第252話 憤怒の黒炎Ⅰ

「アアァァァァアアアアアアアッッ!!」

「何ッ!?」


 私は起き上がり、怒りに身を任せて角を振ってアバドンの右第一腕を切断した!

 突然の攻撃に動揺すること無く、アバドンは即座に私から距離を取った。


「これは油断しましたよぉ、まだそんな力を隠し持っていたとはねぇ……ですがこの程度の傷など私には……っ!?」


 アバドンは切断された右第一腕を再生させようとするが、切断個所から黒炎が燃え続けているせいで、再生が阻害されていた。


「これは……成程、厄介な力ですねぇ……」

「アアアアアアッ!」


 私は翅を広げ、アバドンに突進する!


「チィィィッ!」


 アバドンは上に跳躍する事で私の突進を回避、そのまま翅で空中に留まっている。

 私も上へ軌道を変更し、再び突進する!


「オマエハ……オマエダケハユルサナイィィィィィッッ!!」

「ふふふふ……!」


 アバドンは余裕の笑みを浮かべながら、私の攻撃を躱し続ける。





「――いかん、止めるのじゃヤタイズナ!」

「ど、どうしたんだミミズさん、そんなに慌ててよう、ヤタイズナの様子がおかしいのは分かるが、あのアバドンの野郎が防戦一方になってんだから良いんじゃねぇのか?」

「馬鹿者が! 分からんのかバノン! あの力は恐らくヤタイズナ怒りによって進化したスキル……じゃがあれは負の力なのじゃ」

「負の力だって?」

「そうじゃ、怒りに身を任せて力を振るえば待つのは破滅のみ……見よ、あ奴の身体を……」


「アアアアアアアアアアアッッ!」


 身にまとう黒炎によってヤタイズナの身体が徐々に焼け始めていた。


「身体が力に追いついておらんのじゃ……仮にアバドンを倒したとしても、あ奴は自分の力を制御できずに燃え尽きてしまうぞ……!」

「嘘だろ……!?」

「ヤタイズナっ! 正気に戻るのじゃ! 今のお主はあの時の儂と……友を失い、湧き上がる怒りのままにアドニスの国を滅ぼしてしまった儂と同じなんじゃ! 儂と同じ過ちを繰り返すな!」


 ミミズさんの叫びはヤタイズナには届かず、ヤタイズナは戦い続ける。


「ヤタイズナ……っ!」

「くそっ、どうすりゃいいんだよ」

『魔蟲王、今は私達に出来る事をするのです……魔鳥王、私達を彼女の元へ』

「分かりました」

「何?」

「お、おい!?」


 魔植王の言葉を聞き、魔鳥王が脚でミミズさんとバノンを掴み、オリーブの元へと飛んでいく。


「う……うぅ、ぅぅ……!」

「ウィズ……」

「オリーブ……私は……」

「……くっ!」


 泣きじゃくるウィズをディオスが寄り添っている。

 ラグナは地面に膝を付いてオリーブを見つめ、ガーベラは地面に拳を叩きつけていた。


『バロム』

「っ!」


 魔鳥王がバロムの元にミミズさんとバノンを連れて来た。


「魔植王!」

『彼女の容体は?』


 魔植王の言葉にバロムは横たわるオリーブを見る。


「……息はしている、だがあの傷では後数分もしないうちに……」

『私に任せてください、バノン、私を彼女の傍に』

「お、おう!」


 魔植王に促され、バノンはオリーブの傍に植木鉢を置いた。


『《治癒の蔦》、《魔植の加護》』


 植木鉢から蔦が伸び、オリーブの胸の傷口に触れると同時にまばゆい光がオリーブを包んだ。


「え……?」

「これは……そうか魔植王の……」

「暖かい光……この光は一体……?」

「バロム、あの植木鉢は一体なんだ? この光は?」

「ラグナ、あれこそが六大魔王が一体……魔植王だ」

「なっ!? 何だと……!?」

「バノン殿の持っていた植木鉢が魔王とは……」

『生命活動の活性化及び傷の治療を同時に行います、これで何とかなるはず……っ!?』

「どうしたんだ魔植王?」

『傷口が再生しない……恐らくはアバドンが使用した魔蟲の宝珠の影響でしょう……』

「何だって……!?」

『ですが、あきらめはしません……魔鳥王、貴女の力を私に吸収させてください』

「……分かりました、やってください」


 魔鳥王が翼を魔植王の前に出すと、魔植王の蔦が翼に絡みつくと、魔鳥王の身体が光に包まれた。


「魔鳥王、お主まさか魔植王に体力を吸わせておるのか!? そんなことをすればお主の命も危ういぞ!」

「……たとえそうなったとしても、また転生するだけです、よ……」

「魔鳥王……ええい! ならば魔植王、儂の体力も使えい!」

『しかしそれでは貴方も……』

「構わんわ! どうせ今の儂はあまり役に立たんからのう、こういう時位カッコつけさせろ! ……ただし死ぬギリギリぐらいで吸い取るのを止めるのじゃぞ!」

『分かっています、では……』


 蔦がミミズさんの身体に絡みつき、ミミズさんが光に包まれる。


「ぬぅぅ!? ……結構……きついのう……じゃがこれしきの事ではぁぁ……」

「くぅっ……!」

『これだけの力があれば、なんとかなるはずです……』


 オリーブを包む光が徐々に大きくなっていく。


「どうじゃ、魔植王……?」

『……ほんの少しですが、傷口が再生を始めました……ですが、力の消費も激しい……』

「お姉ちゃん……」


 ウィズがオリーブの手を握る。


「頑張って……お姉ちゃん……!」


 ウィズはオリーブの手を握りしめながら、祈る様にそう呟いた。

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