第213話 ウィズと傷だらけの騎士Ⅲ
――ディオスが目を覚ましてから、二週間が経過した。
その間にディオスの身体は着々と回復して行き、なんとか自力で立ち上がれるまでになっていた。
「……朝か」
目を覚ましたディオスはベットから起き上がり、多少ふらつきながらも部屋から出てリビングへと向かった。
「おはようウィズ」
「あ! ディオスさんおはよー! もうすぐご飯が出来るから待っててねー♪」
「分かった」
ディオスは食卓の椅子に座り、ウィズを待つこと数分、ウィズが料理を持ってやって来た。
「はい、召し上がれー♪」
食卓に置かれたのは、山盛りの焼肉と野菜のサラダだった。
「いただきます」
動けるようになり、同じ食卓で初めて食事をしたときはその量に驚き、毎日同じ献立に戸惑っていたディオスだが、もう慣れて黙々と料理を食べ進めるようになったのであった。
「馳走になった」
「御粗末様でしたー♪」
食事を済ませ、食器を片付けているウィズにディオスが話しかける。
「ウィズ……私の身体も大分回復した、だからそろそろ国に帰ろうと思っているのだが……」
魔人族については話せない事が多いので、ディオスは自身がアメリアから遠く離れた故郷から武者修行の旅の途中に盗賊に襲われ負傷して倒れていたとウィズに説明していたのである。
「駄目だよー! ディオスさんまだ歩くときふらついてるし、杖がなきゃ長時間は歩けないでしょー?」
「しかし、これ以上君に迷惑をかけるわけには……」
「迷惑なんて思ってないよー、とにかくちゃんと回復するまではこの家に居てもらうからねー、分かった!?」
「あ、ああ、分かった……」
ウィズが食器を片付ける中、ディオスは頭を抱える。
一刻も早く戻りたい……だが確かにウィズの言う通り、今の私がマモン森林まで戻るのは不可能に近い……仕方ない、帰還は一旦諦め、今後の任務のために偵察を行うか……
そう考え、ディオスはウィズに話しかけた。
「ウィズ」
「んー? どうしたのー?」
「感覚を取り戻すために外で歩きたいんだが……もし良かったらこの国を案内してくれないか?」
「そんなことならお安い御用だよー、ディオスさんにこの国の良い所を見せてあげるねー♪」
「よろしく頼む」
――数十分後、ウィズから受け取った服を着て、白い布を頭に巻いて角を隠したディオスは杖を突き、ウィズと共に外を歩き始めた。
「その服の着心地はどう?」
「ああ、少し大きいが問題無い……この服は誰の物なんだ?」
「お父さんのだよー、今はこの国に居ないから部屋から持って来たんだー……さてと、まずはこっちだよー」
ウィズに案内され、ディオスは街道を歩き始めた。
「ここが冒険者ギルドだよー! おばあちゃんがギルドのマスターなんだー♪」
「あの御老人が……通りで只者ではないと思った……」
「中に入っておばあちゃんに挨拶してくる?」
「いや、それは遠慮しておくよ……」
初対面の時から、個人的にエマが苦手なディオスなのであった。
「そうー? それじゃあ次はー……」
その後ウィズに連れられ街の美味しい料理屋や市場、露店などを回るディオス。
その途中で、何かの準備を行っている人々の姿を見つけた。
「ウィズ、街の人々は何をしているんだ?」
「ああ、あれは豊穣祭の準備をしているんだよー」
「豊穣祭?」
「うん! 今年も沢山の実りをありがとうございますって大地に感謝するお祭りで、アメリアで一番大事な行事なんだよー!」
「成程……」
「二週間後にあるから、ディオスさんも楽しんでねー♪」
「あ、ああ……」
ディオスは、その時には自分はもうこの国を去ると言おうとしたが、ウィズの笑顔を見て言い出せなかった。
暫く歩き続け、ディオス達はアメリア城の前までやって来ていた。
「ここがアメリア城だよー、大きいでしょー♪ ここには勇者様達も暮らしてるんだよー」
「勇者……そうか……」
ここに勇者が……以前部下を送り込み従魔使いの情報を探らせていた時には我々の囮作戦で不在であったが……出来ればこの目で見ておきたいものだな……
そう考えているディオスの顔を、ウィズが覗き込んだ。
「ディオスさんどうしたのー?」
「っ! いやその……勇者殿達を一目見たいものだなと思ってな」
「そっかー……じゃあ合わせてあげようか?」
「は?」
「ウィズ様、姫様をお呼びしますので、こちらでお待ちくださいませ」
「はーい」
「……」
ディオス達は庭園に置かれた椅子に座り、ウィズはクッキーを食べていた。
「美味しー♪」
「……」
ディオスは唖然としていた。
突如また突拍子の無い発言をしたかと思えば、門兵と話し始め、数分後には入場の許可が出て楽々と城内に入る事が出来た。
そんなことが出来るこの少女は一体何者かと思いながら、ディオスはウィズを見つめる。
「……? ディオスさん食べないのー?」
「え? あ、ああ! いただこう」
ウィズに促されるまま、ディオスもクッキーを食べ始めた。
「美味しいでしょー?」
「うむ……」
数分後、ディオス達の元にドレスを着た少女がやって来た。
「ウィズ、こんにちは」
「お姉ちゃーん!」
そう、やって来たのはアメリア王国第二王女、オリーブ・アメリアであった。
ウィズは立ち上がり、オリーブに抱き着いた。
「もうウィズったら、口がお菓子で汚れちゃってるわよ……」
オリーブはハンカチでウィズの口元を拭ってあげた。
「ところで、そちらの方は?」
「あの人はディオスさんって言って、大草原で倒れていたのを助けたんだよー」
「まあ、この人が前に言っていた……初めまして、私はアメリア王国の第二王女、オリーブ・アメリアと申します」
「王女……! これは失礼しました!」
ディオスは立ち上がり、ふらつきながらも頭を下げた。
「無理に畏まらなくても良いですよ、まだ身体は治っていないのでしょう? 頭を上げてください」
「はっ! ありがとうございます」
「まずは座ってゆっくりと話しましょう」
オリーブに促され、ディオス達は再び椅子に座り、会話を始めた。
「それでウィズ、どうしてディオスさんをここに?」
「実はね、ディオスさんが勇者様に会いたいらしいんだー」
「まぁそうだったの……でもごめんなさい、勇者様達は今国の外にいらして……」
「そっかー……ディオスさんごめんねー……」
「いや、構わんさ、会ってみたいと思っただけだから……ところでウィズ、君は王族の親族か何かなのか?」
「違うよー? お姉ちゃんはお姉ちゃんじゃないけど、私にとってお姉ちゃんだからねー」
「……よく分からないのだが……」
「あはははは……私とウィズは血は繋がってないけど、子供の頃から一緒に居る姉妹のようなものなんです」
「成程……」
「えへへー……そうだお姉ちゃん、あの件はどうなったのー?」
「え、ええ……ちょっと不安だけど……今度、お父様たちに私の正直な気持ちを告げるわ」
「おおー! お姉ちゃん、ファイトだよ♪」
「ありがとう、ウィズ」
「えへへー♪」
「……血は繋がらずとも、姉妹か……」
ウィズとオリーブの談笑する姿を見て、数百年前の自分とゼキアとザハクの姿を思い出していた。
「いやー、すっかり夕方になっちゃったねー」
「そうだな……」
日も落ち駆けた夕焼け空の中、ウィズとディオスは家への帰路を歩いていた。
……偵察をするはずが、ウィズのペースに呑まれ普通に楽しんでしまったな……
今日一日の行動を振り返って、ディオスは苦笑した。
「ディオスさん、この後ちょっと寄り道して行かない?」
「ん? 構わんが何処に行くんだ?」
「むふふー、私のお気に入りの場所の一つだよー♪ ほらこっちこっちー!」
ウィズの後を付いて行くディオス。
……その二人を、遠くの物陰から見つめる人影があったが、その影は一瞬で姿を消した。
「ディオスさん、階段は気を付けてねー」
「大丈夫、分かっている」
ディオス達は王国を囲む城壁にある城壁塔の一つを昇っていた。
「はい、到着ー!」
「これは……」
城壁塔を昇り終わり、城壁の上に着いたディオスの目に映ったのは、夕焼けに照らされた城と城下町の光景だった。
「凄いでしょー? この時間帯は一番綺麗に光が差し込むんだよー♪」
「ああ……これは壮観だ……」
その光景の美しさにディオスは見入っていた。
「子供の頃にお父さんによく連れてこられてねー……大きくなってからは門兵さんに話を通せば入れてくれるから、偶に来てるんだー」
「成程」
「ここに来ると普段自分が暮らしている国が、こんなに大きくて、沢山の人が生きているんだなーって実感出来るから、私好きなんだー」
「……沢山の命、か……」
「ディオスさん?」
「なんでも無い……そう言えばウィズ、父親は国の外に居ると言ったが、母親は何処に居るんだ?」
「お母さんなら、私が幼いころに死んじゃったんだー」
「それは……すまない、知らぬこととはいえ失言を……」
「別に気にしてないよー、お母さんは居なかったけど、お父さんにおばあちゃん、それにお姉ちゃんが傍に居てくれたもの」
「……強いな、君は……それに比べて私は……むぐっ!?」
ウィズが両手でディオスの頬を触った。
「ディオスさん何か悩んでるみたいだけど……そんなに思い詰めても仕方ないよー、偶には何も考えずに笑うのも大事だよ」
「……ああ、そうだな」
先生の事、命の重さを学ぶこと、その命を奪う魔人族の使命……多くの事で悩んできた。
だが……不思議だ。
彼女と一緒に居ると、その事を忘れてしまう。
本当に、不思議だ……
夕焼けに照らされたウィズの笑顔を見て、胸に暖かさを感じるディオスであった。
「第98回次回予告の道ー!」
「と言うわけで今回も一人で始まったこのコーナー! ……何で小娘と知らん奴のラブコメを見せられなきゃならんのじゃ……まぁ良い、次回は再びヤタイズナサイドへと戻るぞ! ギリエルとの戦いに敗れた後、儂らがどうなったか、気になるなら待っておるがよい! では次回『敗北の代償』!」
「それでは、次回をお楽しみに!」
・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので、次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。
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