第237話 虫愛づる姫君を救い出せⅢ

(――《斬撃》《斬撃》《斬撃》《斬撃》!)

「ギシャアアアアッ!」


 ソイヤーの連続斬撃をガタクは左の風の大顎で巧みに受け流していく。


(《岩の鋏》ィィッ!)


 その隙をテザーが突き、岩の鋏で攻撃!


「ギシャア!」

(何ィ!? クソがぁぁぁっ!?)


 だがそれを察知していたのか、ガタクは楽々と回避し、大顎を器用に岩の鋏を引っ掛けそのままぶん投げた!


(こいつを喰らいやがれ、《水鉄砲》!)

「ギシャアアアアッ!」


 その背後からカヴキが水鉄砲を数発撃ち放つが、ガタクは鎌鼬で水鉄砲を相殺、残った鎌鼬がカヴキを襲う!


(なんのこれしきぃ! 《水の鎌》っ!)


 カヴキは水の鎌で鎌鼬を防いでいる間にガタクは後ろに下がり距離を取った。


「ギシャアアア……」

(くそっ、敵に回るとこんだけ面倒だとはな……)

(俺、同感、言う)

(進化してランクもこちらが上のはずなのに……流石は師匠……だが、これしきで負けはしない! 行くぞっ!)

((おおっ!!))

「ギシャアアアアアアッ!!」


 ソイヤー達は同時にガタクに攻撃を仕掛けた!






(《癒しの鈴音》)

(ぐうう……)

「お、おお……」


 ベルが毒を受けたドラッヘとゴリアテの治療を行っている。


(予想以上に毒が強いみたいですね……多少時間が掛かるかもしれません……)

「やべぇな……これじゃあ迂闊に近づけやしねぇ」

「確かに、奴が再び毒を巻いたらパピリオに飛ばしてもらうために一か所に居るのが良いじゃろうな」

(どくたいせいのあるぼくでも、あいつがとばしているのがやばいってわかるよー)

(ですが、このまま見ているだけなんて癪ですわ……)

「……こうなれば仕方あるまい、魔鳥王、頼みがある!」





「――《六重雷球》!」


 私目掛けて六発の雷球が撃ち放たれる!


「《炎の角》、《斬撃》、《操炎》!」


 炎の分裂斬撃で雷球を相殺!


「《六重雷球》《六重雷球》《六重雷球》《六重雷球》っ!!」


 ファレナは連続で六重雷球を撃ち続ける!


「くっ……なんて弾幕だ!」


 炎の分裂斬撃では相殺しきれないと判断した私は翅を開き、雷球の雨を回避する!


「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すゥゥゥッ!!」


 ファレナは私を追いながら、雷球を撃ち続ける!


「っ……このままじゃ、ジリ貧か……一気に仕掛ける! 《斬撃》、《操炎》!」


 私は空中で一回転し、そのままファレナの方に向き、炎の分裂斬撃を放ちながら一気に突っ込む!


「自分から死にに来るか……! いいだろう、そのまま死ねぇぇぇぇっ!」


 ファレナが狂気の叫び声を上げて雷球を撃って来る!

 私は自身に直撃しそうな雷球のみ炎の斬撃で相殺、そのままファレナに向かって行く!


「アアアアアアッッ!」


 ファレナは空中で翅を羽ばたかせる。


「あの行動は……! 《炎の角・鎧》!」


 私はとっさの判断で炎の角・鎧を使用して身を守る。

 後少し遅ければ、毒毛針の餌食になっていただろう……


「うおおおおおおおおおっ!」

「ッ!? ヤタイズナァァァァ!」


 突進する私に向けて両腕を向け雷球を撃とうとするファレナ。


「喰らえぇぇぇぇっ!!」


 コンマ一秒の差で、私の角がファレナ命中、腹部の一部を抉り取った!


「ァァァァァァァァァァッッ!!?」


 ファレナは悲鳴を上げながら地面に墜落、私は着地して距離を取りながらファレナの姿を確認する。


「ア、アア……」


 ファレナは身体を震わしながら立ち上がるが、私の攻撃を受けた場所から大量に血が流れだしていた。


「コロ、ス……殺してやる……殺シテヤルァアアァァァァァァァッ!!」


 我を失ったのか、ファレナは四方八方に雷球を撃ちまくり、更に翅を羽ばたかせて毒毛針を撒き散らし始めた!


「っぅ!? くそっ!」


 私は翅を広げ一目散に後方へと下がる!


「ギシャア!? ギシャアアッ!」

(何ぃっ!?)

(俺、ヤバい、言う)

(一旦下がるぜぇ!)


 雷球と毒毛針がソイヤー達の方にまで行き、ソイヤー達とガタクは一斉に避難する!


「うおわああああああ!? こっちに飛んで来たぞぉ!?」

(きゃああああああ!? 毒毛針なら吹き飛ばせますけど、雷球は無理ですぅ!)

(ぼくにまかせてー! えーい!)

(私もやりますわ!)

「ギ、チチ……」

『ギチチチィィィィ!』


 バノンたちの方にまで攻撃が行き、スティンガー達が雷球を弾いて行く。


「くそっ……これじゃあ近づくことが出来ない!」

「アアアアアアアアアアアアッッ!」


 ファレナは尚も無差別攻撃を続けている……あれだけの雷球、流石に全部避けるのは無理だな。

 ガタクはファレナの攻撃が届かない場所で待機している……こうなったらエッグホームランを使って……


「……よし、今じゃ魔鳥王!」


 私がそう考えていた時、上空から突如ミミズさんの声が聞こえ上を見上げると、空を飛ぶ魔鳥王と脚で掴まれているミミズさんの姿があった。


「貴方のスキルなら問題は無いとはいえ……無茶な事を考えますね」

「やかましい、良いからさっさとやらんか!」

「分かりました……はぁぁぁっ!」


 魔鳥王は空中で回転、勢いよくミミズさんを投げた!


「ミミズさん、何を!?」


 ミミズさんが物凄い勢いでガタクに向かって飛んでいく!


「ギシャアア? ギシャアアアアアア!!」

「もう遅いわぁぁっ!」


 自分に接近する物体に気付いたガタクは鎌鼬で迎撃しようとするが、一歩早くミミズさんがガタクの頭部に取り付いた!


「ギシャ!? ギシャアアアアアッ!!」


 ミミズさんを振り払おうとガタクが暴れ出した。


「ええい暴れるでない! このチビ蜘蛛を壊せば……!」


 ミミズさんがガタクに付いている蜘蛛型魔道具に巻き付いた瞬間、魔道具から紫の電気が発生した!


「あばばばばばばばば!? し、痺れるぅぅぅぅっ!?」

「ぎ、ギシャアアアアアア!?」


 ミミズさんが痺れる中、ガタクは苦しそうに叫び、さらに暴れ回る!


「ミミズさん! 何て無茶な事を!」

「いいい良いから黙って見ておれ! あ奴の毒は儂に効かんからなぁ! そそそそれにこれぐらいの電撃、儂にはちょっと痺れる程度じゃからのぅ!」

「だからって……っ!? ミミズさん、危ない後ろ!」

「あばばばばば……あ?」


 私の言葉でミミズさんは後ろを向いたその瞬間、ファレナの雷球がミミズさんに直撃した!


「ぬおおおおおおおおおっっ!?」

「ギシャアアアアアアアアアッ!?」

「み、ミミズさぁぁん!?」


 ガタクが暴れ回ったせいで、ファレナの攻撃が当たる場所に移動してしまっていたんだ!


「ッ!? ガ、ガタクッ……!?」

「っ! 攻撃が止んだ……今だっ!《炎の角・鎧》!」


 ファレナの攻撃が止まった隙を狙い、私は一気に接近する!


「っ!? シマッ……」

「はぁぁぁっ!!」


 ファレナは後方に飛び、攻撃を回避しようとするが、私の振った角がファレナの右眼に当たった!


「ィ、アアアアアアッッ!? 眼がァァァァァァッ!」


 ファレナは私から数十メートル程距離を取り、その場で右眼を押さえて苦しみ始めた。


「ア、ァァァ……」

「……」


 翅を羽ばたかせていないと言う事は本当に苦しんでいるのか、それとも私を誘き出すための演技か……ともかく先程のように雷球を乱射されても厄介だ、遠距離から止めを……


「あたた……めっちゃ痺れたぞ……! びっくりしたわ全く……」

「ぐ、ぬぅぅぅ……拙者、は……」

「おお、ガタク! 正気に戻りよったか! 身体を張ったかいがあったぞ! これがヤタイズナの記憶にあった不幸中の幸いとか言うやつじゃな」

「ガタク……良かった」


 ガタクの足元に焼き焦げた蜘蛛型魔道具の姿がある。

 さっきの雷球がミミズさんに当たった瞬間、あの魔道具にも電撃が流れてショートしたのだろう。


「拙者は……そうだファレナ殿! ファレナ殿は何処で御座るか!?」

「ガタク、あの女は敵じゃ! あいつはお前を操りヤタイズナ達と戦わせておったのじゃ!」

「知っているで御座る、彼女がレイド大雪原戦った魔人族の妹である事も」

「はぁ!? 何で知っとるんじゃ! お前正気を失っておったはずじゃろう!?」

「確かに拙者は魔道具に体の自由を奪われ、意識を外に出すことも出来なかった……しかしファレナ殿の言葉だけは聞こえていたで御座る……」


 成程……恐らくあの魔道具は命令を受信するために、使用者の声のみは聞こえるように造られているのだろう。

 魔竜王に使われた時には使用者がその場に居なかったから、その事には気付けなかった。


「アァァァ……!」

「っ! ファレナ殿、その姿は……」

「……ガ、タク……」


 苦しそうに呻いていたファレナが、ガタクの声に反応した。


「ファレナ殿……もう止めるで御座る……その力はお主の身体に相当な負担を掛けているはず、それ以上使えば……」

「そんなコト、ドウでもいい……」

「ファレナ殿……」

「私には、ザハク兄サンこそが総て……あの人とイッショに居るトキが私にとっての幸せダッタ……それを奪った魔蟲王を殺すことが、イマノ私の総てだ……!」

「では、拙者に話してくれたあの言葉は嘘だったので御座るか! 拙者が魔道具で支配されている時に話してくれた事は……!」

「……聞こえて、イタンダネ……嘘、ジャナイ、ヨ……」


 ファレナは先程までの狂気に満ちた声色で無く、優しい声色でガタクの問いに答えた。


「ならば――」

「……ソレでもっ、私は……ぐ、アアアア!」


 ファレナの声に殺気がよみがえると同時に、ファレナの腹部が再生、顔から小さな球が落ちた。

 あれは、私に焼かれた右の眼球――


「もう私にはナニモ残ってイナイ、復讐のためにこの身スラ捧げた……だからねガタク……」


 ファレナが身体を動かし、ガタクを見る。


「モウ、止まる事ナンテ……デキナインダヨ」


 その右目には、新しく真っ赤な複眼が生えていた。


「だから……私ハ魔蟲王を殺す……絶対に殺してヤルンダァァァァァァァァッッ!!」


 そのまま翅を広げ空高く上昇、そのまま私に向かって急降下する!


「ファレナ殿っ!」

「ガタク! 覚悟を決めた者に何を言っても無駄だ……! もう戦うしかないんだ!」


 私は炎の角・鎧を纏ったまま迎撃態勢を取る!

 そして、ファレナが私に攻撃しようとした、その瞬間――私とファレナの間に亀裂が現れた。


「何っ!?」

「何故!? ドウ、シテ――」


 その言葉を残してファレナは亀裂内に飲み込まれ、亀裂は消滅した。


「……一体何が起こったんだ?」

「あの亀裂……ブロストがあ奴を呼び戻したのか? じゃが何のために?」

「分からない……だけど、何とかなったね……ふぅ……」


 私は息を吐き地面に座ると、ガタクが傍にやって来た。


「……申し訳ありませんで御座る、敵の術中に嵌(は)まり、殿達を攻撃を……」

「良いよガタク、元に戻って本当に良かったよ……おかえり」

「殿……はい! ガタク、ただいま戻りました!」

(主様、ドラッヘとゴリアテさんの治療、完了しました!)

「そうか、よくやったぞベル…、少し休憩したのち、アメリア城に突入する、皆準備しておけよ!」


『『おおーっ!!』』


「……それにしてもミミズさん、あんな無茶をするから驚いたよ」

「うむ、まぁあの状況で動くなら儂が適任じゃと思ったからのう、結果大成功じゃったな!」

「本当助かったよ、ミミズさんも戦いで役立つことがあるもんなんだねぇ」

「おいどういう事じゃそれはぁ!?」






 ――休憩を挟み、体力を回復した私達は行動を再開する。


「確か先に勇者達が城内に入ったって言ってたね」

「うむ……ひょっとしたらもう戦闘に入っておるのかもしれんのう」

「そのままブロストを倒してくれたら良いんだけど……あのブロストが何も対策していないはずが無い……一番良いのは勇者と協力して戦う事だけど……そのためには一刻も早くブロストの居る場所に辿り着かないとね……よし、行くぞ皆!」


 私達はアメリア城内へと突入した!

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