第221話 運命の再開と災厄の序曲Ⅴ

――翌日。


 朝食を済ませた私達は、アメリア城に行くために城下を歩いていた。


 流石に全員で行ったら通してくれない可能性があるのでメンバーは私とミミズさんとバノン、そして魔鳥王と魔植王とガタク、ソイヤー、スティンガー、ドラッヘ、ゴールデン、後ウィズとディオスも付いてきている。


「毎度の事でもう慣れたけど、やっぱり目立つね私達……」

「今回は儂らだけでなく、バロムも居るからのう、今までの倍目立っとる感じじゃのう」


 私達が通る場所には人々が集まり、騒めきながら遠巻きに私達を視ていた。

 中にはバロムに近づいて挨拶やフランクに話す人達も居た。


 バロムのアメリア王国での人気や人望は凄いみたいだな……流石は『最強の冒険者』だ。


「ところでバロムよ、何故こ奴も連れて行くのじゃ?」


 ミミズさんは後に居るディオスを見てそう言った。


「駄目だったかな?」

「懐柔したとはいえ、ひょっとしたら儂らを背後から儂らを殺そうとするかもしれんじゃろうが! 家に置いておくべきじゃと思うがのう……」

「ディオスさんはそんな人じゃないよー! 珍味さん考えすぎだよー」

「だから珍味って言うなと、何度言えば分かるんじゃあ!」

「おお、このやり取り久しぶりだねミミズさん」

「やかましいわ!」

「ディオスさんだってそんなことしないよねー?」


 そう言ってウィズはディオスの腕に抱き着いた。


「ウィ、ウィズ……腕に抱き着くのはちょっと……」

「あっ、ごめんねー……ディオスさんが杖を突いてた時に支えてあげてたからついー……」

「ほう? それは聞いてないな……?」


 そう言ってバロムが笑顔でディオスを見つめる。


「せ、先生……ですから何度も言いますが……」

「冗談だよ、さぁ行こう」

「はぁ……」

「どうしたのディオスさん、溜息なんて吐いてー? ほらシャキッとしないとー!」


 ウィズがディオスの背中をバンと叩いた。


「痛ぅっ!?」

「あ、ごめん……強く叩きすぎちゃった?」

「いやウィズは悪くないんだ……背中が痛いのは別件でね……」

「?」


 ディオスの言葉にウィズは首を傾げていた。


「……ところでバロム、こっちは王城への近道では無いですけど……何処に向かってるんですか?」

「城に行く前に、少し義母上に会いに冒険者ギルドに行こうと思ってね、いいかな?」

「ああ、エマさんの所にですか……かまいませんよ、急いでいるわけではないですしね」


 バロムは一年ぶりにアメリアに帰って来たんだ、義理の母であるエマさんに帰ってきた事ぐらいは伝えないと駄目だよね。


「いいよねミミズさん?」

「まぁのう、じゃが話に花を咲かさずに手短に済ますんじゃぞ」

「分かっているよ、私も義母上もそんなに話すタイプではないから安心してくれ」



 歩くこと十数分、私達は冒険者ギルドの前に着いた。


「では行ってくる」

「私もおばあちゃんに会ってくるねー♪ 行こうディオスさん」

「え!? 何で私も……!?」


 バロムの後を追って、ウィズがディオスの手を引いてギルド内へと歩いて行き、その数秒後、冒険者ギルド内がとても騒がしくなった。


 バロムさん!?とか、お久しぶりですバロムの旦那!とか、恐らく冒険者たちがバロムに挨拶してるんだろうな。


「さて、ここじゃ迷惑になるだろうし、あっちに移動しようか」

「そうじゃのう」


 私達は冒険者ギルドの建物の隅に移動し、バロム達が戻るのを待つことにした。





 ――一時間後。


「まだか? もう待ち飽きたぞ!」

「いやいやまだ一時間ぐらいだよ? 積る話もあるだろうしこれぐらいは待たないと……」

「だとしても暇じゃ! おいヤタイズナ、お主何か面白い事でもするのじゃ!」

「そんないきなり言われても……あっ、バロム達が出て来たみたいだよ」


 バロム達が冒険者ギルドから出てきて、こっちに向かってきた。


「待たせてしまってすまないね」

「いえいえ、それじゃあ行きましょう、か……」


 バロムと話していた私の視界に、バロムの後ろでドッと疲れているディオスの姿が入った。

 その姿は意気消沈しきって、さながら肉体から魂が抜けているが如くだ。


「あの……彼はどうしたんですか?」

「ディオスかい? 実は義母上と話していたら話題が彼とウィズの事に移行してね……まぁその後色々とね」

「成程……」


 私は再びディオスを見る。

 ……多分昨日ウィズが言ってしまったお風呂の件で色々問い詰められたんだろうなー……


「それじゃあアメリア城に向かおうか」

「そうですね」


 何はともあれ、私達はオリーブに会うために再び城へと向かい始めた。







 ――数十分後、私達は遂にアメリア城、城門前に到着した。


「なんか懐かしい感じだねミミズさん」

「そうじゃのう……儂にとっては二重の意味で懐かしく感じてしまうのだろうな……」

「ミミズさん……」

「それじゃあ話を通してくるから待っていてくれ」


 そう言ってバロムがウィズを連れて城門前の兵士の元に向かい話しかけた。

 バロムを見た兵士が目を丸くして驚き、敬礼している姿が見える。


 やはり国王の親友だけあって城の兵士からも慕われているんだな……

 話が終わった後、兵士は急いで城の中へと入って行き、バロム達が戻って来た。


「話は付けたよ、入っても問題は無い、それと君達の事をオリーブちゃんに伝えるように話したよ」

「ありがとうございます、それじゃあ皆、城に入ろう」


 バロムを先頭に私達は城内へと入り、いつもの庭園へと移動した。


「懐かしいなー……ここでオリーブと初対面した際、私を見たオリーブが嬉しそうに大声で叫んだんだよね」

「うむ、あの時の事は覚えているぞ……女版ヤタイズナが現れたと思ったからのう……」

「ん? なんか小声で言った?」

「気にするな、独り言じゃ」



 それから待つこと数分、庭園内にオリーブが歩いて来た。

 オリーブの服装は最初に出会った時と同じ白のドレスだった。


「お姉ちゃーん!」


 ウィズが大声でオリーブを呼び、オリーブはこちらを向き、私を見て固まった。

 あ、この感じなんか読めて来たぞ……きっとオリーブがまた叫んで私に抱き着いてくるパターンだな。


 私も展開が読めるくらいに慣れて来たな、まぁ何回も同じことやってるし当然と言えば当然か。

 そう考えていると、オリーブは叫ぶことなくゆっくりと私の元へと歩いて来た。


 あれ? いつもの感じじゃない……?

 私がそう思っていると、私の元に辿り着きしゃがんで私の前胸部にそっと抱き着いた。


「……お久しぶりですヤタイズナさん……ずっと、ずっと会いたかった……」


 そう言ってオリーブは私の顔を見て頬を赤らめ、ライトグリーン色の瞳を潤ませながら微笑んだ。



 ――その笑顔を見て、私の心臓は強く鼓動した。


 なんだ、これ……身体が強張り、オリーブから目が離せない……この笑顔を見ているだけで、腹部の気門の呼吸が荒くなってきた。

 そしてこの……この胸の高鳴りは一体……?


 私はその胸の高鳴りの正体に気付けないまま、私とオリーブはそのまま数分間お互いの顔を見つめ合っていた。

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