第211話ウィズと傷だらけの騎士Ⅰ

『――それは本当なのかゼキア!?』

『ああ……ヴィシャス様とデスラー様が亡くなられたそうだ……』

『あのお二人が……ゼキア! 先生は、先生はどうなったんだ!?』

『……ブロスト様が始末されたそうだ』

『……! そんな……』

『先生もこうなる事は覚悟の上で魔人王様を裏切られたんだ……仕方あるまい』

『俺は信じんぞ』

『ザハク……』

『信じないも何も先生の死は事実なんだ……受け入れろ』

『遺体は見つかっていないのだろう?』

『それは……そうだが……』

『ならば先生は必ず生きている! だから俺は……俺の願いを叶え、再び先生に会って見せる!』

『……そうだな、私も先生と再会するために、命の重さと言うモノを理解してみせる!』

『まったく……勝手にしろ……――』










「――う、うぅ……今のは……夢……?」


 六色魔将、『緑』のディオスが目を覚まし、辺りを見渡す。

 ディオスが眠っていた場所は、何処かの民家の一室のベットの上だった。


「ここは……? ぐぅっ!?」


 ディオスは身体を起こして立ち上がろうとするが、背中から激痛が走る。


「そうだ……私はあの時、ブロストに……!」


 ディオスはバラス砂漠での出来事を思い出していると、部屋の扉が開き、一人の少女が入って来た。


「あー! 貴方目が覚めたんだー! 良かったー……」

「!? 誰だ…… くぅっ!」


 現れた少女に対し警戒態勢を取ろうとするも、ディオスは激痛でまとみーもに動けずにいた。


「大丈夫ー!? まだ背中の傷が治ってないから、無茶は駄目だよー」


 少女がディオスに駆け寄り、ベットへ戻した。


「……ここは、何処なんだ?」

「ここはアメリア王国の私の家だよー」

「アメリア王国だって!? ぐっ……」

「だから起き上がっちゃ駄目だってばー! 怪我人は安静にしないとー……分かった?」

「す、すまない……君が、私を助けてくれたのか?」

「うん! 貴方が大草原で倒れているのを偶然発見してねー、担いでアメリアまで連れて帰ったんだー……それでお医者さんやおばあちゃんに頼んで傷の手当てをしてもらったんだけど、貴方全然目を覚まさなくてねー……目が覚めるまで私の家で看病してたんだよー」

「そうか……命を救っていただき、かたじけない……」

「良いって良いってー、困ってる人を助けるのは当然の事だからねー♪ そうだ! 自己紹介がまだだったねー……私、ウィズエル・ユアンシエル! ウィズって呼んでねー♪」

「ウィズか……私は……」


 ディオスは名乗り返そうとするが、一瞬躊躇する。

 命の恩人とは言え、敵地とも呼べる場所でみすみす名を名乗って良いのか?


 今後の任務に支障をきたす可能性が……偽名を名乗った方が……ディオスはそう考えた。


「私は……? ねぇ口ごもってどうしたのー?」

「あ、いや……」

「ひょっとして……記憶喪失!?」

「は!?」


 ウィズの突拍子もない発言にディオスは驚いた。


「見つけた時は凄い重症だったし……おばあちゃんは猛毒を受けてたって言ってたから、その毒が頭にまで回って………た、大変だよー!」

「いやあの……ちょっと?」

「そうだ! 今からおばあちゃんの元に行って記憶喪失の治し方を教えてもらって……!」

「落ち着いてくれ! 私は記憶喪失なんかじゃない! ちゃんとディオスと言う自分の名を憶えて……あっ!?」

「ディオス?」


 ウィズの突拍子の無い発言や雰囲気に呑まれ、ディオスはつい本名を名乗ってしまったのだった。


「そっかー、ディオスさんって言うんだねー」

「……何と言う不覚……」


 ディオスは頭に手を置いて後悔する。


「そうだディオスさん、目が覚めたばかりでお腹空いてるでしょー? 今からご飯を作るから待っててねー♪」


 そう言ってウィズは部屋から出て行った。


「……まぁ、あの子からは邪気を感じなかったし、とりあえずは良いか……」


 そう言ってディオスはウィズが戻ってくるまで、ベットで眠って待つのであった。

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