第222話 運命の再開と災厄の序曲Ⅵ
「お姉ちゃん、ヤタイズナさんと見つめあって幸せそうだねー」
「確かに、笑った顔は見た事はあったが……あんな表情は初めて見るね……オリーブちゃんも恋を知ったと言う事か」
「……どうでも良いがバノン、あ奴ら何時まであの状態でいるつもりなのじゃ?」
「俺に言われてもな……」
「まったく……おい小娘! ヤタイズナー!」
ミミズさんに大声で呼ばれた私とオリーブはハッとなり、離れて少しだけ距離を取った。
「ひ、久しぶりですオリーブ、元気なようでなによりです……」
「あ、ありがとうございます……ヤタイズナさんもお元気そうで……」
「お姉ちゃーん!」
私達がもじもじと挨拶をしていると、ウィズがオリーブに抱き着いた。
「ウィズ、それと確かディオスさん……バロム小父様!?」
「久しぶりだねオリーブちゃん」
バロムを見て、オリーブは目を丸くして驚いていた。
「何時帰ってこられたんですか……? それにどうしてヤタイズナさん達と一緒に?」
「昨日帰って来たばかりだよ、彼等とは色々あって知り合いになったんだよ」
「そうだったのですね……」
オリーブも王族だからアメリアに伝わる予言の事を知ってるかもしれないが……急にミミズさんの事や私が魔王である事を言ったら混乱するかもしれないしな……今は言わない方が良いだろう。
その後、私達はオリーブとあった時のお決まりである、庭園でのティータイムをすることにした。
因みに魔植王はバノンがテーブルの隅に置いている。
(オリーブひさしぶり~♪)
「す、スティンガーちゃんで、良いんですよね?」
「はい、進化して凄く立派になったでしょう?」
「は、はい……少しびっくりしましたけど……艶のある体と立派な鋏が素敵ですね♪」
「ですよね! そうだオリーブ紹介しますね、ドラッヘとゴールデンです」
「まぁ! トンボさんとコガネムシさんですね! 初めまして♪」
(……どうもっす)
「どもどもお姫様、初めましてー」
「貴方も喋れるんですか!?」
「そりゃ喋りますがな、何当たり前の事と言うてますの?」
いや、普通は喋らないんだよ……
「あんさんがオリーブさんかー、末っ子がいつも世話になっとります」
「末っ子?」
「ヤタイズナのことですよー」
「ええ!? ヤタイズナさんの御兄弟!?」
「いえオリーブ、本当の兄弟ではないですからね?」
「何言うとるん、同じ親から産まれたんやから、兄弟やろー」
「だから、別に儂はお主らの親ではないと言うとるじゃろうが……」
「ええっ!? ミミズさんはヤタイズナさん達の親だったんですか!?」
「違うわ! だから正確には親ではなくて……ああもう良いわ親で……」
「おお、遂にミミズさんが諦めた」
「ようやく認知してくれたんやなー♪」
「こ奴ら~……」
「まぁまぁ……認めたら楽になったんじゃねぇのか?」
「うるさい! ふんっ!」
ミミズさんはそっぽを向いて不貞腐れ始めた。
少しからかい過ぎたか……
「……ところでヤタイズナさん、そちらの方は……?」
オリーブは私達の後ろにいる魔鳥王を見た。
「そういえば、お父さんの事で舞い上がってて聞くの忘れたー、その……人? その人誰ー?」
「えっとですね……この子はフェネと言いまして、旅の途中で出会いまして、その後従魔として一緒に旅をしているんです」
私が魔鳥王を紹介した後、魔鳥王がオリーブとウィズに笑顔で挨拶した。
「ワタシ、フェネ! ヨロシクネ♪」
「貴女は……ハーピーですね、初めまして、オリーブ、アメリアです」
「ウィズだよー♪ フェネちゃん、改めてよろしくねー♪」
(わーい♪ あのときのフェネをおもいだすよー♪)
(そうっすね、あの時はお前らに振り回されたっすよ……)
「へぇ……スティンガー達が出会った時はあんな感じだったんだ」
「……演技とは言え、普段とのギャップのせいで不気味に感じるのう……」
ミミズさんの言葉が聞こえたのか、魔鳥王は一瞬ミミズさんを睨んだ。
けどあれならカタコトしか喋れないハーピーの女の子にしか見えないから、魔王である事を隠すには最適だろう。
それからしばらくして、城のメイドがお茶菓子を持ってきてくれ、各々お菓子を食べ始めた。
(おいしいー♪)
(美味ですね!)
「やはりここの菓子は絶品で御座るな!」
(……まぁ、美味いっすね)
「美味いもん食ったって、ゴリアテに自慢できるな~」
「オイシイネ!」
「うむ! おかわりじゃ、おかわりを持ってこい!」
「食うの早すぎじゃねぇか?」
「ディオスさん、さっきからボーっとしてるけど大丈夫ー?」
「うん……平気……心配しないでくれ……」
皆がお菓子を食べる中、私もクッキーを食べようとした時、オリーブが私に話しかけた。
「あの……ヤタイズナさん」
「はい、なんですかオリーブ?」
「あのですね……ヤタイズナさんと久々に会えたから、また前のように身体を触らせて欲しいんです……」
「え゛ それは……」
「だ、駄目ですか……?」
「いえ、嫌では無いですよ……しかし……」
私の脳裏に先程のオリーブの笑顔が浮かび、胸の鼓動がまた強くなった。
あの笑顔を見てから妙にオリーブを意識してしまう……本当にどうしちゃったんだ私……?
「ヤタイズナさん?」
「っ! な、なんでもありません……分かりました、どうぞ好きに触ってください」
私は地面に座り込んだ。
「で、では、失礼しますね……」
そう言うとオリーブはしゃがみ、私の前翅に右の人差し指で触れ、つぃーっ……と滑らせた。
「はぁぁぁ……♪」
オリーブは恍惚の声を静かに発し、前翅を伝って前胸部へ行き、丁寧に触って行く。
な、なんかいつもと触り方が違うような……
私は今までのように動かず、オリーブの好きなように身体を触らせ続ける。
うう……オリーブを意識しているせいか、いつも通り触られているだけなのに妙に鼓動が……
「……ミミズさん、あれどう思うよ?」
「小娘の奴、何かから解放されたかのようにヤタイズナに迫っているのう……その変化にヤタイズナは戸惑っておるな……ったくあやつ本当に初心いのう……」
ミミズさん達がなにやら話してるけど、今はそれどころじゃなかった。
オリーブの絹のように滑らかな肌触りの手が私の身体を触り続け、私の心臓はさらに強く脈打つ。
「ヤタイズナさん……ああ、ヤタイズナさん……」
「……!? オリーブ、そこは……!」
オリーブの手が、前翅から私の腹部に向けて移動し始めた!
ちょっ!? 腹部は不味い! 腹部は前翅に比べて敏感なんだ!
「お、オリーブ! 腹部は勘弁してもらえませんか……?」
「ヤタイズナさん……ヤタイズナさんヤタイズナさん……」
駄目だ! 恍惚とし過ぎてて声が聞こえてない!
動けば何とかなるだろけど、無理に動けばオリーブを傷付けてしまうかもしれないし……あ、ちょ、オリーブ駄目です! そこは、そこは駄目ぇぇぇぇぇぇっ!?
私が心の叫びを発したその時だった。
「オリーブ! 一体何をやっているんですか!?」
知らない男の声が聞こえ、庭園に居た全員がその声が聞こえた方角を見た。
そこにいたのは、以前アルトランド王国で見た勇者、アヤカ・タチバナとミズキ・ワタナベ、そして見た事の無い二人の男だった。
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