第238話 虫愛づる姫君を救い出せⅣ
――城内、玉座に続く廊下で、勇者達が魔物と戦っていた。
「はあぁっ!」
「キシャアアアアア!?」
ユウヤ・オオトリが剣でオニグモを一刀両断。
「キシャアアッ!」
「汚らわしい虫ごときが……邪魔をするなぁ!」
「キ、キシャアアアアアアッ!?」
背後から襲って来たオニグモの両前脚を斬り落とし、そのまま一気に接近して頭部を切断した!
「《九重雷球》!」
「ギチィ!?」
「ギチギチ!?」
「ギチギチギチィィィ!」
アヤカ・タチバナは九つの雷球を射出、ブラッドローカスト達が焼き焦げて倒れていくが、数匹が雷球を避けてアヤカに襲い掛かる!
「《身体強化》! せりゃあぁぁっ!!」
「ギチィ!?」
「ギチチィィ!?」
身体強化したアヤカは跳躍、そのまま勢いをつけブラッドローカストを蹴飛ばし他のローカストにぶつけ、更に別のローカストにかかと落としを喰らわせる!
「キシャアアアアア!」
「シロちゃん、やっつけて!」
ミズキ・ワタナベが召喚した白のゴーレムが右手でキラーマンティスの頭部を掴み、廊下に叩き付けた!
「シャアアアアア!」
「キシャアア!!」
白のゴーレムに二匹のキラーマンティスが迫る!
「クロちゃん!」
黒のゴーレムが左手の平手打ちでキラーマンティス達を壁に吹き飛ばし、そのままタックルを喰らわせ押し潰した!
「こいつを喰らいやがれぇぇぇぇぇぇっ!!」
カイト・モリヤマは1メートル50センチほどのメイスを振り下ろし、ブルークラブの甲殻を叩き潰した!
「シャアアアアッ!」
「《エンチャント・ウィンド》!」
カイトのメイスに逆巻く風が纏われる。
「ふぅんっ!」
「シャアア!?」
メイスを振ると同時に突風が発生、キラーマンティスが態勢を崩した。
「おらぁぁぁぁぁっっ!!」
その隙を突きメイスでキラーマンティスの胴体を攻撃! キラーマンティスの身体はひしゃげ、痙攣しながら地面に崩れ落ちた。
「キシャアアア……」
「ギチギチギチ」
魔物を掃討した勇者達の前に、新たな魔物の群れが出現した。
それを見て、ユウヤ・オオトリが腹立たしそうに拳を握りしめた。
「オリーブへの道を遮る汚らわしい虫共め……さっさと死んで道を開けろぉっ!」
「落ち着いて悠矢、こういう時こそ冷静に……ってちょっと悠矢!?」
「ま、待ってください~」
「ったくしょうがねぇなー……」
単身進んでいくユウヤ・オオトリ、その後を他の勇者達は遅れて進みつつ、魔物を倒していった。
――一方、勇者達より遅く城内へと侵入したヤタイズナ達は、勇者達とは反対の塔から玉座の間へと向け進んでいた。
「……! あの虫達は!」
「シャアアアアア!」
「ギチギチギチ!」
「ギシィィィィィィ!」
前方の廊下からキラーマンティスにブラッドローカスト、ウォーターホース、ビッグゲジ・ゲジにゲジ・ゲジ、イエローファットテールスコルピオンにオニグモと……今まで私達が様々な場所で出会い戦ってきた、多種多様な虫達が再び私達の前に立ちはだかる。
「時間が惜しい、一気に片付けるぞ! 《炎の角》、《斬撃》、《操炎》!」
「ギチギチィ!?」
私は炎の分裂斬撃でブラッドローカスト達を撃ち落とす!
「シャアアアア!」
「《炎の角・槍》!」
両前脚の鎌を振り下ろそうとしたキラーマンティスの頭部を、炎の角・槍で貫いた!
「《炎の角》!」
更に私目掛けて水鉄砲を撃とうとしていたウォーターホースに一気に接近、炎の角で焼き斬って行く。
「行くで御座るよソイヤー、《風の大顎》!」
(了解です師匠!)
ガタクとソイヤーが同時に跳んだ。
「(《斬撃》!!)」
「キシャアアアアアアッ!?」
ガタクとソイヤーの同時斬撃で、オニグモの身体は3つに分かれた!
(じゃまだじゃまだー! えーい!)
「ギ、ギシィィィィ!?」
「ギシィィィィッ!?」
スティンガーはイエローファットテールスコルピオン達の尻尾を鋏で掴み、勢いよく振り回し始めた。
(えいやー!)
「ギシィアァッ!?」
スティンガーは右の鋏で掴んでいたイエローファットテールスコルピオンを地面に叩き付け、もう一匹を壁目掛けてぶん投げた!
(喰らうっす、《大鎌鼬》!)
ドラッヘの大鎌鼬でビッグゲジ・ゲジとゲジ・ゲジ達の周囲を囲って動きを止めた。
「潰れるがいい……《巨人の重撃》ッ!!」
ゴリアテの巨人の重撃でビッグゲジ・ゲジ達のいる半径数メートルに強力な重力が発生し地面が陥没、ビッグゲジ・ゲジ達はぺしゃんこに潰れて絶命した。
「――よし、ここは片付いた、先を急ぐぞ!」
襲って来た敵をすべて倒し、私達は先へと進んで行く。
――しばらく進むと、玉座の間がある階へ続く螺旋階段がある廊下に着いた。
「この階段を上がりきれば玉座の間だ、ブロストを倒すためにも、一気に飛んで……」
「待てヤタイズナ! 何かが壁にくっついておるぞ!」
ミミズさんの言葉を聞き周囲の壁を確認すると、丸い体に無数の細長い脚が着いた生物が大量に壁に引っ付いていた。
「あの独特のフォルムは……ザトウムシか!」
座頭虫(ザトウムシ)は、鋏角亜門、クモガタ綱のザトウムシ目に属する節足動物で、見た目は豆に針金の足をつけたような独特の姿をしており、眼は単眼が2つ、体は頭胸と腹部からなり、くびれが存在しない虫だ。
名前の由来はかつて目が見えない盲人に与えられた階級「座頭」から来ており、視力が悪く長い脚をアンテナとして前を探りながら歩く姿は杖で辺りを探る盲人を連想させる。
クモに似た外見で、古くは「メクラグモ」と呼ばれていた、クモと同じクモガタ類ではあるが別の分類だ。
最古のなんと化石記録は4億1千万年前のものが知られているのだ。
英名はHarvestman(ハーヴェスター)、これは作物などを収穫する秋頃に良く見られることからそう呼ばれ始めたという。
アメリカではDaddy Longlegs(あしながおじさん)と呼ばれているが、これは他の節足動物を示す名称でもある。
ほとんどの種類は乾燥に弱く、湿度の安定した林の中などに生息しており、足の長い種類は低木や草の上、岩陰などで生活し、足の短い小型の種類は土壌生物として土の中で暮らしている。
食性は多くが雑食性で、主に小さな虫やミミズなどを捕食しているが菌類なども食べる事がある。
口の周りにある鋏角で獲物を小さく千切りながら口に運ぶのだ。
敵に襲われた時の防御行動は種類によって違い、臭腺から忌避物質を分泌したり、足を自切、体を大きく揺さぶったり死んだふりをするなど様々な手段を用いる。
種類によっては冬前に死亡する種も居るが、越冬できる種類は卵の状態、幼体、成体、集団で越冬するなどその方法は様々である。
この集団越冬の姿は虫嫌いの人はおろか、虫が平気な人でも眩暈がするほどおぞましいと言われている、今見ている光景がそれに近いな。
あの脚の長さから見るに、アイツ等の種類はナミザトウムシだな……
私はザトウムシの一匹を鑑定し、ステータスを確認した。
ステータス
名前:無し
種族:エクスプロージョン・ハーヴェスター
レベル:50/50
ランク:B
称号:無し
属性:地
エクストラスキル:聴覚強化、昆虫の重鎧、体内精製、体内貯蓄、自爆
エクスプロージョン・ハーヴェスター……このスキル構成はまさか!
私が考えていたその時、一匹のハーヴェスターが壁から離れて地面に着地した。
「キキキキキキキキキキキ!」
そして体が赤熱色に発光させて私達の方へと向かってきた!
「《斬撃》!」
私は斬撃でハーヴェスターを攻撃!
「キキキキ!?」
斬撃は命中したが、ハーヴェスターの身体は切断されず、金属音のような音を出して後方へと吹っ飛んだ。
「なんて硬さだ……」
「キキキキキキキキキ……キ」
ひっくり返って足をじたばたさせていたハーヴェスターの体がより強く発光した瞬間、ハーヴェスターが爆発した!
「ぬおおおおおおお!?」
「は、破片がこっちにぃぃ!?」
爆発したハーヴェスターの甲殻の破片が凄い勢いで周囲に散乱し、地面や壁に突き刺さる!
こっらに向かって飛んできた破片を私とガタク達が弾く。
「やはり自爆特攻か……みんな気を付けろ! さっきの爆発に反応して他の奴らも動き出すはずだ!」
私の予想通り、壁に張り付いていたハーヴェスター達が次々と地面に落ちて行き、体を赤熱色に発光させる。
『『キキキキキキキキキキキキキキ!!!』』
そして一斉に私達に向かって突っ込んでくる!
「皆、奴らを絶対に近づけさせるな! 攻撃して吹っ飛ばすんだ! 《炎の角》、《斬撃》、《操炎》!」
私は炎の分裂斬撃でハーヴェスター達を弾き飛ばす!
「喰らうで御座る、《風の大顎》、《斬撃》!」
(《斬撃》《斬撃》《斬撃》《斬撃》!)
(こいつを喰らいやがれ、《水鉄砲》!)
(《大鎌鼬》っす!)
ガタク達もハーヴェスターを次々と弾き飛ばしていく。
「後ろからも来ておるぞ!」
(こっちはぼくたちにまかせてー! えーい!)
スティンガーがハーヴェスター達を尻尾で弾き、更に鋏で掴んで投げて行く。
(《風の翅》! えいやー!)
(硬いうえに爆発するなんて食用に向いてないですわね、《花の鎌》!)
(全くです、肉団子にもできません、《岩の大顎》!)
(俺、弾き飛ばす、言う……《岩の大鋏》ィィ!)
パピリオの風の翅と花の鎌で混乱したハーヴェスター達をティーガーとテザーが次々と叩き飛ばす。
「キキキキキキ……キ」
そうやって弾き飛ばしたハーヴェスター達が爆発していき、甲殻の破片が周囲に飛び散る!
「魔王様、私の後ろに!」
「「ギチチチチチ!」」
ミミズさん達の方へ飛んできた破片をゴリアテとガーディアント達が防いでくれている。
次々と爆発し着実に数が減っているはずだが、それでも数え切れないほどのハーヴェスター達が私達に向かって進んでくる。
「キキキキ、キキキキ!」
私達が応戦する中、一匹の爆発寸前のハーヴェスターに数匹のハーヴェスターが取り付き始めた。
同じ行動を複数のハーヴェスター達が行い始めた。
何だ? 一体何をするつもりで……
「キキキ……キ」
そう思った瞬間、ハーヴェスターが爆発、その反動を利用してハーヴェスター達が物凄い速さで飛んできたのだ!
「何っ!? くそっ、皆あいつらを撃ち落とせ!」
私の指示で全員で飛んで来るハーヴェスター達に一斉攻撃をして撃ち落として行く。
「キキキ!」
また爆発寸前のハーヴェスターに数匹が取り付く行動を行い始める。
くっ……空中と地面、両方同時に来られたらいずれ対処が出来なくなる……こうなったら一発勝負だ!
「パピリオ、粘糸を大量に撒いてくれ!」
(わ、分かりました! 《粘糸》!)
私の指示でパピリオが粘糸を辺り一帯に撒き始めた。
「キ、キキキ?」
ハーヴェスター達の身体に粘糸が付着し、戸惑っていた。
「そのまま撒き続けてくれ!」
(はい! 頑張りますよー!)
「キキキキキキキキ!?」
パピリオは粘糸を撒き続け、飛んでくるも含めて大量のハーヴェスター達が糸に絡んで身動きが取れなくなっていた。
「よし、パピリオ、私の角に糸を巻き付けろ!」
(ええっ!? は、はい!)
パピリオは驚きながらも私の角に糸を巻いた。
「よし、みんな少し離れてくれ……オオォラァァァァァァァァ!!」
私は全身に力を入れて角を振り回し始めた。
すると糸に絡まっていたハーヴェスター達が引っ張られ、宙に浮いた。
「キ、キキキキ!?」
そのまま勢い良く振り回し続けていると、ハーヴェスター達を巻き込んだ巨大な糸の塊が出来上がった。
「よし、ガタク私が合図したら私と奴らを繋ぐ糸を切ってくれ!」
「了解で御座る!」
「……よし、今だぁぁっ!」
「《斬撃》!」
糸の塊を振り回していた私は、大きく振りかぶると同時に合図し、ガタクに糸を切断させた!
私から離れた糸の塊はそのまま飛んでいき、壁に激突し、張り付いた。
「ゴリアテ! 岩の槍で壁を作ってくれ!」
「応! 《岩の槍》!」
ゴリアテが地面から岩の槍を出すと、そのまま私達の前方に突き刺して、防護壁にする。
それと同時に、ハーヴェスター達の発光が強くなっていく。
『キキキキ……キ』
そして、次々とハーヴェスター達が爆発し始めた!
まるで花火のごとく爆発音が鳴り響き続け、甲殻の破片が岩の槍の防護壁に突き刺さる!
――数十秒続いた爆音が鳴り止んだのを確認した私は防護壁を出ると、周囲には大量の破片が突き刺さり、壁には巨大な穴が開き、螺旋階段はボロボロに崩れ落ちていた。
「とりあえず、何とかなったようだね……」
「うむ、しかし大分時間をかけてしまったのう……」
「ああ、急がなければ……皆、一気に飛ぶぞ!」
『『『おおーっ!!』』』
私は翅を広げ空を飛び、他の者は飛べないものを抱えながら上の階層へと向かう。
……だがしかし。
「ヤタイズナ、あれはまさか!」
「ああ……まだ居たようだね……」
私達が城を飛んで昇っていると、壁に再び無数のエクスプロージョン・ハーヴェスターの姿が見えた。
「キキキ、キキキキ!」
ハーヴェスター達の身体が赤熱色に発光すると、壁から離れて私達目掛けて落下してきた!
「くっ!」
私は空中で態勢を変え、ハーヴェスターを回避、そのままハーヴェスターは落下しながら発光が強くなり、爆発した!
その後次々とハーヴェスター達が落下して来る。
「くそっ……! 邪魔だぁっ!」
私達はハーヴェスター達を弾き飛ばしながら、ゆっくりと上へと上昇し始めた。
「――ふふふふふふ……」
玉座の間で、ヤタイズナ達の様子を水晶で確認して笑みを浮かべるブロストの姿があった。
「貴方達はこの余興のメイン……前菜が終わるまで暫く足止めをさせてもらいますよぉ……ふふふ……」
ブロストが笑う中、玉座の間の扉が開いた。
「おや、さっそく前菜の御到着ですか」
ブロストは水晶を置き、玉座から立ち上がり拍手をした。
「おめでとうございます、貴方達が最初の到着で御座いますよぉ……勇者の皆様」
「我がオリーブを攫った悪逆非道なる者よ! この勇者ユウヤ・オオトリが成敗してくれる!」
そう言って、ユウヤ・オオトリは剣をブロストに向けた。
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