第215話 敗北の代償Ⅱ
アメリア王国……何度も訪れた場所であり、ミミズさんとも深い因縁がある国の昔の勇者が、私達が来ることを予言していた……
「アメリアにはその勇者が残した予言が他にもあるらしい……その中にはミミズさん、貴方自身の事も記されているはずだ」
「……つまり、アドニスの妻と子が……リリウム達が儂に何かを残していると言うのか?」
「そこまでは私にも分からない……だが一つだけ言えるのは、アメリア王国は魔蟲王が現れるのを待ち望んでいたと言う事だ」
「……!」
「ミミズさん、行こう」
「ヤタイズナ……」
「リリウムさん達がミミズさんに伝えたかった事……絶対に聞かなきゃいけないよ」
「……そうじゃな……その通りじゃ!」
「でもまぁ、ミミズさんに対する恨み言かもしれねぇけどな?」
「おいバノン、なに不吉な事を言っとるんじゃあ!」
「悪い悪い、ついな? でもそう言うパターンだってあるかもしれねぇだろ?」
「貴様と言う奴は~……」
「はははは……よし、それじゃあ早速準備をしよう!」
私達はアメリア王国への旅支度を始めた。
今回のメンバーは魔人族の襲撃を想定しつつ、エンプーサを除くしもべ達全員とゴールデンとゴリアテ、そして魔鳥王と魔植王を連れて行くことにした。
「やはり今回はエンプーサを連れて行かんのか」
「うん、エンプーサの性格からして、アメリアの人々に危害が加えちゃう可能性があるからね……巣の防衛を任せる事にするよ」
「まぁそれが妥当な考えじゃろうな」
私とミミズさんは巣の外に出て、しもべ達とともに最終確認を行う。
「……よし、これで準備は完了だ、それじゃあ私は今からエンプーサの元に行くから……」
「殿、そのエンプーサ殿がこっちに向かってきているで御座るよ?」
ガタクの言葉を聞いて後ろを振り向くと、確かにエンプーサが茂みをかき分けて私達の元へと歩いてきていた。
「ヤタイズナ、傷はもう良いみたいだな」
「ああ、完全に回復したよ……まさかと思うけど、今から戦えと言うんじゃ……」
「ふん、今の貴様とはたとえ頼まれたって戦わんわ」
「え?」
「完全に回復しただと? それは身体が治っているだけに過ぎん……貴様の心は、あのギリエルとの戦いで折れてしまっている」
「っ……そんなことは無いよ」
「いや、今の貴様からは我と戦った時に感じた気迫が感じられん……そんな者と戦っても何も昂らぬわ!」
「……そうなのか? ミミズさん」
「うむ……あ奴の言う通りじゃ……今のヤタイズナは己自身に大丈夫と言い聞かせておるが、まだ心は完全に立ち直ってはおるまい」
「確かに、敗北の代償はあまりにも大きかったからな……」
ミミズさんとバノンが小声で話す中、私はエンプーサとの話を進めた。
「と、とにかくエンプーサ、私達は暫く森を留守にするから、お前に巣の防衛を頼みたいんだ」
「別に構わん、我がしもべ達に定期的にこの周辺の見回りをさせよう」
「助かるよ……所でエンプーサ、戦いを申し込みに来たわけじゃないなら、どうしてここに?」
「その事だがな……昨日我が巣にある者が来たのだ」
「ある者?」
「そうだ……おい! こっちだ、さっさと来んか!」
エンプーサが叫ぶと、茂みから一匹の昆虫が現れた。
「っ――」
その姿を見た私は、一瞬呼吸が止まった。
「……ギ、チチチ……」
「レギオン」
そう、私の前に現れたのは、あの日私達を救うために死んだレギオンだったのだ。
「レギオンじゃと!?」
「おいおいマジかよ!?」
「レギオン、生きておったで御座るか!」
(レギオンー!)
(無事で良かったですー♪)
(……何か、雰囲気がおかしくないっすか?)
ガタク達が喜ぶ中、ドラッヘはレギオンの様子がおかしい事に気付いた。
ドラッヘの言葉で私の止まっていた思考が戻り、目の前のレギオンを凝視する。
「……違う、レギオンじゃない」
「なぬ?」
「違うって……どういう事だよ?」
姿形は確かにあの時進化していたレギオンそのものであるが……こいつはレギオンではないと私は感じた。
私はレギオン(?)に鑑定を使用し、ステータスを確認した。
ステータス
名前:(引継ぎ中)
種族:レギオンアント
レベル:1/150
ランク:A
称号:魔王のしもべ
属性:地
スキル:(引継ぎ中)
エクストラスキル:(引継ぎ中)
ユニークスキル:(引継ぎ中)
(引継ぎ中)? 初めて見る言葉だ……今まで魔蟲の宝珠によって変異した者達のステータスは不明だったが、これはどういう事なんだ?
私はレギオンアントを見つめる。
「ギチ、チチ……」
複眼で分かりにくいが、何処か虚ろな感じだな……
しかしこの姿形は……あの時は意識が朦朧としていたから気付けなかったが、間違いなくパラポネラだな。
パラポネラ……和名サシハリアリはハリアリの一種で、ニカラグアからパラグアイまでの湿潤な低地多雨林に生息している。
体長は25から30mmとハリアリの中では世界最大で、なんと日本のクロオオアリの約二倍だ。
甲殻は赤黒く頑強で、噛み付く時金切り音を発するのが特徴だ。
原始的なアリで集団生活はするが体が大きいので狩りは単独で行い、狩りをする際は口で相手を押さえつけ、尻尾の毒針を刺して殺す。
この神経毒は人間を殺害する能力はないが、スズメバチ並の毒を持ち、焼けるような激痛が全身に走る。
その痛みはどんなハチに刺された時よりも激痛らしく、刺された時に24時間痛みが続くことから現地では24時間アリ、または銃弾に撃たれたような痛みを発すると言う事から弾丸アリとも呼ばれている。
ブラジルの先住民は、戦士となるための通過儀礼に特別な葉で編みこんだグローブを作り、そこに何百匹ものパラポネラを入れて両手に付け、パラポネラに刺されながら10分間の間装着すると言う儀式を行う。
それに耐えてようやくグローブを外しても激痛は続き、手は焼け付くようで、腕は完全に硬直し全身に耐えられないほどの痛みが何日も続くという。
そして大人として合格するためにはそれを計20回もこなさなければならないと言うから恐ろしい。
この事からパラポネラは最強の蟻と呼ばれ、グンタイアリが唯一避ける蟻だとインターネット上で言われていたが、それはそれは真っ赤な嘘だ。
いくら最強と呼ばれるパラポネラでも、現実ではグンタイアリの集団にはなす術無く捕食されてしまうのだ。
毒に関しても絶対に24時間続くということは無く、刺された回数にもよるらしいが最低5分程度で痛みが引く事もあるようだ。
「どうじゃ、ヤタイズナよ」
「それが……ステータスを見てもよく分からないんだ……けど、レギオンでは無い事は確かだよ」
「ではこいつは誰なのじゃ?」
「恐らく、しもべのアント達の一匹だよ……あの光から奇跡的に生き延びてたんだ……たった一匹でも、生きていてくれたなんて……私は嬉しいよ」
「ギ、チ」
私の言葉に、レギオンアントが少しだけ反応した。
「それで、こやつをどうするのじゃ?」
「とりあえず巣に居てもらうよ、この状態じゃ旅に連れて行くのは……」
そう言おうとした時、レギオンアントが私の元に来て、顎を鳴らした。
「……一緒に行きたいのか?」
「ギ、チチチ……」
私の問いに、レギオンアントが頷いた。
「分かった、一緒に行こう」
「ギチチチ……」
レギオンアントは虚ろながらも嬉しそうに鳴いた。
「よし、それじゃあ皆、出発だ!」
『『『おおーーーーっ!!!』』』
こうして、レギオンアントをメンバーに加えた私達はアメリア王国へと旅立ったのであった。
「第99回次回予告の道ー!」
「と言うわけで、あと一回で百回目を迎えようとしているこのコーナー! ……って今回も儂一人かい! まぁ良い次回予告を始めるぞ! 次回は再びサイドが変わり魔人族の話となる様じゃ、儂らがアメリア王国に向かう中で何を企んでいるのか? それでは次回『大願成就へ進む者』!」
「それでは、次回をお楽しみに! ……いい加減一人で予告やるのもつまらなくなってきたのう……べ、別に寂しいと言うわけではないが、さっさと戻って来んかあの虫マニアがーっ!」
・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので、次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。
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