第209話 黒のギリエルⅤ

「何ッ!? ぐおおおおおっ!」


 突然の事に流石に対応できなかったギリエルはエンプーサ達に衝突され、左側に吹き飛んだ!


「今度はエンプーサとバカデカいセンチピードッ!?」

「クルーザーじゃと!? 何故あ奴がここに……」

「クハハハハハハハハハハ!! 楽しい、楽しいぞ! これ程楽しいのはヤタイズナとの戦い以来だぁっ!」

「キシャアアアアアアアアアアアアアッッ!!」


 取っ組み合い争っていたエンプーサとクルーザーが離れ、距離を取る。


「キシャアアアアアアア……」

「《大鎌鼬》!」


 クルーザーは顎肢を鋭く伸ばし突進、対してエンプーサは周囲に無数の風の刃が出現させ、クルーザーに向けて射出した!


「キシャアアアアアアアアア!」


 いくつかの大鎌鼬がクルーザーの身体に命中し、体液が噴き出すが、クルーザーは構わずに突き進む!


「クハハハハ! 《暴風の鎌》!」


 エンプーサの暴風の鎌とクルーザーの猛毒の牙がぶつかり合う!


「キシャアア……!」

「クハハァ!」


 激しいぶつかり合いの末、両者は再び距離を取った。


「滾(たぎ)る! なんと滾る戦いだ! 流石は西の森王を打ち倒した者だ! ……ならばこそ、貴様を倒すために全力を出そうではないか」


 エンプーサが両前脚を真上に掲げ、周囲に風が発生し始める。

 こ、これはまさか……死神の暴風刃!?


「おいおいおい! こいつはまさかあの時の……」

「エンプーサの奴め、ここでそんな大技使えば儂らまで……!」


 そう、ここで死神の暴風刃を使ってしまえば、私達はおろか、動くことが出来ない魔植王まで……!

 エンプーサの奴、死神の暴風刃の使用を禁じたのに、頭に血が上ってその事を忘れているんだ!


「え、エンプーサ……止めるんだ……」

『駄目です、まだ動いては……』

「エンプーサ……!」

「クハハハハハハハハハハ!」


 駄目だ、聞こえていない……


「喰らうが良い、《死神の》……ん?」


 エンプーサが死神の暴風刃を放とうとしたその時、クルーザーの背後にいつの間にかギリエルが居り、クルーザーの胴体を角で挟んだ。


「キシャアアアアアッ!?」

「邪魔だ……失せろ!」


 そしてそのままクルーザを持ち上げ、後方へと投げ飛ばした!


「キシャアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!?」


 投げ飛ばされたクルーザーは、叫び声を上げながらはるか後方へと飛んでいき、見えなくなった。

 あ、あのクルーザーの巨体を軽々と……


 私が驚く中、エンプーサが死神の暴風刃を解き、ギリエルを睨んだ!


「貴様……我と奴の戦いの邪魔をしおって……死ぬ覚悟は出来ているのだろうな! 《暴風の鎌》、《暴風》!」

「ま、待つんだエンプーサ!」


 私の制止も聞こえず、エンプーサが自らの身体を暴風で加速させ、ギリエルに攻撃する!


「《蛮勇の角》」


 ギリエルが蛮勇の角で、暴風の鎌を受け止めた!


「ほう、貴様も中々やるな!」

「貴様も邪魔だ!」

「《暴風》!」


 エンプーサは自らの真下に突風を吹かせ、ギリエルの攻撃を避けた!


「《大鎌鼬》!」


 そして大鎌鼬でギリエル目掛けて撃ち放つ!

 ギリエルは避けもせず、そのまま大鎌鼬を喰らうが、以前無傷!


「チィッ! 《斬撃》!」


 エンプーサは風の斬撃を放つ!


「無駄だ」


 ギリエルは蛮勇の角で風の斬撃を打ち消した!

 そしてそのまま翅を広げ空を飛び、エンプーサに目掛けて突進する!


「シャアアアッ!」


 エンプーサは両前脚の暴風の鎌でギリエルを攻撃する!


「ぐ、ぬぅぅぅぅぅ……」


 空中で激突する両者、しかしエンプーサが徐々に押されていっている。


「ふぅん!」

「ぐがぁぁぁぁぁっ!?」


 遂に力負けしたエンプーサが弾き飛ばされるが、何とか態勢を整え着地した。


「なんという強者か……だが負けはせんぞ!」


 エンプーサはギリエルの強さに若干気圧されながらも、その闘気は薄れていなかった。

 ギリエルが地面に着地し、エンプーサが再び攻撃を行おうとしたその時だった。


「《鎌鼬》!」


 左側から鎌鼬が飛んできて、ギリエルの身体に命中した!


「ちぃっ……全く効果が無いで御座るか……」

「な、何かとんでもない化け物が居るで!?」

「ガタク、ゴールデン……それにレギオン達とベルにバロム!」


 そう、左側の森から私と別行動をとったガタク達が現れたのだ。

 その中で、レギオン達の姿が変化している事に私は気づいた。


 ダメージのせいで視界が少しぼやけているが、レギオン達の甲殻は前に比べよりごつくなっていて、顎もより大きくなっているのが分かった。


 そうか、レギオン達は進化したのか……

 そしてさらに、右側の森の上空から飛んでくる者達が。


(なんとかあいつらをおっぱらってもどってきたら、とんでもないことになってるよー!?)

(ったく次から次へと……面倒っすね)

「スティンガー、ドラッヘ! パピリオ、カヴキ、ティーガー!」


 上空から戻って来たスティンガー達が地面に着地し、私の元へやって来る。


(ご、ごしゅじん!? そのきずどうしたのー!?)

(随分と手酷くやられたっすね……)

(ご主人様ー!?)

(なんてこった……)

(あのデカブツが、主様をこんな目に遭わせたのか……!)


 私の姿を見て心配した後、スティンガー達はギリエルの方へ振り返り、戦闘態勢を取った!


「次から次へと……面倒な……」

「! その声……ギリエルなのか!」


 バロムの声を聴き、ギリエルがバロムの方を見る。


「……バロム、生きていたか……生き延びてなお魔人王様に逆らうとは、愚かにも程がある」

「その姿、お前も魔蟲の宝珠を……」

「裏切り者に話す必要など無い、貴様の処刑は魔蟲王を殺してからにしてやろう」

「そんなことはさせんぞ!」

「バロム殿の言う通りで御座る、殿は拙者達が守るで御座る!」

(よくもご主人を……許せません!)

(ベル、気持ちは分かるでありますが貴方は魔王様の回復を、そしてガーディアント部隊は魔王様の護衛を、残るソーアント部隊は自分と共に戦うであります!)

(……分かりました)

『ギチチチィィィィィ!!』

「自分も今は役立たず……今は下がっといた方がええな」


 ゴールデンとベルとガーディアント達が私達の元に、残る皆がギリエルを囲んだ。


「貴様等……こいつは我の獲物だ、邪魔するでない!」

「エンプーサ殿、今はそんなことを言っている場合ではないで御座るよ! 皆でこの者を倒すで御座る!」

(ガタクのいうとおりだよー! こいつはぜったいにゆるさないぞー!)

(一気に攻撃するっすよ! 《大鎌鼬》!)

(《風の翅》!)

(《風の大顎》、《斬撃》!)

「《大鎌鼬》!」


 ドラッヘ、パピリオ、ガタク、エンプーサによる同時遠距離攻撃がギリエルに命中する!


(みんないくよー!)

(《岩の鋏》!)

(《水の鎌》!)

(総員、突撃であります!)

『ギチチチィィィィィッ!!』


 そしてスティンガー、ティーガー、カヴキ、ソーアント達、さらにバロムが一気にギリエルへと突撃する!


「……煩わしい、貴様等全員叩き潰してくれる」


 ガタク達の一斉攻撃を喰らっても無傷のギリエルは、スティンガー達が接近する中、地面を強く踏みしめ構えを取った。


「受けよ、我が奥義……」


 その言葉の次に起きた事に、私は己が目を疑った。

 ギリエルの前胸部の蛮勇の角の姿が霞み――十二本に増えた。


「《十二(トゥエルブ)の試練(ヘラクレス)》!!」


 そして十二本の角でガタク達全員を同時に攻撃した!


「何っ!? ぐはああああああああああっ!?」

(うああああああああっ!!)

(きゃああああああああっ!?)

(ぐおおおおおおおおお!?)

(ぎゃああああああああ!!)

(なんすか、これはぁぁぁぁぁ!?)

『ギチチャアアアアアア!?』

「ガァァァァァァァァァァッッ!?」

「っ!? くぅぅっ!」


 ギリエルの攻撃を喰らい、ガタク達は地面に倒れる。

 全方向、遠距離近距離同時攻撃……なんて奴だ……


 先程の攻撃でガタクは右前脚と中脚を抉られ、ドラッヘとパピリオは翅を失い飛行不能……スティンガーは尻尾と右前脚、カヴキとティーガーは腹部を一部失った。

 エンプーサは右前脚、バロムは左腕を負傷したようだ。


 特に酷いのはソーアント達だ……5匹中3匹が腹部を失ってしまっている。

 これでは戦闘どころかアント達の命が危ない。


「これで邪魔は無くなった……覚悟するが良い」


 皆が倒れる中、ギリエルがこちらに向かって歩みを進める。


「くぅ……魔植王、ベル……私はもう戦える……だから皆の治療を……」

「何を言っているのじゃヤタイズナ!」

(そうですよ、まだボロボロじゃないですか!)

『気持ちは分かりますが、この場は貴方を治すことが最優先……』


 魔植王が喋ったその時、何処からか無数の松明が魔植王目掛けて投げられ、魔植王の身体に炎が燃え移った!


「ほ、炎が魔植王に!?」

「今度は何じゃ!?」


 ミミズさん達は松明が投げられた方角を見ると、そこには赤のビャハと黒装束の生き残りの姿が!


「ビャハハハハハハ! 燃えろ燃えろぉ! 魔植王を燃やし尽くせぇ!」

「び……ビャハ……何と言う事を!」


 バロムがなんとか起き上がり、ビャハを睨んだ。


「あーららぁ、バロムの奴、ギリエル様にボコボコにされてやがるぜぇ……ビャハハハハハハハハ!」

「ビャハ、ようやく来たか」

「ビャハハハハハハ、お待たせしてすいませんギリエル様」

「まぁ良い、松明を投げ続けろ」

「了解! さぁお前ら、どんどん投げろぉ!」

「魔人王様万歳魔人王様万歳!」


 ビャハの指示で黒装束達が松明を投擲する!

 魔植王は無数の根っこで松明を弾くが、的が小さすぎてはじき返せず、いくつかの松明が魔植王の身体に命中し、さらに炎が燃え移る!


『っ……』

「魔植王、このままではお主の身体が!」

「私の治療はもういい……早く貴方の身体を鎮火しないと……」

「けど、どうすんだよ! 前からはギリエルが近づいてきてるんだぞ!」

「んな事は分かっている! ええいどうすれば……」

(……魔王様、そして非常食殿達……ご安心を、手はうってあります)

「何じゃと!?」

「れ、レギオン……どういう事だ?」

「ここに来る前、敵の妨害に遭い戦闘を行ったのでありますが、その後自分たちは進化する事が出来たであります……そしてその時に『皆』を呼んでおいたのであります」

「お、おい……何か変な音が聞こえないか!?」


 バノンが言葉を聞き辺りの音を聞くと、地響きのような音がこちらに向かって徐々に近づいてきていた。


「これは……大量の足音……? まさか、レギオン!」

(魔王様のお察しの通りであります)

「ビャ、ビャハ?」

「これは一体何事だ?」


 ギリエル達が戸惑う中、敵味方総てを囲むようにおびただしい数の虫が姿を現した。

 そう、巣の留守を任せていたすべてのアント達だ!


(総勢235匹、ここに集結であります!)


『『『『『ギチチチチチチィィィィィィィィィィィッッ!!!』』』』』


 全アント達が一斉に叫び、この辺一帯の森が揺れた。


「ビャハハハハ……な、なんじゃこりゃあ!?」

「邪魔者共めが……」

「す、凄ぇ……」

「なんと……」


 ミミズさんとバノンが驚く中、レギオンが魔植王を見る。


(魔植王殿、命が危ない時に申し訳ないでありますが、魔鳥王殿の力を増幅できるでありますか?)

『可能です』

(魔鳥王殿、増幅したならば念力が使えるでありますか?)

「念力を? 可能ですが……成程、そういう事ですか……」


 魔鳥王はレギオンの意図を察し、頷いた。

 レギオンが私の方へ顔を向けた。


(魔王様……貴方様に仕えられた事、本当に誇らしく、幸せだったであります)

「レギオン、何を言って……!?」

(……これが、自分が魔王様のために行う、最期の任務であります!)













「第96回次回予告の道ー!」

「遂に魔植王編もクライマックスの中、今回も始まったこのコーナー!」

「ギリエルの圧倒的な力の前に為す術がなく倒れていく私達……そこに駆けつける総てのアント達!」

「ヤタイズナ達を救うため、レギオンとアント達は最期の任務を決行するのであった!」

「次回、『忠義の果てに』!」

「「それでは、次回もお楽しみに!!」」


 ・注意、このコーナーは作者の思い付きで書いているので、次回タイトルが変更される可能性があるのでご注意下さい。

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