第240話 虫愛づる姫君を救い出せⅥ
ブロストが壁を蹴り、勇者達に接近する!
「クロちゃん! あいつを殴って!」
ミズキの指示でクロがブロスト目掛けて右ストレートを放つ!
「ふふふふ……!」
ブロストは空中で態勢を変え、右ストレートを回避しクロの腕に着地、そのまま腕の上を駆ける!
「っ、く、クロちゃん! 叩いて!」
クロは左手で右腕の上のブロストを叩き潰そうとするが、ブロストは瞬時に跳び上がり、ミズキの真上をとった。
「まずは貴女から潰しましょうかねぇ!」
「シロちゃん、私を守って!」
ブロストがミズキ目掛けて踵(かかと)落としを繰り出すが、シロが間に割り込み両腕を交差させてブロストの攻撃を受け止めた!
だが受け止めた衝撃で、シロの両腕に小さな亀裂が入る。
「《九重雷球》!」
ブロストの左側に移動していたアヤカが、雷球を放つ!
「ふふふふっ!」
ブロストは両腕から跳び退き、空中で回転し雷球を蹴り返していく!
「嘘でしょ!? ……《九重雷球》!」
アヤカは蹴り返されてきた雷球を相殺、雷球の弾ける光で視界が遮られた一瞬の間にブロストがアヤカに接近していた!
「しまっ……」
ブロストは右脚で下段蹴りを喰らわせ、すかさず後ろ蹴りを胴体へ突き剌した!
「かはっ……!?」
「綾香ちゃんっ!」
衝撃で後ろに飛ぶアヤカに、ブロストが追撃の飛び蹴りを放つ!
「させねぇ……よぉ!」
カイトがメイスを盾にして飛び蹴りを受け止める!
「ぐっ……重、てぇ……!」
「シャイニングセイバァァァァッ!!」
ユウヤが横から閃光の剣を振り下ろす!
「そんな単調な攻撃など当たりませんよぉ」
そう言ってブロストはメイスを蹴って跳躍、閃光の剣を容易く避けて後方へと着地した。
「ふふふ……力が身体に馴染んできたのを感じる……もう直ぐか……ふふふ……」
ブロストが静かに笑う中、ミズキとカイトが地面に倒れているアヤカを起こす。
「綾香ちゃん……!」
「大丈夫か?」
「へ、平気よ……身体もまだ十分に動くわ」
「奴のスピードが厄介だな……皆、ここはフォーメーションBで行くぞ!」
「分かったわ!」
「は、はい!」
「まかせときな!」
ユウヤの指示で3人はそれぞれの位置へと移動する。
「何かを企んでいるみたいですが……無駄な事ですよぉ!」
ブロストがユウヤに向かって駆け出し、瞬時に接近、そのまま胴体へミドルキックを放つ!
それを予測していたのか、ユウヤは剣で蹴りを防いだ。
剣と脚鎧がぶつかり合い、金属音が響く。
「っ……! 綾香!」
「《九重雷球》!」
ユウヤは指示すると同時に後ろに跳び、アヤカがブロスト目掛けて雷球を放った!
「先程の事をもう忘れたようですねぇ……成長しない人間だ!」
そう言うとブロストは回転し、先程と同じ様に雷球を蹴り返す!
「憶えているわよ……だから礼を言うわ、『蹴る』なんて発想今まで無かったもの! 《身体強化》!」
身体強化をアヤカは向かって来る雷球に対し跳び上がり、身体を回転させる!
「さっきのお返しよぉぉっ!!」
そのままの勢いで雷球をブロストに蹴り返した!
「成程、成長しないと言う言葉は撤回しましょう……ですが、球蹴り合戦に応じる気はありません!」
ブロストは雷球を巧みに避けながらアヤカへと接近する。
「瑞樹!」
「うん! シロちゃん、クロちゃんを投げて!」
ミズキが指示すると、シロがクロの両腕を掴み、そのままブロスト目掛けてぶん投げた!
「綾香ちゃん!」
「はぁぁっ!」
アヤカが大きく跳躍、そしてクロのドロップキックがブロストに迫る!
「甘いですねぇ!」
ブロストも地面を強く蹴り跳躍、クロのドロップキックは空を切り、そのまま壁に激突した。
先に上に跳び上がっていたアヤカを追い越し、ブロストが真上を取った!
「死ね」
そう呟き、ブロストは右脚を掲げ、空中踵落としの態勢を取った!
その脚が死神の鎌の如く振り下ろされようとしたその時。
「今だ海斗!」
「よっしゃあ!」
ユウヤが指示を出し、カイトがメイスを上に掲げる!
「《エンチャント・ウィンド》! 吹き荒れろぉぉぉぉっ!」
メイスに風が纏われ、海斗はメイスを大きく振り下ろす!
するとブロストのの上空に強烈な突風が吹いた!
「小癪な……!」
突然の突風に態勢を崩すブロスト。
「もう一発! おらぁぁっ!」
「っっ……!」
カイトがもう一度メイスを振り下ろし、再び突風を喰らったブロストは地面へ落下していく!
「瑞樹、頼む!」
「うん、シロちゃん! 悠矢君を上に飛ばして!」
ミズキの命令でシロが手を組んで足場を作った。
ユウヤがシロの手を踏むと同時に、両腕を大きく振り上げユウヤを上空へと飛ばす!
「光れ、《閃光の剣》!」
ユウヤが閃光の剣を構え、落下して来るブロストに斬りかかる!
「シャイニング……セイバァァァァァッ!!!」
「ちぃぃぃっ!」
ブロストが空中で態勢を変え、落下しながら踵落としを繰り出す!
両者の身体が空中で交差した一瞬、閃光の剣がブロストの右膝を鎧ごと切断した!
「……」
ブロストは切断された右膝と共に地面に落下、その衝撃で周囲に床の破片と煙が漂う。
「やった!」
「喜ぶのはまだ早ぇぜ瑞樹」
「そうね、あれ位ではまだ死んではいないはず」
ユウヤが着地し、煙の中心地を注視する。
数十秒後、煙が晴れ始め、中から右脚を地面に付いて立ち上がろうとしているブロストの姿が見えた。
「確実に弱っているぞ……このまま一気に倒す! 綾香、援護を頼む!」
「了解! 《十八重雷球》」
アヤカが18個の雷球をブロストへ放つ!
右膝を失ったことで動けないのか、雷球はブロストに総て直撃した!
「……」
「これで……終わりだァァァァァ!」
ユウヤは一気に接近し、閃光の剣でブロストの胴体を斬った!
ブロストの上半身が宙を舞い、そのまま地面に落下した。
「勝った……! 後はあの繭に囚われているオリーブを救い出すだけだ……」
「待って悠矢、何かおかしいわ……ブロストを見て!」
アヤカの声を聴きユウヤはブロストの死体を見る。
「……!? これは!?」
ブロストの鎧の切断部からは血が一切流れていない、それどころか内部は空洞であった。
更に下半身の鎧は切断したはずの右膝があった。
「これは……一体どういう事なんだ!?」
戸惑いを隠せないユウヤの背後の空間に、亀裂が入った。
「っ!? 悠矢後ろぉ!」
アヤカの叫びに反応するよりも早く、ユウヤの腹部を手刀が貫通していた。
「っ!? ごほっ……!」
何が起きたのか理解出来ないまま、ユウヤは吐血し、地面に膝を着く。
「ふふふふふふ……残念、もう少し注意を払うべきでしたねぇ」
亀裂の中から愉快そうに笑うブロストが現れた。
「それは私の作った魔道具の一つ、傀儡(くぐつ)鎧……まさかこんな簡単に騙されるとは……愉快過ぎて笑いが止まりませんよぉ……」
ブロストは手刀を引き抜き、ユウヤを蹴り倒した。
「ぐぅ……!」
「悠矢ぁっ!」
「いやぁぁぁっ!!」
「おい、あいつの脚、くっついてんぞ!?」
カイトは先程ユウヤに切断されたはずブロストの右膝が治っている事に気付いた。
「な……!? 何故……?」
「確かに切断されたのは少々痛かったですが……今の私にとって、脚の一本や二本は簡単に戻るんですよねぇ……ふふふふふ……」
「バケモノめ……」
「バケモノ? ……ふふふふ、はははははははははっ!! 何を言っているんですかぁ? 貴方達も似たようなものではないですかぁ」
「何を、言って……」
「貴方達を召喚する際に使われた『勇者召喚儀式』……その儀式はねぇ、魔人王が造りだしたモノなんですよぉ」
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