力を調節しておるのじゃろう、あの炎はまるで生き物のように動き、燃え続けておる……ヤタイズナは敵と戦いながらあの炎の温度を調節して敵を少しずつ焼いておるのじゃ、完全に焼け落ちないようにな……」
「戦いながら針に糸を通すような繊細な操作をしているって事か!? とんでもねぇな……」
「何を驚くことがあるバノン、今のあ奴ならあれ位造作も無い事じゃ……儂や魔鳥王達と同じSランクに進化したのじゃからのう」
私は翅を広げ、アバドンを追う!
「調子に乗るなぁぁぁぁッ!」
アバドンは残る左腕二本をチャドクガの幼虫に変形、振り回して毒毛針を周囲に撒き散らす!
「《灼熱の角・鎧》!」
だが、私は全身を炎で纏い、毒気針を燃やしながら一気に間合いを詰める!
「こ、こっちに来るなァァアッ!」
アバドンは左第一腕をムカデの形に変え、私の頭上から叩きつけるように襲わせるが……
「そんなものは通用しない!」
私は頭上から向かってくるムカデに角を突き刺した! すると瞬く間に燃え上がる!
「ギィエエエッ!?」
反撃を受けたアバドンは肩部まで炎が燃え広がるギリギリで自切し、再生させながら更に上空へ蹴り飛んでいく。
「逃がすか!」
すかさず追撃するために飛翔する私。
「チィィッ!」
アバドンが指を鳴らすと、私を阻むように三つの亀裂が出現する!
「ジィィィィッ!」
「ギチィィィィッ!」
「キシャアアッ!」
正面の亀裂からオ・ケラ、右からレインボー、左からウィドーが飛び出してきた!
「ジィィィィィィィ!!」
オ・ケラが爆発の爪を私目掛けて振り下ろし直撃、爆発する!
「ジィィィ……」
だが、私の身体には傷一つ付いていない。
「ジィィッ!?」
「無駄だオ・ケラ、お前の攻撃は、もう通じない!」
驚愕の声を上げるオ・ケラに灼熱の角を叩き込む!
オ・ケラは避けようとしたが間に合わず、右前脚と鋼鉄の首輪の一部を焼き切った!
「ジィィィィィィ!?」
切断部から炎が燃え上がり、オ・ケラそのまま炎に包まれながら真下へと落下して行く。
「ギチィィィッ!!」
続いてレインボーが虹の大顎で七色に輝く七つの衝撃波を私目掛けて撃ち放つ!
「《灼熱(バーニング)の斬撃(スラッシュ)》!!」
対して私は角を振り炎の衝撃波を二つ撃ち放った!
一つ目の灼熱の斬撃が七色の衝撃波を掻き消しながら進み、七つ目の衝撃波と相打ちになる。
そして二つ目の灼熱の斬撃がレインボーの身体を真っ二つに切り裂いた!!
「ギ、チィィィィ……!?」
「シャアアアア!!」
最後の一体、ウィドーが腹部から糸を射出、二つに分かれたレインボーの身体に付け、そのまま糸を操って私目掛けて振り回す!
「甘い!」
私は迫り来るレインボーの上半身と下半身を灼熱の角で斬り裂く!
「シャアアアアアアッ!!」
「《灼熱の角・槍》!」
角の先端に炎が集まり、火力が上がる。
私目掛けて飛び掛かるウィドーを、私は灼熱の角・槍で腹部を貫いた!
「シャ、シャアア……!?」
腹部を貫かれたウィドーの身体は一瞬で炎上、炭化しボロボロに砕け散った。
「おのれ……おのれおのれえエェッ!! どうして私がこんな虫けらごときにィィィィッ!?」
完全に逆上して喚いているアバドン。
「哀れだなアバドン……お前の力は他者から奪い手に入れた偽りの力……昆虫の特性を模倣して変形させる力は確かに強力かもしれない……だけど、所詮は紛い物に過ぎない!」
「黙れ! 貴様如きが知った風な口を利くなぁぁぁあああっ!!!」
「その証拠に一つ教えてやる、私の封印の炎は燃えている部位の再生を無効にする、だがそれには一つの条件がある……それは」
私はアバドンを見据える。
「相手が私のランクより格下であると言う事だ」
「……!?」
「所詮お前はその程度だってことだ、他人を利用し、奪った力で魔王を超越したとか大口を言っているが、偽りの力で強くなったお前なんて、全盛期のミミズさん達には絶対に勝てない!!」
「……ふ、ふふふ、はははは………!」
私の言葉にアバドンが笑い声を上げる。
「調子に乗ってんじゃねぇぞ虫けらガァァァァァァァァッッ!!!」
激昂するアバドンは残った右第一腕と第二腕を自らの左側の胴体に突き刺した!
「ァァァァァッッ!!」
絶叫を上げながら燃えている腕ごと胴体の左半分を無理矢理引き千切った!
引き裂かれた胴体部が蠢き、右腕が再生する。
「ハァ……ハァッ……ならば、その紛い物の力で貴様を……貴様の仲間ごと叩き潰してくれるわァァァァァッ!
アバドンははるか上空へと蹴り飛んでいく。
「オオオオオオオオオオォオオッ!!」
アバドンの胸の魔封石が強く光り輝き始めると同時に、アバドンの両脚が合体、変形しながら肥大化していく!
「な、なんだよアレ……!?」
「まさか、アバドンの奴は……!?」
更にそこに上空のブラッドローカスト達がアバドンの元へ集まり、次々と吸収、融合しながらアバドンの脚は肥大化を続け、形を変えていく。
ヘラクレスオオカブトを中心にスズメバチ、サソリモドキ、ミイデラゴミムシ、クモ、サソリ、カマキリ、トンボ、ムカデ、ハンミョウ……様々な昆虫の身体の一部が混ざり合った漆黒色の禍々しい槍状に変形した。
その全長は50メートルは超えている。
「これが私が持つ全ての力を合わせた姿ッ!! 見ての通りこれにはあらゆる種族の特徴と特性を複合させたっ!! この一撃で……全員地獄に叩き落としてくれるわァァァァァッ!!」
禍々しい物体に複数ついているミイデラゴミムシの腹部からガスが噴射され、アバドンが加速しながら私達の居る玉座の間へと落下し始めた!
「受けるがいい!! 《混沌魔蟲撃(カオス・インパクト)》ォォォォォォォォッッ!!!!!! 」
圧倒的質量が落ちてくるその姿は、まるで宇宙から落ちてくる巨大隕石そのもの!
「あ、あんなモノが落ちたら、玉座の間どころか、城が吹き飛ぶぞぉ!?」
「安心してバノン、アレは私が破壊する」
「む、無茶だぜ! いくらヤタイズナでも……」
「黙らんかバノン! ヤタイズナを信じられんのか」
「い、いや……でもよぉ……」
「ヤタイズナなら出来る」
「ミミズさん」
私は真下に居るミミズさんを見る。
ミミズさんの水晶のような眼には一点の曇りも無い。
「……分かった、俺も信じるぜ! ヤタイズナを!」
「うむ……見せてくれヤタイズナ、お主が手に入れた力を!」
「ああ!」
私は翅を羽ばたかせて、上空のアバドンに向かって行く。
「真正面から受け止める気か! 愚かな……そのまま潰れ死ねェェェェェッ!!」
迫って来る漆黒の物体に対し私は脚を畳み、高速飛行形態を取る。
「《魔蟲の流星》ッ!!」
その言葉と同時に私の全身を炎が包み、その色が蒼に変わる! そして向かってくるアバドン目掛け、超高速で突進する!
その速度は音速を超え、衝撃波によって周囲の空間を歪ませる。
「こ、こいつぁスゲぇッ!」
「……なんと……美しいので御座るか……!」
(きれいー……)
「おお……!」
その姿はまるで、空へと昇る一筋の流星の如く。
激突の瞬間、轟音と共に周囲に衝撃が巻き起こりる。
「ウオオオオオオオオオオッ!!」
「無駄な事を……このまま押し潰してくれるわァァァァッ!!」
アバドンはガスの噴射を強め、徐々に魔蟲の流星を押し始めた。
「フハハハハハハハハハハッッッ!!」
「殿ォッ! 必ず勝つと信じているで御座るよ!」
(ごしゅじんがんばってー!)
(負けないでご主人様ー!)
(主殿! 貴方様なら勝てます!)
(俺、ご主人勝って! 言う!)
(御主人様ーっ!)
(そんな奴ぶっ飛ばしちまえぇっ!)
(貴方様に勝利の音楽を!)
(そんな雑魚、さっさとやっつけろっす……!)
(そんな肉団子の出来損ない野郎、燃やし殺してください!)
(魔王様、勝利を信じております!)
『ギチチチィィィィィ!!』
上空の激突を見守るガタクが、スティンガーが、パピリオが、ソイヤーが、テザーが、カトレアが、カヴキが、ベルが、ドラッヘが、ティーガーが、そしてレギオン達が傷だらけの身体を起こして私を応援する。
「魔蟲王ヤタイズナ! ブロストを倒してくれ!」
「ヤタイズナ……私と、散って行った仲間たちの分まで!」
「私の妹に手をかけたその胸糞悪い屑を葬ってやれ!」
「頼む魔蟲王……この国を救ってくれ、そして我が先祖の想いを……」
「ヤタイズナさん……お姉ちゃんの仇を取ってぇぇぇぇっ!」
ディオス、バロム、ガーベラ、ラグナ、ウィズも私に声援を送る。
「踏ん張れ、ヤタイズナー!」
「押し勝ったれや末っ子ー!」
「勝て! 新たな魔蟲王よ!」
「行くのじゃ、ヤタイズナ!」
バノン、ゴールデンとゴリアテ、そしてミミズさんの声が、皆の応援が私の背中を押してくれる……!
「……ウオオオオオォォォォォオオオオッ!!!」
「な、何だとォォッ!?」
一気に力を増し、押し返し始めた私にアバドンが驚愕の声を上げた。
「ふざけるなァァッ!? 魔人王の力を我が物とし、魔王すら超越した存在になったのだぞ! やがてこの世界総てを手中に収め、世界の理を解明し神として君臨するこの私が! その私がたかだか虫一匹如きにぃいいいいっ!」
アバドンはガスの噴射を極限まで上げ、私は押し返され始める!
「ぐうっ……!」
「くたばれぇっ! 下等生物がァァァァァァッ!!!」
「――……」
『!?』
「どうしました、魔植王?」
『彼女が、目を……』
瀕死の状態であったオリーブが目を開き、驚愕する魔植王。
「ヤタイズナ、さん……」
オリーブは上空のヤタイズナに向けてゆっくりと手を掲げる。
「勝って、ください……私の最愛の虫(ひと)……!」
その言葉を発した後、オリーブの手は力なく地面に落ちた。
「――! オリーブ……」
彼女の声が確かに聞こえた……私は全身全霊を込めてアバドンを押し返す!
「ウオォォォォォォォォォォォォッッ!!!」
「な、何ィィィィィィッッ!!?」
禍々しい物体の先端が赤熱化し始めた。
「有り得ない! ありえない! アリエナイィィィィィィィッ!! こんな事があってたまるかああああっっ!!! 数百年! 数百年だぞぉ!? 魔蟲王に野望を打ち砕かれ、魔人族などと言う下等生物に転生し、魔道具を造りあげ戦力を整えこの姿に戻るまで数百年を費やしたのだぞぉ! その私が、私がァァァァァッッ!!」
遂に私の角が物体の先端を貫通、そのまま溶断しながら突き進む!
「オオオォォォォォォッッ!!」
私は禍々しき物体を真っ二つに焼き切り、アバドンの身体を両断したっ!!
「ギィヤァァァァァァァァァァアアッ!? 馬鹿な! バカナァァァァァァァァッ!?」
アバドンの上半身の切断面が発火し、絶叫を上げながら落下していく。
そして………… ドシャリと音を立てて玉座の間の地面へと叩きつけられた。
二つに分かれた禍々しい物体は燃えながら城の城壁に突き刺さり、崩れ落ちていく。
「やったぜ……ヤタイズナの奴やりやがった!」
「じゃから言ったじゃろうバノン、ヤタイズナなら出来ると」
「殿の勝利で御座る!」
(ごしゅじんー♪)
(ご主人様ー♪)
(主殿ー!)
私の勝利に皆が喜ぶ中、私は速度を落として玉座の間に着地し、身体に纏っている炎を消した。
「ま、まだだ……私にはまだ魔封石が……!」
地面に叩き付けられ、ボロボロのアバドンが先程のように無理矢理切断面を引き千切り、再生を試みる。
胸に埋め込まれた魔封石が輝き始めたその時、青と緑の魔封石にヒビが入り、砕け散った!
「なっ……!?」
魔封石が砕け散った事に驚愕するアバドン。
「馬鹿な、魔封石が砕けるなどあり得ない……!?」
「これで終わりだなアバドン、お前のくだらない野望は潰えたぞ」
「ふ、ふふふふ……確かに私は負けた……だが、まだ潰えてはいない!」
アバドンが指を鳴らすと、残っていたブラッドローカスト達が一斉に散り始めた!
「一体何を!?」
「ふふふ……ローカスト達に無差別に国を襲うように命令した……! 私がほとんど吸収したとは言えまだ数千は居る……早く駆除しなければ国の人間共が犠牲になるぞ」
そう言うとアバドンは再び指を鳴らし、アバドンの真下に亀裂が現れた。
「勿論私が死ねば命令は止まる……なので私は逃げさせてもらう」
「貴様ァッ!」
私はアバトンの元に駆けるが、それより早くアバドンの身体は亀裂の中へ沈んで行く。
「今度はさらに万全を期し、必ず我が大願を成就させてやりますよぉ……ふふふふふ、それでは、ごきげんよう――」
アバドンが愉快そうに笑いながら亀裂の中へ消えていくその時、アバドンの胸部に三又の刃が突き刺さった!
「が、はっ……!?」
「何だ!?」
私が驚愕する中、亀裂の中から何者かが現れる。
「ビャハハハハハ……残念だったなぁ、ブロスト?」
亀裂から姿を現したのは、魔人族六色魔将、赤のビャハだった。
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