第219話 運命の再開と災厄の序曲Ⅲ

「――すまない、少々取り乱してしまったようだね……」

「ははは……まぁ仕方ないとは思いますよ……」

「ディオスさん、大丈夫ー?」

「ああ……うん……大丈夫……」


 あれから一時間が経ち、平常心を取り戻したバロムに対し、ディオスは全力の弁明で精魂尽き果て、床に座っている。


「ディオス、君が誠実な男だと言う事は知っているはずなのに、信じられなくてすまなかった……」

「い、いいんです先生……分かってくれたのなら……」

「だがそれはそれとして……ウィズに手を出すなら、容赦はしないからね?」

「は、はい……」

「?」


 バロム達のやり取りを、ウィズは不思議そうに見ていた。






「しかし本当に驚きましたよ……バロムがウィズの父親で、オリーブの父である国王の親友だなんて……世界って狭いですね」

「確かに、私も君達がウィズと知り合いだった事に驚いたし、さらにオリーブちゃんとも面識があるとはね……」

「凄いでしょー♪ お姉ちゃんとヤタイズナさん達は仲良しなんだよー♪」

「オリーブちゃんは小さい時から虫が好きだったからな……喜んでいる姿が目に浮かぶよ」

「そうだヤタイズナさん! 明日お姉ちゃんに会いに行ってあげてよー! お姉ちゃんきっと元気になるよー!」

「オリーブの元に? まぁ元々王城に用があるから会いに行くつもりだったけど……ん? 元気になるって、オリーブ具合でも悪いの?」

「具合が悪いわけじゃないよー、ちょっと色々あって心身共に疲れてるんだよー」

「疲れてる?」

「腐った物食って腹でも下したのか?」

「そんなミミズさんじゃあるまいし」

「なんじゃとぉ!? 儂の腹はそんなに弱くは無いぞ!」

「ツッコむ所そこなのかよ……」


 ミミズって枯草とか食べ物を土に換えてくれるから、腹が弱くないっていうのは本当だな。

 まぁそんなことは置いといて。


「それでウィズ、オリーブに何があったの?」

「うん、お姉ちゃん婚約破棄したの♪」


『『『………何だってぇぇぇぇっっ!!?』』』


 バロムがウィズの父親だった発言に次ぐ衝撃の言葉に、私達は驚愕の声を上げた!


「婚約破棄!? オリーブが!?」

「うん、一週間ぐらい前にねー、お姉ちゃんが小父さんに勇者様との婚約破棄を求めたのー」

「それで、婚約破棄を成立させたと言うのか? あの小娘にそれだけの度胸がのう……」

「小母さんも婚約破棄に賛同したのが大きかったねー」

「小母さん?」

「お姉ちゃんのお母さん、少し前にこの国に戻って来たんだー」

「ああ……」


 そう言えば前に、『お母様は今この国に居ない』ってオリーブ言ってたな……


「オリーブちゃんが勇者と婚約、そして婚約破棄か……私の留守の間に随分と話が進んだものだね……ラグナめ、無断で勇者召喚を行ったな……しかし城は今大騒ぎになっているんじゃないのかい、ウィズ?」

「うん、勇者様はなんかちょっとおかしくなって、他の勇者様達がそれを宥(なだ)めたりして、もうしっちゃかめっちゃかだったよー……お願いヤタイズナさん、お姉ちゃんに会いに行ってあげて! 大好きなヤタイズナさんが傍にいれば、お姉ちゃん元気100倍、いや1000倍になるから!」

「あ、ああ、勿論会いに行くよ」

「よし♪、それじゃあもう直ぐ夕飯時だから、食事の準備をするねー♪」


 そう言ってウィズが台所に向かう中、私はある事を考えていた。


 ……そう言えば今まで色々な事があってうやむやにしてきたけど、オリーブが好きなのって、結局カブトムシなのか? それとも本当に私……なのか?


 これだけはどうしてもわからない……転生前は本当に大好きな虫の事しか考えてなかったからなぁ……それに私自身の気持ちの整理もしないと……はぁ……


「……なぁミミズさん、ヤタイズナの奴また面倒くさいこと考えてねぇか?」

「じゃのう……雌絡みの事に対しては相変わらずちまちまと悩みよってからに……もうさっさと襲って己の番(つがい)にすればよかろう」

「……それやったら色々とヤバいことになるぜ?」


 その後しばらくの間、ミミズさんとバノンが何か小声で話し、私は悩み続けるのであった。

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