第242話 虫愛づる姫君を救い出せⅧ

「《閃光の剣》!」


 ユウヤは一気にブロストへと接近し、閃光の剣での横薙ぎ攻撃を繰り出す!


「単調なんですよぉ!」


 ブロストは容易く攻撃を回避、脚で剣を蹴り上げた。


「なっ……!?」

「そおれ、飛んでいきなさい!」


 そのまま態勢を崩したユウヤの胴体目掛けて、渾身のミドルキックを放つ!


「ぐ、ぁぁぁぁっ!?」


 もろにミドルキックを喰らったユウヤは吹き飛ばされ、壁に激突、地面に崩れ落ちる。


「あ、ぁぁぁぁ……!」

「痛いですかぁ? 苦しいですかぁ? ふふふふふ……!」


 先程ブロストに貫かれた腹部を押さえ苦しむユウヤを見て、ブロストは愉快そうに笑っていた。


「……こ、この程度の傷……何ともない……!」

「やせ我慢しているのがまる分かりですよぉ? そのまま倒れていれば楽になれていたと言うのに……」

「言っただろう……俺は勇者、ユウヤ・オオトリ……勇者は決して悪に屈しない……何度でも立ち上がるんだ!」

「悠矢……皆、戦いましょう! 悠矢のように!」

「わ、私も頑張ります……だって私も勇者ですから!」

「間人だろうが何だろうが関係ねぇ……俺達は俺達だ!」


 ユウヤの姿を見て、アヤカ達も立ち上がり、戦闘態勢を取った。


「……はぁぁぁぁぁぁっ……」


 その光景を見たブロストが大きくため息を吐いた。


「一匹の人間に呼応して次々と立ち上がる人間共……なんか昔を思い出しますねぇ……いい加減うっとおしいんだよ、下等生物共が」


 ブロストの眼が今まで以上に赤く光り、足元の床にヒビが入ると同時に、一瞬でアヤカの目の前に移動していた!


「えっ!?」


 驚愕するアヤカの腹目掛けてブロストの跳び膝蹴りが炸裂する!


「あぁっ……!?」


 ブロストは衝撃で宙に浮かぶアヤカの頭部に、追撃の踵落としを喰らわせる!

 踵落としが直撃したアヤカは地面に叩き付けられ、身体を痙攣させている。


「綾香っ!?」

「よくも……綾香ちゃんを! シロちゃん! あいつを……ぶん殴って!」


 ミズキの命令でシロがブロストに接近し、渾身の右ストレートを打ち放つ!

 それに対してブロストは空中に跳び、右脚を『畳(たた)んだ』。


 そして数秒間畳んでいると、『ガチッ』と言う音が聞こえると同時に勢いよく脚を戻す!

 さながら銃から放たれた弾丸の如き速さで繰り出された右前蹴りが、シロの右腕と激突する!


 その結果、ブロストの踵落としを受け止めた際に出来たシロの腕の亀裂が広がり、粉々に砕け散った!


「ああっ!? クロちゃん、シロちゃんと替わって!」


 その指示を受けてシロが後ろに下がり、代わりにクロがブロストの前へ立ち塞がる。


「邪魔だ」


 クロの左パンチをブロストが跳んで回避、懐に入ると同時に再び右脚を畳んだ。

 そして『ガチッ』と音が聞こえると同時に脚を戻し前蹴りを放った!


 前蹴りを胴体に喰らったクロが一歩後退る中、ブロストは左脚を畳んだ。

 そのまま左の前蹴りを喰らわせ、また右脚を畳む。


 それを繰り返し、ブロストは連続でクロの胴体に前蹴りを喰らわせ続ける!

 やがて、クロの胴体に徐々に亀裂が入っていき、そして遂に胴体が破壊されてしまった!


「クロちゃんっ!?」

「可愛いペットの破片でも喰らいなぁ!」


 ブロストは破壊されたクロの破片をミズキ目掛けて蹴り飛ばしていく!


「っ! し、シロちゃん、守って!」


 シロがミズキの前に立ち、破片からミズキを守る。


「それで安心と思ったら、大間違いだよ!」


 地面に着地したブロストはシロ目掛けて一気に加速、そして跳躍し今度は両足を畳んだ。


「そぉら潰れろぉっ!!」

「シロちゃ、きゃああああああっ!!」


 強力なドロップキックを喰らったシロは、後ろに居たミズキを巻き込んで地面に倒れた。


「っああ……脚、がっ……」


 咄嗟に躱そうとしたミズキであったが間に合わず、両脚がシロの下敷きになってしまっていた。


「シロちゃん、起き上がって……っ!?」


 シロに命令しようとしたミズキの目の前にブロストが立っていた。

 そしてそのまま右脚でミズキの顔をサッカーボールめいて蹴り上げた!


 蹴り上げられた瑞樹は鼻血を吹き出し、地面に倒れた。


「う、ぁ、あ……」

「殺す気で蹴ったんだがなぁ……やはり間人は頑丈に造られているようだ……じゃあどれだけ耐えられるか実験と行こう!」


 倒れているミズキの頭を再び蹴り上げるブロスト。


「………」

「ふふふふふ、ははははははははっ!!」


 脚がシロの下敷きになっているため蹴られてもその場から移動しない事をいい事に、ブロストは笑い声を上げながら蹴り続ける。


「てめぇぇぇぇぇっ!! 《エンチャント・ウィンド》っ!」


 カイトが怒声を上げながらメイスを振り、突風を起こす!


「ちっ……」


 うっとおしそうにしながらブロストは後方に跳び、ミズキから離れた。

 ユウヤがミズキの元に駆け寄る。


「瑞樹、返事をしろ!?」

「……ぅ、ぁ」

「息はしている……だがこのままでは……」

「悠矢! 今は瑞樹と綾香を助ける暇はねぇ、こいつに集中しねぇと駄目だぜ!」

「ああ、分かっている!」


 武器を構えブロストに対峙するユウヤとカイト。


「行くぜ、《エンチャント・グランド》!」


 その言葉と同時にメイスを床に突き刺すと、破壊された床や壁の一部が浮き上がり始めた。


「喰らえやオラァァァァァァッ!!」


 メイスを引き抜いて振り下ろすと、瓦礫がブロスト目掛けて飛んでいく!

 それに対してブロストは右手を前にかざした。


 その瞬間ブロストの目の前に亀裂が出現、瓦礫は全て亀裂内へと飲み込まれた。


「何だとっ!?」


 驚くカイトの真上に亀裂が出現、先程飲み込まれた瓦礫が降って来る!


「っ! 《エンチャント・ウィンド》!」


 メイスを真上に振り上げ、上空に突風を起こして瓦礫を吹き飛ばしていくが、総ては吹き飛ばせず、落下して来る。


「くそっ! 」


 回避は不可能と考えたカイトはメイスで頭を守り、落ちてくる瓦礫を受けていく!


「ぐぅぅぅぅ……!」


 苦悶の表情を浮かべながらも耐えるカイト。

 瓦礫が降り終わり亀裂が閉じた瞬間、ブロストが右脚を畳み、蹴りの態勢に入る。


 そして地面目掛けて蹴りを放つと、地面に亀裂が出現、ブロストの右脚が亀裂内へ消える。


「海斗、危ない!」


 ユウヤがカイトに警告した一瞬、カイトの顔の下に亀裂が出現する。


「っ!?」


 驚くカイト目掛けて、亀裂からブロストの右脚が飛び出し、カイトの下顎に直撃した!

 蹴りを喰らったカイトは脳震盪を起こし、その場に崩れ落ちた。


「……さて、これで残るはお前一人だ」

「……俺は負けない、綾香達とこの国の民のため……そしてオリーブのために!」

「オリーブのためにか……成程貴方の心をへし折るにはそれが一番だったんですねぇ……」


 ブロストの口調が元に戻り、また愉快そうに笑いながらユウヤに近づいて行く。


「っ……今度は何をする気だ!」

「警戒する事はありませんよぉ、ただ教えてあげようと思いましてねぇ……オリーブ・アメリアが貴方との婚約を破棄するほどに想い続けている、愛しの君の事をねぇ」

「なん、だと……!?」

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