第227話 豊穣祭Ⅱ

  ――王城、城門前付近にて、私達はオリーブ達が来るのを待っていた。


「そろそろかな……?」

「あの小娘が城に向かってもう数十分は経つのう、全く何をしておるんじゃあ奴らは……」

「まぁ、身支度とか色々とあるんだろうぜやっぱり」

(おまつりたのしみだねー♪)

(そうですね♪)

(……そんなに楽しみにするもんすか? 祭りっていうのは)

(俺、美味い物喰いたい、言う)

(そうですわね、楽しみでもう涎が出てきましたわ……)

(全くですどんな肉団子があるか楽しみです)

(早く祭りに行きたいでさぁ)

(待っている間、皆さんの退屈を紛らわすために僕が一曲歌いましょうか?)

(ギ、ギチチチ……)


 しもべ達はそれぞれ楽しそうに雑談をしている。

 ……それにしてもやはりこの数で城の近くで待っていると目立つな……さっきから通行者が私達を見てくる。


「見ぃやゴールデン、人等が自分達を見てるで、なんか照れるなー」

「何を照れる事がある、堂々としていれば良いだけだろうが、お前は変な所に気が回るな」

「いやー、長い間ず~っとあの大樹で魔王様達を待っとったから他者の視線を受けると少し気恥ずかしいんやー、それに自分が綺麗やからより視線が集まるしな」

「……最後、自画自賛になってるぞ」


 照れながら自画自賛をするゴールデンにゴリアテは呆れて溜息を吐いた。


「……ファレナ殿は来てくれるで御座ろうか……」

(師匠、如何されましたか?)

「ん、いや何でも無いで御座るよ……あ、殿! ウィズ殿達が来られたで御座るよ!」


 ガタクの声を聴いて横を向くと、確かにこちらに向かって小走りで来るウィズとそ変装したオリーブの姿が見えた。


「お待たせ~♪」

「お待たせしてしまってすみません」

「いえ、全然待ってないですよ」


 私は変装しているオリーブを見る。

 恰好はアルトランド王国で一緒にお祭りを楽しんだ際に来ていた服と同じ平民風の衣装だな。

 そして右腕には以前私がプレゼントした、カブトムシが彫られた角輪を着けている。


「ほう、普段の衣装も良いが、そう言う格好もオリーブちゃんには似合っているね、なぁヤタイズナ君」

「はい、そうですよね、この衣装のオリーブも素敵ですね」

「あ、ありがとうございます、ヤタイズナさん……」


 オリーブが頬を赤くして俯いた。


「お父さん、ナイス!」

「ふふん」


 何か知らないけどウィズとバロムがお互いに親指を立て合っていた。


「どうでも良いがさっさと祭りに向かわぬか? もう腹が減って待ちきれんのじゃが」

「そうだね、それじゃあ皆出発だ」


『『『おおーーーーっ!!!』』』


 こうして私達は出店などがある街の方へと移動を開始した。






「うわあああ……人がいっぱいいるね」

「うむ、アルトランド王国の祭りを思い出すのう……」


 街は祭りを楽しみ人で混んでいたが、私達一行の姿を見たら道を開いてくれた。

 普通なら魔物の集団がこれだけの人混みの中に現れたらパニックになるだろうが、私達は『救国の従魔使い』バノンの従魔と言う事になっているから怯えられる所か尊敬の眼差しを送られている。


 更には『最強の冒険者』と呼ばれているバロムも居るからな……そして私達の姿が隠れ蓑となり、オリーブの存在に気付く者は誰も居ない、今の所心配事は何もないし、祭りをたっぷりと堪能しよう。


「む、見よヤタイズナ、焼きプラチナコーンの屋台があるぞ!」

「何!?」


 ミミズさんの言葉に私としもべ達が一斉に屋台を見た。

 おお……確かにあの香ばしい匂いは焼いたプラチナコーンの匂いだ。


「バノン、さっそくあそこの店でプラチナコーンを食べよう」

「良いけど、俺も金はそこまで持ってるわけじゃねぇから全員一本づつだけで頼むぜ」

「何じゃと!? 一本では満足できんぞ、せめて5本は喰いたいぞ!」

「そんなに金持ってねぇよ!」

「安心してください、こんなこともあろうかと多めに持ってきましたので、どうぞこれを……」


 そう言うとオリーブは鞄からどっさりと通貨が入った袋をバノンに手渡した。


「こ、こんなに良いんですか?」

「はい、好きに使ってください」

「でかしたぞ小娘、さっそくプラチナコーンを食いまくってくれるわ!」







「――おかわりじゃ! バノン、早く次のプラチナコーンを買ってこい!」

「いやいくら何でも食いすぎじゃねぇか!?」


 バノンの叫びは無理もない、すでにミミズさんの隣には山のようにプラチナコーンの芯が置かれているからだ。


「拙者もおかわりで御座る!」

(おいしー♪ やっぱりぷらちなこーんはさいこーだよー♪)

(この汁が甘くて最高ですねー♪)

(確かにこれは美味いっすね)

(絶品ですね!)

(俺、プラチナコーン美味い、言う)

(もっと、もっと食べたいですわ!)


 しもべ達も次々とプラチナコーンを平らげていく。

 その光景はさながら大食い大会の如くで、遠巻きから見ている人々は驚嘆の表情で私達を見ていた。


「なんやこれめっちゃ美味いやんか!?」

「このような食べ物があったとは……」

「……これは中々……」


 ゴールデンとゴリアテ、そして魔鳥王もプラチナコーンの美味さに感動している。


「本当に美味しいよねー……あ、ディオスさん、頬に一粒付いてるよー」


 ウィズがディオスの頬に着くプラチナコーンの粒をつまみ、口に入れた。


「す、すまないウィズ……はっ!?」


 照れるディオスは背後からただならぬ殺気を感じて振り返ると、無表情でディオスを見つめるバロムの姿があった。


「せ、先生……」

「……安心しなさい、私もそれぐらいで怒るほど未熟ではないよ……ただ私ですら娘にそういう事されたこと無いのにな~と思ってねぇ?」

「は、ははは……」


 そう言いながら笑みを浮かべるバロムに対し、ディオスは顔を引きつらせがら笑う事しか出来なかったのであった。


 そんな皆の光景を、オリーブは微笑みながら眺めていた。


「ふふ……皆さんとても楽しそうですね」

「ですね……しかし本当に美味しい、気が付いたらもう五本も食べてましたよ」

「私も幼い頃、おやつとしてプラチナコーンを頂いた時には沢山食べた事があります、あの時はウィズがプラチナコーンを両手持ちで交互に食べて……」

「ははは、それは愉快な光景ですね、それに美味しい物を分け合って食べるとより美味しく感じますよね」

「はい、笑顔で食べるウィズと一緒に食べたプラチナコーンは格別でした……でも、大好きな方と一緒に食べるプラチナコーンはもっと美味しいです……」


 頬を赤らめ、私を見つめるオリーブの視線に、胸の鼓動が速くなる。


「大好き……た、確かに大好きな虫達と食べるとより美味しいですよね!」


 照れながらそう言った私はプラチナコーンを一心不乱に食べ続けた。

 そんな私の言葉にオリーブは一瞬頬を膨らませるが、その後優しい笑みを浮かべプラチナコーンを食べ始めた。


「……かーっ! あれがヤタイズナの記憶で見た青春と言うものか……初心にも程があるぞ! 見ているこちらが焦れてくるわ……バノン、おかわりじゃ」

「……屋台のプラチナコーン、もう売り切れだってよ」

「何じゃとぉ!? ……まだ腹一分ぐらいじゃと言うのに……次の店に行くぞ!」

「まだ食う気なのかぁっ!?」






 ――その後私達は様々な屋台の食べ物を食べ歩いて行った。


 焼きポテト、焼きアップルや串焼肉や新鮮な果物まで沢山の美味しい物を堪能し、私達の留まる場所には多くの人々が集まり、私達の食べっぷりを驚き、楽しみながら観戦していた。


 まるで私達が、このアメリア王国のお祭りのメインイベントみたいだったな……



 そして、数時間後、城下街の中央広場。


「ふー……食った食った……」


 ようやく満足したのか、ミミズさんは仰向けでだらしなく横たわっていた。


「姫様から貰った金をほとんど使っちまったな……」


 通貨でパンパンに膨らんでいた袋は見る影もなく萎(しぼ)み、数枚の通貨を残すのみだった。


「小娘が好きに使えと言うとったじゃろうが、気にすることなど無かろう」

「はい、私がそう言ったのですから、バノン様は何も気になさる必要はありません」

「姫様がそう言うなら……」


 そう言ってバノンは懐に袋を仕舞う。


「でも、本当にたくさん食べたよね」


 私は後ろにいるしもべ達を見る。


(まんぷくだよー♪)

(幸せです~♪)

(大変絶品でした……)

(俺、もう食べられない、言う)

(はぁ……幸福ですわね……)

(あの焼いた肉で作った肉団子は最高でした)

(もう食えねぇでさぁ……)

(今の幸せな気分を曲にしたいです……)

(ギ、チチチ……)


 皆満腹で、とても幸せそうにしていた。


「ほんま美味かったわー……なぁゴリアテ?」

「ああ……それに魔王様とこうして再び一緒に楽しめた事が何より幸せだな……」

「そうやな……」


 ゴールデンとゴリアテの言葉を聞いて、ミミズさんが横を向いた。

 照れてるなあれは……


「いやー、満足満足だよー♪ おばあちゃん達へのお土産も沢山買ったしねー♪」


 そう言ってウィズは食べ物が入っている大きな袋を持ち上げた。


「早速おばあちゃんに届けに行って来よーっと♪ 行こうディオスさん」

「え、私も?」

「そうかそうか、では私も一緒に行こうかな」

「それじゃあお姉ちゃん、ちょっと行って来るねー♪」

「いってらっしゃい、気を付けてね」


 そう言ってウィズはディオスとバロムと共にエマさんの居る冒険者ギルドに向かって行った。


「……結局来てくれなかったで御座るな……」

(師匠、やはり何かあったのですか?)

「心配いらぬで御座るよ、ただの独り言で御座る」

「……? ガタク達は何を話してるのかな?」


 私がガタクとソイヤーが何か話しているのを見ていると、突如バノンに話しかける声が聞こえた。


「失礼、『救国の従魔使い』バノン殿ですか?」

「え? ああそうですけど……貴女は一体?」


 声の主はマントを羽織っている黒髪のポニーテールの女性だった。


「私の名はファレナと言います」

「ファレナさんですか、一体何の御用で……」

「ファレナ殿、来てくれたので御座るか!」


 バノンの背後からガタクが飛び出し、ファレナと話し始めた。


「やぁガタク、待たせてしまったね」

「いやいや、こちらもそちらの都合も考えずに強引に約束してしまったもので御座るからな」

「ガタク、この女性は知り合いなのか?」

「バノン殿、こちらのファレナ殿はランド大樹海で知り合った冒険者で御座る」

「ファレナ……何処かで聞いたような……?」

「実は先日、ファレナ殿の都合が良ければ一緒に祭りを見て回らないかと誘ったので御座る」


 成程そうだったのか……私も話に加わりたいがガタクのみ喋れると思っているかもしれないし、ここは黙っておこう。


「君の主が噂に名高い『救国の従魔使い』だったとはね」

「主……うむ、その通りで御座るよ」


 ガタクは一瞬微妙そうな声を出すが、そう言う設定なので仕方なく肯定した。


「それじゃあガタク、約束通り一緒に回ろうか」

「そうで御座るな、ではバノン殿、すまぬが一緒に」

「分かった、皆は少しの間ここで待っていてくれ」


 そう言ってガタクはバノンを連れ、ファレナと一緒に祭りを回りに北側へ向かった。




 それから暫くの間、皆が戻って来るのを待つ中、私とオリーブは他愛ない会話をしていた。


「……しかし、ガタクに人間の女性の知り合いが居たとはね……」

「あ! 思い出しました、ファレナさんって確か前にウィズが話してくれた、新しく冒険者ギルドに入ったって言う女性の名前です」

「へー、意外な繋がりが……そう考えると世界って結構狭いですね」

「そうですね……それにしても、今日は本当に楽しかった……ヤタイズナさん、ありがとうございました」

「お礼なんて……むしろこっちが言いたいぐらいですよ、オリーブのおかげで美味しい食べ物が沢山食べられましたし……」

「ふふ、ならお互いさまですね」


 そう言うと私とオリーブは暫く口を閉ざし、空を見上げた。

 そして数分間の静寂の後、オリーブが意を決したように口を開いた。


「―ヤタイズナさん、私……ヤタイズナさんに伝えたい事があるんです」

「伝えたい、事……」


 私とオリーブの空気を察してか、ミミズさんと魔鳥王と魔植王達が他のしもべ達と共に私達から距離を取った。


「……初めて私とヤタイズナさんがお会いした時の事を覚えてますか?」

「ええ、勿論、私を見てオリーブが急に大声で叫んだんですよね?」

「あ、あの時はカブトムシさんが目の前に現れたからつい嬉しくなって……もう、茶化さないでください」

「すみません、つい」

「……最初は大好きなカブトムシさんの事しか目に映ってませんでした……でもそれからヤタイズナさんと話したり、触れ合ったりするうちに、私の想いが変わって来たんです……大好きなカブトムシさんから、大好きなヤタイズナさんに……」

「オリーブ……」


 オリーブが右手で私の前胸部に触れ、潤んだ瞳で私を見つめ、こう言った。



「――ヤタイズナさん、私は貴方を愛しています、種族なんて関係無い、一人の異性として……」



 オリーブの告白に、私の胸に心地良い鼓動が鳴り響いた。

 目の前の美しい人が、オリーブが私を愛していると言ってくれた。


 その言葉で、私は自分自身の気持ちをやっと自覚することが出来た。

 私は、この女性を……オリーブ・アメリアを……


「――オリーブ、私は……」



 私が自らの気持ちをオリーブに伝えようとした、その時だった。


 アメリア王国上空に、無数の亀裂が現れた。


「なっ……!?」

「何じゃとぉ……!?」


 突然の出来事に私達だけでなく、城下に居た人々全員が空を見上げ、騒めいていた。

 そして数秒後、亀裂が完全に開き、亀裂内からおびただしい数の黒い影が飛び出してた!


 私はこの光景に見覚えがあった。


「あれは……ブラックローカスト!?」


 そう、初めてアメリア王国を訪れ、大樹海に帰る際に遭遇した黒き飛蝗の大群。

 あの時のブラックローカストの群れと同じ無数の黒い影が、今アメリア王国上空に出現したのだ。


 しかもあの時の比ではないほどの、空を覆いつくすほどの大群だ!

 黒く染まった空を見て、民衆はどよめき、我先にと逃げ始めた。


「ヤタイズナ!」

「ミミズさん……あのブラックローカストは……あの亀裂はまさか……!」

「うむ、間違いなくブロストの仕業じゃろうな……しかし何という数の転移魔法じゃ……一体どうやってあれだけの数を……」

「考えるのは後にしよう、まずはオリーブの身の安全とバノンとウィズ達と合流しよう! オリーブ、私に乗ってください、城まで一気に飛びます」

「わ、分かりました……!」

「よし皆、行くぞ!」

『『おおーっ!!』』


 私はオリーブを前胸部に乗せ、ミミズさんが角に巻き付くと同時に翅を広げて空を飛び、アメリア城へと向かった。







 ――城下街、裏道。


 そこには血に濡れた短剣を手にしたファレナと、地面に倒れているバノンの姿があった。











「第101回次回予告の道ー!」

「と言うわけで風雲急を告げる中、今回も始まったこのコーナー!」

「楽しいお祭り、そして遂にオリーブが想いを告げる中、突如空を覆う黒き影! そして血を流し地面に倒れ伏すバノン……急展開過ぎてパニックになりそうじゃ!」

「落ち着いてミミズさん! パニくるのは分かるけど、こんな時だから次回予告をしないと!」

「そ、そうじゃな……遂に始まったアメリア王国を襲う災厄を前に、ヤタイズナ達はどう対処するのか……そして遂に明かされるブロストの真の目的とは!?」

「それでは次回『大願と災厄の始まり』!」


「「それでは、次回をお楽しみに!!」」


 ・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので、次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。

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