第229話 大願と災厄の始まりⅡ

 ――時は戻り、中央広場付近。

 そこに城への道を真っ直ぐに突っ切るヤタイズナ達の姿があった。


「城まではまだ遠いな……」

「うむ……しかしこのアメリアを襲う災厄とはこれの事じゃったのか……しかし何故ブロストはこの国を狙っているのじゃ?」

「うん……奴の目的は一体何なんだ……?」

(ごしゅじーん! あいつらがこっちにむかってきてるよー!)


 スティンガーの言葉を聞いて空を見上げると、空を覆うブラックローカストの一部が私達に向かって来ていた!

 ……いや、あれはブラックローカストではない、姿こそ似てはいるがブラックローカストよりも体が大きい……見た感じ一メートルはある、更に甲殻は赤黒くなっている。


 私はローカストの一匹に鑑定を使用し、ステータスを確認する。








 ステータス

 名前:無し

 種族:ブラッドローカスト

 レベル:35/35

 ランク:C

 称号:喰らい尽くす者

 属性:風

 スキル:悪食、貪食、大食漢








 ブラッドローカスト……ランクとレベルは低いが、あの数……一部と言うが軽く5千はいるんじゃないか!?

 しかもこちらにはオリーブがいる……彼女を守りながらブラッドローカスト達を倒して行かなければならないのか……


 私が考える中、ブラッドローカスト達はどんどんこちらへ近づいて来る!

 迷っている暇など無いか! 私は着地して翅を閉た。


「オリーブ、スティンガーの背に移動してください、そこなら多少安全のはずです」

「わ、分かりました」

(きをつけてのぼってねー)


 オリーブが私の前胸部から降り、スティンガーの背部に乗り移った。


「カヴキ、テザー、ソイヤー、パピリオ、ベル、ゴールデン、レギオンアント達はスティンガーの周りを守ってくれ」

(合点承知でさぁ!)

(俺、絶対守る、言う)

(我が命に懸けてお守りします)

(頑張りますー!)

(後方支援は任せてください)

「あんま役に立たんかもしれへんけど、やるだけやってみるわ!」

「ギ、チチチ……」

『ギチチチチィィ!』


「ドラッヘ、カトレア、ティーガー、ゴリアテは私と共に道を切り開くぞ」

(まぁ、やってやるっすよ)

(近づく奴らは全員喰ってやりますわ)

(ええ、全員肉団子にしてやりましょう)

「有象無象共め……全員蹴散らしてやる!」

「私も戦いましょう」

「魔鳥王、でも貴女はまだ力が……」

「そんなことを言っている場合ではありませんからね……本来の姿で戦えるほどの力は戻っていなくとも、子の姿でも十分に戦えますよ」

『本来なら私も力を貸したい所ですが……』

「え!? 植木鉢の植物が喋った……!?」


 オリーブは手に持っていた魔植王が喋ったことに目を丸くした。


「魔植王、気持ちだけでもありがたいです……ミミズさんも早くスティンガーの背中に行って」

「分かった」


 ミミズさんがスティンガーの背に移動したのを確認した私は振り向き、ブラッドローカスト達を睨む。


「よし、行くぞ! 《炎の角》、《斬撃》、《操炎》!」

(《大鎌鼬》!)


 私は無数の炎の分裂斬撃を、ドラッヘは大鎌鼬をブラッドローカストの大群に撃ち放った!


「ギチ!?」

「ギチャアアア!?」

「ギチチャア!?」


 炎の斬撃を喰らったブラッドローカストの一部が燃えて地面に落ち、大鎌鼬が後続のローカスト達を切り刻んだ!


『『ギチギチギチギチ!!』』


 しかし大群の勢いは止まらずそのまま突っ込んでくる!


「《岩の槍》!」


 ゴリアテの前方の地面が割れ、数本の岩の槍が出現、そのままブラッドローカスト目掛けて射出した!


「ギチィィ!?」

「ギチギチィッ!?」


 一本の岩の槍で三、四匹のローカストが串刺しとなる!


「全員、そのまま撃ち続けろ! 《斬撃》《斬撃》《斬撃》、《操炎》!」


 私とドラッヘ、ゴリアテは攻撃を続け、次々とローカスト達が地面に落下して行く。

 しかし、落下したローカストの中にはまだ息のある個体が何体か居り、身体の一部が欠損、胴体に風穴が空いていながらも、地面を走ってこちらへと向かってくる!


(させませんわ……《花の鎌》!)

(肉団子にしてやります! 《岩の鋏》!)

「はぁっ! せやぁっ!」


 そのような敵はカトレアが花の鎌で誘導し、ティーガーと魔鳥王と共に各個撃破して行く。

 それでも何匹か撃ち漏らし、スティンガー達の方への行ってしまう事もあるが。


(《水の鎌》!)

(喰らうが良い、《斬撃》!)

(《岩の鋏》、死ねぇ!)

(《風の翅》! えーい!)

(《混乱の鈴音》!)

「よっしゃそこやー! やったれやったれー!」

「お前も戦わんかこのたわけが!」


 カヴキ達が、撃ち漏らした敵を倒してくれている。

 私達は休むことなく攻撃を続けながら、ローカストの屍の道を徐々に前へと進んで行った。







「――これで……最後だ!」

「ギチギチィッ!?」


 私は炎の斬撃で最後のブラッドローカストを倒した。

 それと同時に頭に声が響く。


 《ブラッドローカストの群れを倒した。 ヤタイズナはレベルが130になった》


「ふぅ……これでブラッドローカストの襲撃は一旦片付いたようだな……」

「ヤタイズナさん、大丈夫ですか!?」


 オリーブがスティンガーの背から降りて、私の傍に駆け寄った。


「大丈夫です、少し疲れただけですから……それよりも早く貴女を城に連れて行かないと……ここは今どの辺りだ……?」

「ローカスト達のせいで方向感覚が分からんかったからのう……たしか城は北の方にあったはずじゃが……む? おい、あそこで誰かが倒れておるぞ!」


 ミミズさんの向いている方角を見ると、確かに裏道のような場所に人が倒れていた。

 ん? あれっ、て……


「バノン!?」


 そう、バノンが血を流して倒れていたのだ!

 私達は急いでバノンの元へ駆け寄り、前脚で身体を仰向けにすると、バノンの左胸には刺し傷があった。


「バノン、おいバノン!?」

「……う、ぅぅ……」

「良かった、まだ息はある……ベル、バノンを治療するんだ」

(分かりました、《癒しの鈴音》)


 ベルの癒しの鈴音によって、バノンの傷が癒されていく。


「……がはっ!? はぁ、はぁ……俺は……」

「良かった、意識が戻ったんだね……」

「ヤ、ヤタイズナ……そうだ、俺は……!」

「無理して動かなくていいよ……それより一体何があったの? ガタクとファレナさんは何処に?」

「ガタク、は……ファレナに攫われた……」

「何だって!? 一体それはどういう事――」


 私が驚き、話の続きを聞こうとした瞬間、目の前の空間に亀裂が現れた!


「スティンガー! バノンを!」

(わかったー!)


 スティンガーが両前脚でバノンを掴み、背中に乗せて後ろに下がる。

 それと同時に亀裂からあの声が聴こえて来た。


「ジィィィィィ……」

「「この声は……!」」


 声を聴いた私は身構え、ミミズさんは身体を震わせた。

 そしてその瞬間、亀裂内から一体の昆虫が飛び出してきた!


「ジィィィィィィィッ!!」

「やはりお前か、オ・ケラ!!」

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