第225話 運命の再開と災厄の序曲Ⅸ
日は沈み、辺りが暗くなっていく中、私達は夜道を歩いていた。
「三日後のお祭り、楽しみだねミミズさん」
「うむ、今から涎(よだれ)が出るほど楽しみじゃ……ってなに呑気にしとるんじゃ! 儂らがここに来た目的を忘れたのか!」
「ミミズさんだって呑気にしてたじゃん……勿論忘れてないよ、だからこそ城に行き、バロムが国王様と話しているんだろ?」
「うむ、話がスムーズに行けばアドニスの妻子たちが儂に残した予言を教えてくれるじゃろう……」
ミミズさんの言葉の後に、魔鳥王が喋りだした。
「多少問題になりそうなのは勇者達ですね……特にあのオオトリと言う少年は新たな魔蟲王の事と姫の想いを知れば私怨で貴方を攻撃する可能性がありますね……それほど愚かでない事を願いますが」
「確かに……あの時はバノンがオオトリに襲われたから咄嗟に声を上げちゃったけど、オリーブの行動に皆度肝抜かれて気づいてなかったのが幸いだったな……」
「けどよぉ、ワタナベとタチバナって娘達は前にちょっと話したけど友好的だったしあのオオトリってのを止めようとしてくれたぜ? もしもの時があっても止めてくれるんじゃねぇか?」
その言葉に、バノンが手に持っている魔植王が口を開いた。
『ええ、勇者達についてはそこまで問題視するほどではないでしょうが、一応の警戒だけはしておくべきでしょうね』
「そうですね……それにしても城での魔鳥王の演技には少し驚かされましたよ、意外と演技派なんですね」
「えんぎは? と言うのは分かりませんが……正体を隠すために自らを偽るのは当然の事です」
(ぼくはうれしかったなー、またフェネにあえたきがしたからー♪ ねぇドラッヘ♪)
(……まぁそうっすね、懐かしくはあったっす)
「……そ、そうですか」
あ、魔鳥王が照れてる。
「儂からしたら不気味な上に気持ち悪かったがのう……って痛ぁっ!? 魔鳥王、翼で殴るでない!」
「……失礼、あの時と同様に腹が立ってつい」
「痛っ、痛っ!? そ、そう言うならさっさと翼を止めんかぁ!」
『はははははははははは!』
魔鳥王とミミズさんのやり取りに私とバノンとウィズ、そしてしもべ達が声を出して笑った。
「ははははは……む?」
皆が笑う中、ガタクが遠くの街道で人影を発見し、じっと凝視した。
「あれは……ファレナ殿?」
(師匠、どうかされましたか? 立ち止まっていると遅れてしまいますよ)
「ん、ああ、すまないで御座る」
ソイヤーに声を掛けられ振り向いた後、ガタクは再び街道を見るが誰の姿も無かった。
「……気のせいで御座ったか……?」
――王城、国王の自室。
アメリア王国の王ラグナ・アメリアは、ワインのコルクを開け、グラスに注(そそ)いだ。
「お前のも注いでやる」
「すまんな」
バロムはグラスをラグナに近づけワインを注いでもらい、ソファーに座った。
「友との再会を祝して、乾杯」
「乾杯」
ラグナとバロムはグラスを掲げた後、一気にワインを飲み干した。
「相変わらず良い飲みっぷりだな、ほれどんどん飲め」
「おいおい急かすなよ……」
そんなやり取りをしながら、二人はでワインを飲み続ける。
「お前がこの国を離れてからもう一年か……こうして対等に酒を飲みかわす相手が居なくて、俺は退屈だったぞ……」
「ライラックが居ただろ?」
「おいおい、あいつが酒をほとんど飲めないのは知ってるだろう?」
「おっと、そうだったな」
「まったく……ふふ、やはりお前と飲む酒は美味いな」
「私もだよ」
他愛のないやり取りの中で、バロムとラグナはお互いに笑みを浮かべる。
「……それで、何があった? お前が帰ってきたと言う事は何かを見つけたんだろう?」
「……ああ」
バロムが沈黙し、再び口を開くのをラグナはワインを飲みながら待った。
「――魔蟲王に会った」
その言葉を聞いたラグナの手からグラスが落ち、地面にワインが零れた。
「……今、何て言った?」
「あの大樹海で魔蟲王に会ったと言ったんだ」
ラグナは立ち上がり、信じられないと言う顔でバロムを見たあと、平静を取り戻してソファーに座った。
「……そうか、やはり運命は予言通りに進んでいるのか……では、やはりこの国に災厄が……!」
「落ち着け、お前だってこの時のために備えをしているんだろう?」
「勿論だ、兵士の鍛錬も行わせ、魔物が市街に侵入した際の対処も教えさせている……そして勇者達も……!」
「防衛のために強力な戦士を欲するのは私も理解できる……だが、クラウスから聞いたぞ……独断で勇者召喚を行ったそうだな」
「……」
「まだ年端もいかぬ少年少女等を戦いの道具に使うなど……『あの事』は話しているのか?」
「……いや、話していない」
「やはりな……しかも勇者を繋ぎ止めるためにオリーブちゃんを差し出したんだろう? 昔のお前なら娘を道具のように使うことなんて……」
「……何時までも昔のままではいられないんだよ、バロム……俺はこの国の王なんだ……王位を継いだあの日、父上達にこの国の隠された歴史を教えられた時から……俺はこの国に命を捧げたんだ」
「ラグナ」
「それと一つ訂正しろ……私は今まで一度たりともあの娘を、オリーブを道具扱いした事など無い……勇者との結婚も、オリーブを守るためにした事だ!」
「……」
「……すまない、つい熱くなってしまった……それで魔蟲王は今大樹海の何処に?」
「大樹海には居ない……魔蟲王はもうこの国に来ている」
「何だと……!?」
バロムの言葉に、ラグナは立ち上がり驚愕した。
「既に来ているだと!? 何処だ、何処に居るんだ!?」
「落ち着けラグナ! お前の準備が出来次第会わせようと思っているんだ」
「準備か……そうだな……祭り当日の夜、魔蟲王と二人で城に来てくれ」
「分かった」
バロムが頷いた後、ラグナは歩き出し、窓から街を見下ろした。
「既に予言の半分は終わりを告げているのか……どんな邪悪な者が来ようと、私はこの国を絶対に守って見せる!」
――翌日、早朝。
朝早く起きた私はバノンに頼んで、私の散歩に付き合ってもらった。
「こんな朝から悪いねバノン」
「いいって事よ、一応お前の主って事になってるからな、こんぐらいは付き合うぜ」
「ありがとう……でもどうしてウィズも一緒に?」
そう、私達の散歩にウィズも付いて来ているのだ。
「えへへー、私も目が覚めちゃってねー♪ 偶には朝の散歩も良いかなってねー」
「まぁ、別に一緒に居ても困るわけじゃないしね」
「だな」
それから暫くウィズの家の近くを散歩していると、ウィズが口を開いた。
「……ねぇ、レギオンさん何かあったのー?」
その言葉を聞いて、私は固まってしまった。
「何か以前のレギオンさんと雰囲気が違うって言うか、別の虫みたいな感じがしてさー」
「あー、ウィズ……それはだな……」
「バノン、私から話すよ」
「けどヤタイズナ……お前……」
「大丈夫だよ……ウィズ、実はね……」
私はウィズに魔人族の事を隠し、私達に起きた事とあのレギオンは別の存在である事を話した。
「そうだったんだー……そんな事が……」
「うん……私がもっと強ければ、レギオンは、レギオン達は犠牲になんてならなかった……主失格だよね……」
「……」
「っと、いけないいけない……こんな弱音なんて言ってたらレギオン達に顔向けできない、しっかりしないと……ごめんね、暗い雰囲気にして……それじゃあ散歩の続きをしようか」
「……そうだねー」
私は気持ちを切り替え、散歩を再開した。
「……ヤタイズナさんちょっと無理してるねー」
「やっぱり分かるか……無理しすぎて押し潰されねぇと良いんだが……」
「きっと大丈夫だよ、ヤタイズナさんなら」
――散歩から戻り、朝食を食べていると、バロムが家に帰って来た。
「ただいま」
「先生、おかえりなさいませ」
「お父さんおかえりー♪ 今お父さんの分も用意するから待っててねー」
そう言ってウィズは台所へと移動したのを確認したバロムが口を開いた。
「魔蟲王、それにミミズさん、ラグナとの面会の日が決まったよ」
「本当か! でそれは何時なのじゃ?」
「二日後の祭りの夜に私と共に二人だけで来てほしいそうだ」
「祭りの夜か……」
「ところでバロムと二人だけって言ったけど……私とミミズさん、どっちが行けばいいのかな?」
「それは当然儂じゃろうが、リリウム達は儂に伝えたいことがあるんじゃぞ」
「でも今は私が魔蟲王で、ミミズさんは元魔王(笑)だし……」
「おいコラ! (笑)言うのは止めろ!」
「おっ、何かそのセリフ久しぶりだねミミズさん」
「やかましい!」
「まぁ元魔王(笑)と現魔王、二人で魔蟲王と言う事でラグナには話すよ」
「貴様まで(笑)言うなぁ!」
「はははは……とにかくオリーブとお祭りを楽しんだ後に城に行けば良いわけだね」
「美味いものを食えて、リリウム達が残した儂に伝えたかった事も分かる……これが一石二鳥と言う奴じゃな! よし、話も終わったし食事を続けるかのう」
「本当、食べるの好きだねミミズさん」
「お主も人の事言えんじゃろうが!」
「お父さんお待たせー! 冷めないうちに食べてねー♪」
ウィズが料理を持って戻って来たので、私達は再び朝食を食べ始めたのだった。
――翌日、夜。
城下にある民家の屋根の上に、一つの人影があった。
「……!」
人影が空を見上げていると、背後に気配感じ、振り返って警戒する。
「やはりファレナ殿で御座ったか」
「っ!? ガタク!?」
月明かりに照らされ、両者の姿が露わになる。
一方はヤタイズナのしもべの一匹、ガタク。
もう一方はガタクが大樹海で何度もあったことがある冒険者の女性、ファレナであった。
「何故君がここに……」
「いや実は先日ファレナ殿らしき人影を見かけて気になって同じところを見回っていたので御座る……なに安心するで御座る、拙者もお忍びでの行動、ここでファレナ殿と会った事は言わぬで御座るよ」
「……はぁ」
ファレナは気が抜けたのか溜息を吐き、屋根の上に座り、ガタクもファレナの隣に座った。
「こんな屋根の上で一体何をしていたので御座るか? いや別に言えぬことであれば無理に言う必要は無いで御座るが……」
「……月を見ていたんだ」
そう言ってファレナは空に浮かぶ満月を見た。
「成程月見で御座るか、確かに今宵は月が美しいで御座るからなぁ……ファレなどのは月が好きで御座るのか?」
「ああ……昔は良く兄と一緒に月を見て話したものだ……」
「それは良き思い出で御座るな」
「ありがとう」
そのままガタクとファレナは暫く月を見続ける。
「……ファレナ殿、何かあったので御座るか?」
ガタクの言葉を聞き、ファレナの身体が一瞬硬直した。
「……どういう意味だい?」
「いや、拙者の気のせいなら良いので御座るが……何か苦しそうな感じに見えたで御座るから……」
「……」
「すまぬ、いらぬ気遣いで御座ったな」
「いや、実はここの所気分がすぐれなくてね……だから気分転換に月見をしていたんだ」
「そうで御座ったか……しかし気分が優れぬのであれば寝て療養せねばいかんで御座るよ」
「すまない」
「別に謝る必要は無いで御座るよ……そうだ! 気分転換と言うなら明日の祭り、拙者や殿達と回らんで御座るか?」
「え……?」
「祭りで美味な物を食べ、楽しく遊べば気分も優れて元気になれるで御座る! 如何で御座るか?」
「……」
「勿論無理にとは言わんで御座る、でも拙者はファレナ殿には笑顔になって欲しいので御座るよ」
「っ! ……笑顔に……?」
「うむ……おっとそろそろ戻らねばいかんで御座るな……もし当日拙者達を見かけ一緒に回りたいと思ってくれたのであれば、声を掛けて欲しいで御座る、では拙者はこれで」
そう言ってガタクは前翅を開けて翅を広げ、飛んでいった。
「……笑顔、か……また兄さんと同じ言葉を……」
――『ファレナには、何時も笑顔でいて欲しいんだよ』
「……兄さん……ぐぅっ!?」
ファレナは突如苦しみ出し、右腕を掴んで苦しみを抑えていた。
「うぅ、ぅぅぅ……はぁっ、はぁ……」
暫く苦しんだ後、ファレナは起き上がり、呼吸を整える。
その一瞬、ファレナの右腕が蠢(うごめ)いたように見えた。
「笑顔……ガタク……私は……」
そう言ってファレナは屋根から飛び降り、建物の影の中に消えて行った。
「第100回次回予告の道ー!」
「と言うわけで遂に100回目を迎えたこのコーナー!」
「このコーナーも三か月ぶりかー、何か久しぶりだよねミミズさん」
「うむ、まさか今回の話が9話分も長くなるとは思いもしなかったのじゃ……もう少し綺麗に纏められるように頑張りたいもんじゃな」
「まぁその辺の話は置いといて、次回予告を始めようよ」
「そうじゃのう、今回の話で色んなことが進んだのう……そして次回は遂に祭り当日、アルトランド王国の時のようにまた一悶着ありそうな気配はするのう……まぁそれも総ては次回『豊穣祭』を楽しみに待つのじゃ!」
「「それでは、次回をお楽しみに!!」」
・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので、次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。
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