第239話 虫愛づる姫君を救い出せⅤ
「皆様の到着を心待ちにしていたと言うのに、心無い言葉を浴びせられるなんて……私はとても悲しいですよぉ……」
ユウヤ・オオトリの言葉に対し、ブロストはわざとらしく口元を押さえて悲しむ素振りをする。
「何が悲しいだ! 貴様のような外道がそんな感情を抱くものか! それよりオリーブを何処へやった!」
「何処と言われましてもねぇ……今貴方達の真上にちゃんといるじゃないですか」
そう言うとブロストは上を指差し、勇者達は天井を見る。
『っ!?』
勇者達の目に映ったのは、巨大な繭が天井に張り付いている光景だった。
「何よ、あの繭は……」
「きょ、巨大すぎ……」
「なんか脈打ってねぇか、あの繭……」
「まさか、あの中にオリーブが……」
「ふふふふ……さぁ、ショウの始まりです!」
そう言って、ブロストは右手の指を鳴らした。
――アメリア城、右側の壁。
「えいやぁぁぁぁぁぁっ!」
「キシャアアアアアア!?」
ウィズが大剣でキラーマンティスを両断!
「ディオス、後ろだ!」
「はいっ!」
「父上、まだいけるか!」
「無論だ!」
更に周囲ではバロムとディオス、ガーベラとラグナが連携して無数の魔物達を蹴散らしていた。
「はぁっ、はぁっ……これで、全部倒したー……」
「ウィズ、大丈夫か?」
「お父さん……うん、少し疲れたけどまだまだ戦えるよー! 一刻も早くお姉ちゃんを助けないと!」
「焦る気持ちは分かるが、その焦りが致命傷になる事もある、一旦休んで体力の回復を――」
バロムがウィズと話していたその時、上空に再び巨大スクリーンが現れた!
「何だ!?」
「お父さん、あれって勇者の皆だよー!」
「先に到着したのは勇者達か……」
「――アメリア王国の皆さん、遂に最初の到着者が現れました! 一着は勇者の皆様達です、皆様盛大な拍手をお願いします!」
そう言ってブロストは勇者達に拍手を送る。
「……一体何のつもりだ!」
「何のつもりって、貴方達は一番に到着したんですよ? 国民の皆さんに知らさないと駄目でしょう? それに今どうなっているのかも気になってるでしょうから、ここの映像を国中にお送りしているんですよぉ」
「い、一体どうしてそんな事を……?」
ミズキ・ワタナベの疑問に、ブロストは愉快そうに答えた。
「だって今日は私の大願成就の記念日となるんですよぉ? なにも知らぬままただ滅びるだなんて、あまりにも可哀想じゃないですかぁ、希望を打ち砕かれ、恐怖と絶望の中で死んでいく……ああ、なんと素晴らしい最後なんでしょうねぇ! ふふふふふふ……」
ブロストは、口元を押さえて心底楽しそうに笑っている。
その姿を見て、勇者達は怒りの炎を燃やしていた。
「……この腐れ外道めがぁぁぁっ!」
そう叫び、ユウヤが剣を構えてブロストへ突っ込んで行く!
「ふふふふ……」
笑っていたブロストが右手指を鳴らすと、水晶球が現れ、ユウヤに向けて光線を放った!
「はぁっ!」
ユウヤは剣を盾にして光線を弾く。
「おや、良く避けましたね」
「あの地下室で一度その攻撃は見ている、初見ならまだしも、一度見たのであれば対処は出来る!」
ユウヤが再びブロストへ突っ込む。
「成程ねぇ……なら増やしましょう」
ブロストが指を鳴らし、新たに5つの水晶球が出現した。
「何だと!?」
合計6つの水晶球から一斉に光線が放たれる!
「くそっ!」
ユウヤは横に跳び、光線を回避! しかし、背後に7つ目の水晶玉が現れる!
「なっ……」
水晶球の光線が発せられ、ユウヤの身体を貫く――
「《雷球》!」
――寸前に、アヤカ・タチバナが雷球を水晶球にぶつけ、光線の軌道をずらした事で、ユウヤの肩を掠るだけで済んだ。
「すまないアヤカ」
「全く……いくらむかつくからって、一人で突っ込むんじゃ無いわよ」
「そうだよ、私達だってあいつは許せないもの!」
「ボッコボコにぶちのめしてやろうぜ!」
「……ああ、行くぞ皆!」
「流石は勇者達ですねぇ……ではこれならどうですか?」
ブロストの周囲に20はくだらない数の水晶球が出現した。
「何秒で蜂の巣になりますかねぇ……ふふふふ……」
ブロストが指を鳴らすと同時に27個の水晶球から一斉に光線が放たれた!
「《アブソーブ・サークル》!」
カイト・モリヤマがメイスを地面に突き刺すと、勇者達の周囲に光のサークルが現れる。
光線がサークル内に入った瞬間、霧散し、メイスへ吸収され、発光する。
「ほう?」
「お返しだぜぇっ!!」
カイトが光るメイスを引き抜き振り下ろすと、先程吸収した光線が、メイスから放たれた!
光線はそのまま水晶球へと向かう!
ほとんどの水晶球は光線を回避するが、5つの水晶球が光線に直撃! ひび割れて地面に落下した。
「出てきて、《シロちゃん》《クロちゃん》!」
ミズキの言葉に応じて地面に2つの魔法陣が出現、体長3メートルの白と黒の岩巨人が召喚された。
「シロちゃんクロちゃん、あの水晶球を破壊して!」
ミズキの指示を聞き、2体の岩巨人が動き出す。
水晶球が白の岩巨人に光線を放つが、岩巨人はビクともせず、そのまま平手で水晶球を叩き壊した!
黒の岩巨人も、右手でミズキを守りながら、左手で水晶玉を一つ握り潰した!
「《身体強化》!」
アヤカ・タチバナは自らの身体能力を上げ跳躍、壁を走って光線を回避し、両手を水晶球にかざした。
「《十八重雷球》!」
アヤカの周囲に18個の雷球が出現、水晶球目掛けて撃ち出された!
雷球が次々と水晶球に直撃し、一気に10個の水晶球を破壊した!
「伸びろ、《閃光の剣》!」
ユウヤが剣を天に掲げると、剣の刀身が光りに覆われ、5メートル程の長さになった。
「切り裂け! シャイニング・セイバァァァァァァ!!」
そう言って剣を横に振り、残る水晶球を一気に両断した!
地面には破壊された水晶球が散乱し、それをブロストは溜息交じりに一瞥した。
「私のお気に入りの魔道具がこうも容易く破壊されるとは……流石は勇者ですねぇ……」
「残るはお前だけだ、覚悟しろ! セヤァァァァァァァァッ!!」
ユウヤが閃光の剣を構え、ブロストへ斬りかかる!
「仕方ないですねぇ……」
そう言うとブロストは地面を蹴り、一瞬でユウヤの懐へ入り込んだ!
「なっ!?」
驚くユウヤの腹部に向け、ブロストは飛び膝蹴りを喰らわせた!
「が、はぁ……!?」
「悠矢っ!?」
後方へ吹き飛ばされるユウヤを、アヤカが受け止めた。
「悠矢、大丈夫!?」
「おぇぇっ、ごほっ……」
「シロちゃん! そいつを叩き飛ばして!」
ミズキの命令で白の岩巨人が平手でブロストを攻撃するが、ブロストはそれを跳んで回避、白の岩巨人を蹴って後方に跳び、壁に張り付いた。
「私、色々な魔道具や作戦を用いるから勘違いされがちなんですけど、こう見えて武闘派なんですよねぇ……ふふふふふ……」
ブロストは楽しそうに笑いながら地面に着地した。
「本当は他にも手段は残してあるんですけど、それは貴方達に使うモノじゃありませんからねぇ……ですので、私も少し本気を出させてもらいますよぉ」
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