第254話 魔蟲王Ⅰ

「ヤタイズナァァァァァッッ!!」

「殿ォォォォッ!!」

(ごしゅじんーーーっ!)

(ご主人さま……)

(嘘っすよね……)


 ガタク達はヤタイズナが落とされた場所に集まり、ヤタイズナを探すが、既にヤタイズナの姿は無く、呆然としていた。


「もはや奴は死に体、だが、念には念を入れておきましょう」


 そう言ってアバドンが右第一腕を戻し、指を鳴らすと空を覆うブラッドローカスト達の一部がヤタイズナの落下して行った場所へと一斉に向かって行く。


「我がしもべ達に奴を貪り喰らわせてやりましょう……さぁてぇ、次は誰にしましょうかねぇ?」


 アバドンは愉快そうに次の獲物を決めていた。


「き、貴様ァァァァッ!! よくも殿をぉっ!!」


 ガタクが怒りに任せ、アバドンに斬りかかる!


「じゃあ次は、お前にしましょう!」

「ぐぅっ!?」

 アバドンの複眼が光らせ、ヘラクレスオオカブトの角でガタクの攻撃を弾き、ガタクの右前脚を斬り飛ばした!


「ぐあああああっ!?」

(ガタクー!?)

(おのれ……よくも師匠を!)

(俺、許さない、絶対殺ス! 言う!)

(ぶっ飛ばしてやるぜぇ!)


 斬られたガタクを見て他の者達の怒りが爆発し、一斉に襲い掛かる!


「ふふふふふ! いいですねぇ、もっと来なさい! あの虫ケラの後を追わせてやりますよぉ!」


(くらえーっ!)


 スティンガーが尻尾の毒針でアバドンを攻撃するが、右第二腕のタートルアントの頭部で受け流し、そのまま左腕で尻尾を切断!


(ぐぅっ!?)

(《斬撃》ィ!)

(《岩の大鋏》ィッ!)


 ソイヤーとテザーが同時に攻撃! だがアバドンはそれをたやすく避ける。


「はい残念、それでは貴方達にはコレを差し上げましょおおおっ!」

(ぎゃああっ!?)


 アバドンが右足でスティンガーを空中に蹴り上げ、そのままテザー目掛けて蹴り飛ばした!


(くそったれェッ!)


 テザーは蹴り飛ばされたスティンガーを尻尾の鋏で受け止めるが、衝撃を逃がせずに吹き飛び壁に激突した!

 続いてアバドンは右第一腕をカマキリの前脚に変化させ、ソイヤー目掛け振り下ろす!


(くっ! 《斬撃》!)


 ソイヤーは斬撃を放ってアバドンの腕を弾く! その隙を見逃さず、アバドン目掛けて突撃!


「甘いんですよぉっ!!」


 しかしアバドンは右第一腕をイチジクコバチの尾に戻し、ソイヤーの胴体に巻き付ける。


(何っ!?)

「そぉれっ!」


 アバドンはイチジクコバチの尾を振り回し、そのままソイヤーを地面に叩き付けた!


 地面は大きく陥没し、砂煙が上がる。


「ぐはあああっ!?」

「次ぃ!」

 次にアバドンは左腕の変形を解き、第一腕をトンボの頭部に変え、翅を広げ一気に加速し、ガタクに突進する。


「ぬうっ!?」


 ガタクは何とか回避するが、アバドンは空中を蹴り方向転換、再びガタクに突っ込む。

 咄嗟に左の大顎で受け止めた!


 ガキンッ!と金属音に近い音が鳴り響く。

 ガタクの大顎に噛み付いたトンボの頭部の顎がギリギリと音を立てながら押し込もうとする。


「ぐっ……!!」

(《大鎌鼬》っす!)


 空中からドラッヘがアバドン目掛けて大鎌鼬を放つ!


「おっとぉ!」

「ごはぁっ!?」


 アバドンはガタクの大顎を離し、左足でガタクを蹴りその衝撃で後ろに跳び、大鎌鼬を回避!


「次はお前ですよぉ!」


 アバドンがドラッヘに狙いを定め、脚を畳み一気に空中へと跳躍!


(自分のスピードなめんなよっす!)


 空中をジグザクに飛ぶドラッヘを、アバドンは周りを囲むように、空中を縦横無尽に蹴り飛び追いかける。


(へっ! そんなへなちょこな動きじゃ自分に追いつくのは一生無理っすね!)

「ふふふふ……! さてそれはどうでしょうねぇ」


 不敵に笑うアバドンを警戒しながら空中を飛び続けていたその時、突如ドラッヘの前翅に糸が絡みついた!


「っ!? これは……!?」


 バランスを崩しながらも急停止したドラッヘが周囲を見渡すと、自分とアバドンを囲むように無数の極少の糸が宙を浮いている事に気付いた。


「私がただ闇雲に動き回っていたと思いますかぁ?」


 そう言ってアバドンはクモの腹部に変形させた左第二腕をドラッヘに見せつける。


「私が動き回っていたのはこの蜘蛛糸を張り巡らせるため、喰らいなさいっ!」


 アバドンは右第一腕をサソリモドキの尾部に、第二腕をミイデラゴミムシの腹部に、左第一腕をスズメバチの尾部に変形させ、全ての部位から一斉に液とガスを射出した!


(ちぃぃっ!)


 迫り来る大量の液体とガスを避けようとするが、前翅の一枚が糸が絡まり動きが鈍っていたため、総て回避出来ずサソリモドキの酸液が右前翅を直撃してしまった!


(ぐうぅっ!!?)


 ジュウゥッ! と言う音と共に右前翅が溶け、ドラッヘは地上へと落下していく!


「そぉれっ!!」


 アバドンは自由落下中のドラッヘの真上から勢いよく蹴り、地面に叩き付けた!


(ぐっ、はぁ……!!)

「これでトドメですよぉ!」


 アバドンは一気に急降下、左第一腕のハチの腹部から針を出しドラッヘ目掛け突き刺そうとする!


(させません、《風の翅》っ!)

(《花の鎌》ですわっ!)


 そこにパピリオとカトレアがアバドンを攻撃! アバドンは横に蹴り跳んで風の翅と花の鎌を

 回避する。

 その間にスティンガーがドラッヘを鋏で掴み、その場を離れる。


(ドラッヘ、だいじょうぶー!?)

(ぐ……下手こいちまったっす……)

(損傷がひどい……! 直ぐに傷を癒します)

(悪いっすけどお願いするっす……)


 ベルが癒しの鈴音でドラッヘを治療する一方、パピリオとカトレアがカヴキと共にアバドンに攻撃する!


(《風の翅》!)

(《花の鎌》!)

(喰らいやがれぇ、《水鉄砲》!)


 カヴキの水の弾丸をアバドンは右足一本で蹴り飛ばす。


「はあああっ!」

(むううううっ!)


 続いてガタクとソイヤーもアバドンを攻撃しようと向かってくるが、アバドンは翅を広げ空中に飛び立つ。


(逃がしません!)


 パピリオが翅を羽ばたかせ、アバドンを追いかける。


「拙者達も行くで御座るよ!」

(御意!)


 ガタクとソイヤーが後に続く。


「ふん!」


 アバドンがパピリオ目掛け再び三つの腕から液とガスを噴射する!


(喰らいません!)


 パピリオは風の翅で液体を吹き飛ばす!


「《大鎌鼬》で御座る!」

(《斬撃》ィッ!)


 更にガタクとソイヤーが大鎌鼬と斬撃を放ちアバドンを攻撃するが、アバドンは空中を蹴り上がり難無く避ける。


「ふははははっ!」


 アバドンは上空で反転し、空中を高速かつ連続で蹴り動きながら三匹に向かっていく!


「くっ!」

(速いっ!)

(姿が見えませんっ)

「貴女の後ろですよぉ」


 パピリオの後ろを取ったアバドンは左右の第一腕を元に戻し、ハピリオの両翅を掴み引き千切る!


(あああああああああっ!?)


 両翅を失ったパピリオはそのまま落ちていく。


「パピリオっ!?」

(よくもハピリオをっ!)

(許せませんわ!)


 怒りに震えたカトレアが下からアバドンに襲いかかる!


(《花の鎌》!)


 カトレアの花の鎌の香りを第二腕のミイデラゴミムシのガスでかき消し、そのまま下に急降下してカトレアに急接近して顔面に蹴りを叩き込む!


(っ!?)


 身体を逸らして回避しようとするが、避けきれずに喰らってしまいカトレアの右の複眼が弾け飛んだ!



(ぎゃああぁぁっ!? 目がぁぁっ!)

「隙だらけですよぉ!」


 アバドンは今度は左第ニ腕をハンミョウの頭部に変形させカトレアの頭部を噛み砕こうとする!


(させるかよぉっ! 《水の鎌》ッ!)


 そこにカヴキが飛んできて、水の鎌でアバドンの攻撃を受け止めた!


(へっ、どうだ!)

「面白いですねぇっ」


 アバドンはカヴキを見てニヤリと笑い、左第一腕をサシガメの頭部に変形させ、カヴキの腹部に口吻を突き刺さした。


(ぐぅぅっ!?)

「ふぅむ、貴方の体液はあまりおいしくありませんねぇ」


 アバドンはカヴキの体液を啜りながら、地上へと降下し、そのまま地面に叩き付けた!


(ごは……っ!?)

「カヴキーーッ!!」


 アバドンは次に自分を追って降下してきたガタクとソイヤーの方を見る。

「次は貴方達ですかぁ?」


 アバドンはそう言って三度右第一腕、第二腕、左第一腕をサソリモドキ、ミイデラゴミムシ、スズメバチに変形させガタクとソイヤーに向けて液とガスを放つ。

 ガタクとソイヤーはギリギリで回避するが、アバドンは既にガタクとソイヤーの目の前まで迫っていた。


「では、そろそろ終わりにしましょうかぁ!」


 まずはガタクの頭上に飛び上がり、落下しながらガタクの背中を踏みつけた!


「ぐはぁっ!?」

 ガタクの身体は地面に叩き付けられ、衝撃で地面が陥没する!


(師匠っ!?)

「そぉれもう一丁!」


 アバドンは弧を描くように跳躍し、ソイヤーの背中に飛び乗る。

 そして全部の腕を戻し、ソイヤーの両前脚と中脚を掴んで無理矢理引き千切った!


(ぎゃあァァァァッ!?)


 ソイヤーの脚を引き千切った直後、アバドンはソイヤーを空高く放り投げた。

 ソイヤーはそのまま落ちていき、最後はガタクに激突した。


「が……はっ!?」

(う……)

(ソイヤー、ガタクーっ!)


 スティンガーが悲痛な叫びを上げる。

 アバドンは最後の仕上げとばかりに右第一、第二腕を合体、ヘラクレスオオカブトの頭部に変形させ構える。


「死ねぇぇぇっ!」


 アバドンはガタクとソイヤー目掛けてヘラクレスオオカブトの頭部で突く!


(《岩の大顎》ッ!)

(《岩の大鋏》ィッ!)


 だが、その攻撃は直撃寸前でテザーとティーガーが受け止める!


(彼等を、肉団子には……させません……!)

(俺、なんて重い一撃、言う……!)


「ほほう、まだ動けましたかぁ」


 アバドンは少し驚いた様子で二匹を見た後、ニヤリと笑う。


「その根性が何時まで持ちますかねぇ!?」


 そう言って地面を蹴りヘラクレスオオカブトの角を押し込む。


(ぐぉぉぉぉぉ……っ!?)

(俺、負けない、言う……っ!)


 その時だった。


 アバドンの後ろから無数の鉄の針が投げられた!

 だがアバドンは背中からジュエルキャタピラーの分泌液を出し針を受け止めた。


「ちぃっ!」

「お前のやる事など読めているんですよぉ、ディオス」

 そう、針の投擲主はディオスだった。


「ならばッ!!」


 ディオスは二本の短剣を抜き、アバドンに投げつけ、それと同時に接近する!

 だが、アバドンは左第一腕をタートルアントの頭部に変形させ短剣を弾き、テザーとティーガーごと右腕をディオス目掛けて振り下ろす!


「無駄ですよぉっ! 私にそんな物は効きません!」


 だが、アバドンは左第一腕をタートルアントの頭部に変形させ短剣を弾き、テザーとティーガーごと右腕をディオス目掛けて振り下ろす!


(何ィ!?)

(何と……っ!?)


 ディオスは上に跳んでヘラクレスオオカブトの角を回避、角はそのまま地面に叩き付けられその衝撃でティーガーとテザーが引き剥がされる。


 ディオスは角の上に乗り、そのまま走りアバドンの元へ向かう。


「相変わらずすばしっこい、ならばこれでぇ!」


 アバドンは腹部にクマゼミの腹弁を作りだした。


「そうはさせんっ!」


 ディオスは懐から小箱を取り出し、導火線に火をつけて投擲、小箱はアバドンの腹弁に貼り付いた。


 それと同時にディオスは角の上から飛び降り地面に刺さっていた短剣を回収する。

 導火線が木箱内部に入り、爆発する!


 黒煙が舞う中、アバドンが出てくる。


「腹弁が破壊されたか……だがこの程度すぐに……」


 そう言ってアバドンが胸部の魔封石を光らせ腹弁を再生させようとしたその一瞬。

 アバドンの背後からバロムが黒煙をから現れ、剣でアバドンの首を斬り飛ばした!


 アバドンの首は弧を描き地面に落ちた。


「……その一瞬の油断が命取りだ、ブロスト」

「……っ!? 先生!」


 ディオスの声を聴いて後ろを向くバロム。

 それと同時に首の無いアバドンが右腕をバロム目掛けて振り下ろした!


「何ッ!?」


 バロムは咄嗟にヘラクレスオオカブトの角を回避するが、追撃の右蹴りを腹部に喰らってしまう!


「ぐ、ああっ!?」


 バロムは吐血しながら吹き飛び、壁に激突する!


「先生っ!」


 ディオスがバロムに駆け寄っている間に、アバドンが左第二腕をイチジクコバチの尾に変え、落ちている自分の首を回収し、身体にくっ付けた。


「ぐ……! 首を断たれても、動くとは……」

「ふふふふふ……愚かですねぇバロム……魔人王の力を取り込んだ私がこの程度で死ぬと思っていたんですかぁ? もはや私は魔王すら超越した存在へと進化したんですよぉ! もはやお前達に勝ち目など無いんですよぉ! ふふふふふ……ははははははは!」


 アバドンが高笑いを上げる中、背後から大剣を持って駆けるウィズの姿が!


「よくも……ヤタイズナさんと、お父さんと……お姉ちゃんォォォォッ!!」

「ウィズ、止めるんだぁっ! お前の勝てる相手では無い!」

「ウオオオォォォォッ!!」


 バロムの制止を振り切りアバドンの懐へと入るウィズ。


「親が愚かなら子も愚かですねぇ!」


 大剣を振りかぶるウィズに対してアバドンは右脚を畳み、ガチッと言う音と共に脚を開放して蹴りを放つ。

 大剣は蹴りを受けた瞬間、真っ二つにへし折れた!


「さぁ、これで……何ッ!?」

「オオオオオオッッ!!!」


 ウィズは折れた大剣を咄嗟に離し、アバドンの顔面目掛けて拳を放った!

 拳はアバドンの顔をもろに直撃!


「ぐ、おお……!?」

「アアアアアアアアアッッッ!!!」


 その一撃でアバドンは回転しながら吹き飛び、柱に激突した!


「アバドンを、殴り飛ばしたじゃと……!?」

「マジか、ウィズの奴やりやがったぜ!」

「ハァッ、ハァッ、ハァ……痛っ……!?」


 後方のミミズさん達が驚く中、ウィズは肩を上下させながら呼吸を整えていると、額に痛みを感じ押さえた。


「なにこれ……角……?」


 違和感を感じたウィズが自身の額を触ると、小さな角が生えている事に気付いた。


「あれは……まさか、ウィズの中に流れる魔人族の血が……!?」


 その光景を見てバロムは驚きを隠せないでいる中、瓦礫の山からアバドンが起き上がる。


「……やってくれるじゃないですか……この小娘がァァァァァァァッ!!」


 怒り狂うアバドン。

 その眼光には殺意しか無かった。


「下等生物ごときがこの私を……殺す……殺してやるぅゥゥ!!」

「ひっ……」


 あまりの迫力にウィズは恐怖し、後ずさる。


「殺すゥゥゥゥゥ!!」


 アバドンは全ての腕を元に戻し、脚を畳み地面を蹴り一瞬でウィズの背後に回る!


「っ!?」


 振り返ろうとしたが、それよりも早くアバドンの右回し蹴りがウィズの背中に炸裂する!


「ガッ……!?」

「死ねェェッ!!」


 更に左第一腕による裏拳を喰らい、壁に叩きつけられる!


「ウァ……!」

「まだだぁ!」


 アバドンは追い打ちを掛けるように右第二腕でウィズの頭を鷲掴む。


「グ……ッ!?」

「このまま握り潰してくれるわぁ!」


 右手に力を入れていくアバドン。

 ミシミシと頭蓋骨の軋む音が鳴り響く。


「く……あ……!?」

「アバドン、止めろぉ!」

「うるさい黙れぇ!」


 ディオスが叫ぶが、アバドンは聞く耳を持たずウィズの頭蓋を砕こうとしたその時!


「ウオオオォォッ!!」


 バロムが雄叫びを上げ、アバドンの右腕を斬り落とした!

「何ぃ!?」


 切断された事でウィズを掴む力が弱まり、ウィズはそのまま床に投げ出された。


「おとう、さん……」

「ウィズ、大丈夫か!?」


 バロムがウィズの元に駆け寄る。


「うん、何とか……」

「そうか……」


 バロムが安堵した直後、バロムの首元目掛けてアバドンの右第一腕の抜き手が迫ってきた!


「お父さん、危ない!」


 ウィズは咄嵯にバロムを突き飛ばし、抜き手を背中に受けた!

「ぐぁ……!」

「ウィズ!?」

「ウィズ!?」

「お父、さん……」

「下等生物が……今度こそ終わりだぁ!」


 アバドンは左手の指先でウィズの心臓目掛け貫こうとする!


「ウィズっ!」


 バロムがウィズの元へと駆け寄ろうとするが、間に合わない!


 しかし、アバドンの突きはウィズを貫く事は無かった。

 何故なら……


「ぐ、ふぅ……!?」

「ディオス!?」


 ディオスがアバドンの左腕を身体で受け止めていたのだ!


「ディオス……さん……!」

「ウィズ、無事か……良かった……」

「そんな、どうして……!?」

「私は……ウィズに死んで欲しく無かった……それだけ、だ……」

「ディオスさん……自分の命より私の事を……!?」


 ウィズは自分の為に身体を張ってくれたディオスに涙を流した。


「どいつもこいつも自分よりも他人の事を守る……反吐が出る!」


 アバドンは指を抜き、ディオスを蹴飛ばした。


「さぁ、もう邪魔者は居なくなった!こんどこそとどめを……」


 そう言いかけた時、アバドンの後頭部に瓦礫が直撃した。

 アバドンが振り返ると、バノンが瓦礫を振りかぶっている姿があった。


「……何のつもりだ?」

「テメェの相手は、この俺だ!」


 そう言って瓦礫を投げつけるバノンを見て、失笑するアバドン。


「本当、どいつもこいつも馬鹿ばかりですねぇ……」


 そう言いながらアバドンはバノンに一瞬で近づき、腹部に拳を叩き入れた。


「ガッ……!?」

「何も出来ないドワーフ風情が」

「バノン!!」

「バノ……ンさん!」


 バロムとウィズが悲痛な声を上げる中、バノンは地面に倒れた。

 その衝撃で、懐からバロムから受け取っていた魔蟲の宝珠が転げ落ちた。


「ん? これは……」


 魔蟲の宝珠を拾ったアバドンが、後方に居るミミズさんを見た。


「……ふふふふふ」


 そして邪悪な笑い声を上げ、ミミズさんの元へ跳び、魔植王の蔦を引き剥がし右第一腕でミミズさんを掴んだ!


「ぐっ!? は、離せこの屑野郎めが……!」

「ふふふふ……矮小な存在になってもその口は昔とちっとも変わっていませんねぇ、魔蟲王ヤタイズナ、何故あのドワーフがオリジナルの魔蟲の宝珠を持っているか知りませんが、これはとても楽しい事が出来ますねぇ……」

「なんじゃと……? 貴様……一体何をするつもりじゃ……!?」

「えぇ、教えてあげましょう! これから貴方には私の玩具となってもらうんですよぉ!」

「玩具、じゃと……!?」

「ええ、この魔蟲の宝珠は魔蟲王、貴方の骸から造られたモノ……本来なら生物を蟲へと変態させるものですが、貴方がこれを取り込むと、どうなると思いますかぁ?」

「……まさか!」

「えぇ、ご想像の通りです、貴方は本来の力の一部を取り戻すことが出来る、最低でも全盛期の六分の一程度でしょうが、ソレでも十分強力な力をねぇ……そして」


 アバドンが目の前に小さな亀裂を出現させ、中から小さな蜘蛛型魔道具を取りだした。


「これで貴様を制御下に置き、魔蟲の宝珠を取り込ませ、力を取り戻させる! そしてその力で仲間を、そしてこの国を滅ぼしてもらいましょうかぁ!」

「!? ま、まさか……魔鳥王の予言は、この事じゃったのか……!」

「ふふふふ……愉快ですねぇ、かつてアメリア王国を滅ぼした貴様が、再び国を滅ぼすと言うのだから……」

「貴様ぁ……!」


 ミミズさんがアバドンを睨むが、アバドンは意にも介さず愉快そうに笑い続ける。


「さぁ、哀れな魔蟲王よ……我が支配下に入るが良い……」


 そう言ってアバドンがミミズさんに蜘蛛型魔道具を近づける。


「させるかァァァ!!」


 ガーベラが剣を抜き、アバドンに飛び掛かる!


「今良い所なんですよねぇ……引っ込んでろ!」

「ぐはぁっ!?」


 アバドンは回し蹴りをガーベラに喰らわせる!

 ガーベラは吹き飛び、地面に倒れた。

「魔王様を離せぇ!」


 続いてゴリアテもアバドンに攻撃する!


「うっとおしいって言っているんですよぉ!」


 アバドンは飛び、両脚を畳み、必殺のドロップキックでゴリアテを蹴り飛ばした!


「ぐおおおおおお!?」

「ゴリアテ!? 大丈夫か!?」

「さぁ、今度こそ……」

「……」


 蜘蛛型魔道具を近づけるアバドン、だがミミズさんは動揺せずにアバドンを見据えていた。


「……気に食わないですねぇ、何ですかその目は?……あぁ、そう言う事ですかぁ! 内心では自分が支配されるのを恐れているのを悟られたくないんですねぇ! バカな強がりは止めて、恐怖に歪んだ顔を拝ませてくださいよぉ!」

「……哀れじゃのう」

「……あ?」


 ミミズさんの言葉に、アバドンは動きを止めた。


「貴様は恐れているんじゃろう? 儂とヤタイズナを」

「……ふっふははははははは! 恐れるぅ? 今の私は全てを超越した存在となっている、貴様のような矮小な存在を恐れる必要が何処にあると言うんですかぁ?」

「ならば何故、自分にその魔蟲の宝珠を使わぬ? それを使えば更なる力を得れるじゃろうに」

「……何が言いたいのですかな?」

「簡単な話、貴様は怖いんじゃろう? もしそれを使えば自身の身体にどのような事が起こるか調べ尽くしていないから……だからこそ魔蟲の宝珠を自分の強化では無く儂に使うことにした、違うか?」

「……」

「……図星か」

「……黙れ」

「図星のようじゃな」

「……黙れェ!」


 アバドンが蜘蛛型魔道具をミミズさんに近付ける。


「……一つだけ忠告しておいてやろう」

「……?」

「貴様ではヤタイズナには勝てぬ」

「……!?」


 ミミズさんの一言を聞いた瞬間、アバドンは大笑いを上げた。


「はははははははははは!! 遂にイカレたんですかぁ!? 勝てないも何も、奴は既に私に敗北してるんですよぉ!」

「……」

「ヤタイズナはすでにこの世にいない……つまり、どういう事か分かりますかねぇ? 答えは……貴方達の負けって事ですよ!」

「それはどうかのぉ……? あ奴はあの程度では死なん、何故なら……この儂が認めた、新たな魔蟲王なんじゃからのう!」











 ――数分前、アメリア城中庭。



「――う、うぅ……」


 私は中庭の真ん中で倒れ、徐々に体が黒炎で焼け、灰になり始めていた。


 ……これで終わりか。


 私は自身の身体が終わりを迎えようとしているのを悟っていると、上空から羽音が聞こえて来た。

 何とか身体を動かし上を見ると、ブラッドローカストの大群が私に向かって来ていた。


 私に止めを刺しに来たのか……だが、この黒炎で私は外敵から守られている、代わりに炎によって死ぬ運命だけどな……


 スティンガー、ソイヤー、パピリオ、テザー、ガタク、レギオンとアント達、カトレア、ベル、ティーガー、カヴキ、ドラッヘ、エンプーサ、ゴールデン、ゴリアテ……そしてミミズさん。


 ごめん皆……私には何も出来なかった……


 ブラッドローカストが私を襲うその時。

 何者かが私をブラッドローカスト達から守ってくれた。


「……! レギ、オン……」


 そう、私を守ってくれたのはレギオンとアント達だった。


(……魔王様、生きておられて良かった)

「! レギオン、お前……喋れるようになったのか……?」


 私が驚く中、レギオンが言葉を続ける。


(はい、記憶の統合に時間が掛かってしまいまして、申し訳ありません)

「記憶の、統合……?」

(はい、我等レギオンアントは群にして個、個にして群体なのです、記憶の統合が完了したことで他の個体も統合進化を果たしました……たとえ私が死んでも他のアントがレギオンとして群れを率いるのです)

「それじゃあ、お前は……」

(はい、私は先代レギオンより後を任された二代目レギオンなのです)

「そう、か……やはりレギオンは……あの時……」

(……その事で魔王様、お話があります)

「話……?」

「ギチギチギチギチ!!」


 私達の話を遮るように、ブラッドローカスト達が再び襲い掛かる!


(ソーアント・レギオン部隊及びガーディアント・レギオン部隊! 魔王様に一匹たりとも近づけるな!)

『ギチチチィィィィッ!』


 レギオンの指示で、アント達が陣形を組み、ブラッドローカスト達を蹴散らしていく。

(話を続けます、魔王様、私は遺言を預かっているのです……先代レギオンの遺言を)

「何だって……!?」


 レギオンの、遺言……!?


(時間が掛かりましたが……ようやく伝えられる……)

「教えてくれ……レギオンは、私に何を……?」


 レギオンは数秒間の沈黙の後、語り始めた。


(『魔王様……この遺言をどんな気持ちで聞かれているかは分かりませんが、きっとお優しい貴方様の事だ、自分たちの死を重く受け止め、立ち止まってしまわれているかもしれないであります』)

「……」

(『しかし、我らの願いは決して足を止めず、前を向いて歩き続けてほしいのです』)

「……!」

(『我らは貴方様と出会えてとても幸せでした、貴方様の為に戦えたことは誇りです、どうか我々が死んだ事を悲しまず、胸を張って歩いてほしい……貴方の道を真っ直ぐに……それが、我が最愛の主である、魔王様へ送る、最後の言葉であります……』)

「レギオン……!」


 レギオンの言葉を聞き、私の目から流れるはずの無い涙が流れている気がした。


「う……ぐっ……!」

(『さようなら……どうか、お元気で……貴方の進む道に、幸あらんことを……』)

「うぁあああっ!」


 私は溢れ出る感情のまま、声を上げた。


「うあ……わ、私は! 私は、お前たちの主でよかった! ありがとう!」


 私は満身創痍の身体を無理矢理起こし、前を見据えた。


「私はお前たちを忘れない! 忘れるものか!! だから私は行くぞ!! 前に進んで見せる!!! うあああああ!!!」


 私は絶叫を上げ、立ち上がり、それに呼応するように、黒炎が勢いを増していく。

 私は黒炎を纏いながら、ブラッドローカストの大群に向かって行く。


 私の意思に呼応して黒炎が激しく燃え上がり、ブラッドローカスト達を燃やしていく。


「私は……私はぁ!」

(……それでこそ、我らが主)


 私はブラッドローカスト達を焼き切りながら前へ進んで行く。


「お前たちが命を掛けて守ってくれたこの命に誓って、私は進み続ける! だから、見守っていてくれ! 私の戦いを! これが……私なりの弔いだ!!」


 ブラッドローカスト達を燃やし尽くした瞬間、私の頭に声が響く。


《ブラッドローカストの群れを倒した。ヤタイズナはレベルが150になった。条件を達成しました。イフリートビートルへの進化が可能になりました。 進化しますか?》


「ああ……進化する! 私には……やるべきことがあるんだ!」


 その言葉と同時に、私の身体が光り輝き始めた!








「――愚かさもここまで来れば立派なもんですねぇ……夢は寝てから見なさい」


 そう言ってアバドンがミミズさんに蜘蛛型魔道具を取り付けようとしたその時。

 外に一本の巨大な蒼い火柱が出現した!


「何ッ!?」


 驚くアバドンに向かって、火柱から炎の斬撃が放たれ、左右第一腕を切断した!


「ぐぅっ!?」


 ミミズさんと魔蟲の宝珠が地面に落ち、アバドンは後方に跳び、火柱を見た。


「なんですか、あれは……!?」

「ふっ……決まっておろう、あ奴が戻って来たのじゃ!」


 火柱が消え、中から一匹の甲虫が姿を現す。


 頭部に生えた一本の長い角に前胸部に生えた短い角。

 そして、その身体は燃え盛るような赤色をしている。


「まさか……そんな馬鹿な!?」


 アバドンが驚愕する中、その甲虫は降り立ち、アバドンを見据える。

 そして彼は叫んだ、誇り高く!


「我が名はヤタイズナ! 愛する仲間と想いを胸に、己が道を信じ突き進む者! 六大魔王が一体、魔蟲王ヤタイズナである!!」

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