第233話 大願と災厄の始まりⅥ

「――ちぇいやぁぁぁぁぁぁっ!」

「ギチィィィィィ!!」


 ディオスの二刀の短剣とニジイロクワガタの大顎が剣戟を振るう!


「ギチィィィィ!」

「っぅ……! ならこれはどうだ!」


 力負けして後ろに下がるディオスは、懐から針を数本取り出し、ニジイロクワガタ目掛けて投擲!


「ギチィィッ!」

「今だっ!」


 ニジイロクワガタが大顎を振り針を弾いた隙を狙い、ディオスはニジイロクワガタの真上に跳躍、そのまま胴部と腹部の間の関節目掛けて短剣を突き刺す!


「ギチィ!」


 しかし、ニジイロクワガタは瞬時に身体を上に逸らして関節を閉じ、短剣を弾いた!


「チィィッ!」

「ギチィィィィィッ!!」


 ニジイロクワガタの大顎が虹色に輝き始めた!


「!? 不味いっ!」

「ギチィィィッ!!」


 ディオスは咄嗟にニジイロクワガタの背から飛び降ると同時にニジイロクワガタの大顎から七色の衝撃波が発せられ、ディオスに襲い掛かる!


「くぅっ!」


 ディオスは一つの衝撃波を回避、さらに短剣で三つの衝撃波を弾くが、残る三つの衝撃波が迫る!


「ディオス!」


 バロムがディオスの前に出て、剣で三つの衝撃波を弾いた!


「ありがとうございます、先生!」

「礼は不要さ、それよりも来るぞ!」

「シャアアアアアアッ!」


 バロムとディオスの背後からジョロウグモが襲い掛かる!


「シャアア!」


 ジョロウグモが腹部から糸を射出する。


「ディオス、肩を借りるぞ!」


 バロムはディオスの右肩を踏み台にして跳躍、剣を振り糸を切り裂いた!


「シャアアッ!? シャアアアアア!!」


 ジョロウグモは八本の脚でバロムを攻撃する。


「はぁぁぁっ!」


 バロムは剣で八本総ての攻撃をいともたやすく受けきった!


「ギチィィィィィィ!」


 ニジイロクワガタが再び虹色の大顎を使い、バロム目掛けて衝撃波を撃ち放つ!


「それはこいつにくれてやろうっ!」

「シャアアアッ!?」


 バロムはジョロウグモの脚を一本掴み、そのまま迫る七色の衝撃波目掛けてぶん投げた!

 衝撃波は全てジョロウグモに命中!


「シャアアアアアアッッ!?」


 ジョロウグモが悲鳴を上げながら地面落下すると同時にバロムも地面に着地した。


「お見事です、流石は先生!」

「……どうやら、今ので仕留めさせてくれないようだな……」

「シャ、シャアアアアア……」

「ギチィィィ……」


 ジョロウグモが起き上がり、その横にニジイロクワガタが来た。


「ディオス、コンビネーションで行くぞ」

「はい、先生!」


 バロムとディオスが武器を構えなおしたその時、ニジイロクワガタ達の後ろに亀裂が出現した!


「あれはブロストの……!」

「転移魔法か……」

「ギチィィィ」

「シャアアア……」


 ニジイロクワガタとジョロウグモは亀裂内へ跳び、そのまま姿を消した。


「退いた? しかし何故?」

「……何か嫌な予感がする……」

「お父さーん!」


 バロム達の元にウィズが走って来た。


「ウィズ、そっちの方は大丈夫か?」

「うん、魔物の襲撃は一旦収まったよー……それより大変なのー! 突如亀裂が現れたと思ったら、小父さん達が出て来たのー!」

「ラグナ達が!? ……どうやら嫌な予感が的中してしまったみたいだな……」










 ――一方その頃、オ・ケラと戦闘中のソイヤー達は――


「ジィィィィィ!!」

(ぐはぁぁっ!?)


 オ・ケラの右前脚のブローがソイヤーの胴部に命中し、ソイヤーは後方に吹き飛ばされた!


(死ねやぁっ!!)

「ジィィッ!」


 テザーが岩の鋏でオ・ケラを両断しようとするが、オ・ケラは両前脚で鋏を受け止める!


(くそがぁっ!)

(テザー、そのまま抑えてろ! こいつを喰らえってんだ、《水鉄砲》!)


 カヴキの口吻(こうふん)の先に水球が現れ、オ・ケラ目掛けて撃ち放った!


「ジィィィィィッ!」


 しかしオ・ケラは鋏から脱出し、左前脚で水球を撃ち返した!


(ちぃっ、《水の鎌》!)


 カヴキは水の鎌で水球を両断、テザーと共に後ろへ下がった。


(ソイヤー、大丈夫か!?)

(ああ……まだ戦える……!)

(俺、一斉に掛かる、言う)

(わかった、カヴキ、同時攻撃で行くぞ!)

(合点だ!)

「ジィィィィィ……ジィ!?」


 ソイヤー達が三匹同時に攻撃を仕掛けようとした時、オ・ケラの首輪に電撃が発せられ、オ・ケラの動きが止まった。


(何だ?)

(急に固まりやがったぜ)

(俺、何か変、言う)


 ソイヤー達がオ・ケラを警戒する中、オ・ケラの背後に亀裂が出現した!


「ジィィィ……ジィ!」

(あっ、待て!)


 オ・ケラは後ろに跳び、亀裂の中に入ると同時に亀裂は消滅した。


(退いたか……しかし何故急に?)

(ひょっとして、ご主人達に何かあったのか……?)

(俺、早くご主人と合流する、言う)

(そうだな、一刻を争う、直ぐに移動を――)


 ソイヤーがそう言った瞬間、ソイヤー達の目の前に亀裂が出現する!


(何!?)

(撤退したと思わせてからの奇襲ってか!)

(俺、敵をぶち殺す、言う!)


 ソイヤー達が身構える中、亀裂から出て来たのは――


「うわあああああ!?」

「ぬおおおおおおっ!?」

(なっ……主様!? それに非常食殿に皆も!)


 そう、亀裂から飛び出てきたのは、ヤタイズナ達であった。






「――ここは……?」

(主様!)

「ソイヤー! ……と言う事はここはオ・ケラと遭遇した場所か」


 ブロストの転移魔法のせいで、こんなところにまで飛ばされるとは……しかし、くそっ! オリーブを助けられなかった……


 私は周囲を確認する。

 ……どうやらブロストは私達と国王達とは別々の場所に飛ばしたようだな……


 辺りを確認する私の元にミミズさんが来る。


「ヤタイズナ、見たかあ奴を……」

「ミミズさん……ガタクの事だね……」


 あの時、ブロストを攻撃しようとしたドラッヘの邪魔をしたのは紛れもなくガタクだった。


「ファレナに攫われたとは聞いたけど……ブロストめ、ガタクを洗脳して手駒にしたんだ……何とかして正気に戻してやらないと」

「うむ、しかし気になるのはブロストの言っていた余興とか言う奴じゃ、あの小娘を使って何をする気なんじゃ……む? ヤタイズナ! 空を見るのじゃ!」

「え? ……!? あれはっ!」


 ミミズさんに言われ空を見上げた私の目に映ったのは、黒く染まった空の一角に突如現れた巨大スクリーンだった。

 そしてそのスクリーンに、ブロストの姿が映っていた。


『どうも初めまして、アメリア王国の皆様……本日は我が大願成就記念式典へのご参加、誠にありがとうございます』


 そう言ってブロストはスクリーン内で仰々しく頭を下げた。

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