第218話 運命の再開と災厄の序曲Ⅱ

「ウィ、ウィズ……ききき君、君は……先生の、ご息女だったのか……!?」


 ディオスはあまりの事に動揺しまくっている。

 私だって驚きだ……まさかバロムが、ウィズのお父さんだったなんて……


 と言うかちょっと待てよ……それが事実ならウィズの父親は魔人族で元六色魔将の一人にして国王の親友、お祖母ちゃんはギルドマスター、自身は王女様と幼馴染で、更に人間と魔人族のハーフって事!?


 ゲームとか小説だったら属性盛り過ぎとか言われるレベルだよ……

 って今そんな事言ってる場合じゃない!


「バロム、本当に貴方がウィズの……?」

「ああ……今まで話していなかったが、私の本名はバロム・ユアンシエルと言うんだ」

「お主がこの小娘の父親とはのう……」

「驚きすぎて顎が外れるかと思ったぜ……」

「私だって驚きだよー、ヤタイズナさん達がおとうさんと一緒だなんてー」

「ははは、まぁ色々とあってね……話は家に入ってからしようか、なぁウィズ」

「うん! おとうさん!」


 ウィズはバロムの右腕を掴んで、家の中へと入って行く。


「え、あの、ウィズ? 先生……?」


 私達も、いまだに動揺し続けているディオスと共に、家の中へ入った。







「――はい、おとうさん! お茶だよー」

「ありがとう、ウィズ」

「えへへー、ヤタイズナさん達は飲み物いるー?」

「いや、今は良いかな」

「儂もじゃ」

「同じく」

「……」


 私達は、テーブルを境にして向かい合って座っているバロムとディオスの姿を見ていた。

 ディオスは肩身を狭そうにしながら、バロムの様子を窺っていた。


「ウィズ、すまないが少し席を外してもらえるかい?」

「? わかったー、でも用があったら直ぐに呼んでねー♪」


 ウィズはリビングから離れて自室に戻って行った。


「……私は、君がブロストの手に掛かって殺されたのだと思っていたよ」

「!? 何故その事を……」

「奴が愉快そうに語っていたからね……」

「ブロストめ……」


 ディオスは拳を強く握りしめ、ブロストへの怒りを露わにしていた。


「ゼキアにも会ったよ……君やザハクの仇を取ろうとしていた……」

「そうですか……先生、教えてください……何故、貴方はザハクの仇であるその者達と共にいるのですか!」


 ディオスは立ち上がり、私達を睨みつけながらそう言った。


「……ディオス、確かにザハクは彼等との戦いに負けた……だが、ザハクの最期の言葉を彼から聞いた時、悔いのない戦いをしたのだと私は感じた」

「そいつらの戯言を信じると言うのですか!」

「少なくとも私は信じるよ」

「!? ……なぜ、そこまで……」

「彼等は、信頼出来る者達だからだ……ディオス、私が彼等と共にいる理由を総て話そう……ヤタイズナ、君達の事も話していいかな?」

「私達のってつまり……どうするミミズさん?」

「まぁ、こやつを丸め込めると言うなら良いじゃろう」

「もうちょっと言い方があるんじゃねぇか……?」



 バロムは自身が魔人王の元から離れるに至った出来事、そして今までの経緯を話した。

 それを聞いたディオスは顔を青くし、力無く椅子に座った。


「そんな……我々魔人族が人工的に造られた存在……? ヴィシャス様を殺したのはブロストだったなんて……」

「そう、そして今ブロストは魔封石のほとんどを手中に収めているだろう……」

「しかも……そこにある苗木に、バラス砂漠で戦った少女、そして一本角の魔物が六大魔王……!?」

「その通りだ」


 ディオスは戸惑い、自らの両手を見つめる。


「この身体が、他の生命だけでなく……同族の命で出来ていた……? 一体どれほどの業がこの身に流れていると言うんだ……!」

「……私も昔は沢山悩んだ……直ぐに答えは出ないだろう……」


 バロムは立ち上がりディオスの元に歩き、肩に右手を置いた。


「その身体に流れる命の重さを理解できたとき、君だけの本当の『個』が見つけられるだろう……」

「っ……先生……!」


 ディオスはバロムの右手を両手で掴み、静かに涙を流していた。






 暫くして、平静を取り戻したディオスがバロムと再び向き合い、頭を下げた。


「御見苦しい所をお見せして、申し訳ありませんでした」

「ふふ、構わないよ」

「……とりあえず和解出来たみたいで良かったねミミズさん」

「うむ、奴の懐柔は成功じゃな!」

「だから言い方がよぉ……」


 そんな感じに私達が話していると。


「もう冷静になったんだね、ディオス」

「はい! 何があろうとも一切動揺しません!」

「そうかそうか……ではここからは個人的な質問に移ろうかな」

「個人的な質問、ですか?」

「うん……ディオス、君は私の娘と……ウィズとどういう関係なのかな?」


 バロムか笑顔でそう言った瞬間、部屋一帯をとてつもない殺気で包まれた!

 私達は一瞬でバロムから離れ、ディオスは全身から汗が噴き出していた。


「どういう、関係と言うのは……?」

「言葉通りの意味だよ、君が我が家に居ると言う事は……ウィズと同棲していたってことだよね?」

「そ、それは……!」

「さぁ、答えてもらおうかなディオス?」


 バロムは笑顔を崩さずに居るが、その殺気はさらに増していく!

 そ、そりゃそうか……父親なら娘が男と一つ屋根の下で暮らしていると解れば、平常でいられるわけないもんな……


「た、確かにウィズとは暫く共に暮らしていましたが……ですがそれは彼女に助けられ、看病してもらって成り行きでそうなっただけなんです! 決してやましい事などしておりません!」

「……そうか、ではウィズに聞いてみるとしようかな? ウィズー! 来てくれー!」

「はいはーい!」


 バロムの呼びかけに応じて、ウィズがリビングへと早歩きでやって来た。


「おとうさんどうしたのー?」

「ウィズ、彼と暮らしている間、どんなことをしたんだい?」

「どんなことー? んっとねー……怪我の手当てにー、リハビリで一緒に外を歩いたりー、食事の用意でしょー……」


 私達も話を聴いているけど、そんな特にやましい事なんて何も……


「あっ! お風呂で身体を洗ってあげたよー♪」

「違うんですぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!!」


 ディオスは目にもとまらぬ速さでバロムに土下座した!

 対してバロムは今までの笑顔は消え、まるで鬼のような面構えとなっていた。


「それは私がまだ歩くことすらままならない状態の時に、『体は綺麗にしとかないと』と言ってウィズが無理矢理……そ、それにその時私は目隠しをしていましたし、洗ってもらったのは背中だけなんです!」

「……ウィズ、その時おまえはどんな格好だったんだい?」

「え? お風呂の時は全裸に決まってるよー」

「ウィズぅっ!!?」

「……ディオス……」

「先生! 私は本当に何も、何もしていないんですぅぅぅぅぅぅぅ………!!」



 ディオスの心からの弁明の叫びが、辺りに響き渡った……

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