第212話 ウィズと傷だらけの騎士Ⅱ

「馳走になった」

「御粗末様でしたー」


 食事を済ませたディオスは、ウィズと会話する。


「ウィズさん、聞きたいことがあるのだが……私は何日ほど眠っていたんだ?」

「んー……今日でちょうど一週間ぐらいかなー?」

「一週間……そんなに眠っていたのか……」

「ところでディオスさん、私も聞きたいことがあるんだけどー……ディオスさんって亜人なの?」

「は?」

「だって、ディオスさん額に角が生えてるからー」

「っ!?」


 ウィズに指摘され、ディオスは咄嗟に両手で額を隠した。


 しまった……手当をされている時点で鎧を脱がされ素顔を見られているのは当然なのに、ウィズの突拍子もない発言や雰囲気のせいでその事に気付けなかった……!

 どうする、名前の件は仕方ないにしても、魔人族の事を話すわけには……


 ディオスがどうするべきかと思案していると。


「角が生えてる亜人ってことは獣人? でもディオスさんはどう見ても人間だしー……もしかして、呪い!?」

「なんだって?」


 ウィズが再び突拍子の無い発言をし、話が一人歩きし始めた。


「おばあちゃんが教えてくれたことがあるんだー……悪い魔法使いや悪竜が人に呪いをかけ、姿や体の一部を変質させることがあったんだって……ディオスさんも誰かに呪いをかけられたのー!?」

「……あー、うん、まぁその類ではある」


 考えるのが馬鹿らしくなり、とりあえずウィズの話に合わせる事にしたディオスであった。


「そっかー一体誰に……いや、流石にそこまで話したくはないよねー……このことはもう聞かないことにするよー」

「あ、ああ、そうしてくれると助かる」


 ディオスが少し罪悪感を感じながらも安堵していると、部屋の扉が開き一人の老婆が入って来た。


「おや、その男目が覚めたのかい」

「おばあちゃん!」


 入って来たのはウィズの祖母、エマ・ユアンシエルであった。

 ウィズがエマに抱き着いた。


「おばあちゃん、どうしてここにー?」

「なに、ちょっと様子を見に来ただけさね、それよりほら、ウィズの大好きなアップルの飴だよ」

「わーい♪ おばあちゃん大好きー!」


 エマから飴を貰い、嬉しそうに口に頬張るウィズ。


「ウィズ、あたしはこれからこの男と話をするから、ちょっと部屋から出てくれないかい?」

「わかったー♪」


 ウィズが部屋から出て、扉を閉めた。


「さてと……あたしはエマ・ユアンシエル、ウィズの祖母だよ」

「ディオスと申します、この度は治療していただき感謝しています」

「礼なんて良いさね、それよりも……その角」

「これは……実は呪いに……」

「あんた魔人族だね?」

「ッ!?」


 どうして私の正体を!?

 今の私は確かに角を隠していないが……そもそも何故魔人族の事を知っているんだ!?


「なに、少しだけあんたたちの事を知っているだけだよ」

「……何が目的だ?」

「目的なんて無いさ……安心しな、取って食おうなんて気持ち微塵も無いよ」

「それを信じろと?」

「あたしを信じろとは言わないよ……ただ、ウィズが本当に善意であんたを助けたと言う事は信じてもらいたいね」

「……ああ、それだけは本当に信じられるな」


 エマの言葉に、ディオスは微笑みながら答えた。


「貴女のお孫さんは良い子だよ」

「だろう? 本当に可愛い子だよ……ところで一つだけ聞いておくよ」

「……何だ?」

「ウィズに惚れてないだろうね?」

「はい?」


 エマの言葉に呆気にとられるディオス。


「見ての通りウィズは美人だろう?」

「え、ああ、はい」

「本当に綺麗で性格も良い子だからね……口説いて来る馬鹿共がいるわいるわ」

「は、はぁ……」

「まぁ、そう言う奴らはウィズを可愛がってるギルド連中が痛い目に遭わせてるんだけどね」

「……」

「そんな引く手数多なウィズに、あんたも惚れてるんじゃないだろうねぇ?」


 エマは老婆とは思えぬ殺気を発して、ディオスを睨んだ。


「と、とんでもない! 命の恩人に対してそのような劣情を抱く事など……!」

「……なら良いさね、だがもしも家で療養しているのを良い事に、ウィズに手を出そうとした時には……分かってるだろうね?」


 な、何だこの悪寒は……!? 私が目の前の老婆に恐怖していると言うのか!?

 ディオスはエマに気圧されながらも、頭を縦に振った。


「それじゃあ、あたしはこれで帰るよ……ゆっくりと傷を治すんだよ」


 そう言ってエマは部屋から出ていった。


「おばあちゃん、ディオスさんと何を話してたのー?」

「なに、ちょっとした雑談だよ……じゃあねウィズ」

「うん! おばあちゃんまたねー!」


 エマと替わるように、ウィズが部屋に入って来る。


「……? ディオスさん、顔色がちょっと悪いよー!?」

「あ、ああ…、体調が少しな……」

「それは不味いよー! 目が覚めたばかりで身体に無理があったのかも……とりあえず早く横になってー!」

「すまない……」


 ……なんか、とんでもない一家に助けられてしまったな……

 そう思うディオスであった。

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