第224話 運命の再開と災厄の序曲Ⅷ
――一時間後、ようやく満足してくれたオリーブから離れた私は、念願のお茶菓子を食べていた。
「美味しい……!」
「感動するほどか?」
「だって、今まで全然食べられなかったから……」
「ごめんなさい……私がヤタイズナさんを撫で続けていたからですよね……」
「あっ、いえそう言う意味で言ったわけではないんです! ……所でオリーブ、さっきのオオトリとかいうのが貴方の……」
「はい、勇者様の一人で、私の元婚約者です」
「会話からして大体分かっていましたが……アレがですか」
「はい、アレがです……」
私を虫けら、薄汚いと言ったあの勇者……初めて姿を見た私のオオトリに対しての第一印象は。
この人とは合わないな、である。
何と言うか趣味とか考え方が根本的に違っていて、人間の時に会っていたら何言っても分かり合えない関係になっていただろう。
しかもオリーブの事が好きなんだけど彼女の本質を理解しないで自分の理想を押しつけ、尚且つオリーブの事に対しては本人や周りの意見はほとんど聞いていないのだろう。
一応善人ではあるのだろうが、見た感じまだ十代後半ぐらいだったし、精神的に未熟で視野が狭くなっているのだろう。
まぁ私も転生前はまだ二十歳だったし、そこまで人の事は言えないが……
「大変だったんですね……」
「本当に大変でした……大好きな虫さんとのひと時は邪魔されて、喋る言葉は歯が浮くような言葉ばかり……後、偶に髪の毛を勝手に触って来るし……」
「うわぁ、それは……」
「確かにキモいが、お主達がトリップしている時も結構キモいがのう」
「「えぇっ!?」」
ミミズさんの言葉に私とオリーブは同時に驚いた。
「そんなに驚くことか? のうバノン」
「俺に振るなよ……」
「ま、まぁそれは置いといて……オリーブが婚約破棄したってウィズから聞いた時は驚きましたよ」
「はい、お母様の後押しもあってやっと決心できたんです……自分の想いに正直に行動しようって……だ、だから……」
オリーブは顔を真っ赤にして俯いた。
「かー! 本当に初心じゃなあの小娘!」
「そう言ってやんなよ、最初はあんなもんだろ」
「そんな子供でもあるまいし、やはりヤタイズナの奴が小娘をこう、ガバッと一気にじゃな……」
「だからそれ止めろって……」
ミミズさん達が喋る中、オリーブが顔を上げて私を見つめ、意を決したように口を開いた。
「あ、あのっ、ヤタイズナさん!」
「は、はい」
「今から三日後に、この国で年に一度のお祭りがあるんです」
「お祭ですか?」
「はい、今年もアメリアで多くの農作物の実りと収穫が与えられた事への感謝と、来年もまた実りがありますようにと皆で願うお祭りなんです」
「そうそう、皆笑顔で美味しい物を食べたり踊ったりしてとても楽しいんだよー」
「美味しい食べ物じゃと……アルトランド王国でもあった屋台もあるのか!?」
「勿論だよー♪」
「ほほう……そうかそうか」
「それは楽しみで御座るな!」
(ええ、美味な食事を早く堪能したいですね)
(いまからたのしみー♪)
「美味いもんか……ずっとあそこに居たからそんなもん食べてなかったし楽しみやなー」
(……そんなに騒いで楽しみにする程のもんなんすか?)
ウィズの言葉にミミズさんとしもべ達が嬉しそうに騒いでいた。
「えっと、それでですね……当日、一緒にお祭りを回りませんか?」
「私達とですか? それは良いですけど……一国の姫であるオリーブが自国でお忍びで回るなら、護衛として誰かが一緒じゃないと駄目なんじゃ……」
「それなら大丈夫です、お母様に口利きをしてもらっていますし、それに英雄であるバノンさんにウィズも一緒ですから問題ありません」
「成程、確かにそれなら問題はありませんね」
英雄として知れ渡っているバノンが護衛と聞いたら、安心してくれるだろう。
「それでは三日後、城の城門前近くで待ち合わせにしましょう」
「分かりました、一緒に祭りを楽しみましょう、オリーブ」
「はい、私も楽しみにしていますね♪」
「お父さんとディオスさんも一緒に回ろうよー♪」
「そうだね、私も久しぶりにお祭りを楽しもうかな」
「わ、私も?」
「うん、みんなで楽しもうねー♪」
話が纏(まと)まり皆で談笑していると、庭園に誰かが入って来て、早歩きで私達の元にやって来た。
「バノン様、それにヤタイズナ様達も……お久しぶりで御座います」
「これは爺やさん、お久しぶりです」
そう、やって来たのはオリーブの執事である爺やこと、クラウス・ジーイヤーさんだった。
爺やさんはバノンと挨拶を交わしたあと、バロムに頭を下げ挨拶をした。
「お久しぶりですバロム様、お戻りになられたのですね……お変わりのないようでなによりです」
「ありがとうございます、爺やさんも相変わらずお元気ですね」
「はははは……バロム様、国王様がバロム様と二人でお会いになりたいと……」
「ああ、私もそのために来たんだ……ウィズ、すまないが今日は家に帰れないかもしれないから、私の分の夕食は作らなくていいからね」
「分かったー」
そう言うとバロムは爺やさんと共に城内へと消えて行った。
「国王様がバロムさんと話か……何を話すんだろうな?」
「お父様と小父様は親友同士ですから、久しぶりの再会できっと積る話があるんですよ」
「一年ぶりの再会だもんな……オリーブの言う通り腹を割って話したいんだろうね」
――それから時は経ち、夕暮れ時になったので私達はオリーブに別れを告げ、ウィズの家へと帰ることにした。
国王様に直接話をしたかったが、バロムと二人だけで会いたいと言われては邪魔することは出来ない。
まぁ別に急ぎと言う事でも無いし、この国に居る間には聞けるだろう。
そう思いながら城門へと向かうため城内を歩いていると、目の前に小さな少女が現れ、私達を見て大きな声を上げた。
「あー! おっきなむしさんたちだ~!」
「え、あれって……ミモザ姫!?」
そう、目の前に現れた少女の正体は、アルトランド王国第一王女、ミモザ姫であった。
ミモザ姫は私に近づき、角に触れた。
「やっぱりかたくてつるつるする~♪ あ! こっちはきらきらだ~!」
「な、なんや? くすぐったいって~」
今度はゴールデンに近づいて、ゴールデンの前翅を触っている。
そして今度はミミズさんを見て。
「……やっぱりおいしそー」
「っっ!?」
前にも聞いた言葉を発したミモザ姫の視界から逃れるように、ミミズさんはバノンの陰に隠れた。
「ミモザ! 勝手に一人で歩き回って……迷子にでもなったらどうするんだ……おお! バノン殿、それにヤタイズナ殿達も!」
「うわ~久しぶりだね~、元気だった?」
「ガーベラ王妃、それにリオン国王も!」
ミモザ姫の後を追って私達の元にやって来たのは、アルトランド王国の王妃ガーベラ・アルトランドと国王リオン・アルトランドだった。
「お二人とも、どうしてアメリア王国に?」
「父上達に国賓として招待されてな、里帰りも兼ねて今到着した所なんだ」
「……と言う事は、まさか魔海王の奴も来とるのか!?」
「いや、レヴィヤなら新曲の構想中で海の中に籠(こも)っているよ」
「ははは……魔海王は相変わらずのようですね」
「ああ、所で貴方達は城で何をしていたんだ?」
「話せば色々と長いのですけど……」
私はガーベラにアメリアに来た経緯などを、話せる部分のみを話した。
「成程そうだったのか……しかしウィズの父親か……会えたらあとで挨拶をしておこう、それでは私達はこれで」
「また今度ね~」
「ばいば~い♪」
ガーベラ王妃達は城内の奥へと進んで行った。
「……ったくあのチビ娘めが、また儂を食い物扱いしよってからに……」
「まぁ子供の言う事なんだし、気にしないでいいんじゃない?」
「あのチビ娘だけならば儂だって何も言わん、じゃがここに居る小娘は勿論、お主のしもべ共すら儂を食い物扱いするのじゃぞ!? そりゃ気にするに決まっとるじゃろうが!」
ミミズさんがミモザ姫の言葉を皮切りに、今まで溜まっていた不満を話しているのを聞き流しながら、私達は城の外へと出たのであった。
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