第217話 運命の再開と災厄の序曲Ⅰ

「――ここに来るのも随分と久しぶりだよね、ミミズさん」

「うむ、そうじゃのう」


 私達は、アメリア王国の外壁近くに辿り着いていた。


「懐かしき我が故郷……一年ぶりだな……」


 バロムはアメリア王国を前に懐かしさに浸っていた。


「さて、とりあえずいつも通り門の前に行くとするか、頼んだよバノン」

「おう、まぁどうせいつもみたいに騒がれるんだろうけどな……」

「魔鳥王も、大丈夫ですか?」

「問題ありません、従魔の証もこの通り」


 今回、しもべ達全員はもちろんだが、魔鳥王にはマントを着けてもらい、脚に従魔の証を着けてもらっている。

 バノンの従魔として入った方が素性を聞かれる心配も無いからな。


 私達は王国への入口へと歩いて行く。






「ば、バノンさんじゃないですか! お久しぶりです!」


 入り口の前までやって来た私達を見て、門兵がバノンの元に走って来た。


「ゴルトさん、お久しぶりです」

「本当に久しぶりです! しかもまた従魔が増えている……流石、『救国の従魔使い』!」

「ははは……」


 バノンが頬を掻いて照れていると、門兵の視線がバロムで止まった。


「ん……? あ、貴方は、バロムさん!?」


 バロムはフードを外し、門兵を見た。


「やぁゴルト君、久しぶりだね」

「今まで何処に居られたんですか!? それもバノンさんと一緒に居るだなんて……」

「色々とあってね」

「す、凄い……『救国の従魔使い』と『最強の冒険者』が同時に来るなんて!」

「最強の冒険者?」


 バノンが首を傾げると、門兵がバノンに説明を始めた。


「そう、この人こそアメリア王国冒険者ギルドのナンバーワンの実力者、『最強の冒険者』バロムさんなんですよ!」

「よしてくれ、そんな大それた呼び名、私にはもったいないよ……」

「またまたご謙遜を……ああ失礼、興奮してつい長話を……では入国手続きを行いますね……では、どうぞお入りください」


 私達は門をくぐって街へ移動し始めた。


「でも驚いたな……バロムがアメリア王国最強の冒険者だったなんて……」

「皆が勝手にそう呼んでいるだけだよ」

「しかし、思えばあの時アメリアに侵攻していた魔物達との戦いも、バロムが居れば心強かったのにな……」

「ああ、あの時か……確かにのう」

「魔物の侵攻?」


 私の言葉に、バロムは足を止めた。


「私が居ない間にこの国に何があったんだ? 聞かせてくれ」

「ええ、実は……」


 私はあの時の、大草原での魔物達との戦いと、その侵攻が魔人族の手によるものだったと話した。


「……私の居ない間にそんなことが……我が故郷でもあるアメリア王国を守ってくれて、ありがとう」

「礼なんて良いですよ、あの時は知らなかったとはいえ、ミミズさんにとっても大事な王国ですからね」

「まぁ、そうじゃのう」


 私達の言葉にバロムは笑みを浮かべた。


「さて、それではバロムがアメリア王家とすでに接触していると言うし、バロムを使って城に入るかのう?」

「それは賛成だけど、ちょっと寄り道しても良いかな?」

「寄り道? ああ、あの小娘の所か?」

「うん」


 オリーブ達に会う前に、色々と世話になっているウィズにも挨拶をしておかないとな。


「バロムも、寄り道に付き合ってもらっても良いですか?」

「構わないよ」

「よし、それじゃあ行こう!」




 人々に遠巻きに見られながら歩くこと十数分、私達はウィズの家に着き、バノンが扉をノックした。


「……ヤタイズナ、ここが寄り道先かい?」

「はい、この家にはアメリアで世話になった娘が住んでいるんです、ひょっとしてバロムも知ってるんですか?」

「いや、知っているとかそうではなく……ここは私の家だよ?」

「「「はい?」」」


 私とミミズさん、バノンが一緒に間抜けた声を発すると同時に、扉が開いた。


「失礼、どちら様だろう、か……」


 扉を開けて出て来たのはウィズでは無く、頭に布を巻いた20代程の黒髪の青年だった。

 誰だ? まさか家を間違えた……?


 私がそう考えていると、青年が私達を見てプルプルと震えている。


「じ、従魔使い……何故ここに……!?」


 青年はバノンの後ろに居るバロムを見て、硬直し、バロムも目を見開いていた。


「先、生……」

「ディオス……何故君がここに」


 ディオス!? それって確か……

 私が考えていると、スティンガーとドラッヘが騒ぎ出した。


(あー! この声あの時のー!)

(そうっす、バラス砂漠で自分達と戦った奴っす!)


 そうだ、スティンガー達達から聞いた、六色魔将『緑』の将で、バロムの教え子だ!

 そのディオスが何故ウィズの家に?


 そう思った瞬間、ディオスの背後からウィズが顔を出した。


「ディオスさん、誰が来たのー? ってヤタイズナさん達じゃーん! また遊びに来た、の――」


 満面の笑みだったウィズが、バロムを見た瞬間真顔になった。

 そんなウィズを見て、バロムは微笑みながら口を開いた。


「……ただいま、ウィズ」

「……かえって、帰って来たんだね、おとうさーんっ!!」


 ディオスを押しのけて、ウィズはバロムに抱き着いた。



『『……お、おおおおおお、おとうさんんんんんんんんんんっっっ!!?』』



 私とミミズさんとバノン、さらにはディオスまでもが、ウィズの一言に驚愕の叫び声を上げた。

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