第214話 敗北の代償Ⅰ

――北の森での戦いから一か月後、ヤタイズナ達の巣。





「……しかしまぁ、魔鳥王並みに不死身じゃのう、魔植王」


 巣の中で、ミミズさん、バノン、魔鳥王、バロムは目の前にある鉢に入った小さな苗木サイズの魔植王と話していた。


『正確には不死身では無く、バノンに渡していた体の一部から再生しただけですがね』

「地面に置いてた棍棒の一部から根っこが生え始めた時はたまげたぜ……」

「何はともあれ、貴方が無事でなによりです、魔植王」

「まぁその辺の細かい事は良いとして、問題はこれからどうするかじゃな……」

「ミミズさんよぉ、その話をするならやっぱりヤタイズナを呼んできた方が良いんじゃねぇか?」

「……今はそっとしておいてやれ……しもべを失う辛さは、儂も知っておるからのう……」

「……そうだな、仲間を失ったら辛いもんな……」


 ミミズさんとバノンが俯く中、魔鳥王が話を進めた。


「では、話を進めますが……やはり一番の問題は我々が持っていた魔封石と魔植王が持っていた魔封石は誰が手にしたかと言う事ですね」

「うむ……それなんじゃが、突如現れた亀裂からして、六色魔将の一人、青のブロストが奪ったとみるのが妥当じゃろうな」

『確かに、そのブロストとやらが使用する転移魔法ならば、私に気付かれずに魔封石を奪えるでしょうね』

「じゃあ、やっぱり総ての石は魔人族の手に渡っちまったって事かよ」

「いや、それはどうかのう……奴の行動にはおかしな点がある」

「おかしな点?」

『何故ギリエルが手にしようとしていた石を奪ったか、ですね?』

「そうじゃ、魔人王を復活させたいのであればあのような行動はとる必要は無いはずじゃ」

「確かにその通りです、であればブロストの目的は別にあると言う事ですね……バロム、貴方はブロストが何を考えているか分かりますか?」

「いや……奴は私とは違う意味で他の魔人族とは違ってはいたが……すまない」

「うぅむ……この話はここでいったん区切りか……では次は今後の方針についてじゃが……」

『……それについてですが、私に一つ提案があります』

「む? 何じゃ魔植王?」

『……バロム、彼等をあの国に』

「……確かに、ミミズさんも記憶を取り戻した今だからこそ、戻る時だな」

「戻るときじゃと?」

「ああ……一つの始まりの場所へだ」








 ・


 ――巣にある自室で、私は地面に座り込んでいた。


 魔鳥王の力で南の森まで飛ばされた私達は、巣の中で傷を治しつつ、周囲の警戒をした。

 そして一週間後、ドラッヘが北の森がどうなったかを偵察を行い、あの場所のその後が分かった。


 あの日、光に包まれた場所一帯は木々は消え去り、地面は抉れ、超巨大なクレーターになっていたと言うのだ。

 そして、ギリエルも魔植王の身体も……レギオン達の姿も何も無かったそうだ。


 あの時の感じた喪失感は間違いなんじゃないか、そんな希望を抱いていたが……やはりあの時レギオン達は……


「ギチチチチ」


 入り口を見ると、ガーディアントが私に報告をしに来ていた。


「ご苦労様、今日はもう休んでいてくれ」

「ギチチチ」


 私の指示を聞き、ガーディアントが自らの部屋へと帰って行く。

 ……この一か月の間に、新しいしもべ達が生まれた。


 生まれて来たのはガーディアント3匹、ソーアント3匹、アーミーアント4匹の計10匹だ。


「……」


 私は部屋に飾られている石像を見つめる。

 レギオン達はこの石像を褒めた時、本当に嬉しそうにしていたな……


 ……情けない! 何時までもこんな風にうじうじしていたら、命を懸けてくれたレギオン達に顔向けできないだろ、私!


 気合を入れよう……レギオン達の分まで、私は頑張らなきゃいけないんだ!

 私は起き上がり、気分を入れ替えるためにミミズさん達の元へ向かった。






「ミミズさん、何か話し事?」

「ヤタイズナ、何故ここに!? 部屋に居ったのではないのか?」

「ちょっと気分転換にね」

「……本当に大丈夫なんじゃろうな?」

「心配はいらないよ、全身の傷はもう治ったし、体調も万全だよ」

「……そうか、ならちょうどいい、次の旅の話をしていた所じゃ」

「次の旅?」

「うむ、バロムが言うには、一つの始まりの場所だそうじゃが……」


 ミミズさんの言葉に、バロムが頷いた。


「以前、ミミズさんが何故私が君達と魔植王が接触するのが分かったのかと聞いただろう?」

「そう言えば、そんなこと言ってたね」

「うむ、確かに言ってたが……」

「それはある予言のおかげなんだ」

「「予言?」」

「ああ、私がある国の王族と接触し、信頼を得た事で教えてくれた古くから伝わっていた予言の一つ……『千年後、蟲の王がこの国に訪れ、そして同時に邪悪なる者が国を滅ぼさんとするだろう』……とね」

「蟲の王って……私の事、だよね?」

「じゃろうな、しかし邪悪な者か……もしや魔人族か?」

「可能性はあるね……しかし結構的確な予言だね」

「じゃのう、魔鳥王の予知と違って……痛たたたた! 魔鳥王、翼で、翼で叩くでない!」

「……すみません、少々腹が立ったもので」

「ははは……それでその予言をしたのは誰かわかっているんですか?」

「ああ……予言をしたのは、国を守護していた『勇者』の一人だ」

「「勇者の一人!?」」


 私とミミズさんは同時に驚いた!


「そ、それじゃあバロム、貴方が居た国って……!」

「そう……アメリア王国だ」

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