第235話 虫愛づる姫君を救い出せⅡ
「――シャアアアアアアアアア!!」
「《炎の角》!」
オニグモが前4本の脚を駆使した連続攻撃を私は炎の角でいなし、翅を広げ一気にオニグモの真上に移動した!
「《炎の角・槍》!」
「シャアアアアアッ!?」
そして炎の角・槍をオニグモの背中に突き刺し、そのまま内部から焼いて行く。
オニグモは脚を震わせて悶えていたが、数分もしないうちにパタリと倒れ動かなくなった。
角を引き抜いて残敵を確認するが、残りのオニグモ達はしもべ達によって倒されていた。
「よし、これで先に進める!」
「うむ、城まではもう目と鼻の先と言ったところかのう?」
「うん……だけどあのブロストの事だ、城の入り口には何か仕掛けているかもしれない……」
「じゃな、ここから先はさらに用心しなければのう」
ブロストの余興が開始してから既に一時間は経過しようとしていた。
私は空に記された城への道を進んで行き、待ち構える魔物達を次々と倒し、着々とアメリア城へと近づいていた。
「それにして、ブロストの『大願』って……一体何を叶えようとているんだ? なんでアメリア王国を襲ったんだ? それに態々姿を見せてこんなくだらない余興まで行って……」
「うむ……まぁどうせ下らん事に決まっておろう」
『何が目的であるかは確かに分かりませんが、恐らくあの男の大願とやらには、貴方達のどちらかが必要なのだと私は考えています』
「何じゃと!?」
「私とミミズさんが!?」
「それは私も思っていました」
バノンの手の中にある魔植王の言葉に私達が驚く中、魔鳥王が口を開いた。
「ブロストが大願を確実に叶えようとするならば、こんな余興を行わずにあの転移魔法を使って邪魔な我々をどこか遠くに飛ばせば良いのですからね」
「言われてみれば、確かにそうですね……」
「油断しているか、楽しむためにあえてしないだけかもしれんぞ?」
「それもあるでしょうね……恐らくファレナを使ってバノンを始末しようとしたのも、ミミズさんと新たな魔蟲王を苦しめるためでしょう」
「そんな事のためだけに、バノンの命を奪おうと……」
私は憤慨し、前脚で地面を強く引っ掻いた。
「貴方達を自らの元に呼び寄せているのは明白、そして絶対に大願が阻止されないという自信に満ちた行動」
『すべてが奴の計算通り、そして我々がこの事に気付くことも想定済みのはず……』
「うぅむ……儂とヤタイズナのどちらかが必要な理由とは何なのじゃ?」
「……まさか……」
私の脳裏にあの光景が浮かぶ。
ミミズさんの過去で視た、燃え盛り王国の中心で悲痛な叫びを上げるミミズさんの姿……近い未来で同じ事が起こるかもしれないと言うあの光景。
ブロストの大願が、アレと関係している……?
「どうしたんじゃヤタイズナ、急に固まって……」
「……大丈夫、少しボーっとしてただけだよ」
今この事を考えたって答えは出ない……今一番大事なのはガタクとオリーブの救出する事だ。
「どんな罠が待っていようと、今私達は前に進むしかないんだ!」
「うむ、ヤタイズナの言う通りじゃ! とにかく進むのじゃ!」
「確かに……しかし一つ不安なのは、新たな魔蟲王がギリエルとの戦いからまだ完全に立ち直っていない事……それが後々命取りにならなければ良いのですが……」
『ええ……ですがそれは彼自身が乗り越えなければならない事です』
――道を進む事数分、私達は城の城壁に再び辿り着いた。
城壁には大穴が開けられている。
「あれが入り口ってわけか……」
「残りの連中の内どちらかは城門から入れてるみたいじゃのう、まぁあ奴の性格から考えたらあえて勇者に進ませてるのかもしれんのう」
「それより、ここを守る最後の門番がいるはず……」
(どこにもいないよー?)
「居ないならこのまま進んだら良いんやないか?」
「馬鹿者、居ないからこそ用心すべきだろうが」
「……辺りに罠が仕掛けられてる可能性もある、警戒しながらゆっくり進んで――」
私がそう言った瞬間、城門の大穴に亀裂が出現した!
「言った傍から出てきよったか!」
「全員戦闘態勢だ!」
私達は戦闘態勢を取り、亀裂を警戒する中、亀裂から二つの影が出て来た。
「ギシャアアアアアア……」
「ガタク!」
一つはガタク、そしてもう一つは――
「……」
「ファレナ……!」
そう、ガタクを攫いバノンを殺そうとした張本人、ファレナだった。
『よくぞここまでたどり着きましたねぇ』
突如真上から声が聞こえ、上を見ると、ボウリング位の水晶玉が降りて来た。
そして水晶玉が光り、ブロストの姿が映し出された。
『まぁここまでたどり着いてくれないと困りますからねぇ……』
「ブロスト……!」
『貴方達は2着目です、1着目の勇者達は既に城内に入り私の元へと向かっている所です』
「勇者達が……」
「その割には随分と余裕そうじゃのう」
『実際余裕ですからねぇ、貴方達にも早く門番を倒さないと、城内に入れませんよぉ? ふふふふふふ……』
ブロストは愉快そうに笑った後、ファレナを見た。
『ファレナ、今こそ貴女の復讐を果たす時、私が与えた力……存分に振るうと言いでしょう』
「……はい、ブロスト様」
『では、私は次の準備があるのでこれで失礼しますねぇ』
そう言うと水晶玉の光が消え、城内へと戻って行った。
「ガタク、今私が正気に……っ!?」
ファレナとガタクに視線を戻すと、今まで感情を表に出さなかったファレナの瞳には怒りと憎しみに満ちており、憎々し気に私を睨んでいた。
その気迫に、私は一瞬たじろいてしまう。
「魔蟲王ヤタイズナ……貴様は私が殺すっ!!」
「気を付けろヤタイズナ、あいつの右腕は人間のモノじゃないんだ!」
「何だって?」
バノンがそう言った瞬間、ファレナはマントを外し、その右腕を露わにした。
その右腕は甲殻に覆われ、二の腕部分は白いが指先に近づくにつれ徐々に赤くなっていて、三本しかない細長い指の甲殻は真っ赤に染まっていた。
「俺が見た時と少し変わってやがる……!」
「ぐ、ぅぅ……アアアアアアアアアアアッ!!」
ファレナは急に苦しみ叫びだし、それと同時に背中が蠢き何かが飛び出した!
「っ!? あれは……虫の翅!?」
そう、跳び出したのはの薄緑色の4枚の翅だった。
「あの色、あの形……オオミズアオか!」
大水青(オオミズアオ)はチョウ目ヤママユガ科に分類される蛾の一種で北海道から九州にかけて生息し、国外では朝鮮半島に中国、ロシア南東部に分布し平地から高原まで生息域はとても広い種だ。
大型の蛾で体色は青白色、翅を広げた成虫の全長は80から120ミリメートル程になる。
特徴的な翅をしており、前翅は三角形にとがり、後翅は後方に伸びて尾状になっている、前翅の前縁(ぜんえん)は褐色になり、前翅と後翅にはそれぞれ中央に丸い斑紋が1個ずつある。
触角は櫛歯状(くしばじょう)で、雄は触角がはっきりとよく発達する。
幼虫は緑色の芋虫で、節ごとに毛の束が少しだけ出るのだが、その姿がサボテンに似ているのだ。
バラ科、ブナ科、カバノキ科ほか多くの樹木の葉を食べ、サクラの葉も食べるため都心のビル街の街路樹などでも見かけることがある。
ヤママユガ科は口吻が退化しており、餌を摂取することなく2週間程度で死んでしまうのだが、オオミズアオもその例に漏れず幼虫の時に蓄えた養分で分散、交配を行い死んでしまうのだ。
成虫の姿はとても幻想的で美しく、大きな翅も相まって一度見たら忘れられないと言われている程だ。
私も実物を見た時はその美しさには見入ってしまったものだ。
――しかし、何故その翅がファレナの背中から……ブロストはさっき力を与えたと言っていた……何かしらの改造を受けたと見て間違いないだろう。
「殺す……殺すぅぅっ!」
ファレナは翅を羽ばたかせ、空を飛び私目掛けて突っ込んでくる!
「アアアアアアアアッッ!!」
「《炎の角》!」
右腕での振り下ろし攻撃を、炎の角で受け止める!
「チィッ!」
ファレナは後ろに飛んで距離を取り、3本の指を私に向けると、指の先に雷球が現れた!
「《三重雷球》!」
私目掛けて3発の雷球が撃ち放たれる!
「《斬撃》、《操炎》!」
私は炎の分裂斬撃で雷球を相殺、残りの炎の斬撃がファレナに向かう!
「ハァァァッ!!」
ファレナは素早い動きで炎の斬撃を回避、再び右腕で私を攻撃する!
「っ……! 何故私を憎むんだ、ブロストの言っていた復讐とはどういう事だ?」
「……お前が……お前が兄さんを殺したからだぁッ!」
「私が!? 殺した……っ!?」
ファレナの言葉に私は驚愕の声を上げた。
「そうだ……だから殺す、兄さんの仇を取る!!」
ファレナは左手を私に向け、掌に炎球が現れる。
「死ねぇ……」
(《風の翅》!)
(《花の鎌》!)
「っ!?」
パピリオとカトレアの攻撃に対し、ファレナは私から離れ攻撃を回避する。
(喰らうっす! 《大鎌鼬》!)
その隙を狙い、背後からドラッヘが無数の大鎌鼬を射出!
「くぅっ!?」
回避が間に合わず、大鎌鼬がファレナに直撃!
「ギシャアアアアアアッッ!」
――の寸前にガタクがファレナの背後に現れ、左の風の大顎で大鎌鼬を総てはじき返されてしまう。
(畜生! また邪魔されたっす!)
「……ありがとう、ガタク」
「ギシャアアアアアア……」
ファレナはガタクと共に城門側に下がった。
……あの一瞬、ガタクの頭部に小さな蜘蛛が付いているのを確認できた……まずはアレを破壊しなくては……
「……魔蟲王ヤタイズナ、絶対に殺す……!」
「教えてくれ、私が君の兄さんを殺したとはどういう事なんだ? 君は一体何者なんだ!」
「……分からないなら思い出させてやる……私の兄の名はザハク!」
「ザハク……ザハク!? まさか……」
「そうだ! レイド大雪原で貴様に殺された、六色魔将『黄』のザハク……私はその妹だ!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます