第234話 大願と災厄の始まりⅦ

「大願成就、記念式典だって……?」

「一体何のつもりじゃ……?」


 私達がスクリーンを見つめる中、ブロストは意気揚々と話し始めた。


『いやぁこれほど多くの方々に参加していただけて私は本当に嬉しく思っています……しかしこんなに大勢の方々が集まってくれたのに、私の大願が成就するだけでは皆さん退屈ですよねぇ……そこで私は今から楽しい余興を行おうと思うのです!』


 そう言うとブロストは右手を掲げ、指を鳴らした。


 その瞬間、私達の上空にいるブラッドローカスト達が動き出し、空に城へと続く一本線が作りだされた。

 まるで城に向かうための道しるべのようだ。


 しかも私達の場所だけではない、右側と左側にも同じように城へと続く一本線が空に作られていた。


『さぁて皆さま……私の方にご注目ください!』

「……っ!? オリーブっ!」


 そう、ブロストの言葉を聞きスクリーンを見た私の眼に映ったのは、手足を糸で縛られ、宙に吊られているオリーブの姿だった。


『驚かれた方も居るでしょう……ですがこちらのオリーブ・アメリア姫は今から行う余興に必要なのですよぉ……それでは余興のルール説明を行いますねぇ、すでにお気づきの方も居られるでしょうが、この空の線はアメリア城へと続く唯一の道となっています……皆様にはこの道を進んでもらい、私が居る玉座の間に辿り着きオリーブ姫を救い出した者がこの余興の勝者となるのです! どうですか? とても簡単でしょう?』

「ふざけた事を……」


 私は憤慨し、前脚で地面を強く引っ掻いた。


『勿論ただ道を進むのではありません、道中には魔物達が配置されており、前に進むごとにより強い魔物達が皆様の道を阻んでくるでしょう……どの入り口から行くかは自由、ただし途中で道から外れた者には空のローカスト達が一斉に襲い掛かりますのでご注意くださいねぇ……ふふふふ……さぁそれでは始めましょう! 囚われの姫を救い出すのは果たして誰なのか!?』


『姫の父親である国王様? 大本命の勇者様? 大穴で冒険者か只の民? ……それとも、姫が想い慕う《愛しの君》ですかねぇ?』


 スクリーンに映し出されているブロストは、一瞬私達の方を見た。


『それでは、余興の開始です!』


 その宣言と同時に上空のスクリーンは消滅した。


「……行こうミミズさん、ガタクとオリーブを助けに!」

「その意気じゃ! ウィドーとレインボーも気になるが、まずはあ奴と小娘を救わねばのう!」


 私達は空に作られた道に沿って、再びアメリア城へ向けて移動を開始した。









 ――右側の城下町。


「ブロストめ……余興などとふざけた事を!」

「お姉ちゃん……待ってて、絶対に助けるから!」

「ラグナ、オリーブちゃんの事は私達に任せ、ライラックと共にここで待っていろ」

「……いや、私も行く」

「……気持ちは痛いほど分かる……だがライラックも傷を負っている今、お前が傍にいてやらねば……」

「私なら軽傷だから心配いらないわ、行ってラグナ」

「ライラック、君まで何を……」

「私達にとって今一番大事なのは、オリーブの事なの……だから私の事は良いからオリーブを助けに行って」

「分かっている……娘を奪われ、何もせずに待つなど出来るものか! 今でも鍛錬は続けている……足手纏いにはならんつもりだ」

「父上、私も行くぞ! 可愛いオリーブのために戦うぞ! リオン、ミモザと一緒に母上を見ていてくれ」

「分かった」

「戦える兵は私に付いてこい! 必ず城に辿り着き、オリーブを救い出すぞ!」









 ――左側の城下町。


「――オリーブの『愛しの君』だって……? 誰だ? やはりあの救国の従魔使いのドワーフが……?」

「悠矢! 今はそんな事を言っている場合じゃないでしょ!」

「う、うん……綾香ちゃんの言う通りだよ……早くオリーブ姫を助けないと」

「その通り、善は急げってやつだよ」

「わ、分かっているさ! ……待っていてくださいオリーブ、貴女を助けるのはこの僕だ!」









 ――アメリア城、玉座の間。


「――あなたの部屋の本棚を少々漁らせていただきましたが……中々興味深い書物をお持ちになっておられますねぇ、オリーブ姫」


 玉座に座り本を読むブロストは、宙に吊り下げられたオリーブに話しかけた。


「……貴方の目的は、この国を手に入れる事ですか?」

「目的? はははは……我が大願がそのようなちっぽけなモノなわけが無いでしょう?」

「大願……? これだけの犠牲を出しておいて、一体何を為そうと言うんですか!」


 ブロストは本を閉じ、玉座から立ち上がった。


「……オリーブ姫、貴女にとって『王』とはどのような存在ですか?」

「え……?」

「答えなさい」

「……人の上に立ち、国を、民を守り共に歩んで行く……それが王だと、私は考えます」

「成程、それが貴方にとっての王ですか……人の上に立つ、と言う点においては私の考えと似ていますね……王とは国の頂点に立つ者、その国において最も絶対なる存在なのです……ですが、もし王より上の者が居たらどうですか?」

「王より、上……?」

「そうです、絶対なる『神』とも呼べる存在……それが居る場合、貴女ならどうしますか?」

「……もしも神が居るのであれば、私は神に従うべきだと考えます」

「そう、従いますよね……ですが、おかしいと思いませんか?」

「え?」

「王とは頂点に立つべき存在……にもかかわらず王より上が居るなど、理不尽だとは思いませんか?」


 ブロストの口調が徐々に強くなっていき、拳を強く握りしめ始めた。


「そう、あってはならない事だ……なのに愚かな民達は神の言葉に従う……私も奴の圧倒的な力の前には不本意ながら従うしかなかった……! 今思い出しても屈辱だったぁ!!」


 ブロストの眼が兜越しからでも分かるほど赤く光り、そのまま玉座を蹴り壊した!


「っ!?」

「王たる私が、あんなものに頭を下げ、命令を聞かねばならなかった! あまつさえ奴は下等な存在を友と呼び、対等の扱いをしたぁっ! 下等生物が私よりも上に立つなど、ふざけているにもほどがあるだろうがぁぁぁぁぁぁっ!!」


 ブロストは破壊した玉座をさらに蹴り壊していく!


「はぁっ……はぁっ……だから私は……神を殺すことにした! 神を殺せば、私が真の頂点に立つことが出来るからなぁ……しかし私の計画は失敗に終わり、このような姿に身をやつさねばならなくなったのだ……」


 冷静さを取り戻し始めたブロストは自らの両手を見て、忌々しそうにそう言った。


「だがもう終わりです……今日で私は本来の姿を取り戻し、我が大願を成就させるのですからねぇ!」

「元の姿を取り戻すことが、貴方の大願……」

「少し違いますねぇ……さて、彼らの現在状況を確認しますか」


 ブロストの前に三つの水晶玉が現れ、それぞれが映像を映し出した。


「!? ヤタイズナさん! お父様!」


 そう、その水晶玉の一つにはヤタイズナ達が映っており、二つ目には国王ラグナとバロム達、三つ目には勇者達が映っていた。


「それぞれ魔物達との戦闘に突入したようですねぇ……貴女を救うために皆必死ですねぇ」

「罪の無い民を犠牲にするだけでなく、貴方の勝手な願いのために皆を弄ぶなんて……私は貴方を絶対に許しません!」

「酷い言いぐさですねぇ……まぁ別に気にしませんがね、それにこれは本当の余興ではないんですよぉ」

「どういう事ですか……?」

「本当の余興には貴女の協力が必要不可欠なんですよぉ……オリーブ・アメリア……ふふふふ……」


 そう言って、ブロストの眼が妖しく輝き、オリーブは身震いした。


「では、準備を始めましょうか」


 そう言うとブロストは左の指を鳴らすと、天井からジョロウグモがオリーブの元に降りて来た。


「シャアアアアアア!」

「何を……きゃあああああああっ!?」


 ジョロウグモは腹部から糸を出し、脚でオリーブの全身を巻き始めた!


「お父様……ヤタイズナさん……助け、てっ……」


 その言葉を最後に、オリーブの全身は糸で覆われ、巨大な繭になった。


「ふふふふふ……! さあ始めましょうか……楽しい楽しい実験を!」










「第102回次回予告の道ー!」

「と言うわけで、久しぶりに始まったこのコーナー!」

「せっかくオリーブを城に送り届けたのに、ブロストにオリーブ奪われてしまうだなんて……自分が情けないよ」

「そう気に悩むでない、こんなときだからこそいつも通り次回予告をするのじゃ!」

「ミミズさん……分かった! ブロストの手によって囚われの身となってしまったオリーブ……彼女を助けるために、私達、国王、勇者の三チームはアメリア城へと向かう! 果たしてオリーブの運命は如何に!? それでは次回『虫愛づる姫君を救い出せ 』!」

「「それでは、次回もお楽しみに!!」」


 ・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので、次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。

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