第241話 虫愛づる姫君を救い出せⅦ
「魔人、王……?」
「おやぁ? そもそも魔人王の存在すら知らなかったんですねぇ……哀れすぎて涙が出てきますよぉ……ふふふふ……まぁ平たく言えばこの世界の人間種総ての創造主みたいなモノですよ」
「……その魔人王が私達をこの世界に召喚する術を造ったと言うのは理解出来たわ……でも、それがどうして私達と貴方が似た存在ということになるのよ!」
アヤカの言葉に、ブロストは意気揚々と話し始めた。
「ではお教えしましょう……昔々、魔人王は新たな種を造りだそうと考え、多くの亜人種達を造り出しました……そしてその過程の中で魔人王は、貴方達の世界……即ち異世界に目を付けたのです」
「そ、それって、異世界の人間を素材に……!?」
「その通り! この世界とは異なる進化を遂げた人類は絶好の素材だと考えた魔人王は、異世界人を召喚する方法を造りだしたのです!」
「そ、それが……『勇者召喚儀式』……ごふっ……」
「ええ、もっともその名称は後で勝手につけられたものですが……とにかく、見事召喚には成功したようなのですが……残念な事に召喚した異世界人はその場で死んでしまったようなんですよぉ」
「し、死んだ……!?」
「何だよそれ……一体どうして!?」
「単純に適応できなかったんですよ、この世界とは異なる進化を遂げた人類にとってこの世界の大気に含まれる物質は猛毒だったらしいんですよねぇ」
「そんな……」
「マジかよ……」
「待ちなさい、貴女の話が事実なら……どうして私達は今も生きていられるの?」
「そこがこの話の肝なんですよぉ……召喚が失敗した理由を解明した魔人王は、術式を改造し異世界人がこの世界に召喚される際に分解、再構築されるようにしたのです」
「ごほっ……分解と、再構築……?」
「そう、適応できないのであれば適応できるようにすれば良い……肉体を分子状態にまで分解し、この世界で活動可能な肉体へと再構築する……つまり召喚と改造を同時に行うという事ですねぇ……この方法なら貴重な素材を殺すことは無い……いやはや面白い発想ですよねぇ……ふふふふ」
「……私達が、この世界に召喚される際に改造されている……?」
ブロストの言葉に動揺し、自らの両手を見つめるアヤカ、ミズキ、カイトの三人。
追い打ちをかけるように、ブロストが話を続ける。
「改造された異世界人はこの世界では上位の力を見に付けており、まさしく最強の新種が完成した瞬間ですよぉ! ……ですが、それはけっして完璧な存在とは言えないモノだったのです……」
「何ですって……?」
「考えても見てください、肉体を分解、再構築しただけでそれほどの力を手に入れられると思います? その力は何処から得られたと思います?」
「それは……」
「簡単な事ですよぉ、肉体の情報を一部別のモノへと変換したんですぉ……さてここで問題です! 一体何を変換したと思いますかぁ?」
『……』
アヤカ達が考える中、ブロストがとても楽しそうに正解を答えた。
「正解はぁ~……『寿命』でしたぁ!」
『っ!?』
衝撃を受ける勇者達を嘲笑うように、ブロストは話を続ける。
「異世界でも活動可能な体の再構築は元の肉体を変換すればいい、ですが力に変換する情報はとてつもなく膨大な量が必要です……そこで寿命を変換したと言うわけです、その年数は……貴女達の平均寿命の半分ぐらいですかねぇ?」
「半、分……」
「嘘……」
「冗談、だろ……?」
ブロストの語った事実に、アヤカ達は地面に膝を付いた。
「この事は儀式の方法と記録が記された石版に書いてあるんですがねぇ……大方元の世界には戻れないとか言ったんでしょう……国王も中々に人が悪いですねぇ……まぁ改造された異世界人はあちらの世界では生きられない身体になっていますから、間違ってはいませんが、ふふふふ……この世界のモノでも異世界のモノでもない『間』の人間……故に魔人王はこう名付けた……『間人(まじん)』と」
――アメリア城、右側の壁。
「勇者さん達が、間人……?」
「まさか勇者達が私達と同じく魔人王様から造りだされた存在だったとは……」
「父上、ブロストが言ったことは事実なのですか!?」
「……」
「父上!」
沈黙するラグナに詰め寄るガーベラ。
「貴方は彼らの命を削っただけでなく、その事実を何も伝えなかったと言うのか!?」
「……落ち着くんだガーベラ」
「落ち着けるものか! 私は父上を見損なった、貴方がそれほど薄情な人間だとは思わなかった!」
「そこまでにするんだガーベラ、ラグナから手を離せ」
「バロム殿、もしや貴方もこの事実を知っていたのでは……?」
「それは……」
「……本当なの、おとうさん?」
ウィズの問いかけに、バロムは無言で頷き、それと同時にラグナが口を開いた。
「……総ては、この国を守るために私が独断でやった事だ……彼等にも見返りとして何不自由の無い待遇を与えた」
「その勇者の一人を繋ぎ止めるために、オリーブと婚約をさせたのか……」
「あれはオリーブを守るためだ」
「そんな事を言って……!」
「二人とも落ち着いてー! 今ここで争ったって、何の意味も無いよー!」
「ウィズの言う通りだ、仲間内で争う暇なんて無い、玉座の間に急ごう」
「……分かった、父上、この話の続きは全てが終わった後でさせてもらいます」
「ああ、私もこの災厄を終わらせたら、全てを明かそう……」
バロム達は城内へと侵入し、玉座の間を目指し駆けだした。
「ふふふふふふ……さぁこれで話は終わりです、戦いの続きをしましょうかぁ……おやぁ?」
ブロストが話し終え、戦闘態勢を取るが、アヤカ達は地面に膝を付いたまま動かない。
「戦意を喪失してしまったようですねぇ……まぁ仕方ないですかねぇ……ふふふふ……」
「……ぐ、ぅぅぅぅ……」
「おや?」
「うおおおおおおおおおおっ!!」
地面倒れていたユウヤが剣を掴んで起き上がり、ブロスト目掛けて斬りかかる!
それをブロストは余裕で避け、後ろに下がった。
「腹部を貫かれてまだそんなに動けるとは……流石は間人ですねぇ」
「うるさい……俺は……間人なんてものじゃない……俺は勇者……勇者ユウヤ・オオトリだ!」
そう言ってユウヤは剣をブロストに突き付けた。
「やれやれ……先程の話で戦意が消えないとは……そろそろ主菜(メイン)が到着する時間だと言うのに仕方ないですねぇ……今度は完璧に叩きのめしてあげますよ、貴方の心をねぇ」
そう言ってブロストの兜の下の眼が赤く光った。
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